モダン・ジャズの知られざる逸話(28)

レイ・ブライアント[1


今日はピアニストの部(28)レイ・ブライアント

どんな人間にも、主役になる時が3回はあると言われます。
生まれた時、結婚した時、亡くなる時。
また、どんな人間にも、大きなチャンスが3回はあるとも言われます。
敏感な人間はそれを察知し、それを掴んで大きく飛躍する。
しかし鈍感な人間はその機を逃してしまう。
神様は公平なのかもしれません。
要は、機を見るに敏か否か。

そこでレイ・ブライアントです。
この人ほど機を見るに敏だったジャズメンを、私は知りません。
そう、レイ・ブライアントには3回どころか
たった1回のチャンスしか巡ってきませんでした。
しかし、それは大きな大きな、、本当に大きなチャンス。
ブライアントはそれを掴んだのです。

レイ・ブライアントは、50年代から活躍するピアニストです。
しかし、それほど大きな仕事はしていません。
ビッグ・ヒットがあるわけでもなし、
名盤にサイドメンとして参加したわけでもない。
敢えて言えば、ピアノ・トリオが数枚と、
ソニー・ロリンズやカーメン・マクレエのバックで
極めて地味〜な伴奏をつけていました。
そう、ブライアントは二軍選手だったのです。

そんなブライアントに大きなチャンスが巡ってきたのは1972年の夏の日。
モントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルでの出来事です。
その年のモントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルの目玉の一つに
オスカー・ピーターソンのピアノ・ソロがありました。
圧倒的なテクニックを誇るピーターソンは衰えを知らず、
聴衆はピーターソンの演奏を心待ちにしていたのです。
しかし・・・何を思ったか、、、ピーターソン、ドタキャン!!!

理由は判りません。
ギャラなのか、体調不良なのか、それとも気に食わないことがあったのか?
でも、ステージに大きな穴があいてしまったのは事実。
困り果てた主催者側が白羽の矢を立てたのが、レイ・ブライアントでした。
ブライアントは、オスカー・ピーターソンという超大物の代役として、
世界有数のジャズ・フェスティヴァルで、ソロ・ピアノを弾くことになってしまったのです。

はっきり言ってその時点のブライアントは、
ピアノ・ソロを取るようなビッグ・スターではありませんでした。
ましてやモントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルなんていう大舞台で、
しかもオスカー・ピーターソンを聴くつもりで来た客を満足させねばならない。
これは、相当荷が重いです、家賃高いです。

その話を受けたブライアントは、会場入りし、
数時間、ぶっ続けにピアノを弾きまくったそうです。
あせりが無いはずがない、この修羅場。
ブライアントはひたすら自分を信じて、ピアノを弾きまくったそうです。
迫り来る恐怖に震える手を、彼は鍵盤に向かって叩きつけたそうです。

ステージは大成功に終わりました。
もともと実力のあるピアニストです。ちょっと地味なだけです。
確固たるテクニックと、ブルース・フィーリングは備えておりました。
フランツ・リストの「愛の夢」をブギウギ調にアレンジしたナンバーが終わった瞬間、
レイ・ブライアントというピアニストはビッグ・スターになっていました。
地味な準一流から超一流になっていました。
そして聴衆は気づいたのです。
レイ・ブライアントというピアニストの底知れぬ実力を・・・

ピーターソンの代役の話が来た時、
おそらくブライアントは悟ったのでしょう。
これは自分に与えられた最初で最後のチャンスだ。
これを掴めば、自分は一歩も二歩も上へ上れる。
そして、人生最大の賭けの舞台に登り、
怖気づくことなく普段どおり実力+αを発揮したのです。

人生における土壇場での勝負
誰でも怖い。誰でも逃げ腰になる。なって当然。
でもそれを打ち破らなければ、人間は向上することはできません。
ブライアントは見事にその賭けに勝ったのです。
何より自分自身に勝ったのでしょう。

ということでジャケットは、
その時の有名なライヴ
「アローン・アット・モントゥルー」(モントゥルーひとりぼっち)
年輪を感じさせるピアニストの掌が印象的です。
この時、レイ・ブライアント41歳。何と本厄!

松本清張が作家になったのは確か40歳を超えてから。それまでは新聞記者だったはずです。
レイ・ブライアントが大成したのも41歳。
ということは・・・
日々の出来事に翻弄されまくっている皆さん、頑張りましょう!
男も女も、人生40からですよ!

受験戦争なんてどうってことありません。
リストラなんかの企業内暴力に負けてはいけません。
育児ノイローゼ、何するものぞ!
一つや二つ失敗したって、そんなもん!電車に一本乗り遅れたようなもんですよ!
最終的には、大して差なんか出やしません。いつだって取り戻せます。

人間すべて大器晩成!
こつこつと努力している人間には、
かならずや大きなチャンスが巡って来るはずです。
そのチャンスを待ち、恐れずに勝負を挑もうではありませんか!