端山忠彦の実践SS学



   勝ち残り経営への第二章

  「真の顧客ニーズを見極める」







 新年を迎えられ、読者諸兄には「勝ち残り経営改革」の継続と実行への決意を新たにしておられることと存じます。本年も引き続き、熱き思いをもって私の持論を展開させていただく所存でございますので、ご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

「価格政策には、経営者の心模様が如実に反映されるものだなあ……」

 これが最近の市場動向から私が強く感じていることです。
 現在、多くの市場でセルフサービスSSとフルサービスSSとのガソリンの価格差が拡大し始めています。原油の高騰と需給のタイト化によるコスト増の転嫁値上げが実施されると同時にお店にとってのマージンも改善されるなど、確かに市場環境は好ましい方向に転じて来てはおります。しかし、フルサービスSSに大きな価格変化は見られないものの、セルフサービスSSは日を追うごとに価格を下げてきており、両者の価格差が従来のリッター2円からリッター4円〜5円へと拡がってきています。

 またフルサービスSSでは、ガソリン価格上昇に対するお客さんの生活防衛意識がセルフサービスSSへの移行と油外商品の節約志向を表面化させ、ガソリンマージンの改善分を相殺し始めています。一方セルフサービスSSでは、オープン以来最大幅のマージンアップとこれまでの量販効果が相乗して大幅な収益拡大を実現し、加えて新たな顧客をフルサービスSSから迎えることによって販売数量の拡大をもエンジョイしています。

 このような状況を見るにつけ、フルサービスとセルフサービスの勢いの違いを感じてしまいます。セルフサービスは益々進化を速めつつあると言えましょうし、フルサービスは残念ながら劣勢に立たされ徐々に追いやられて行くのかと、最近の市場動向に私は心穏やかではおれません。

 フルサービスSSの経営改革のポイントとして、夏季号の「経営者自身の姿勢」から始めて秋季号の「経営者と従業員のあり方」へとご一緒に考えてまいりましたが、そうすると次に、「従業員の業務遂行能力」と「それがお客さんのニーズにマッチしているか否か」という点が重要な問題となってきます。

 前号では、従業員の能力を見極めていただくために「テストの実施」をお勧めいたしました。多くの経営者の方々は、実施されたテストの答案を驚愕の思いでご覧になったことと推察いたします。「これでは油外収益が向上しないのは当たり前だ」と嘆息するとともに、幾人かの方は従業員教育に時間をかけてこなかったことを反省されたのではないでしょうか。

 テストの答案内容を要約すると、「お客さんは何を求めていると思うか」について多くの従業員の人たちは「安い価格・スピーディな作業・親切な対応・キレイなお店」と答え、「安全・故障・寿命・快適・経済性に関するお客さんの基本的欲求」に対する答えは「オープンボンネット・点検・空気圧チェック・声掛けで対応する」であったろうと思います。

 学校のテストならこれでも合格点をもらえるでしょう。しかし、実際の店頭ではどうでしょう。油外実績が店主の方々の期待するレベルには遠く達しない現実から判断すれば「不合格」とせざるを得ないでしょうし、この程度の単純な顧客ニーズの捉え方では厳しい店頭商戦に通用しないだろうと私は思います。なぜかと言うと、何よりも前に「お客さんが車を触らせてくれない」という事実を考慮に入れていないからです。お客さんの心理を考えない一方的なアプローチでは、お客さんが従業員のセールストークに耳を傾けてくれず、ボンネットを開けてくれません。つまり、門前払いとなるのが必定です。

 では、お客さんとSS側の意識の食い違いはどこから生じているのでしょうか。もう少し掘り下げて考えていくことにします。

 MRIで顧客ニーズの断層写真を撮ってみると、「お客さんが分かっているもの」すなわち顕在化しているニーズと、「分かっていないもの」つまり潜在ニーズとの、二種類のニーズが存在していることが分かります。

 お客さんは大体次のようなことは把握しておられます。
・ガソリンはあとどのくらい残っているか。
・車検はいつごろか。
・エンジンオイルはどれくらいで交換しなければならないか。
・自分の車の汚れ具合はどの程度か。
・車のどの部分に傷やヘコミがあるか。
加えて、
・車に関する作業は何処が安くて技術が信頼できるか。
・カー用品なら何処が安いか、など。

 一方、次のようなことについて案外お客さんはご存知ではありません。
・エンジンオイルはそのグレードによって乗り心地やエンジン寿命がどのように違ってくるか……。
・本当のオイルの経済性は……。
・タイヤの安全性を向上させる方法は……。
・車の燃費を向上させる方法は……。
・エアコンを快適に長持ちさせるには……。
・経済的な車のメンテナンスの方法は……。

 この様にみてくると、一般的な従業員の店頭での対応は、顕在ニーズ、つまり「お客さんが判断できるエリア」で勝負していることがよく分かります。
 では逆に、「お客さんが分かっていないところ」からアプローチすればどうなるでしょうか。

お客さんとしては、「自分が知らない有益な情報であり提案である」ことから、まずは聞いてみようとなるのではないでしょうか。つまり、従業員の得意なエリアにお客さんを引き込み、有利な店頭活動が出来ることになります。そこからの販売がどのように展開されていくかは、私が申すまでもなく、すでにご存知の通りです。

 昨年全石連が行ったホームページ・アンケート『顧客不満足度調査』の結果によると、お客さんはSSにおける油外販売についての不満を次のように答えています。
・オイル・水抜き・洗車・車検などの勧誘…………46%
・クルマ関連用品の品揃え・価格…………41%
・SSで不要だと思うサービスは「クルマ関連用品の販売」と「車検の取り扱い」

 このアンケート結果を見て怯んでいては商売になりませんが、これらが事実であると認めるところから現状を打破してゆく方策が生まれてくることも確かです。登山家がそそり立つ断崖絶壁を前にして、それを征服する難しさを認識しつつ、一方では緻密に征服ルートを研究して挑み、ついには頂上を極めるのとよく似ています。

 心強い事例もあります。前号のテストに対する従業員の人たちの回答がすべて同じだったわけではありません。「なるほど、これならお客さんのニーズを的確に掴まえられるだろう」と思われる回答もありました。その適切なアプローチを実践しているM君の回答を紹介することにします。

【M君の回答】

・お客さんが入ってきたときに、出来るだけ目と耳を使って、「異常」を探す。
・足回りからの異常音のチェック、空気圧・ワイパーのチェックを行う。
・車検の年月、法定点検シールをチェックする。
・お客さんの車の乗り方(仕事かプライベートか)、車の中の荷物からどんな仕事をしているか、小さな子供がいるか、独身か既婚か、などを瞬時に判断する。
・燃費悪化の原因となるエンジンオイル、エアコンオイル、ATFのチェックする。
・異常を徹底的に探し、点検内容に優先順位をつけて、優先度の高いものから順に手を着けていく。
・お客さんの目が何を見ているかをよく観察し、例えばオイルを見ていたらオイルについて話しかけてみる。

 このM君は果たしてどれほどの実績を挙げているのだろうか?

 興味を掻き立てられた私が店主の方に問い合わせたところ、M君の油外粗利益の月平均は「130万円位」とのことでした。「さもありなん!」と、私はポンと膝を打ちました。


 前述の平均的な従業員の人とM君のアプローチの仕方を比べるとお分かりいただけると思いますが、多くの従業員の人たちも頑張ってはいますが、残念ながらお客さんとのコミュニケーションという観点から見ると踏み込みが不足していることは否めません。
 これで、オープンボンネットをしてくれない理由がある程度納得いただけたものと思いますが、いかがでしょう。


 もはや、お客さんの「表層的なニーズ」だけを追いかけていたのでは、フルサービスSSの油外ビジネスは成り立たないところに来ています。
 加えて、冒頭に申し上げた通り、フルサービスSSの存在価値すら危なくなりそうな状況になってきております。

 お客さんの「真のニーズ」つまり「安全・故障・寿命・快適・経済性」に関連することに焦点を当てて、従業員が的確にアドバイスしていくアプローチこそがフルサービスSSに課せられた市場における使命です。それは同時に、勝ち残り経営にとって不可欠であると私は考えます。
 言い換えれば、店頭でこのアプローチが実践されるようになったときに初めて、セルフサービスSSの「ハードウェア戦略」に対抗できる、フルサービスSSの「ヒューマンウェア戦略」が威力を発揮し、「勝ち残る形」が整うのではないでしょうか。


 今一度、「真の顧客ニーズ」が「安全走行、故障の予防、寿命の延長、快適走行、経済性」にあることを再確認していただきたく、切にお願いする次第です。

 そうすると次に問題となるのは、この「ヒューマンウェア戦略」の展開を可能にする、従業員の育成であります。
 お客さんとSSとの「真実の瞬間」を創り出せる従業員はどのようにすれば育つのか。この、フルサービスSS最大の課題であり難問でもある「従業員の戦力化」に関しては、次号よりその育成についての具体的な実践論として、「繁栄のSS道」の根幹に言及してゆきます。ご期待ください。

 最後になりましたが、皆様のお店にとりまして、本年が引き続き「勝利に向って前進する」年となりますよう、誌上より祈念いたしております。

             NICHIBO SS MAGAZINE『SSファミリー』2005新春号に掲載】