端山忠彦の実践SS学



  フルサービスSS 勝ち残り経営への序章






 私が当誌に寄稿させていただくようになって一年が経過しました。サービス・ステーション(以下SSと呼ぶ)業界の経営環境は、予測したとおりに、年を追うにつれて厳しくなってきております。特にフルサービスSSでは、あらゆる経営指標が悪化してきている現状です。
 しかし、この様な逆風の中にあっても改革活動が功を奏し、既に勝ち残りを確定しつつあるSSも数多く生まれてきていることは慶びに耐えません。
 今回は、何が「勝ち組」と「勝てない組」の相違を生じさせているのかについて皆さんとご一緒に考え、同時に勝ち残りへ反転する契機となる根本的な経営テーマについて考察してみたいと存じます。


 私は、セミナー活動の一環として多くのSSのミーティングや会社のマネージャー会議などに出席させていただいております。そこでよく目にする光景は次のようなものです。

 経営幹部の人たちが「SS部門は赤字だ。油外収益の拡大と人件費を中心とした経費の削減が不可欠だ」と目標となる数字を振り回し、竹槍的精神論で「頑張れ、頑張ってくれ」と一方的にSS従業員に訴えています。「やり方を変えろ、考え方を変えろ」との声もよく耳にします。
 しかし、その甲斐もなく実績が現われてこない。現場での活動は空回りし、実行を決めた行動目標も継続できず、いつしか以前と同じ状態に後戻りしてしまっている。この繰り返しが、「反転しないSS」の実情かと推察しています。
 この様な光景を見るにつけ、私には、「そんなに言うのなら……、出来るものなら……あなたがやって見せてください。そしたら、私たちはあなたについて行きます」という、従業員の人たちの心の叫びが聞こえてきます。

 もうお解かりの通り、この気持ちのギャップが埋まらない限り、「勝ち残りへ反転するエネルギー」が生まれてくる道理はありません。お客さんにも、店主の皆さんの思いが伝わらないでしょう。

 経済界に目を転じてみましょう。バブル崩壊とその後の不況で倒れたり苦しんだりした多くの企業が復活・再生を果たしてきています。その復活企業をリードしてこられた経営トップが取り組んだ改革活動が色々なメディアを通じて報道されています。併せて旧経営陣の価値観が変わり行く市場のそれについてゆけず、経営が行き詰まったと評価されています。顧客動向の変化に気がつかず、自分たちの価値観だけで力任せに突き進んで行ったところに彼らの敗因があったからだろうと思われます。そのようになった背景には、断ち切れなかった「過去のしがらみ」があったことを容易に推察できます。

 現下のSS業界を見てみますと、「セルフサービス解禁」に端を発した市場の「価値観の変化」は凄まじいものがあり、さらにその形を変えようとしてきております。特にフルサービスSSを経営しておられる店主の方たちにおかれては、自分が再生企業の新しい経営陣に就任した気持ちで、自分のフルSSの経営に取り組むといった心構えが必要ではないでしょうか。
 つまり、「白紙の状態」で自分のSSを見つめ、勝ち残りに必要な「市場にマッチした価値観」の導入、それに基づいた戦略と具体的な活動プログラムの策定・展開がこの厳しい市場の変化を克服していくのに不可欠であろうと申せましょう。見事に再生・復活を果たされた企業のトップの人達のインタビュー記事をよく目にします。
 その経営のプロの人たちが述べておられることを紹介させていただきますと、共通しているところはほぼ次のように要約されます。


・問題が何か、その真の原因が何かを明確にする。
・問題解決への着手を先送りしない。
・部下の人達とよく話し合い、意見を聴き、やるべきことを明確に示して、同意を得て実行する。
・常に変化している顧客ニーズにマッチした戦略・ビジネス活動の展開。
・経営は勘ではなく、論理的に実行されなければならない。

 これら経営トップのプロフェショナル的な手腕を見ると、最初から再生の成功が約束されていたように思われるのは、私だけでしょうか。
 前述のマネージャー会議に戻ってみましょう。

 先ず、「黒字化」という目標を達成するには経営幹部の人達は現場の意見・気持ちをよく聴き、なぜ販売が落ちてきたのか原因を互いが確認することから始めなくてはならないでしょう。その過程を経て経営陣と現場の認識が一致した時にこそ前進するパワーが醸成され蓄積されてくるのだと、私は確信します。
 そうなれば、これまで取ってきた戦略戦術が市場の変化にマッチしなくなってきていることにも気づきます。つまり、これまでの「会社の価値観」の刷新を図らなければ、市場の動きやお客さんのニーズについて行けないことが明確になってくるでしょう。

 当誌春季号で油外商品の「値ごろ感販売」戦略で申し上げたことは、変動する顧客の価値観にミートする新しい価値観に基づいた戦略の導入が必要だということです。同時に、その新しい価値観を経営者と従業員が共有してこそ、店頭に店主と従業員が一丸となった改革に向けたエネルギーが漲って来るだろうということを提案させていただきました。多分に「お店の価値観=経営者のそれ」というところがあり、長い年月をかけて定着させてきたものであることは疑う余地がありません。
 しかし、「経営者にとって最大の敵は時代の変化だ」とよく言われます。
 それは、お店が時代の変化に合わせて「価値観を修正していく」こと、もしくはそれまでのものを壊し、「全く新しい価値観を構築する」ことが大変困難であるからです。

 従業員に対しても同じです。お店にとっての「期待される従業員像」を市場の変化に合わせて明確にし、その人たちが厚遇される仕組みが構築されなければ期待する従業員は育ちませんし、集まっても来ません。
 また、常にお客さんに接しているのは従業員の人たちです。彼らの意見を聴かずして、同意を得ずして、種々の店頭プログラムがうまく展開するでしょうか?
「皆で一緒になって考え、納得して業務を推進して行く」という価値観の導入こそが激しく移り変わる市場環境を克服していく契機となります。
 また、それが今日ほど強く求められる時はないと考えます。
 そうすると必然的に、「期待される店主像とは何か?」が次に問われてくるでしょう。


 今我々を取り巻くビジネス環境の厳しさは未曾有のものです。市場環境が大きく変化してきている以上、お店が変わらなければお客さんの支持は得られません。
 お店が変わるには、一方的に従業員に変われと命じても、店主が変わらなければ期待する従業員の働きは現実のものとなりません。しかし、店主が「考え方と価値観」を変えるなら、これまで従業員が説得できなかった「手強いお客さん」をいとも簡単にオープンボンネットさせることかの出来るプロの従業員が育ってきます。ここに、お店の「勝ち残り」に向けた力強い販売体制が整って来るものと確信しています。


 そうです。「この軌道修正こそが厳しく変わりゆく市場競争を勝ち抜いて行く経営革新の第一歩となる」ということを私のメッセージとさせていただきます。

 尚、この夏季号を読まれた経営陣各位には、もう一度、過去四回分のSSファミリー誌掲載の「実践SS学」に目を通していただければ、必ずや勝ち残りを推進する「勝利の方程式」を解くのに参考にとなるヒントを見つけていただけるものと期待する次第です。各位が「勝利への道」を力強く前進して行かれるのを願っております。


             NICHIBO SS MAGAZINE『SSファミリー』2004夏号に掲載】