モダン・ジャズの知られざる逸話(3)

セロニアス・モンク[1


今日はピアニストの部(3)セロニアス・モンク

引き続き、「帝王」マイルス・デイヴィスに登場していただきます。。
今日は、ジャズを知っている方なら全員知っている、
あまりにも有名な逸話をいっちゃいましょう。
「クリスマス・イブの喧嘩セッション」

今から51年前のクリスマス・イヴでの出来事です。
マイルスをリーダーとして集まったそのセッションには、
錚々たるメンバーが集まりました。
トランペットはマイルス・デイヴィス
ヴァイヴには、MJQの「野人」ミルト・ジャクソン
ベースには、近頃お亡くなりあそばせた、同じくMJQのパーシー・ヒース
ドラムには、やはり同じくMJQから、「重鎮」ケニー・クラーク
そして・・・
ピアノには、ジャズ界最大の「奇人変人」セロニアス・モンク。
年齢的にはマイルスの先輩です。

セロニアス・モンクのピアノというのは、
一回聴けばすぐに覚えてしまうようなピアノです。
ぽろぽろころころと鍵盤上を転がるのがピアノという楽器なのですが、
モンクのピアノは、そうですねえ・・・
ポキーンコキーンと骨折するようなピアノとでも言いましょうか。
要するに、子供がふざけてピアノで遊んでいるような、個性の塊のような演奏です。

ピアノというのは、ホーン楽器のバックでコードを叩くことにより、
ホーン奏者に現在のキーを知らしめる役目(バッキング)も担っています。
ホーン奏者はピアノのバッキングに合わせて自分の音を選び、
自分のソロを構築している訳です。
このように、ピアノの役割はとても大きいものがあります。

ところがモンクは、ホーン奏者のバックでも同じような演奏をします。
そう。ポキーンコキーンです。
ちょっとホーン奏者にとってはやりにくいのかもしれませんね。
自分のバックで、素っ頓狂な音を出しまくられた日には・・・

自分の演奏には何よりも厳しい態度で臨むマイルスです。
開口一番、マイルスがモンクに言った言葉は・・・

「あんたさあ、俺のバックでは、ピアノ弾かないでくれるかな。気イ散るんだよね。」

後輩にこんなこと言われて、ムカつかない人はいませんよね。
奇人モンクだって、当然ムカつきます。
二人の間には険悪な雰囲気が、いかんなく充満したことでしょう。

「マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ」
というアルバムに収録されているある曲を聴くと、
確かにマイルス・デイヴィスの演奏中は、モンクはまったく音を発していません。
そして、ミルト・ジャクソンのソロに代わると、
おもむろにコキーンというピアノを叩き出しています。
モンクは後輩に言われたことを忠実に守ったかに思えますが、
話はそれだけでは済まなかった・・・・・

さあ、今度はモンクのソロの順番が回ってきました。
欲求不満が溜まりに溜まりまくっているモンク!もう暴発寸前です。
自分のソロで素晴らしい演奏を展開し、無礼者の後輩にお灸を据えてやる!
まあ、こう考えるのが普通の神経ですよね。
ところが奇人変人モンクは、そのような正常回路は保有していません。
そんな思考回路、モンクが持っている訳がない!
持っていたらモンクじゃない!

モンクのソロがけだるく始まります。
ポキーンコキーンです。
「かったり〜!」
まさにそんな感じのピアノ。
ただでさえ常人のピアニストと比べて、異様に音が少ないモンクの省エネピアノ。
その日はかったるさもあって、さらに、ひたすら音が少ない。
そうこうしているうちにモンクは、ピアノを弾くことすら止めてしまいました・・・

ベースとドラムのリズムだけが部屋に響いています。
パーシー・ヒースのベースはまさに「おいおいおい!本番中だぜ」と言っているかのようです。
当のモンク、一向にピアノを弾く気配なし。
「どうだ、マイルス!これが俺様から貴様への返答だ!受け取りやがれ」という感じでしょうか?
いやいやモンクのこと、
尻でもぼりぼり掻きながら、大欠伸でもしていたことが予想されます。
「もう僕、ぜ〜んぜんやる気ないもんね」って感じかもしれません。
仕事していても、誰かの心無い一言でモチベーションが下がることってありますよね。

仕事に対しては無類の厳しさを誇る潔癖症のマイルスが、
こんな自堕落な態度、許すはずがありません。
いい演奏をするためには、先輩に対しても無礼な言葉を吐くマイルスです。
やにわにトランペットを取ったマイルスは、モンクのソロ中(と言っても、実際は弾いてませんが)
にも関わらず、いきなりワン・フレーズを吹き出すのです。
「ちょっと!そこのあんた!なにやってんの!仕事中だぜ!」って感じでしょうか。

驚いたことに、モンクはまるで居眠りをド突かれた出来の悪い新入社員のように、
その瞬間からピアノ演奏を再開するのです。
しかもポキーンコキーンではなく、目を見張らんばかりの明朗会計なソロ(モンク的には)。
「お前がそう来るのなら、俺はこうしてやる!」???
いやいや、
「わりいわりい、僕ちょっと眠っちゃったかも」???
おそらく後者でしょうね。モンクですから。

何事もなかったかのようなマイルスの、落ち着き払った美しいエンディングを以って、
ジャズの歴史に残るクリスマス・セッションは、終わりを告げます。
その後、マイルス・デイヴィスとセロニアス・モンクの二人は、
二度と同じステージで共演することはありませんでした。
後年、マイルスはこの件について、次のような見解を述べています。
「モンクの曲も演奏も俺は大好きだ。でも彼のピアノはホーンのバッキングには合わない。
 ホーン奏者のバックに小さく納まるようなピアニストじゃないんだ。だから弾かないで欲しいと言っただけだよ。」

ジャズの教科書の1ページ目に必ず出てくるこの逸話。
多分に作り話的な要素も入っていることでしょう。
なにせ当日のセッションに参加したジャズメンは、もう全員鬼籍に入っておられるのですから。
諸説ある中でも、モンクが本番をリハーサルだと勘違いしたというのが妥当なセンかも。
でもまあ、いいじゃないですか。伝説は伝説のままで。

その日、確かにマイルス・デイヴィスとセロニアス・モンクは同じ場所で演奏したんです。
これってすごいことですよ。
例えれば、ダウンタウンととんねるずが共演するに等しいようなことかもしれません。
いや、あるいは三船敏郎と高倉健の共演に匹敵するかも。
51年前のたった一日の、たった一幕の出来事が、
今日まで語り継がれている・・・これがジャズという音楽です。

ちなみにジャケットはセロニアス・モンクのライヴ
「セロニアス・モンク・イン・イタリー」
能天気なジャケットが多いモンクのアルバムの中でも、
ビジュアル的に群を抜いたジャケット。
黒を基調とした色彩に、
ドスの効いた黒サングラスの黒人ジャズメン
これぞジャズという音楽を象徴しています。
しかもよく見ると、サングラスに鍵盤が映っています。秀逸ですね。