実践SS学・セミナーノート2

     「能力を見せる・魅せる」





 はじめに

 今回のセミナーの目的は、昨今の市場環境がサービス・ステーションという業態にこれまでになかった変化を促している現実を的確に把握していただくこと、そしてこの厳しい条件下でも勝ち抜き生き残るための気概をいかにして持つか、業態再生に向けて何をどう計画し実行して行けばよいのかを、幾つかの討論と事例研究を通して考えていただくことです。その根幹にある「ヒューマンウェア戦略」の重要性を理解していただき、「お客さんを魅せるSSづくり」をご一緒に探求してまいりましょう。

                                      実践SS研究会 端山忠彦




1.日本経済の動き

−「第二の敗戦」と呼ばれたバブル崩壊とデフレが進行した「負の十年間」から脱出する兆候がやっと見え始めた。

−痛みを伴うリストラをほぼ終え、金融システム崩壊を懸念させた不良債権問題に目途が立ち、企業の「再生」への明るい兆しが見えてきた。しかし、このまま上に登れるのか、それとも再び下に降りるのか、日本経済は階段途中の踊り場に立っている。

「BRICs」(ブラジル、ロシア、インド、中国)という強敵が登場してきた。

−これからの日本経済の課題は「黒字化体質」の定着化とその継続。



2.SS業界で明らかになってきたこと

 ―「セルフ」が時代の趨勢になりつつある。
 ・セルフサービスSSでのガソリン販売量が全体の50%を超える状況。
 ・フルサービスSSの急激な業績悪化。
  …小売販売価格差が拡大し、価格主導権がセルフへ移行した。
  …財布の紐を固くした消費者心理がSSにおける油外商品販売の低迷を招き、他方の要因と
   して、SSの戦略転換と従業員育成の遅れがこの傾向を助長している。


 ―元売の差別的な市場戦略の推進。
 ・元売販社のネットワーク拡大している。
 ・販社及び大手販売店への「差別的な仕切り制度」の適用が顕著になってきた。

 ―油外ビジネスは、多角化よりも、本業関連分野の拡大へ。
  ・SSでの「車検」から「中古車販売」へ。
 ・SS情報の商品化。
 ・カーメインテナンス需要の掘り起こし。



3.お客さん像の変化

―IT社会の到来が、特にインターネットの検索機能の活用が、お客さんの意識を急激に変化させている。

―その結果として、「賢い」消費者が増大し、お客さんが明確な「購買戦略」を持ち始めた。
 ・どのお店で買っても品質に差のない商品は「低価格店」で購入する。
 ・素材、デザイン、細工、機能など品質にこだわりたいときは、価格が高くても、信頼出来る
  店で購入する。

 ・商品についての有益な情報には「情報料」を払う。
 ・「価値ある店」と「信頼できる店員」を探して歩く。



4.SS業界の二大戦略

―「ハードウェア」戦略=「設備、施設と価格」を武器に攻める。
  ・幹線道路に面した「大型セルフ」。
  ・差別化された併設業態を持つ「複合セルフ」。
  ・低人件費によるローコスト運営。

ヒューマンウェア」戦略=従業員の技術力によって「信頼と情報」を武器に攻める。
  ・洗練された従業員のいる地域密着「フルと小型セルフ」SS
  ・「人的付加価値」の創造
  ・<深い>顧客志向
  ・<真の>顧客ニーズの掘り起こし

  ・従業員の「専門性と自信、自覚」



5.市場価値の変遷

(1)人類20万年における三大革命

 ◆農業革命
  ―食べ物を作れるようになって、定住・人口増加。
    ・「狩猟の名人」から「作物の技術のある人」へ
 ◆産業革命
  ―人間・動物などの一次エネルギーを使って作っていたモノを機械が作るようになって一気
  に生産力が拡大した。

   ・「家畜を多く持っている人」から「機械を作る人」へ。
 ◆情報革命
  ―距離・時間・場所など関係なし、何でもインターネットで手に入れられる社会が実現しつ
   つある。

   ・「機械を使う会社」から「情報・知識・サービス・技術が提供できる会社」へ。

(2)社会の進展に伴う商品価値の変動

 ◆新しい商品ができるとその能力で価格が決まる。
  ・発明料+材料費+加工費+希少価値
 ◆多くの会社が同じような商品を作ると競争が始まり、値段が下がる。
 ◆次に、その機械の使い方=知恵・ノウハウを発明したソフトが価値ある商品となる。
 ◆そのソフトを使って事業を効率よく動かせる者が産業を支配するようになる。

(3)社会の価格変動の法則
 ◆先ず「道具」、そして「サービス」、また「道具」、そしてまた「サービス」の繰返し。



6.討論T

(1)SSはお客さんに何が提供できるか?
  −お客さんには何が必要か?
  −お客さんに何を買ってもらいたいのか?

(2)なぜ、「努力の甲斐がなく」、油外実績が伸びないのか?
  −外的要因と内的要因を分析してみると。


7.お客さんが見ている「SSの能力」

(1)従業員によって変えるのが困難なもの
  −立地、施設、機器類、価格と商品内容

(2)従業員によって創り出されるもの
   −接客サービスのレベル/商品知識のレベル/作業技術のレベル/情報の量と質

(3)経営陣と従業員によって創り出されるもの
   −SSの価値・風格
 ※自分のSSの能力度採点(省略)



8.「仕事の核心を突く」二大基本概念

(1)「クリティカル・パス」(Critical Path
  −計画の危機的な経路。
  −計画を進める上で最も困難な、重要な部分。
  −ここを通り抜ければ計画が成功する。

  −計画推進で避けて通れない、やり遂げなくてはならない課題。
(2)「クリティカル・マス」(Critical Mass
  −競争に勝ち残る最低限の規模、レベル。
  −企業や組織がある段階に達すると急激な飛躍を遂げる状態。
  −企業、集団、組織が飛躍するために求められる規模、能力。

クリティカルの意味する事例
  −「勉強している、努力している」ではダメ ⇒「秀でる」のだという意識
  −「知っている、分かっている」ではダメ ⇒「鍛え、自分のものにした」である。
   −「妥協」していてはダメ ⇒違和感を起こしても、理屈・筋を通す。
   −「皆でやっている」ではダメ ⇒個人の責任を明確にする/一人でやることによって能力
    が発揮される。



クリティカル・パスクリティカル・マスの事例問題

前提1)激しい価格競争に追随できず販売数量が減少。その影響もあって赤字に転落。

前提2)会社としてこの拠点を守り、収益力あるSSとして永続させるのがSSの使命。

前提3)遂行しなければならない課題と実行業務を明確にする。
    −経費の見直し(適性人員配置による「人件費の削減」)
    −販売数量の回復と油外収益の拡大(販売力のある従業員の投入もしくは現従業員の業務
   能力の向上/接客サービスの改善/価格の追随値下げ/仕入れ価格の値下げ交渉/声掛け
   など販売活動の強化)

前提4)実行業務「経路」の困難度を評価する
    −実現性が高い業務(追随値下げ/人員削減による人件費削減/訓練の実施)
    −実現性が不確定な業務(業務能力の高い従業員の投入/現従業員の能力アップ/接客サ
   ービスの改善/店頭活動の更なる活性化)


問題1)このリカバリー業務の「クリティカル・パス」は何か?

問題2)「クリティカル・マス」は何か?

問題3)そのクリティカル・マスの「クリティカル・パス」は何か?



9.「愛社精神」と「愛職精神」

―日本的経営は長い間、「終身雇用」、「年功序列」、「企業内組合」によって、社員の企業への「忠誠心=愛社精神」を育んできた。

―しかし、この愛社精神が近視眼的な「自分勝手な利益追求」に向けられた多くの企業は経営が行き詰まった。

―今求められる「愛社精神」とは:
 ・上司の指示命令に従順なだけではダメ。自分の責任を自覚して、はっきりと自分の考えを言
 い、提案すること。

 ・自分の仕事に関する「知識、技術」の能力を高め発揮することが、会社の利益を大きくする
 ことであると同時に、会社への最大の貢献となる。

 ・つまり、自分の能力を高める「愛職精神」が「真の愛社精神」となる。

同時に、会社で身に着いた技術・能力であっても「自分のもの」であり、個人の発展にもつな
 がる。


SS並びに従業員に求められる「能力」
1)「得意技、メニュー」を見せて魅せる能力。
 ・行動で表現する/お客さんの期待を超える「工夫」をする/「このSSの従業員はすごい」
  と感じてもらう。

 ・そうすると、お客さんの目が輝き出す。
2)従業員の目標意識を変える能力。
  ・「労力を売っている」意識から「技術と情報を売っている」意識へ。
  ・「販売スタッフ」意識を「セールス・エンジニア」というプライドある意識へ。



10.討論U−他から学ぶ

 次の二つの情景を読んで心に思い描き、自分自身として感じるところ、その情景が意味するところ、そして自分に問いかけて来ることを書いてください。

情景1.コンサート会場
 ある人気歌手が舞台に立っている。「ものすごく強いスポットライト」が浴びせられている。その人気歌手の後ろには「大変濃い影」が映し出されている。

情景2.映画の撮影現場
 若いい監督が怒鳴りまくりながら出演している俳優や役者に厳しい演技指導をしている。何回もNG(ダメ)を出しながら撮影を繰り返している。次第に役者の演技が良くなり、生気あふれた場面が出来上がってくる。俳優や役者の人たちも、これまで自分になかったと思われる演技・表現ができ、俳優としての可能性を広げた。出来上がった映画は、シナリオ・出演者の演技などが好評で、大ヒットした。



まとめ

商店街は、大手スーパーに、「価格・品揃え・効率」で負けた。
大手スーパーは、「知識・技術・価格」で専門店に負けた。
専門店は、インターネットの検索機能を活用しはじめた消費者に、「その専門性が虚構である」と見抜かれた。
モールというShopping Centerが「低価格・専門性・技術力」で専門店を食い潰し始めた。が、このモールも均質化が進み、いずれ消費者に飽きられる。

どのような商業形態であろうとも、そこに働く者に常に求められる能力は「専門性と技術力」であり、お客さんは「その能力」を求めて集り、対価を払う。
「専門性と技術」を身に着けた者は、どのような業態になろうとも「生き残り、勝ち残る」ことが出来る。

つまり、SSマンとして、職業人として、働く者として、お客さん・上司・経営者に「見せる」べき「魅力=知識・技術・思いやり・プロ意識」の習得を全力でやることが現状打破の礎となる。


                              実践SS研究会 2005年2月度セミナーより