端山忠彦の実践SS学
第3回
「人間力が問題だ」とわかれば「油外の壁」は破れる
日本のサービス・ステーション(以下SSと呼ぶ)業界は、いよいよ燃料油のマージンを大幅に圧縮する苛烈な競争が繰り広げられるようになり、過去に欧米を襲った販売業界再編の波が近く高くなってきています。その予感のもとに、欧米がコンビニに活路を求めたように、日本ではフルサービスSSもセルフサービスSSも「油外収益の確保」に生き残りをかけて大きく動き出している現状です。
昨年は二度にわたって『SSファミリー』誌に油外の増収をテーマにその方法論として「変化を起こす」意識への転換と「油外が本業」戦略の重要性について寄稿させていただきました。
この二つのテーマに共通するのは「現状の延長線上では生き残りは困難ですよ」というメッセージです。「視点を変えて」従業員を動かし、販売戦略を再構築し、チャレンジすることの重要性を述べさせていただきました。
しかし、ともに「方法論」であって「実行・実践編」ではありませんでした。多くの店主の方たちの最大の悩みは、計画した販売プログラム・行動目標の実践することの難しさであろうと推察しております。SSでの増販戦略・ノウハウはほとんど知り尽くされていますから、問題は「確実に実行・実践」出来るか否かです。
なぜ実行することがそんなに難しいのでしょうか?
それは、従業員もお客さんもどちらも「人間」であり、感情を持った相手であるからだと思います。従業員を例にとって考えてみますと、同じ対価を払ってもその働きは個人によって大きく差が出ることはご承知の通りです。店主側の能力によっても異なります。私は、店主の皆さんによくこんな質問をします。
「あなたは、従業員の皆さんから尊敬されていますか、恐れられていますか?」
即座に答えられない方がほとんどです。
雇い主の方が「畏敬」されていないと、従業員を自分の思うようには動かせません。尊敬されている人に命令・指示されると、従業員は何の抵抗も感じずに喜びに満ちて行動を起こします。怖いと思っている人の場合は、指示に従わないとこっぴどく叱られると思い、従順に行動します。どちらが良いかは省くとして、現実はこのどちらにも属さない店主の人達が非常に多いということです。ここに、油外収益が向上しない原因の一つがあります。
もう一つの見方は従業員本人に原因がある場合です。それは、商品知識も含めて販売技術力・作業技術力の不足です。新入社員ならいざ知らず、残念ながら、かなりの経験者でも低いレベルのままで成長のない従業員が多くいます。当然、販売力は低いレベルで止まってしまいます。
このようなことが重なり合って、厚さ高さはともかく、それぞれのSSに「油外の壁」が存在してしまっているわけです。この障壁を打ち破らない限り、業績の向上は期待薄です。現下の不況という経済状況を考えるとこの壁は、相対的にSS側にとって越えるのが難しくなりつつあるのが現実だと考えられます。店主・従業員の「人間力」が充分に発揮されないが故に生じている問題であろうと……。このように考えると、「なるほど」とご理解いただけるのではないでしょうか。
多くのSSでの実情を見ると、油外増大のために導入している「洗車の声掛け」「オープンボンネットの勧め」「やまびこ挨拶」「店頭待機での姿勢」「工夫されたセールストーク」「安全・快適走行のための提案とアドバイス」等などの諸活動が、現状は「そこそこ」の実施度で推移しています。だから売れない、売れないから継続実施が出来ないという悪循環に陥っている可能性が大いにあります。
つまり継続して行く「精神力・忍耐力・情熱」が足りないのです。また、SS現場ではこの三つの力を養う重要さが忘れられているのではないだろうかと、私が思うほどです。これらの力は、植木にたとえると「根っこ」に当たります。根がしっかり張っていないと、いくら上手に枝葉を剪定しても、綺麗な花は咲かないし美味しい果実も実らないのとよく似ています。野球やゴルフでも足腰が強くないとボールを遠くへ飛ばすことが出来ないのと同じです。
私は、従業員の人達のこの足腰の強さを「人間力」と呼んでいます。彼らにこの人間力が備わってくれば、計画された行動・活動はほぼ満足のいく形で継続展開されるでしょう。お客さんへの納得のいく商品説明、なぜその商品と作業が必要なのかアドバイスすることが可能になるでしょう。ここに、今多くのSSの前に立ちはだかっている「油外の壁」を打ち破り、前進して行ける鍵があると判断し、「人間力の向上」の重要性を訴えています。
では、「人間力を向上」させるには具体的に何をどのようにすればよいのでしょうか?
私の考えはこうです。
SSの従業員に限らず働くものが備えていなければならないことは先ず、「就業するのに相応しい心構え、姿勢が整えられている」ということです。
次に、仕事をする上で邪魔になる邪念・雑念などを含め、「エゴを取り除く」ことが求められます。この基本が出来てくると従業員は「お客さんに喜んでもらう」こと、「お客さんの安全・快適走行に奉仕する」接客姿勢が養われてきます。同時に、店主の命令・指示が彼の心に沁み込んでいきます。
その結果はご推察の通り、実行を決めた諸活動が継続展開されて行くことになります。教育訓練にも真剣に取り組むことから習熟度が上がり、店主の期待する従業員へと成長して行きます。当然、人間としても「一人前」に成長して行きます。
平均的なSS経営者から見れば信じられないような油外実績を挙げている優秀SSには、この「根っこ」のしっかりした従業員が多くいます。しかし、彼らは最初からしっかりしていたわけではありません。入社してからの「しつけ教育」によって鍛え上げられてきた従業員です。
同様なことが運動選手を育てる過程に見ることができます。
高校野球を例に取ってみますと、新入生は先ずボール拾い・グランド整備・ランニングなどをやらされます。さらに上級生への絶対服従と使い走りもさせられますが、これらを通じて新入生は社会の秩序を学び、野球へ向かう姿勢・精神力・根性などを養って行きます。この第一の「ふるい」を乗り越え、厳しいノックに耐え素振りで手に血豆を作って野球の「技」を磨き、レギュラーのポジションを獲得してゆきます。そして試合に勝って喜び、負けて口惜しがり、人格形成など人間としての成長が促進されて行きます。
SSの業務といえども、この過程を経ていかなければ、「人間力」のある従業員を育てるのは困難です。
私は、「規律のとれた職場作りが従業員を育て、販売力を向上させていく」と考えています。つまり、しつかりした「職場の規律」を遵守させることが、何よりも先行されなければなりません。それが従業員の働くための「足腰、根っこ」を強くしていきます。その根幹は三つです。
『時間の厳守』 … 遅刻してきた従業員には、その日は就業させない。
これの徹底によって、「始まり」と「約束」の重要さ
を教えます。
『SSの清掃』 … トイレなど汚いところの徹底美化(下座行)に従事
させることによって「エゴ」をとり、謙虚な従業員を
育てます。
『礼儀作法の徹底』… 目上の人・お客さんなどに対する言葉遣い、態度、
姿勢を正しく整えさせることによって、接客の基本精
神を教えます。
ここに掲げた三か条がSS内に浸透すれば、従業員の精神力の向上、持続力の強化に繋がることは間違いありません。あらゆる販売プログラムは店主の期待を超えて、「力強く、粘り強く」遂行・実施されるでしょう。
それに比例して販売力は目に見えて向上し、素晴らしい油外実績が実現されるものと確信します。当然の結果として、破ることの出来なかった「油外の壁」はクリアーされ、新しい壁への挑戦が始まることでしょう。
お正月早々「難しくもあり当たり前でもある」話になりましたが、SSの販売業界がまさに正念場を迎える年であるがゆえに、年頭に当たってビジネスの原点となるテーマを取り上げさせていただいた次第です。多くのSSが、それぞれの「壁」を見事打ち破られ、商圏内で発展されるのを祈念しております。
【NICHIBO
SS MAGAZINE『SSファミリー』2004正月号に掲載】
第4回へつづく
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