端山忠彦の実践SS学


   「油外SS価格崩壊」の危機

  それはフルサービスSS復活のチャンスでもある





 セルフサービスSS(=サービス・ステーション)の数が全国で三千か所を超えました。店舗数にして約7%、ガソリンの販売量おいて約20%のシェアを占有するようになりました。
 ある一つの商品が10%のシェアを持てば、世の中が一気に変わり始めると言われます。その意味では、セルフサービスSSの増大が、水が水蒸気に変化するようにSS業界が形を大きく変える「昇華点」に達しつつあると言えます。


 SSのセルフサービス化はガソリンの価格とマージンを大きく下げました。それを克服するために人件費を中心とした経費の削減に取り組み、これらを克服できないフルサービスSSがいま市場から姿を消しつつあります。
 一方セルフサービスSSも、フルサービスSSの三倍以上の販売数量は確保したものの価格競争が激しく、採算レベルに達しているのは三割程度という実情のようです。フルサービスSSもセルフサービスSSも「油外収益の拡大なくして生き残りなし」という状況になってきました。これが平均的な店主の人たちの実感であろうと思います。


 前置きはこれくらいにして、本題である

「油外商品価格に何が起こりつつあり、それが我々にどのような影響をもたらしてくるのか?」について考えて行きたいと思います。

 一番目のポイントは、フルサービスSSからセルフサービスSSへ流出して行ったガソリンのお客さんが、どこでオイル交換など車のメンテナンスをやっているだろうかということです。
 セルフサービス給油の導入時は「燃料はセルフ、メンテはフル」とお客さんは使い分けるだろうと業界の人たちは考えていました。しかし現実は、フルSSの油外販売も減少傾向にあります。平均的なSSでの油外商品購入客は、全体を見るとおおむね10〜20%ですが、セルフ給油をしているお客さんのうちフルサービスSSで油外商品を購入している割合は3〜5%という調査結果があります。その差7〜15%のお客さんが他のチャンネルに流出しているという事実を示しています。その大半はオートショップへ流出していると考えて間違いないでしょう。

 なぜオートショップなのか?
 大きな理由は二つあると考えられます。

 最初は、オイル交換だけをフルサービスSSでやってもらうのは何となく気まずいという「お客さんの体面上」の理由からオートショップへ足を踏み入れた人が、行ってみると「価格がSSと比べて圧倒的に安い」「作業技術力も優るとも劣らない」ということを実感してしまい、オートショップ派になってしまったケースが数多く見られます。
 加えてオートショップ側の攻勢もあります。物品だけの販売から車検を通じての点検販売へと領域を広げてきています。

 この傾向が一時的限定的な影響で終わるのか? それともさらに拡大していくのか? その結論は次の要因を見れば明らかになります。

・セルフSSは増大し、セルフ利用顧客はさらに増える。
・オートショップ価格が一般フルSS顧客へ伝播していく。
・セルフSSの油外商品価格の値下げ、オートショップへの追随が始まりだした。
・一部フルSSの防衛的値下げの開始。

 残念ながら後者の「拡大していく」としか考えられません。
 SSでの油外販売が、かつてガソリンの「安値看板商法」なるものが業界全体に拡がって行った過程と全く同じ軌跡をたどって行くことを物語っています。

「燃料マージンは減少しているし、油外マージンまで縮小を迫られてはSSの経営が成り立たない。一体どうすればいいんだ?」

これが、多くのフルサービスSS経営に携わる人たちを襲っている不安ではないでしょうか。ではどうするか……。少し冷静になって考えてみることにしましょう。

 一体全体、価格というものは誰が決めるのでしょうか?
 形の上では店側が決めています。それも商圏内の競争相手の価格を見ながら決定しているところがほとんどです。競争相手も同じです。一方、お客さんはその店の価格が気に入らなければ「拒否権」を発動して自分が納得できる価格の店に行って購入することが出来ます。
 店側にとっては高い価格を付けても「ノーセールスはノーマージン」ですから、結果的にお客さんが買ってくれる値段で売るしかないのです。顧客の獲得という視点からも「価格の決定権はお客さんにある」というところに収斂してきます。

 顧客ニーズから見た多くの流通業界の未来観測は、「ユニクロかルイヴィトンに二極化する」ことで一致しています。
 つまり、中途半端などっちつかずの姿勢では通用しないというのが大方の見方です。生活必需品を扱うSSビジネスにおいて「ルイヴィトン」戦略が展開できるところはごく限られます。ほとんどのところは「ユニクロ」的戦略のビジネス展開へと益々傾斜して行くことでしょう。

 さて、SSの現場に話を戻しましょう。

 なぜ、従業員の人たちがあれほど一所懸命に声掛け活動をしてもヒット率が上がらず、油外販売が拡大しないのか? 従業員のやり方・努力・商品知識・作業技術が適切でないからでしょうか?
 当然それも原因の一つではありますが、最大の原因は「SSで買う意志のないお客さん」に向っての販売活動だから容易ではないということです。


 では、なぜ買う意志がないのか?

 それは、SSの油外商品価格がそのお客さんの「値ごろ感」にミートしていないからです。私は、SSのミーティングに出た時にクルーの人たちに「皆がお客さんならどこでオイル交換などをしますか」と質問します。十人中一人ぐらいしか「SSでします」という言葉は返ってきません。理由はもうお分かりの通りで、店主の方は利益を最大化するために、敢えて現状の販売方針を貫いておられます。私が店主でも同様のことをしてきただろうと思います。これまでは頑なに高マージン戦略を取ることが利益を最大化しました。

 しかし、前述の通りセルフ化というものの拡大に伴って市場が変化し、同様の戦略の推進では「ジリ貧」を招くことになるのを、店主の方たちは既に気づいておられることと思います。現実問題としてオイルなどの価格をオートショップなどに追随すると、販売量は伸びても、粗利益の絶対額では現状のままの方が大きいということになります。しかし、現状の価格レベルを継続すれば油外顧客は確実に減少していくことも知っておられます。このジレンマから抜け出さなければ、フルSSの永続的な発展はありません。

 迫り来る「油外価格の崩壊」に対する私の戦略は、以下に申し上げる通りです。これをベースにそれぞれのSSが自分流の戦略・活動計画・行動目標を練り上げ、より早く新しい油外顧客の獲得活動をされ、セルフ化時代にあっても存続してゆける経営体質への脱皮する一助になれば嬉しく存じます。

 @目標
 ・油外収益を50%増大する。
 ・油外「量販SS」創りを推進する。
 ・来店台数の40~50%を油外顧客として取り込む。
 A価格戦略
 ・既存の油外購入顧客に対しては、「現行の価格」を維持する。

 ・油外未購入顧客に対しては、そのお客さんが持っている「値ごろ感」価格で販 売する。
 ・新しい油外顧客獲得による増収状況に合わせて既存顧客の価格を下げ、お店と しての価格バランスを図る。
 B具体的な店頭展開
 ・最終的な売り込み場面で、大きく一歩踏み込む「お客さん、幾らなら買ってい ただけますか。今日は初めてですので、名刺代わりにサービスさせていただきま す」
 ・もし既存のお客さんからクレームがあったときは、「お客さんにはいつもお世 話になっておりますので、いつもの価格で今日はワングレード上の商品を提供さ せていただきます」

 概略を申し上げると以上のような形になります。
 ポイントは既にお解かりの通り、価格的な理由から油外商品を買ってくれないお客さんの奪回にあります。声掛け活動のヒット率を上げるには、売りたい方が「お客さんの気持ちにあった価格」へ譲歩する以外に成約のチャンスはありません。これらのお客さんに対して価格的に踏み込んでこそ初めてオートショップと互角に戦える態勢が整います。あとは立地条件・来店頻度などの点を考慮すればSS側に多少勝算があるように思われます。もしお客さんが無茶苦茶な価格を申し出られた時は「せめてもう……円くらいはお願いできませんか」と婉曲にお断りすればいいでしょう。


 これまでの私の会員SSでの経験では、クルーからの問いかけにお客さんは一瞬ドギマギされ、表情が変わるとのことです。まさに、売る側と買う側の真剣勝負の場面になります。値段を提示し「SSがこの値段でやってくれるの」と喜ばれるお客さん、手を振って慌てる人などと色々のようです。ついでながら申し上げると、既存の油外を購入してくれているお客さんは、現状の価格に「値ごろ感」を感じてくれているが故にお付き合いしてくれると考えることが重要です。

 売買が成立するということは多くの副産物をもたらしてくれます。お客さんとの距離は一挙に近くなります。従業員のやる気・販売力は一気に向上して参ります。当然、店頭は活気づき、収益も向上してきます。結果として、セルフ化時代を勝ち抜いていく自信と展望が経営者の方々の眼前に拡がってくるものと確信致します。「真の競争相手が誰であるか」を明確に認識し、迫り来る時代の変化にフルSS各位が果敢に挑戦された時、「栄光ある輝き」が店頭に蘇ってくるのではないでしょうか。

              NICHIBO SS MAGAZINE『SSファミリー』2004春号に掲載】