モダン・ジャズの知られざる逸話(5)

ジョージ・ウォーリントン[1


今日はピアニストの部(5)ジョージ・ウォーリントン

前回に引き続き、突然雲隠れしたジャズメンを紹介したいと思います。
今回は、白人ピアニスト、ジョージ・ウォーリントン。

ご存知の通り、モダン・ジャズの歴史は黒人の歴史です。
ことジャズに関しては、黒人のほうが圧倒的な優位性を誇っています。
モダン・ジャズの世界においては、
内面的な表現力、リズム感覚といったものに関して、
白人よりも黒人のほうが優れているのかもしれません。

50年代において、
白人ジャズメンはウェスト・コースト(西海岸)で活動しておりました。
黒人ジャズメンはイーストコースト(ニューヨーク)で活動しておりました。
両者の間にはもちろん交流はありましたが、
やはりどこかで一線を画していた感があります。

そんな中で、黒人の中に混じって、一人気を吐いていた白人ピアニストがいます。
ジョージ・ウォーリントンです。
当時のジャズ・ピアノはバド・パウエル系のピアノ全盛期。
猫も杓子もバド・パウエルのスタイルを真似ていた頃です。
ジョージ・ウォーリントンもその一人で、
クロード・ウィリアムソンとともに「白いバド・パウエル」との異名を取っていました。

そのソロは、バド・パウエルの影響を強く受けながらも
物真似には終わらず、強い緊張感を持っていました。
サイドメンとしてはあまりセッションには参加せず、
自己のコンボで活躍し、ジャッキー・マクリーンやドナルド・バード等
黒人ジャズメンとも多く共演いたしました。
その矢先・・・
ジョージ・ウォーリントンは突如引退してしまいます。
原因は判りません。とにかく忽然とジャズ・シーンから消えたのです。
1957年、ハードバップ全盛時代のことでした。

ソニー・ロリンズの失踪は、概ね2〜3年で常に帰って来ましたが、
ジョージ・ウォーリントンはまったく帰って来なかった・・・
その気配もないまま時が過ぎ、時代は変わり、
皆がウォーリントンの存在を完璧に忘れ去った頃、
彼は突如カムバックを果たしたのです。
時は1984年。実に27年の歳月が経っておりました。

ロリンズは、雲隠れの都度、大きな成果を挙げたと言えます。
その成果は賛否両論ありますが、少なくとも隠遁生活中に考えた事を
実行に移したと言えます。
それではジョージ・ウォーリントンはどうだったのでしょう?

ウォーリントンは、1984年に「ヴァーチュオーゾ」で復帰後、
3枚のアルバムを残し、68歳で死去します。
そのすべては確かピアノ・ソロのアルバムです。
かつてのようなハード・バップに手を染めることはありませんでした。
それではその3枚のソロで、何か画期的なアイディアを実現したかというと
決してそうではなく、ありきたりのソロ・アルバムに終わっています。

しかも晩年のジョージ・ウォーリントンは、
自分のことを「巨匠」だと勘違いしていた節があります。
カムバック後、全世界で時ならぬウォーリントン・ブームが巻き起こり、
旧作も再評価されまくりましたから、無理もないことなのかもしれませんが、
アメリカにおけるソロ・コンサート等の評判も悪く、
思い上がった高圧的な態度に業を煮やした観客は、
失笑交じりに途中で席を後にしたそうです。

彼は27年間、何をやっていたのでしょうか?
おそらく何もやっていなかったのかもしれませんね。
ちょっと気が向いたからカムバックしてみたら大当たりしてしまった。
旧作も売れに売れ、知らないうちに大金持ちになった。
「そうか?俺ってこんなに人気あったんだ。へえ〜」というところだったのかもしれませんね。

ではジョージ・ウォーリントンは復帰しないほうが良かったのか?
いえ、私は復帰したほうが良かったと思います。
復帰しなかったら、50年代のウォーリントンは永遠に掘り起こされなかったからです。
時ならぬ復帰の副産物で、過去の名盤が世に出ただけでも良しとしなければ。
復帰後は、多大な期待をしてはならなかったということでしょう。

何故か?
失踪中の密度が、ソニー・ロリンズとジョージ・ウォーリントンでは
まったく比較にならないからです。
でもこれが普通の人間なのでしょうね。
ロックの世界でも往年のバンドが再結成することが非常に多い。
なにせあのセックス・ピストルズまで再結成したんですから。
事情はそれぞれでしょうが、それが普通の人間。
ソニー・ロリンズと比較するのが可哀想というもんです。

ということでジャケットは、ジョージ・ウォーリントン50年代の名ライヴ。
「カフェ・ボヘミアのジョージ・ウォーリントン」
このジャケットはオリジナル・ジャケットではないはずですが、
思索的な顔つきでピアノに向かうウォーリントンは、なかなかどうして絵になります。

このアルバムは1984年、彼の復帰時に復刻されました。