実践SS学


    「あるセミナー聴講者のメモ 2





 端山さんから「これもよろしく頼む!」とのご依頼。
 彼のセミナーに参加した方の聴講メモにボクが手を入れさせてもらって3月に掲載した「あるセミナー聴講者のメモ」がケッコウ評判が良かったとのことで
、「また都筑がちょいと手を加えて、HPに載せてくれないか」と、新しいメモが送られてきた。で……、またもや他人様の書いた文章をいじる失礼を省みず、しかも今回はドラマ風に仕立ててみました。(都筑大介)





【実践SS研究会 05年4月度セミナー】

端 山:今日のセミナーは個人的なところまで立ち入ってお話しします。前回までは平均的な講義スタイルでやってきましたが、今回は事前アンケートに基づいて進めていきます。事務局が「試練に打ち勝つセミナー」と題をつけてくれましたので、結論めいた課題を見つけ出して実行していただくことにしました。

聴講者:(頭の中で)今日のセミナーはきつそうだなあ。

端 山:まず現状分析です。真の原因を探り出すことを「コーズ・アナリシス」といいます。どうしてなんだろうか、どこに原因があるんだろうかと考え、「何故、なぜ、ナゼ」を繰り返すと、真の原因にたどりつきます。そこからスタートします。そして次は「クリティカル・パス」です。「クリティカル」というのは危険なことや追い詰められた状況を意味し、「パス」は道や路、それに回路を意味しています。つまり、もっとも効率よく危機から脱出できる回路を見つけ出す作業が「クリティカル・パス」という手法なのです。

聴講者:(頭の中で)なりほど……。早いとこ逃げ出す道を探すわけか……。

端 山:沢山ある回路の中で何がもっとも重要かを考えてください。黒字だったのが赤字になった、そうなった始まりは競争相手の価格について行かなかったことだが……と過去の経緯を客観的に振り返り、真因分析をして「クリティカル・パス」が判れば、課題の80%は達成できたも同然です。

聴講者:(頭の中で)確かにそうだ。俺、いま、追い詰められてるもんな。

端 山:「クリティカル・パス」は急所を突きます。腕を切り落としても動けるでしょう。しかし、心臓を突いたらどうなるか? 心臓が止まる、動けなくなる……。ここです! それぞれ仕事には心臓があります。この急所の心臓をうまく通り抜けない限り、混迷から抜け出せないのです。

聴講者:(頭の中で)そうだったのか……。

端 山:さてそれでは、ケース・スタディに移りましょう。自己観察シートの目的は何ですか?

聴講者:会社と自分のギャップを見つけることです。

端 山:あなたに課せられた目標は?

聴講者:利益を上げることです。

端 山:赤字を黒字にすることですか?

聴講者:ハイ。

端 山:乗り越えなければいけない試練は何ですか?

聴講者:洗車の売り上げを100万円あげることです。

端 山:洗車の先生が近くにいるのにどうしてやってこなかったの?

聴講者:…………。

端 山:何が一番の「クリティカル・パス」か、わかっていないようだね。60万円もやれなかった理由は何なの? 会社の予算は60万円、マネージャー自身の目標が100万円。なのに現状は45万円で、目標達成はほど遠い。どうしてなんだ?

聴講者:洗車の重要度がわかっていなかったからです。

端 山:おい上司。会社の目標は60万円か?

上 司:SSの予算目標は、60万円で承認しています。

端 山:マネージャーに訊くが、自分では100万円の目標を立てておきながら、予算目標の60万円が上がればOKと思っているのか? どうなんだ!

聴講者:ハイ、そう思っていました。

端 山:このパフォーマンスに対して、あなたは、上司がどんな感じで受け止めていると思っているんだ?

聴講者:…………。

端 山:人は表面通りではないよ。今までどうしてスタッフのモチベーションが上がらなかったんだ? あなたのスタッフは、赤字ということをどう考えているんだ?

聴講者:危機感を持っていると思います。

端 山:あなたと同じくらい持っているか?

聴講者:…………。

端 山:何を持ってモチベーションするのか? お客様に対してもそうだ。あなたが考えている、お客様の財布を開けさせるためのモチベーションを聞きたい。

聴講者:そういうことを、改めてスタッフと話し合います。

端 山:改めて? そんなことはもうすでに終わっていなけりゃいけない。タラレバの話じゃないんだよ。

聴講者:…………。

端 山:洗車でマネージャーはいくら稼ぐんだ?

聴講者:25万円です。あと、A君が20万円でB君が30万円……。

端 山:油外販売が平均的に横並びの、皆ドングリの背比べだから、この辺でいいや……と思うんだな。もっと頑張るという雰囲気はあるのか? ないのじゃないか? あなたの考えていることは、全員がほとんど同じ数字で上がることなんだろう? 違うか?

聴講者:ハイ、そうでした。

端 山:そうだろうな。あなたは部下に尊敬されているか?

聴講者:アルバイトが、所長が辞めるときは一緒に辞めると言ってくれたことがあります。

端 山:年上の、30歳の部下はあなたを尊敬しているか?

聴講者:イイエ。特に年上の人は難しいです。

端 山:あなたは上司を尊敬してきたか?

聴講者:……イイエ。

端 山:200万円くらいの油外販売はマネージャーが率先して引っ張るんだ、300万円以上になるとやり方を変えなければななないが……。とにかく、マネージャーの実力スケールを上げることだ。マネージャー自身の「クリティカル・パス」を考えることだな。

聴講者:ハイ! 頑張ります!

端 山:さて次の店だが……。あれっ、会社目標はないのか? おい上司、どうなんだ?

上 司:個人の考えを尊重しました。

聴講者:Mofuelnoアップで、150KLを200KLに持っていきます。

端 山:本当に伸びると思っているのか? 世の中の動向はどうなっている?

聴講者:セルフに流れています。

端 山:あなたのSSは、なぜ数量が落ちたの?

聴講者:セルフが増えたことと人的なレベルが落ちたからです。

端 山:本当にそうか? よそでも落ちているぞ。そんなことはイーブンだ! もっと他にあるだろう! 実際は、お客様の心理で購買動機が落ちている。前に、事実と想定の「プロス&コンス スタディ」をやっただろう、市場の事実は何かを見定めるために……。

聴講者:市場の全体需要が600KL。その中に4SSあります。 

端 山:売る側のレベルが変わらなかったら、99%、200KLにはならないよ。あなたの心意気は買うが、実際はどうなんだ?

聴講者:残念ながら機械的になってきました。

端 山:会社はいまのパフォーマンスで満足しているのか? 伸びないところに力をいれるなよ。伸びても2〜3%だ。集中するのは他にした方がいい。

上 司:…………。

端 山:ところでマネージャー。技術と知識のアップとは、具体的には何をアップさせるの? あなたはマネージャー歴何年? 何か所目? 成功したときは何をしていた?

聴講者:部下と一緒になって戦っていました。

端 山:失敗したときは?

聴講者:指示するだけになって、信頼を失っていました。

端 山:会社にもルールがいっぱいある。あなたのSSでは、約束事がちゃんと守られているか?

聴講者:……イイエ。

端 山:それは約束事が適切ではないと思っている証拠だな。なぜだか解るか? 言っている本人が守っていないか、言っている本人に実力がないかだよ。それゆえに部下が従わない。いいか。皆が約束を守るようにするのが「クリティカル・パス」なんだ。

聴講者:ハイ。

端 山:あなたを見て受けた感じは、英語で言うとステレオタイプという。通り一遍で面白くない人物という意味だ。応用力がゼロ。自分は決めたことはやるので、他人もやるものだと思っている。恋愛にたとえれば判る。あなたが「好きだ」と言った相手が「うんうん」とうなずく。しかし後で「私の方は、言葉で好きと返事したことはない」と言われた。それと一緒だ!

聴講者:…………。

端 山:マネージャー諸君にはよく心しておいてもらいたい。部下の人たちにとって、この店は自分が成長できる職場かどうかということが一番大事なことです。成長できると思える店だったら、マネージャーが店を空けていても売上げが上がる。「舐められるより恐れられよ! 恐れられるより尊敬されよ! 尊敬されるより愛されよ!」。この言葉を覚えておいて欲しい。じゃあ、次の店にいくよ。あなたのSSはセルフだったね。なぜお客さんが来てくれなくなったの?

聴講者:給油以外は前と変わらないのに、それが認知されていないからだと思います。改装工事中に流出したまま戻ってきませんし、競争相手がすぐ前に出来たことも大きいと思います。

端 山:すべて外的要因のせいというわけか……。他には?

聴講者:お客様と接する時間がありません。人員配置の平均が1.57人で、それでも油外を100万円販売しています。

端 山:ふ〜ん。要は、魅力がないからなんだろう? お客様に対する感謝の念が感じられないからお客様は来てくれない。感謝の気持ちを持って接していると思うか?

聴講者:…………。

端 山:考えたことがないからわからないだろう。あなたは数字の面でしかお客様を見ていない。「お客様に伝える」という気持ちが薄くなっている。感謝の念を持ってお客様に接する、その気持ちを持続することが大事なんだ! あなた本人が「成長する」というテーマを持って上から攻めるんだ、若いクルーが「マネージャーのようになりたい」と思うように!

聴講者:…………。

端 山:車の中古車情報を流しているが、何人見てる?

聴講者:パソコンの前に座っているお客様は、1日3人くらいです。

端 山:ほとんど誰もいないところでそんなのを流してどうする。

聴講者:…………。

端 山:アルバイトにも働く喜びが必要だが、これがなっていない。報奨制度がない? じゃ、あなたが考える新制度は?

聴講者:「開拓で注文とったら幾ら」という制度にした方がいいと思いますが、今の制度で時給1000円もらえる方が楽だから、抵抗があると思います。

端 山:会社に合わせるのもスタッフに合わせるのも調和。辞めるかも知れないという恐れを捨てることだ。今は働かなくても皆一緒だが、新しい制度は一生懸命働いた人にいい。思い切ってやってみるといい。次の店は?

聴講者:今、洗車60万円、オイル35万円、油外は最低でも190万円はいっています。自分は40万円、A君は60万円、B君50万円。これから板金を油外収益の柱として育てていきたいと思っています。

端 山:本社の意向と合っていますか? あなたのSSは整備工場化していくのか? あなたのSSでは、お客様は何でも相談できる車屋さんだと思っていると思う。それだったらもっと、あなたが思うことをお客様に伝えることが大事だ! 行動計画を変えなければならない。上司と考えは一致しているか?

聴講者:ハイ。

端 山:さて、次はあなたの番だが……。人材育成が使命。そう言っているように感じたが、部下はあなたのことを尊敬しているか?

聴講者:怖がってはいると思います。

端 山:それは体力的にか、知力にか?

聴講者:…………。

端 山:自分自身のアクションプランを明確にすること。加えて、部下を愛情を持って切り捨てる勇気が必要だよ。

聴講者:ハイ。わかりました!

端 山:お待ちどうさま。あなたの店は……MO230KL,油外100万円。油外は20%アップが目標?

聴講者:ハイ、そうです。

端 山:あなたは部下から尊敬されているか?

聴講者:されたりされなかったりです。

端 山:マネージャー25、A君20、B君15、C君15……。油外が上がらない理由は何なんだ?

聴講者:部下に販売チャンスを与えるために、売上げを分けてあげています。

端 山:あなたの頭の中には油外が100万円しかない。だから、あなたが譲るという流れになっている。あなたのやっていることは、過保護以外の何ものでもない。そう思わないか?

聴講者:…………。

端 山:「クリティカル・パス」はその考え方を変える。自分がガンガン売ることだ。部下を助けるな! 目標も低い。形で言えるが、あなたは優しい人だな。ただし、それが会社のためになっていない。あなたは優秀そうだが、喜劇のような悲劇が起きている。

聴講者:…………(そうだろうか)。

端 山:次はあなただが、課題は?

聴講者:油外90万円を100万円にすることです。

端 山:商品知識を習得するための勉強会は、やっていますか?

聴講者:不定期ですがやっています。

端 山:取り組むスケールが小さいな。この程度のことでは、大声で叫んでもスタッフは変わらないだろう。油外は月平均で200万円はやらないと……。あなたは、ローカルな周囲と比べて「俺のSSは優秀店だ」と思っている。「ケツでなけりゃいいや」と思っている。あなたの会社が、外からの刺激が少ないということだ。

聴講者:…………。

端 山:販売チャンスの可能性を計ってみようよ。皆さんもEM系列の他社と比べてどうなのかという検討を始めてください。レベルの高いところは絶対的な数字で比較してみてください。低いところはMO比率で比較してください。あなたの頭の中をクリアにして、スタートしてみてください。油外500万円くらいのレベルまで、きっといけます。

聴講者:頭の切り替えをしてみます!

端 山:物事を考える上で参考にして欲しい事例があります。ゼネラルモータースがおかした戦略のあやまちです。ゼネラルモータースのマーケットシェアはかつての40%から27%にまで落ち、昨年まで4年連続の赤字で、その赤字規模も5000〜6000億という、ひどい状態になっています。その原因として挙げられているものに、日本車のシェアが30%に達することなど想定していなかった、新規開発よりも毎年モデルチェンジで目先を変えていれば顧客は満足する、と安易に考えていたことがあります。つまりゼネラルモータースの目的は、金儲けに終始していたということです。自分たちの使命は何なのか、本来あるべき姿は何だったのか……。それを見失い、お客様不在の経営戦略だったわけです。車は「安く、丈夫で、格好よく、快適」な方がいいに決まっているのに、それを見誤った……。使命を忘れた会社が消滅していくのが現代の潮流です。皆さんの会社がそうならないためにも、皆さんの変身が期待されています。頑張ってください。