モダン・ジャズの知られざる逸話(4)

ソニー・ロリンズ[1


今日はテナー・サックスの部(4)ソニー・ロリンズ

今も活躍する、偉大なるテナー・サックス奏者、ソニー・ロリンズです。
ソニー・ロリンズのキャリアは長く、既に50年を超えておりますが、
その長い長いキャリアにおいて、3回ほど雲隠れをしております。
そう、失踪したのです。

1回目の失踪は1955年あたり。
麻薬根治が目的だと言われております。
その頃、初のレギュラー・コンボを結成予定だったマイルス・デイヴィスは、
自分のグループのサックス奏者にどうしてもソニー・ロリンズを欲しがったとのこと。
しかしロリンズは隠遁生活中ということで、やむなく無名のテナーを据えました。
のちのロリンズのライバル、ジョン・コルトレーンですね。

ロリンズの一回目の失踪は、意外にも簡単に終わりを告げます。
クリフォード・ブラウンのグループのテナー・サックス奏者、ハロルド・ランドが所用のため、
ブラウニーはソニー・ロリンズに代役を頼んだのです。
人格者ブラウニーの頼みということで断りきれず、
ソニー・ロリンズは期間限定でジャズ・シーンに復帰します。
しかし殊のほか演奏の評判が良く、そのまま正式に復活してしまいます。
ロリンズがジャズ史上に輝く名盤「サキソフォン・コロッサス」を生み出したのは、
その1年後くらいとなります。復帰は大正解でした。

前述の「コロッサス」により一躍ジャズ・シーンのトップに躍り出たロリンズは、
これでもかというくらい名盤を連発します。
1950年代の後半にあたる時期ですね。
表名盤としては、
「ウェイ・アウト・ウェスト」
「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」
「ワーク・タイム」
「コンテンポラリー・リーダーズ」
裏名盤として、
「ザ・サウンド・オブ・ソニー」
「自由組曲」
「ロリンズ・プレイズ・バード」
「ツアー・デ・フォース」
「ソニー・ボーイ」
「ソニー・ロリンズ・プレイズ」
この時期のロリンズは、他のジャズメンとまったく一線を画し、
かなりの高みに到達していました。
まさに順風満帆、人生の絶頂期です。
そのさなか、ロリンズは突如、2度目の雲隠れを決行するのです。

1959年における2度目の雲隠れ。
原因はオーネット・コールマンの出現と言われています。
コールマンの提起したフリー・ジャズに衝撃を受け、
自分の音楽を再度見つめ直す必要性を感じたこと。
また、人気が上がるにつれ、乱れてきた私生活を叩き直すこと。
演奏技術にさらなる磨きをかけること。
これらが失踪の理由だったと言われております。

この失踪の間、ロリンズは宗教団体に加入し、ヨガ等で精神的に鍛えなおし、
掃除夫をこなしながら、空いた時間を演奏技術の再研鑽に当てたのです。
橋の上で一人密かに練習を積むロリンズの姿が、
専門誌にすっぱ抜かれたのもこの頃です。
そして数年後、「橋」というアルバムで衝撃の復活を遂げます。

3度目の雲隠れは1967年あたり。
原因は、コルトレーンの死と言われております。
3年後の「ネクスト・アルバム」で復帰後、現在まで4度目の失踪はなく、
本場モダン・ジャズ界の最高峰として王座に君臨しております。

さて、最も有名なのは2度目の雲隠れ。
しかし、人生の絶頂期にあって、あっさりとその地位を捨てたロリンズは、
まったくもって真のジャズメンです。
ほっといてもバンバン金が入ってくる生活。
皆にもてはやされて、欲しいものはすべて手に入る生活。
皆さんなら手放せますか?私は無理ですね。
私だったらその時の財産で、一生楽して食っていくことでしょう。
過去の名声にしがみついて、一生生きていくと思います。

しかしロリンズはそれをよしとせず、あっさりとすべてを捨て去ってしまったんですね。
このロリンズの失踪について、
「ロリンズは神経質すぎる」とか
「ロリンズは気が小さい」等としたり顔で批評する輩がおりますが、何をか言わんやです。
気が小さい奴が、巨万の富をあっさりと放棄するはずがないでしょうに。

2度目の雲隠れがなかったら、ロリンズはどうなっていたか?
「タラレバ」の世界ではありますが、おそらく
めきめきと頭角を現してきたジョン・コルトレーンにあっさり抜かれ、
オーネット・コールマンの物真似をして失笑され、
そのままジャンキーに逆戻りしたか、
そうならないまでもその他大勢の平凡なジャズメンに落ち着いていたように思います。
あの2度目の雲隠れは、まさしくロリンズにとって人生の転機だったのかもしれませんね。
巨万の富を捨てたロリンズは、復帰後、
巨万の富以上の物を確実に手に入れたのですから。永遠の名声を。

ロリンズほどの天才が、なおかつ自己の才能に悩み、
深く考えるためにすべてを捨てているのです。
凡人である我々が何をしなければならないのかは、推して知るべしですね。

さて、ジャケットですが、
ディジー・ガレスピー名義のアルバム「ソニー・サイド・アップ」です。
@おどけた表情で何か唄っているようなガレスピー、
A一服しながら人の良さそうな笑みを湛えるスティット、そして・・・
B聴衆に媚を売ることを拒み、にこりともせず挑戦的な視線を未来へ投げるロリンズ。
50年代におけるソニー・ロリンズのアルバムは、ほとんど笑顔がありません。
ニコリともせず、サックスを手に思索に耽るロリンズ。
きっと、自分の演奏のことを考えているのでしょう。

真のジャズメンとは、そう言う人のことを指します。