モダン・ジャズの知られざる逸話(10)

ホレス・シルヴァー[1


今日はピアニストの部(10)ホレス・シルヴァー

とは言え、今日も、引き続きアート・ブレイキーです。

さて、ブレイキーはなぜ新人ばかりを起用したのでしょう。
こんなに新人ばかり起用したのは、他にマイルス・デイヴィスがいるのみ。
まさにジャズ・メッセンジャーズは、ジャズ学校と化していました。
さしずめブレイキーは校長先生ですね。

ジャズ・メッセンジャーズの前身バンドは、バードランドでのライヴで誕生しました。
ジャズ・マニアなら誰でも知っている
ブルーノート盤の「バードランドの夜」です。
メンバーは、
クリフォード・ブラウン
ルー・ドナルドソン
ホレス・シルヴァー
カーリー・ラッセル
アート・ブレイキー(リーダー)

その後、初めてジャズ・メッセンジャーズの名前を冠したアルバムが世に出ます。
ブルーノート盤の「ホレス・シルヴァー・アンド・ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」
そうです。リーダーはアート・ブレイキーではなく、ホレス・シルヴァーだったんです。
さて次に来るのは「カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ」
今度はアート・ブレイキーがリーダーです。
つまり初期のジャズ・メッセンジャーズは、
アート・ブレイキーとホレス・シルヴァーの両輪だったんです。
二人がリーダー的役割を担っていたというわけです。

さて初代ジャズ・メッセンジャーズのメンバーは
ケニー・ドーハム
ハンク・モブレイ
ホレス・シルヴァー
ダグ・ワトキンス
アート・ブレイキーですが、
このバンド、ものの見事に、二つに分裂してしまうんですね。
理由はいろいろと取りざたされましたが、
本当の理由はどうやら、アート・ブレイキーとホレス・シルヴァーの「宗教の違い」だったとか。

その時、どんな分裂をしたか、なのですが、
驚くべきことに、メンバー全員がホレス・シルヴァーについていってしまい、
アート・ブレイキーは孤立無援で、一人ぽつんと取り残されたのです。
そして、その代わり「ジャズ・メッセンジャーズ」というバンド名はブレイキーのものになったのです。

真相はわかりません。
ブレイキーは「名」を取り、シルヴァーは「実」を取ったんだ、とか、
アート・ブレイキーはまったく人望がなかったんだ、とか、
演奏に不満を持っていたブレイキーが全員を首にしたんだ、とか。
でも、この時からです。
アート・ブレイキーが自分のバンドで、ほぼ新人しか起用しなくなったのは。
新人だったら、まず裏切りませんからね。

袂を分かったアート・ブレイキーとホレス・シルヴァーは、
その後、例外を除いて絶対に共演しませんでした。
唯一の例外が、当時のメンバーだったハンク・モブレイのリーダー・セッション。
その時だけはなぜか二人は恩讐を越えて、仲良く共演するのでした。
これはハンク・モブレイの人徳ですね、きっと。
「なあ、ボスたち。喧嘩してないで力を貸してくれよ。僕、とっても不安なんだよね」
とでも言ったのでしょうか?ありえますね、モブレイのことだから。

あの時、二人が袂を分かたなかったら、どうなっていたか?
ジャズ・マニアならどうしても考えたくなってしまいますね。
二人のうち、音楽的に優れていたのは、どちらかというとシルヴァーです。
おそらくシルヴァーがリーダー・シップを取ったジャズ・メッセンジャーズは、
とんでもなくすごいグループになっていたかもしれません。
反面、これまでアート・ブレイキーが発掘した新人ジャズメンは、
すべて世に出ていません。
リー・モーガンも、ウェイン・ショーターも、ベニー・ゴルソンも、
フレディ・ハバードも、もちろんウィントン・マルサリスも。
世に出ていたとしても、ごくごく平凡なジャズメンで終わったことでしょう。

じゃあ、二人はどっちがすごかったんだ?
どっちもすごいです。でもどちらかと言うと、、、、

ホレス・シルヴァーは自分のバンドで数々の名盤を作り出し、
幾多の名曲の作曲も手がけましたが、大スターを育ててはいません。
アート・ブレイキーは新人発掘という人材育成をやり遂げました。
ジャズ界への貢献度という点で考えると、アート・ブレイキーに軍配が上がります。

あの時のジャズ・メッセンジャーズ分裂劇
アート・ブレイキーにとってもホレス・シルヴァーにとっても
最良の手段だったのでしょう。
それが判っていたからこそ、ジャズの神様は、
ジャズ・メッセンジャーズという稀有のスーパー・グループを分裂させたのかも。
そして、ホレス・シルヴァー、そしてアート・ブレイキーに、
将来のジャズ発展のために、本来彼らがやるべき仕事を与えたのです。
そう、
ホレス・シルヴァーは作曲
アート・ブレイキーは人材発掘

さて、ジャケットですが、
ジャズ・ファンなら誰でも知っているブルーノート盤、
「ホレス・シルヴァーとジャズ・メッセンジャーズ」
泥臭い野人のようなブレイキーと、スマートでおしゃれな色男シルヴァー
別れは必然だったのでしょうね。