モダン・ジャズの知られざる逸話(20)

ビリー・ホリデイ[2


今日は女性ヴォーカルの部(20)ビリー・ホリデイ

死後、半世紀経った今でも、
全女性ジャズ・ヴォーカルの最高峰として、
永遠に語り継がれているビリー・ホリデイ。
ジャズ・ヴォーカリストとしての栄光とは裏腹に、
その人生は悲惨なものでした。

貧しさから、10代で既に娼婦をしなければ生活できなかったホリデイは、
ジャズ・ヴォーカルで身を立ててからも酒と麻薬から
どうしても離れることができませんでした。
1920年代には張りのあった美声も、
1950年代頃には見る陰もなくぼろぼろになってしまい、
それでも生活のため、自分のために必死に歌うビリーは、
本当に凄惨な人生を歩んだと言えましょう。

ビリーの代表曲に「奇妙な果実」という唄があります。
ある木に、奇妙な果実がぶら下がって、ゆらゆらと揺れています。
よく見るとそれは人間・・・しかも黒人・・・
白人からリンチを受け、殺されて木に吊るされた黒人だったという衝撃の歌詞は、
そのままビリーの人生を象徴しているかのようでした。

ビリーは1959年、麻薬が原因でぼろぼろになり、とうとう亡くなります。
ビリー最後の共演者だったピアニストのマル・ウォルドロンは、
ビリーに捧げるアルバムを作成しようと試みます。
曲目はビリーの愛唱歌だった「レフト・アローン」
しかし大きな問題が横たわっていました。
ビリーに代わる歌手など、どこを探しても見つからなかったのです。

二流の歌手を使っては何の意味もない。
かと言って、超一流に唄ってもらってもビリー追悼にはならない。
悩んだマルが選んだ、ビリーに代わる歌手は、何と男性でした!
しかもヴォーカリストではなく、アルト・サックス奏者、ジャッキー・マクリーン。
そうです。マルはビリーのパートを女性ヴォーカルに唄わせるのではなく、
アルト・サックスに唄わせることを思いついたのです。

この試みは大成功しました。
マクリーンは「燃えるアルト」と異名を取るハード・バッパーですが、
またの名を「泣きのアルト」
すすり泣くようなアルトのフレーズは、
聴く人の胸をセンチメンタルな感情でいっぱいにし、
その胸をかきむしったのです。
特に我ら日本人の心の琴線には触れまくり、
発売以来、多くのジャズ・ファンの胸を涙で溢れさせた名盤となりました。

さて、ジャケットですが、
ビリー晩年の名盤「アラバマに星落ちて」
ビリーは女性の弱さ、人間の弱さを全面に出した歌手です。
でも、女性以上に、男だって本来は極めて弱い生き物。
弱さゆえに酒や麻薬、そして守ってくれる男に走ってしまったビリーを、
いったい誰が責められましょうか?

ビリーは自分の魂を唄にして唄った。
自分の魂を吐露する音楽、それがジャズなのです。