モダン・ジャズの知られざる逸話(23)

セロニアス・モンク[2


今日はピアニストの部(23)セロニアス・モンク

ピアノの奇人、セロニアス・モンクには、名盤・珍盤が多く存在いたします。
今回は、その中の極めつけ
「偉大なる失敗作」と褒め称えられた、
セロニアス・モンク、リヴァーサイド時代の大失敗作、
「モンクス・ミュージック」を取り上げたいと思います。

モダン・ジャズは基本的には即興演奏の世界です。
名曲はなく、名演あるのみです。
楽器演奏のテクニックやセオリーも重要ですが、
最も重要なのは、その人の持っている感性です。

モダン・ジャズは基本的には同一の演奏は二度と出来ません。
というのも、演奏自体がアドリブ(即興演奏)だからです。
よって、リハーサルというものはそれほど大きな意味は持ちません。
またテイクを重ねることも、あまり良いこととは思えません。

しかし音を合わせたり、
ある程度の音楽的構成をメンバーで確認したりという意味では、
やはりリハーサルは必要だと思います。
ここに、まったくリハーサルを行なわない男がいます。
セロニアス・モンクその人です。

モンクの来日公演時、メンバーのチャーリー・ラウズは次のように話しております。
「モンクは基本的にはリハーサルには出ない。
 ああやってこうやって、という指示を俺たちに出して、
 あとは何もしない」
とんでもない演奏家ではありますが、それがモンクなのです。

さて、偉大なる失敗作「モンクス・ミュージック」ですが、
これはリヴァーサイド時代のモンクの珍盤。
サイドメンには、ジョン・コルトレーン、コールマン・ホーキンス、アート・ブレイキー
重厚なサウンドになりそうな面子が揃っています。
多分、モンクはリハーサルらしいリハーサルは行なわず、
レコーディング本番に臨んだのでしょう。
そうに違いないです。だって、、、モンクですから。

モンクのオリジナル「ウェル・ユー・ニードント」の演奏が始まります。
テーマ演奏からモンクのソロ・パート。
ポキポキと骨の折れるような、ぎくしゃくしたソロが展開されますが、
演奏が終わった後、モンクの声がはっきりとマイクに入っております。
「コルトレーン!コルトレーン!」

ジャズのソロは、通常○○コーラスという言い方をし、
何小節を演奏したら、次の奏者に受け渡す、という決まりがあります。
演奏者は演奏しながら自分の小節数を数え、
ラストの数小節でかっこよくソロを終了させ、バトン・タッチするのが普通です。

モンクは数を数え間違えたんですね。
自分のソロは終わったと勝手に勘違いしたモンクは、
なかなか演奏を開始しないジョン・コルトレーンに向かって、
ソロの出を促したのです。
「コルトレーン!早くしろ?お前、何やってんだ?」
・・・「何やってんだ」はあんたのほうです。モンクさん・・・

演奏中にリーダーにわめき散らされたら、気が散ってしょうがないですよね。
ということで、他のメンバーもいろいろとトチっています。
アート・ブレイキーですら、切り札「ナイアガラ・ロール」を叩き損ねたり・・・

こんな演奏、普通だったらやり直しですよね。
どう考えてもNGなのに、これがそのまま収録され、発売されたんです。
モダン・ジャズは基本的には何でもありの世界。
セロニアス・モンクやコルトレーン、アート・ブレイキーらの高い音楽性が、
このNGだらけの失敗作を単純な失敗作では終わらせなかったのでしょうね。
これが「偉大なる失敗作」の所以です。

今回のセロニアス・モンクは、自分のソロ・パートが終わったと勘違いしました。
律儀に自分のソロの番を待ったジョン・コルトレーンが正しいんです。
ところが逆に、まだ自分のソロ・パートじゃないのに、自分のパートが来たと勘違いして、
いきなり演奏し出した人もいるんです。しかも1曲のうち1回ならず2回も!
この話はまた次回・・・この方も超大物ジャズメンです。

と言うことでジャケットは、
「偉大なる失敗作」の「モンクス・ミュージック」
子供の玩具にどっかりと腰を下ろす、天下の奇人セロニアス・モンク。
気取ったベレー帽に、トレードマークの派手な黒めがね。
よく見ると五線紙を持っています。
「偉大なる失敗作」にふさわしい、おふざけ満点のジャケットですね。