端山忠彦

  
実践SS学・セミナーノート

  「精神力を高める」






はじめに

 今回のセミナーは、仕事上の「ノウハウ」「テクニック」などを習得していただくものではありません。その理由は、「ハウツー」や「スキル」を詰め込んでみても大きな実りは期待できないし、表面的な技術にとらわれていたのでは成長がある程度のところでストップしてしまうからです。
 このセミナーの目的は、自分を自己分析して再構築することによって皆さんの「人間としての器」を大きくすること、仕事上の課題と問題を解決する「知恵とエネルギー」を生み出すこと、課題と問題を解決してSS・会社・家族そして自分が幸福になるために「自分は何をなすべきか?」をしっかり心に刻み込むこと、の三つです。
 このセミナーで考えていただきたいポイントは、自分はプロとしてどの程度通用するのか、自分はどんな人間になることを目指しているのか、人間としていかに生きるのか、自分自身をどのように磨いていくのか、の四点です。
 また、このセミナーで学びとっていただきたいものは、人間としての器を大きくするものは何か、業績を大きく上げる根っこは何か、社員・従業員・クルーを大きく成長させるものは何か、リーダーとしての最大の役割は何か、などです。

実践SS研究会 端山忠彦



1.最近の日本社会の状況

 1)社会現象
 ‐残虐な事件の多発
 ‐リコール隠し、牛肉産地詐称、オレオレ詐欺
 ‐NEET(何もしない)若者の増加
 ‐イジメの日常化、不登校児の増加
 ‐礼儀と恥を知らない若者の増加
  ・携帯電話のマナー、電車の中での若い女性の化粧や飲食
 ‐神経症患者の急増

2)背景にあると思われる原因
 ‐責任の伴わない自由主義の横行
 ‐精神的な幸福感の欠乏
 ‐他力本願的な精神構造のまん延
  ・依頼心、依存心の強い人口の増加
 ‐戦後日本の「しあわせ方程式(良い学校卒業+良い会社へ就職=良い生活)」の崩壊
 ‐日本人としての誇りの喪失

3)いま我々に求められていること
 ‐強い精神力を持つ日本人、社員の育成
  ・礼儀正しい、正義感にあふれる、勤勉な「魂」を持った社員
  ・「言行一致」の責任感が強い社員
 ‐手段を選ばない競争相手に負けるわけにはいかない
 ・「美しい」日本、会社、SSを取り戻すため


2.SS(サービスステーション)現場で何が起きているか

 1)ガソリン価格の高騰
  ‐フルサービス店からセルフサービス店への顧客流出が加速し始めた
  ‐流出した顧客は戻ってこない

 2)油外商品の販売不振
  ‐燃料価格高騰に対する生活防衛
  ‐顧客の消費チャンネルの分散傾向が強まる
  ‐機能商品購入先としてのSS離れが進んでいる
   ‐お客のSSに対する不満度が高まっている

 3)SS従業員の「能力不足」の表面化
  ‐お客の立場を考えずSSの立場でのセルイン活動をしている
  ‐不十分な商品知識と作業技術
  ‐トレーニングを受ける意欲と吸収力が低い
  ‐「出来ない自分」を恥ずかしいと思わない従業員の増加

 4)経営陣の従業員指導・訓練・叱責の停滞
  ‐「結果志向」への傾斜
  ‐「なぜ従業員が動かないのか、出来ないのか?」
    ・原因追求の「怠慢」、改善への「あきらめ」、好ましくない状態の「平常化」


3.SS業界は今、幕末から明治維新

 1)セルフサービスSSの登場が与えるインパクト
  ‐セルフサービスSS経営者は、価格競争による燃料油マージンの低下を販売量増加と経費
   低減によって損益分岐点を下げて克服したが、今後の課題は「セルフ対セルフ」の競争に
   勝つこと

   ・ポイントは「併設内容」、「油外販売」、「クルーの育成」
  ‐フルサービスSS経営者は、燃料油販売量の減少とマージン低下によって粗利益が大幅に
   減少する窮地にあり、今後は「油外商品の販売力」が黒字・赤字を左右する

   ・優秀なクルーを育成でき確保できれば勝ち残れるが、出来なければ破綻する
  ‐勝ち残りの条件
   ・損益分岐点5\/L以下の達成
   ・「和魂洋才」によるSS経営改革(日本人の魂で科学的な経営手法を展開する)
   ・日本人の魂による従業員の「精神力向上」教育を実行する

 2)アフターマーケット市場の環境変化
  ‐流通革命・IT革命の進展
   ・顧客の購買先選択肢の多角化
   ・カーディーラーやカーショップの攻勢(従業員教育の徹底と高度化、質の高いコンサル
    ティングスキルと作業技術)

  ‐SS業界の相対的な立ち遅れ
   ・従業員の販売能力の低下(教育訓練が浸透しない)
   ・経営陣の「変革」へのためらい
  ‐顧客の販売セクター・チャネル・SSへの選択眼が厳しくなる
   ・「中途半端な店」での購入を避ける(特に作業とメカのメンテナンス)
   ・「訓練された従業員のいるSS」への傾斜が強くなる


4.討論T

 1)「なぜ、クルーは仕事のことについて一生懸命勉強しないのだろうか?」
  ‐本人の能力か、それとも教えないからか?

  ‐働く意欲が低いからか、夢がないからか、目標がないからか?
  ‐根性がないからか、嫌々やっているからか?
  ‐楽をして収入を得ることを考えているからか?
  ‐自分に対する「プライド」がないからか?

 2)「なぜ、こんな若者が多くなってしまったのか?」
  ‐家庭が原因か、学校か、職場か?


5.SS発展の鍵は「お客様からの信用と信頼」

 油外販売が伸びない原因をSSクルーの人達にたずねてみると判で捺したように、「お客さんがオープンボンネットをさせてくれない」という言葉が返ってきます。果たしてそうでしょうか? 油外販売が伸びない真の原因分析(Cause Analysis)をしてみましょう。

 1)なぜ、お客は車の点検をさせてくれないのか?
  ‐アドバイス能力において、SSクルーを信用していないから。

 2)なぜ、SSは信用されないのか?
  ‐クルーのアプローチの仕方から判断して、商品知識や作業技術が十分あるとお客が認めな
   いから。


 3)なぜ、SSクルーはお客にとって魅力あるアプローチが出来ないのか?
  ‐「お客を、お客の車をよくしてやろう」という「親切心と優しさ」が足りないし、商品知
   識や作業技術などの勉強と研究をしていないから。


 4)なぜ、SSはお客に対する「親切心と優しさ」が足りないのか?
  ‐「お客の役に立ちたい」「世の中の役に立ちたい」という心構えを持っているクルーが少
   なく、「自分本位な」クルーが多いから。


 5)なぜそうなのか?
  ‐他人や世の中の役に立つという「修行、修養、勉強」が出来ていないから。

 6)どうしてなのか?
  ‐親、先生、上司などが「心の教育、しつけ、道徳」などを教えなかったから。
 7)では、どうすれば良いのか?
  ‐今からでも遅くない。しつけ、道徳、倫理観など「自分の会社のあり方」と「SS従業員
   としてのあり方」を教え、鍛え直す

  ‐「信用と信頼」が得られる理論を実践する
  ‐「精神力と勇気」の鍛錬を行う
  ‐会社として、SSとしての、「精神的なバックボーン」を明確にする

※人が「教育」によって「人間」になるように、優秀なクルーは「創る、育てる」ものである。自然に生まれてはこない。


6.討論U

 1)店頭における油外販売はお客の信用を得ることが基本となるが、それにはどんなアプローチ
  とセールストークが「決め手」となるか?


 2)従業員教育には次の3大項目があるが、何に一番力を入れているか、また何が一番なされて
  いないか?

  ‐体育…フォアコートサービス、作業スピード、声掛け、店頭待機、掃除など
  ‐知育…商品知識、作業技術、車のメカについての学習と研究など
  ‐徳育…「お客さんにプラス」の徹底、「職場作り三か条」の励行、社員・従業員としての
   あるべき姿など


 3)社員・従業員・SSクルーに自信を持たせるには、会社・上司・SSマネージャーのなすべ
  きことは何だろうか?


7.従業員の「精神力養成」の要諦

 1)人間の精神力は「自信を持つこと」によって高まる
  ‐自尊心を持たせる
   ・「俺は世の中・会社・SSの役に立っているんだ」ということを自覚させる
  ‐能力を高める
    ・訓練、勉強、学習、練習、研究の必要性を認識させる
  ‐「名誉」を大切にさせる

   ・「恥を知る」ことの尊さを理解させ、「言行一致(言ったことはやり遂げる)」を貫か
    せる


 2)日本人の伝統的な「精神性と精神力」の根本を知れば勇気が湧く
  ‐武士道。広辞苑によるとそれは、武士の守るべき道徳、武士が興隆した鎌倉時代に発達し
   て江戸時代に儒学と結ばれて完成したもの、忠誠・勇敢・信義・礼節・名誉・質素などを
   尊重した
  ‐武士道精神が生まれてきた背景と発展
   ・平和な江戸時代、武士は「軍人」から「役人、支配階級」へと役割を変え、多大な名誉
    と特権が与えられた。同時に特別な義務として「武士の掟、高き身分の者に伴う義務」
    を課せられた

   ・最初は武士階級の道徳規範であつたものが、社会の状況変化に呼応しながら、江戸時代
    後半からは「人の倫(みち)」となっていき、日本人の誇りうる「精神」「道徳律」と
    なっていく

  ‐武士道の構成思想は、仏教の「死生観」、神道の「君主・親に対する忠誠」、そして儒教
   の「道徳観」がその主なものである

 3)日本人の精神性に影響を与えた歴史的背景
  ‐江戸時代(16031867
   ・徳川家康は、無秩序な戦乱に終止符を打つために、武士に対する価値観を「武勲」か
    ら「文勲」へ重きを移した。その礎に儒教・朱子学をおき、武士に「自己教育、つまり
    修身道徳を磨くこと」を課し、秩序ある平安な国家を築くためには「人間・武士の道徳
    教育」が重要であると説いた

   ・同時に、生まれながらにして身分が決まる「封建制度(士農工商)」が始まる
   ・サムライが他の階層(農工商)の手本となることを義務付け、武士道の教えとして「正
    義、忠義、仁義、誠、孝」が国家的な道徳律となる


  ‐明治時代(18671912
   ・ペリー来航に始まる幕末から維新の混乱を経て「近代日本」の建設が始まる

   ・西洋列国(イギリス、フランス、ドイツ、アメリカなど)に追いつくための「近代化、
    西洋化」に全力を傾注する

   ・多くの日本人が西洋に留学し、また多くの西洋人を教師に招いてヨーロッパからの「知
    識、技術、科学」を移入する

   ・明治政府は、文明開化の嵐の中で、日本の伝統的な精神を忘れないために「和魂洋才」
    の思想で近代化を果たす


  ‐戦前(19251945
   ・帝国主義に走り、軍部主導でアジア全土への領土拡大と大東亜共栄圏建設のための侵略
    戦争が進められる

   ・国家が武士道精神である「忠、信、義」などを修身教育として利用する(国民は天皇の
    赤子、教育勅語の絶対化)


  ‐戦後(1945〜)
   ・占領軍によってアメリカ流の民主主義・自由主義が導入される。同時に道徳教育は廃止
    され、日本人の伝統的な精神性が葬られる

   ・国民は廃墟からの復興、生活レベル向上のために一生懸命働き、世界第二位の経済大国
    になったが、エコノミックアニマルと中傷される

   ・しかし、物質的・経済的な繁栄とは裏腹に、日本人本来の「礼儀正しさ、辛抱強さ、優
    しさ、美しさ」は失われる



8.武士道から学ぶべき「SS(サービスステーション)道」の掟

 1)現代における「あの人はサムライだ」の意味するところ
  ‐不正を許さない正義感がある
  ‐筋を曲げない信念がある
  ‐決断する勇気と果敢さがある
  ‐強い責任感がある
 2)儒教の「五条の徳」
  ‐「仁」…優しさ、愛情
  ‐「義」…正義、忠義
  ‐「礼」…礼儀、作法(「仁と義」を形で表す)
  ‐「智」…知恵、知識、技術、戦略
  ‐「信」…信用と信頼で「仁、義、礼、智」を実行すれば「信」が生まれる
 3)SS道の「繁栄の五条」
  ‐「智」…車についてのメカ知識・商品知識・作業技術の習得、的確な販売戦略の展開
  ‐「仁」…車の「安全、故障、寿命、快適性、経済性」に関する卓越したアドバイスの展開
  ‐「義」…高品質な品揃え、明朗価格、お客が信頼できる価格設定、公平なサービスの提供、誠実なクルーの配置
  ‐「礼」…活気あるフォアコートサービスの展開、キレイな店頭、清潔なトイレ
  ‐「信」…これらの「徳」があるSSにお客の「信用と信頼」が生まれ、「信」「者」が
   増えて「儲(信+者)」かる形が出来る

 4)現代にも通じる「武士道の魂」
  ‐「義をみてせざるは勇なきなり」
  ‐「卑怯者であってはならぬ」
  ‐「名を惜しむ」「恥(はじ)を知る」
  ‐「武士に二言はない」…「誠(言+成)」とは、言った事を命に代えて成就すること


9.精神力を高める「SS道」実践プログラム

 1)社員・従業員
  ‐自分に自信が持てるよう、自己を鍛錬する
  ‐毎日の修練(例えば、親切な行動、正しい対応、礼儀正しい動き、学習や研究活動、勇気
   ある行動など)が出来たかを三段階で評価して記録する


 2)SS組織および組織の精神的な「バックボーン」づくり
  ‐家風、社風というように「SSの風格」を創り出す
  ‐次の項目について、毎日、その実施状況を三段階で評価して記録する
   ・仕事の「知識と技術」の教育、学習、研究
   ・「お客にプラス」の接客とアプローチの励行
   ・店頭の美化と活気づくりの励行

 ※この三項目の活動がSSに定着してきたとき、お客からの「信用と信頼」が一気に高くなる

 3)リーダーが心がけるべきこと
  ‐部下は理屈や思想や説教などの「言葉だけ」では動かない。「感動」によって動く。つま
   り、マネージャーが、部長が、社長が「あそこまでやるのか!」という「感動」が部下を
   動かす「原動力」となる

  ‐「正しい理論+感動」が部下を行動に駆り立てる。よって、上司の「率先垂範」が「感動
   の出発点」となる


                              実践SS研究会 2004年10月度セミナーより