端山忠彦の実践SS学
第2回
『油外が本業』戦略はフルサービスSSを
蘇生させる
――ガソリンを中心とした燃料油は店主の価格政策次第で増販出来るが、油外商品は従業員の活性化が不可欠である――
よくそう言われます。サービス・ステーション(以下SSと呼ぶ)のマーケティング戦略上では、燃料油は「プル」商品、燃料油以外は「プッシュ」商品だからです。つまり、ガソリンは価格看板でお客さんを呼び込むことで販売できますが、油外商品は従業員がお客さんにその必要性を説明し、購入を促がさなければならないからです。加えて、カーショップやカーディーラーとの競争があります。そんなことから接客する従業員の能力・気力などが業績を大きく左右するのは当然と言えます。お客さんの安全・快適走行にとって何が必要なのかを的確に把握し、それを適切に説明・アドバイスすることのできる「プロフェッショナルな対応力」が求められるからです。
なぜ、このプロフェッショナルな販売力がSSでは育ちにくいのでしょうか?
従業員の質が云々されていますが、商売の出発点が燃料油だったことがいまだに「燃料が本業だ」という経営者意識に起因するところが大きいのではないでしょうか。既に方向転換をされているSSもあると思いますが、フルサービスSSの場合、油外収益への依存度が高いにもかかわらず、店主の人達の関心が依然としてガソリンの販売量に注がれているために「量から質」への経営転換が遅れていると考えられます。
SS業界を俯瞰した時、フルサービスSSの最大の関心事は、セルフ化がどの程度まで侵攻して来るかでしょう。私は、販売数量ベースで60%までは想像以上に速いスピードで進んでくると予測しています。このことはフルサービスSSにとって燃料油を増やすチャンスが限られてくることを示唆しています。近隣SSの閉鎖による一時的なものはあっても、大きなトレンドは漸減傾向をたどることを意味しているのです。
フルサービスSSがセルフサービスSSより優っているところはどこか。それは油外商品の分野でしょう。なぜなら、お客さんに説明・アドバイス出来るクルーがいるからです。ビジネスの勝ち組になる定法は「自分の強いところで勝負する」ことです。つまり、油外の分野を中心に据えて戦わずして、これからのサバイバルレースに勝利することは困難だということです。ここに、私の提唱する「油外が本業」戦略の拠って立つところがあるわけです。しかし、一つ落とし穴があります。「油外に重心を置いている」ぐらいの意識では本業とは言えません。表面上の意識改革で終わってしまうからです。業績を一変させるようなSS内の改革は、店主の皆さんが一心不乱になって「油外が本業なんだ」と唱え、行動してこそ実現に向って動き出します。当然、従業員もそこに向って知識・技術・情報収集などの研鑽に励みますので、販売力が向上して行きます。これが、この戦略の一つ目のポイントです。
オーナードライバーのアンケート調査などによりますと、SSでの油外購入潜在顧客はおよそ30%前後という結果が出ています。来店客の20%が油外商品を買ってくれたら、住宅街の一般的なSSでも月間の油外収益は200万円を超えるのは、幾つもの具体事例が証明しています。この戦略の二つ目のポイントは、価格競争をしてカーショップやカーディーラーなどで購入しているお客さんを取り戻そうということではなく、SSで買っても良いと言ってくれている20〜30%のお客さんを「確実」に固定客にして行こうということです。そのためには、「今までの延長線上では油外収益の飛躍的な増大はありえない」ことを店主・マネージャーの方たちは肝に銘じておかなくてはなりません。同時に、油外商品の販売で「食っていくのだ」ということを従業員全員に周知徹底し、それにふさわしい体制を整えることが必要になってきます。
燃料以外の商品の販売活動の最も難しいところは、先ほどの20〜30%の潜在顧客を見つけ出して特定する作業でしょう。これが出来ているSSは、既に相当高いレベルの収益を上げているはずです。いつまでも少数のお客さんしか特定できなければ低い収益に甘んじざるを得ません。多くのSSは「洗車はいかがですか、ボンネット内の点検をしましょうか」といった声掛け活動が中心になっていることと思います。しかし、そのヒット率は5〜10%程度にとどまっているのが現状ではないでしょうか。しかし中には、この効率の悪い活動を辛抱強くやり続けて多くの優良顧客を囲い込むことに成功しているSSがあります。油外販売で粗利益の大半を稼ぎ出して行くためには、この「忍耐力のいる声掛け活動」を「楽しく、専門家としての誇りを持って、もっと効率の良いもの」にして行く必要があると、私は考えています。これが、『油外が本業戦略』の三つ目のポイントになります。
多くの従業員の人たちの油外販売活動を見ていますと、買ってくれるお客さんのことはよく知っていますが、そうでないお客さんについては興味がないか諦めてしまっているせいか、「そのお客さんがどこで洗車をし、オイル交換をしているのか」について全く知らない従業員の人たちが多いのに驚かされます。「買ってくれていないお客さんに興味を持ってアプローチしてこそ増販の可能性が大きくなる」ということが教えられていないようにすら思えます。
お客さんを知らずして効果的に商品を勧められるわけはないのです。最近の厳しい経済情勢からしても、既存のお客さんにだけ頼っていては収益が減少する一方です。それゆえに、「新しい油外顧客の発掘」こそが今一番重要な課題であると思う次第です。
『油外が本業戦略』では、従業員が声掛けして断られるときから始まります。
「いつもどこでオイル交換しておられるのですか?」
「幾らぐらいのオイルを使ってらっしゃるんですか?」
「ブランドは決めておられるのですか?」
「前回いつボンネット内の点検をされましたか?」
このように問いかければ、大体八割ぐらいのお客さんは何らかの返事をしてくれます。そうすればしめたものです。皆さんはSSのプロですから、これら断片的な情報からそのお客さん像を的確に把握し、成功率の高いアプローチが可能になるでしょう。同時に、そのお客さんに合った商品情報を提供してあげることによってお客さんとのコミュニケーションは一気に深まります。こうしてこれまで潜在していた優良顧客が顕在化し、固定化されてゆきます。この活動を通じて、来店してくれている20〜30%の油外顧客は間違いなく特定できることになります。
そうです。三つ目のポイントの具体的なテーマは「お客さんを知る」ということです。
これまでに蓄積してこられた販売力にこの活動がうまくからんで店頭で展開し始めたとき、厳しい環境ですが、必ずや「フルサービスSSでもやって行ける」という実感と明るい展望が皆さんの眼前に開けてくるものと、私は確信しています。多くのフルサービスSSの挑戦と飛躍的な業績の向上を願ってやみません。
【NICHIBO
SS MAGAZINE『SSファミリー』2003秋号に掲載】載】
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