端山忠彦の実践SS学
勝ち残り経営への終章
「SSの能力を見せる・魅せる」
新しい夜明け
春季号で「経営は人間学である」と申し上げました。
その意味するところは、科学的な考察によって組み立てられた「戦略」が、経営者及び従業員の「人間力」を通してはじめてお客さんに伝わるわけですが、「成功裏にゆくか否かは、従業員の心技体の鍛錬度にかかっている」ということであります。
「戦略」そのものについては、私があれこれ申し上げるまでもなく、読者諸氏には既に然るべきものを構築し、展開しておられることと存じます。
しかし、皆さんの必死の努力にもかかわらず、期待する程の業績が上がらず、あれこれと試行錯誤を続けておられるというのが、多くの経営者の方達の実態ではないでしょうか。
石油販売業は成熟産業の最たるものの一つに挙げられます。
生活必需品であるお米、紙なども同様ですが、その分野において勝ち残ってゆくということは、容易ならざる仕事であります。
それを可能にするものがあるとするなら、それは、「経営者がその商品にどれだけの付加価値をつけられるか」にかかっています。
SS業で申し上げるなら、経営者が本気になって「お店の魅力」を創造することだと考えます。その魅力とは、SSの立地・設備であり、そこに働く従業員の「能力」です。
経営陣の人達の多くは、「お店にとっての魅力=利益」と考えます。残念ながら、お客さんにとって何が魅力的なものであるかを考える人は少数です。ここに、私の提唱する「繁栄のSS道」の発想の出発点があります。
お客さんは、そのお店が持てる能力を最大限に発揮しているときに「魅力」を感じ、従業員の接客サービス・商品知識・作業技術・情報を購入します。
しかし、残念ながら、SSの能力をこの魅力あるレベルまで引き上げているところは少ないのが現状です。
私の会員SSの従業員の人達から「どうしたらもっと油外商品が売れるのですか」と質問をよく受けます。
その時私は、「売れない理由を考えろ」と彼らにアドバイスします。同時に、前回号で紹介した「実践プログラム」を実行しているかと尋ねます。
すると、私の質問によって、実績が伸びない理由・原因が焙り出されてきます。
次に上げるのは、会員SSが6ヶ月間「実践プログラム」を実行した状況を「満点を100」としてまとめたものです。
・親切な行動 95
・正しい対応 85
・礼儀正しい動き 90
・勉強と工夫 10
・勇気ある行動 15
最初の3項目は、店頭での常識的な行動であるため、ほとんどのSSで合格点を取ることができます。しかし、「SSに変化」を引き起こすのに鍵となる後の2項目は見事に「赤点」しか取れません。
自己評価でこうですから、お客さんの目から見れば何も変わっていない訳です。当然のこととして、SSの実績は市場の変化とお客さんの抵抗に晒され、これまでと同様の減少傾向を続けてきています。
従業員の人たちから寄せられた「売れない理由」を見ていますと、彼らの悩みとジレンマを読み取ることが出来ます。
同時に、彼らの「勉強不足と消極的な行動」はもとより、経営陣の人達の「指導不足」が明確に浮かび上がってきます。
・一度断られたら諦めていたし、その理由も考えていなかった。
・その商品がどうして必要なのかをお客さんに説明できる段階に踏み込めない。
・売ることを先に考えて、商品を勧めてしまうことがよくある。
・商品知識、作業技術が十分でないため、お客さんのニーズを引き出す様な会話が出来ない。
・SSにある商品でもしっかり説明できない。お客さんに売っていても中途半端な売り方し
かできていない。
・「カーディーラーでメンテナンスしている」と言われると、それだけで敵わないと思って
しまう。
・お客さんから質問されて答えられなかったことを勉強せずに、次回来られた時も知らない
顔をしている。
・お客さんを見抜くどころか、お客さんにこちらの実力を見抜かれているような気がする。
これらを読まれて、まさに「虚を衝かれた」思いをされている経営陣の方々が多いだろうと思います。
これまで皆さんが目にし耳にしてきた「売れない理由」の多くは、
「値段が高い」、
「商品が・・・」、
「景気が悪い」、
「お客さんの財布の紐が固い」など、
「外に原因を置いた」ものではないでしょうか。
前述のように「自分たちに原因があるのだ」と、自覚しつつある従業員の人達は、必ずやプロフェッショナルなSSマンへと、成長して行くものと確信しています
では、なぜ従業員の人たちがSS業務に関しての自己の「能力向上」に一生懸命になって努めてこなかったのでしょうか。
それは、彼らが「本気になっていなかった」からですし、経営陣が「真剣にさせてこなかった」からであろうと、私は断言します。
つまり、利益を上げることには本気でも、その過程である「従業員の能力アップ」や「お客さんの期待に応える」ということを真剣に考えなくともやって来られたからかもしれません。
この「本気度・真剣さ」というものは、水が高いところから低いところへ流れるように、経営者から従業員に伝わってゆくもので、その逆はほとんどないといってもよいでしょう。
「俺は真剣にやってきた」といわれる人もおられるでしょうが、従業員が本気になっていないとしたら、「その真剣度が従業員を変える程のものでなかったのだ」と私は考えます。
お客さんにとって、業務上のことについて「学習、研究、工夫」をしないクルーが魅力あるでしょうか。
SSがお客さんを見ているのではなくて、お客さんがSSを見ているという原点に立ち返る必要があります。
アメリカでセルフが普及した理由が二つあるといわれています。
ひとつは経済的なものですが、もう一つは、従業員のサービス力の質の低さが挙げられています。
お客さんにとっては、頭をぺこぺこ下げるだけの従業員のサービスよりも、しっかりした商品知識、作業技術に基づいた的確なアドバイスほど「有難く、魅力ある」サービスはありません。
SSビジネスに対する「本気度、真剣さ」ということに関連して、今ひとつ、極めて重要なテーマについて、触れてみたいと思います。
それは「経営者がSSビジネスの将来性についてどう考えているか」です。
大きく分けて二通りあります。
「可能性を見出している」、もしくは「不安を感じている」です。
「有望である」と確信を持っている経営者は新規投資、従業員の育成、業態の研究、新商品の開拓など全てにおいて積極的かつ意欲的に取組んでおられます。
一方、「不安」を感じておられるお店は、残念ながら対応のすべてが後手になりがちであるのは否めないところです。
この点に一番敏感なのが、従業員と元売り会社です。
既にお分かりの通り、「本気になって付き合うかどうかの判断基準」になるからです。
お客さんはどう見ているのか?
厳しく申し上げると、何の痛痒も感じておられないというのが一般的です。
なぜなのか?
それは、そのSSがたとえなくなっても他にいくらでもSSがあり、多くの選択肢があるからです。
日本のSS業界は、「セルフ10,000ヶ所」に向かってリストラクチャリングを繰り返して行くと云われています。
ただし、それが10年後か20年後かは分かりません。
しかし、そこに発想の出発点を置いて考えるなら、元売り会社の戦略も、有力販売店の「意欲的」なビジネス展開も容易に理解できます。
その間、フルであろうとセルフであろうと市場において勝ち残り続けるためには、お店が「お客さんにとって魅力ある存在」であり続けなければなりません。
それを可能ならしめるのは、「お客さんに、SSの能力を見せることによって、お客さんを魅せる」ことではないでしょうか。
ここにSS運営方針の中心を置いて、諸政策を展開するなら、再度「勝利へのゴール」に向かって力強く前進して行かれるものと、私は確信しています。
最後にその要諦をまとめ、私の「勝ち残り経営」への終章とさせていただきます。
一、経営者がSSビジネスに「本気」になって真剣に取組む。
・SS業の将来性を見極め、進むべき道を決断する。
・お店の「使命と目的」を明確にして「意欲」をもってその可能性に向かって挑戦する。
一、従業員を「本気」にさせる。
・「学習と工夫」を徹底して追及する。
・習得した知識、技術を「勇気を持って」実行させる。
・この二点を、日常業務を通じて、習慣化する。
次回からは「新たなる可能性への挑戦」と題して、今求められるビジネス概念や戦略を、具体的な事例に基づきながら、私の思うところを展開してまいる所存です。ご期待ください。
実践SS研究会 端山 忠彦
【NICHIBO SS MAGAZINE『SSファミリー』2005夏号に掲載】
|