モダン・ジャズの知られざる逸話(15)

バド・パウエル[2


今日も引き続きピアニストの部(15)バド・パウエル

バド・パウエルという人は、生涯にわたり好不調の波が激しかったジャズメンです。
要するに、素面の時は本当に神が降臨したかのような素晴らしい演奏をする反面、
酔っ払ってたり、ヤクをやってたりした時には、
見る影もないほどぼろぼろの演奏となってしまいました。
また精神を病んで、入院したりしましたので、録音自体ができない期間もありました。

彼のピアノにおける最大の特徴は、
信じられないほどのスピード感を保って疾走した、そのスウィンギーなソロと言えます。
当時のドラマーで、バド・パウエルに合わせることができたのはただ一人、
マックス・ローチだけだったと言われています。
ぐんぐんと押し寄せるかのような右手のメロディ・ラインは、
本当に多くのジャズ・ピアニストに影響を与えました。
「白いバド・パウエル」と言われる人も、何人もいます。

でも、マニアが好むのは、バラード系の曲調におけるパウエル。
胸が締め付けられるかのようなロマンティシズム溢れる旋律
一聴すれば絶対に忘れられないような、こぼれんばかりの可燐な叙情
まさにパウエルこそはバラードの名手なのです。

また、さらにマニアが好むのは、ちょっと落ちぶれてきた頃のパウエル。
テクニック的にも落ちて来ており、鍵盤を外すこともたびたび。
でもそこがまた良い!
体調不良をおして、必死にソロを取るパウエルを愛おしく思ったりします。

さて、バド・パウエルは破滅的な人生を送った人で、
様々な逸話は枚挙にいとまがありません。
秋吉敏子は、パウエルに「1ドル貸してくれ」と言われ、本当に悲しかったと言います。
全ピアニストにとって神のような存在だったパウエルが、
こんな自分に対して、金を貸せと・・・しかもわずか1ドル貸せと言っている。
100ドルだったら話はわかるけど、たったの1ドル・・・

また、アンドレ・プレヴィンはあるホールで演奏を聴いていた際、
となりの席の酔っ払いがぐうぐう眠り呆けながら、プレヴィンのほうにもたれかかってきて、
まったくもって気になって仕方がない。
するとクラブの知り合いが話しかけてきたそうです。
知り合いA:「ああ、プレヴィン、久しぶり」
プレヴィン:「どうも、ご無沙汰しております。」
知り合いA:「それはそうと、君。あの、バド・パウエルに会いたくないかい?」
プレヴィン:「え?パウエルさんですか?もちろん会いたいですよ。決まってるじゃないですか!
       でも、あんな有名な人。おいそれと会える訳ないでしょうね」
知り合いA:「それがそうでもないんだな。すぐにでも会えると思うよ」
プレヴィン:「ホントですか!是非!是非紹介して下さい!」
知り合いA:「ほら。今、君のひざまくらで眠っている男。それがバド・パウエルさ」
プレヴィン:「げ!この酔っ払いが?マジっすか?」
パウエルや、よくジャズ・クラブの前の道で酔いつぶれていたそうです。

そのバド・パウエル、
ヴァーヴやブルーノートを始め、いろいろなレコード会社に名盤を残しておりますが、
なぜかプレスティッジとリヴァーサイドの二大レーベルにはあまり残しておりません。
パウエルの鬼気迫るピアノ・スタイルと、保守的で柔らかなリヴァーサイドの雰囲気は
明らかに違うふうに思えますので、それもうなずけますが、
なぜ、プレスティッジに残さなかったのでしょう?

そう、残さなかったのではない。残せなかったのです。
この呆れかえるほどパウエル的な逸話はまた次回で・・・

さて、ジャケットはブルーノートの「アメイジング・バド・パウエル第3集」
「ブルー・パール」のヒットを飛ばした人気の高いアルバムです。
パウエルはソロを取っている時、「あ〜あ〜あ〜あ〜」と唸り声をあげます。
まさにそんな感じでピアノの前に座っている好調時のパウエル。
このパウエルを、全ジャズ・ピアニスト(モンクは除く)は目標としたのです。