モダン・ジャズの知られざる逸話(26)

ソニー・クラーク[1


今日はピアニストの部(26)ソニー・クラーク

我々日本人は、底抜けに陽気な人種ではありません。
ちょっと悲しいくらいのものがお気に入りです。
また判官びいきと言って、弱いものや理不尽に虐げられているものに対しては、
理由もなく応援する傾向があります。
さて、この傾向はモダン・ジャズにも当てはまるのでしょうか?

そこでソニー・クラークの登場となります。
このピアニスト、本国アメリカでは無名に近い存在です。
1931年に生まれ、1963年に31歳で亡くなってしまった。
残したアルバムももちろんそれほど多くはなく、
アメリカで大ヒットした作品も無い。

その演奏はと言えば、
陽気なヤンキー気質からしてみると、
ちょっと地味で暗く、ぱっとしないもの。
だから受け入れられることはありませんでした。

ところがそのソニー・クラークですが、
日本のジャズ・ファンでソニー・クラークの名前を知らない人はいません。
アメリカ人が聴くと何ともぱっとしない、地味で暗いソロも、
日本人が聴くと哀愁を帯びた何とも物悲しいソロに聴こえる。
判りますよね、我々日本人、そういうの大好きなんです。

かつて来日したアメリカのジャズ・ジャーナリストは、
こう漏らしたそうです。
「oh!no!ジャパンとは何という国だ!
 ソニー・クラーク等というマイナー・ピアニストのことを、
 喫茶店のウェイトレスまでが知っているなんて!」

喫茶店のウェイトレスって、おそらくジャズ喫茶のバイトの娘のことでしょうね。
アメリカではジャズの専門職しか知らないようなピアニストなのに、
日本では、ごく普通の一般ピープルまでが知っていたのに驚いたのでしょう。
でも、ジャズ喫茶のウェイトレスがソニー・クラークのことを知っているのは、
当然と言えば当然なんですよ。
昭和40年代に後楽園球場でアルバイトを始めた野球音痴の男の子が
まっさきに長島・王の名前を覚えるのと同じなんです。

日本ではなぜソニー・クラークの名前が知られているか?
そのソロが日本人向けだったということももちろんありますが、
ある一枚のアルバムが大ヒットしたからなんですね。
もう説明するのも気恥ずかしくなるくらいの名盤・・・「クール・ストラッティン」です。
ジャズ喫茶のウェイトレスがソニー・クラークの名前を知っているなんて当たり前なんですよ。
だって「クール・ストラッティン」を毎日何回も聴いていたんですから。

と言うことで、ジャケットですが、
その演奏とともにあまりにも有名な「クール・ストラッティン」のジャケットです。
このジャケットがあるから、年配のジャズ・マニアには「足フェチ」が多いとまで言われる、
女性の足だけが映った、あまりにも印象的なジャケット。

ちなみに「ストラット」とは「気取って歩く」という意味です。
スタイリッシュな女性が、「クール」に「気取って歩いている」ジャケット。
アルバム・タイトルとジャケットがここまでマッチしている作品も珍しい。
そして演奏は「クール」どころか、正反対の熱く「ハード」なもの。
でもソニー・クラークの演奏は、熱い中にも、どこか悲しいフレーズがある。
お判りですよね。我々日本人って、そういうの大好きなんですよね。