モダン・ジャズの知られざる逸話(8)

ウィントン・ケリー[1


今日はピアニストの部(8)ウィントン・ケリー

以前(3)セロニアス・モンクの部で、
マイルスに暴言を吐かれたセロニアス・モンクが
自分のソロの途中で演奏を放棄する逸話を紹介しましたが、
今回はウィントン・ケリーの放棄話です。

え?ケリーまでもが放棄?
ケリーに暴言を吐いたとんでもない奴は誰?

ウェス・モンゴメリーです。
でも、暴言じゃないですよ。
ウェスは自分の演奏を以って、ケリーに仕事を放棄させたんです。

二人が共演したヴァーヴのライヴ盤
「ハーフノートのウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー」での出来事です。
おそらくこの日、この二人のジャズメンは、心身ともに絶好調だったのでしょう。
ハーフノートで開催されたライヴは、稀に見る熱狂のセッションでした。

1曲目の「ノー・ブルース」からウェスは飛ばしまくります。
次から次へと湧き出てくるアドリブ
途切れないフレーズ
驚嘆のオクターブ奏法
そう、ウェスは、
単音で弾いてもかなりのテクニックが要求される難易度の高いフレーズを、
何とオクターブで弾きまくっているのです!しかも事もなげに!
いったい何という人なんですか?このギタリストは

さて、ピアノはウィントン・ケリーです。
そう、ケリーなんです。ケリーしかいないんです。
ケリーはウェスのバックでバッキングを付けます。
ケリーも乗っていて、ジャマイカの血が騒いだのか、
挑発するようなバッキングでウェスを乗せまくります。
ケリーの挑発にやすやすと乗って、飛ばしまくる天才ギタリスト、ウェス・モンゴメリー。

すると・・・
ケリーのバッキングが聞こえなくなります。
ケリーはピアノを弾いていない模様です。どうしたのでしょうか?
そう、ケリーはウェスのソロを聴いていたんですね。
あまりにも強靭なウェスのソロに聴き入りたくて、ピアノの手を止めたのです。
「おいおい!すっげえソロを取りやがるじゃないか!
こりゃ、ピアノなんかのんびりと弾いている場合じゃねえぞ!」という感じでしょうか・・・

バッキングがあろうがなかろうが、まったく関係なく
オクターブ奏法でぐんぐんと飛ばすウェス。
そして、ケリーのソロの順番が回ってきました。
もうお判りですよね。ウェスに触発されたケリーがどんなソロを取ったかなど・・・言わずもがな。

私が思うに、これ、史実に誤りがあるかもしれません。
逆だったのではないでしょうか。
確かにケリーはウェスのソロに驚嘆して、ピアノを弾く手を止めました。
これはその通りだと思います。
でも、ウェスにそんなすさまじい演奏をさせたのは誰か?
そう、ケリーしかいませんよね。
ケリーの持つ雰囲気、熱、パワー・・・
それがバッキングに乗ってウェスに伝わり、
ウェス一世一代の名演(と言っても、ウェスには一世一代が沢山ありますけど)につながったのでは?

それを裏づけするのが、マイルス・デイヴィスの言葉です。
ウィントン・ケリーは一時期、マイルス・コンボに参加しており、
マイルスのバックでもピアノを弾いています。
マイルスはケリーのバッキングに乗って演奏したことがあるので、
かなりの信憑性があります。

マイルスの言葉・・・
「ウィントン・ケリーは、マッチの火だ。
 わかるかい。マッチなくして煙草は吸えない。
 ケリーなくして、演奏はできないんだ。」

ということで、ジャケットは、
ウィントン・ケリーの「カミング・イン・ザ・バック・ドア」
名盤の多いケリーのアルバムの中では目立たない一枚。
でもジャケットはケリーらしく明るく楽しいもの。
煙草を吸っているケリー。
様々なジャズメンが、このケリーのたたずまいに触発されて、
自分の実力以上の名演奏をしたのです。

ジャズという音楽には絶対に欠かせないタイプの人です。