モダン・ジャズの知られざる逸話(11)

マイルス・デイヴィス[2


今日はトランペッターの部(11)マイルス・デイヴィス

さて、モダン・ジャズ界の超大物、「帝王」マイルス・デイヴィスですが、
そのキャリアの大半をコロンビア・レーベルで過ごしました。
マイルスの名盤のほとんどがコロンビアから発売されているのですが、
初期の数年間は、プレスティッジ物が数枚あります。

ウェスト・コースト・ジャズへの宣戦布告となった「ディグ」
ハード・バップの夜明けを告げた「ウォーキン」
セロニアス・モンクとの喧嘩セッション「モダン・ジャズ・ジャイアンツ」「バグス・グルーヴ」
有名どころはこの辺です。
さらにもう一歩踏み込むと、

チャーリー・チャン(パーカー)と共演した「コレクターズ・アイテム」
ワン・ホーンが極めて珍しい「ミュージングス・オブ・マイルス」
ミンガスがピアノを弾いた「ブルー・ヘイズ」
マイルスがうんち座りしているジャケットが不評の「マイルス・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクソン」
そして忘れてはならないものが、あと5枚

そうです。
マイルスが始めてレギュラー・コンボを結成して吹き込んだ有名な5枚
「ニュー・マイルス・デイヴィス・クィンテット」
「リラクシン」
「スティーミン」
「ワーキン」
「クッキン」
後半4枚は、マイルスの「プレスティッジ四部作」と呼ばれ、
吹き込みから50年経った今でも不滅の輝きを放っています。
でも、この不滅の四部作、名盤のわりには、
実にいい加減なやっつけ仕事で作成されたものなのです。

マイルスはプレスティッジに不満たらたらでした。
明確な理由は語っていませんが、きっとギャラが安かったり、
ジャズメンの扱いがひどかったり、
ジャズのことなんかこれっぽっちも判らんお偉方が、尊大な態度を取ったり、、、
大方そんなところだと思います。
マイルスはコロンビアへの移籍を望んでいました。
実は内緒で一枚、吹き込んじゃったくらいです(「ラウンド・アバウト・ミッドナイト)」
でも、プレスティッジとの契約があるので、せっかく作ったアルバムも発表できません。
その時点で、マイルスはプレスティッジで4枚のアルバムを作成する契約を残していたのです。

マイルスは考えました。
・こんなところでちんたらやってたって、時間の無駄だ。
・ろくなギャラはくれないし、どいつもこいつも俺のことなんか、これっぽっちもわかってくれねえ。
・とっとと転職だ。貰うモン貰って、こんなくだらん会社にはオサラバだ。
「帝王」でもこう考えるのです。(ちなみに奇人モンクも同じことを考えました。)
私を含めた世のサラリーマンが、会社に嫌気が差して、
飛び出したくなるのは、至極当然ですよね。

それには4枚ものアルバムを作成しなければならないという契約があります。
さしものマイルスもこれは破棄できない。仕事には滅法厳しい男です。
その時マイルスの頭に、素晴らしく安直な案が浮かんだんです。
「そっかあ、1日で4枚ぜーんぶ作っちゃえばいいんだ!か〜んた〜ん!」
世にいう「マイルス・デイヴィスのマラソン・セッション」です。

という事で、マイルス・デイヴィスは(さすがに1日では無理だったか)
1956年の5月と10月のある日、2日間で、
アルバム4枚分、実に26曲もの収録を一気に行ないました。
しかもほとんどがワン・テイク。取り直し無し!
そりゃそうですよね、そもそもマイルス、やる気ないんですから。
失敗しようが何しようが、もう関係無いんです。
だって、どうせこんな会社辞めちゃうんですから。

マイルスのモチベーションは極めて低かったと思います。
「金もろくすっぽくれねえこんな会社のために、誰が働くか!」
「あと一日の辛抱だ。この仕事さえやっちまえば、こんなとこ二度と来ねえ!」
嫌がりながらも、本当に渋々やったこの演奏・・・
モダン・ジャズ史上に残る、不朽の名演になりました。
緩急つけた絶妙の選曲。
ミュートとオープンの見事な使い分け。
リリカルなソロ。ハードなプレイ。リズム隊の素晴らしさ。そして・・・もう一つ。

当時のマイルス・デイヴィス・コンボには、
無名の新人テナーが、懸命にプレイをしていました。
のちのジョン・コルトレーンです。
「あいつは何やってんだか全然わからない」と酷評されまくっていた時代です。
5月と10月に行なわれたこのセッション。
ジャズ世論によると、
「5月から10月の間に、ジョン・コルトレーンは飛躍的な進歩を遂げた」となっており、
10月のみの曲で占められた「クッキン」を特にありがたがる風潮がありますが・・・
コルトレーンのような典型的努力型の人間が、
わずか5ヶ月間でびっくりするような成長なんか遂げるはずがありません。
いったい、どこをどう聴けば、そう聴こえるのか???
100歩譲って、飛躍的な進歩を遂げたとしても、
それはマイルス・コンボを一時的に脱退して、
セロニアス・モンクのコンボに参加した時でしょうに・・・
お偉いさんの言う事はひとまず置いておき、
公平に4枚聴いてみることをお勧めします。
4枚それぞれ、微妙に色が違うんですよね〜これが。さすがマイルスです。

ということでジャケットは、
四部作の一翼、「スティーミン」
演奏の素晴らしさとは裏腹に、四部作のジャケットはダサいのも多く、
「リラクシン」と「クッキン」は論外。
「ワーキン」はなかなか良いのですが、
見方によっては、天下のマイルスが現場監督のおっさんに間違えられる恐れもあるので、
やはり「スティーミン」がイチオシ。

煙草に火をつけるのは、マッチに限ります!