モダン・ジャズの知られざる逸話(21)

ソニー・ロリンズ[2


今日はテナー・サックスの部(21)ソニー・ロリンズ

ご存知、テナーの王者、ソニー・ロリンズ
50年代から現在まで、それこそジャズ・シーンのトップに君臨し続けるジャズメンです。
その音楽は、60年代において若干フリーに傾きかけたことがありましたが、
また、70年以降のサウンドはかなりフュージョン色の濃いものではありますが、
基本的にはジャズの王道を往くもの。
そんな王者が、ロックのアルバムにゲストで参加していることは、
あまり知られていないことだと思います。

ロリンズが参加したロックとは、
たぶんロックを知らなくても名前ぐらいは誰でも知っている超大物
世界最強のロック・バンド、「ローリング・ストーンズ」です。
彼らが1980年に発表したアルバム「刺青の男(タトゥー・ユー)」
このアルバムの中の2曲(ネイバーズ、友を待つ)に
ロリンズは参加しているようです。

「いるようです」というのは、
アルバムのクレジットをいろいろ見ても、
ソニー・ロリンズの名前は見当たらないんですね。
でも参加しているのは事実で、本人も
「滅多に仕事ができない人たちと一緒に仕事ができて、楽しかった」という弁を残しています。
第一、聴けば一発で判ります。

大学生だったある日、
テレビの洋楽番組に、このアルバムの「友を待つ」のビデオ・クリップが流れました。
私は一緒に見ていた父にこう言いました。
「このストーンズの曲なんだけど、サックスがソニー・ロリンズらしいよ」
父はこう言い返しました。
「馬鹿言うな、ロリンズがそんなことやるか!
 第一、ロリンズの音はこんなに汚くない!」

父はロックをほとんど聴きません。認めていないと言ったほうが早いです。
父の視界にあるロッカーは、エルヴィス・プレスリーとボブ・ディランのみ。
ジョン・レノンのシャウトが耳障りでしょうがない、と言った類の人物です。
ましてやビートルズよりさらに品の無いローリング・ストーンズです。
そんな音楽にロリンズが参加するなんて、絶対にありえない!という先入観があったんですね。

確かに70年代以降のロリンズの音は、ちょっとつぶれたようなところもあります。
50年代の「サキソフォン・コロッサス」と比べてみれば明らかです。
男性的でつややかな音色が、若干ざらついた音に変貌しているのは確かです。
まあ、どちらの音がいいかは好みによりますね。

でも、そんな父も、「友を待つ」を聴いているうちに、
「あれ、やっぱりこれ、ロリンズかな〜?」とか言い出しました。
豪放磊落なロリンズのソロは、ローリング・ストーンズの毒の中に一人入っても、
まったく侵されることがなかったんですね。
ストーンズに合わせた(?)ちょっぴり汚い音色はともかくとして、
その音楽的解釈は、ジャズ・マニアが一聴すれば明らかにロリンズだとすぐに判るものだったんです。

「間違いだらけのジャズ鑑賞」にも書いたことですが、
ロックって、とても素晴らしい音楽です。
ジャズ一筋で無視するにはあまりに惜しい!
逆に、ストーンズ・サウンドをものともせず、豪快に鳴るロリンズのサックス。
ロック・キッズにはごく普通のサックスの音に聴こえたとしても、
ジャズ・マニアの耳で聴けば鳥肌モノ間違いなしです。
両方知っていれば、こんなにも楽しいことだらけなんです。
「刺青の男」のソニー・ロリンズのソロは、
ジャズ・マニアが聴いたら、にやりとするソロですよ。お勧めです。

ちなみに蛇足になりますが、ローリング・ストーンズのヴォーカリスト、ミック・ジャガーは、
ある時、「帝王」マイルス・デイヴィスの家を訪ねたそうです。
そして・・・
ミック 「私、ローリング・ストーンズのヴォーカルのミック・ジャガーと言います。
     貴方の音楽は昔から大好きで・・・」
マイルス「アポが無いなら、帰ってくれないか!」
ロック・マニアが聴いたら腹を立てますよね。なにせあのミックが門前払い!何様のつもりだ!
でもジャズ・マニアからしてみたら、「さもありなん」というところです。だって、<あの>マイルスですから。

閑話休題
さてジャケットですが、
50年代におけるソニー・ロリンズ「幻の名盤」
「ソニー・ロリンズ・プレイズ」
胸像がサックスを吹いているユーモアは、
ロリンズの音楽性につながるものがありますね。
しかしそんな時にでも、ロリンズの目は、
にこりともせず一点を凝視しています。

しかもこのアルバムの3曲目でいきなり飛び出してくるのは、
チャイコフスキーの交響曲「悲愴」
ね、クラシックも聴いておいたほうが良いでしょ?