端山忠彦の実践SS学



    「新たなる可能性への挑戦




              第一章
 量と質の追求



 一年間にわたって、フルサービスSSの「勝ち残り経営」をテーマに、顧客ニーズ・
従業員の業務能力・経営者の取組む姿勢などの、急所となるところを一歩踏み込んだ形
で、ご一緒に考えてまいりました。

 これらは、私自身がSSの現場に立ち、SSミーティングに出席し、実践SSセミナ
ーで多くの皆さんとの討論中から得られた、「これぞ真髄である」と感じたことをまと
めたものであります。
 それでも、夏号で終章を書き終えたとき、「私の提案する道を進めば、将来にわたっ
て勝ち残ってゆけるのか?」という、いささかの不安が頭をよぎりました。


 この秋号で、それらを誌上検証する観点から、5年から10年先のSSビジネスを取
り巻く環境などを予測し、同時に「実りあるSSとするためには、どの様な可能性に
向かって努力してゆくべきか?」を、考察させていただいた次第です。

 やや観念的な持論展開となりそうですが、読者諸氏には私の意図するところを読み取
っていただき、今後の皆さんの経営にとっての参考となるなら、光栄に存じます。



 昨年の夏場からの原油価格の相次ぐ高騰の影響で、ガソリンの小売価格で、15円か
ら20円/リッターの値上げを余儀なくされてきたお店が多いと推察いたします。
 この一連の転嫁値上げにより、SS業界が、製販ともに大きく収益状況を改善しつつ
あることはご承知の通りです。
 しかし、都合のいいことばかりではありません。

 元売の販売政策が一般的な販売店には「より一方的な方向」に転じてきていますし、
フルとセルフとの収益格差が一挙に拡大してきています。
 多くの経営陣の方々には、信じがたいことかも知れませんが、価格競争が激しい地域
ではマージンの改善が進まず、赤字幅が更に拡大し、経営の継続が困難なフルSSが出
現してきていることも、また事実です。


 今のところ、このことはまだ小さな現象のようですが、石油資源を巡る、一連の不安
定な情勢が収束し、正常な市場環境に戻った時に多くのフルSSが遭遇するであろう、
「SS業界に潜在する極めて深刻な問題である」と私は捉えています。


 事実、お客さんの節約志向強化の影響によって、SS間の勢いの格差拡大がそれを暗
示しています。

 お客さんの節約志向は二つの側面を持っています。燃料油の消費そのものを抑える買
い控えと、より安価な商品を提供するSSを選ぶことによる支出の抑制です。

 その両方のしわ寄せをモロに受けているのが、フルサービスSSです。
 これまで繋ぎとめてきた現金客のセルフSSへの移動が、今年の春頃から再度、顕著
になってきています。

 これは、フルサービスSSの「現実的な価格対応」が招いた、セルフとの「価格差の
拡大」が主な原因ですが、一面においては、「セルフが時代の趨勢である」という市場
実態を浮き彫りにする環境変化の表れであると考察することが出来ます。



 では、これから先の日本のSS業界は、どの様に推移してゆくと考えるのが妥当なの
でしょうか?



 既に今年からその兆候が現れてきましたが、日本は少子高齢化の進行にによる「成熟
社会」へと向かっています。
 この最たる社会的影響は、「人口が次第に減少してゆく」ことであります。

 このことがもたらすであろう、SSビジネスへのインパクトを想定してみると、ほぼ
次のような将来の市場像が浮かび上がってきます。


・燃料油やカーケア商品の需要が減少する
・自由競争が一段と進展する
・「消費者優先」の戦略・政策が市場での競争焦点となり、それが益々顕著になる
・お客さんの生活態度は、「あくせくせず、楽しく、快適に生きる」という「スローラ
イフ」方向へ傾斜を強める

・従業員も「個人的な生活をエンジョイする」ことを優先してくるため、仕事に対する
熱心さが低くなり、人間力による仕事の遂行が
困難になる

 経営者の方達にとっては、残念ながら、バラ色の経営環境を予測することは困難です。
しかし、競争相手も同様の条件下にあるわけですから、一歩抜きん出ることが、これま
でと同様に、お店の優位性を、市場で確固たるものにするポイントであることに変わり
はありません。


 成熟社会を一足先に経験している、ヨーロッパのSSビジネス事情はどの様になって
いるのかを簡単に追ってみることにします。



 ドイツ・イギリス・フランスの主要三か国で見ると、フルサービスからセルフサービス
への移行がほぼ終わり、SS数もセルフ導入前の約3分の1に減少してきているところ
です。

 セルフはハイパー・マーケット型、CVSをはじめとする多種な業態との複合型へと
進化しながら、厳しい競争を続けています。
 また、数は少ないですが、しっかりしたカーケア技術を有しているSSがドライバー
からの支持を得て、勝ち残っているのは嬉しい限りです。


 これら先輩諸国の状況を、前述した市場予測の上に重ねてみますと、我々が挑戦し追
求してゆかねばならない経営テーマも見えてきます。
 つまり、「安全、経済的、快適さ」という、お客さんの不変のニーズに的確に応える
ことが不可欠であると、再度確認されます。
 しかし「安全と経済的」は既に当たり前である訳ですから、この先は「快適さが差別
化の最重要テーマとしてクローズ・アップされて来る」ことが特筆されます。


 そのことを検証する意味合いをこめて、ここでお客さんのニーズと我々の経営テーマ
の変遷、及び関連性を振り返ってみましょう。



 日本のモータリゼーションは、60年代半ばから本格化しました。その頃のSSビジ
ネスは、車の増加による需要増に支えられていたため、SSを「開発し、オープンしさ
えすれば儲かる」商売でした。


 この時代のお客さんの関心は、車の性能が今日ほど優れていませんでしたので、「商
品の安全性と品質」に置かれていました。
 よって、我々としては、SS経営のノウハウの習得をも含めて、「元売の傘下に入る
こと」がお客さんのニーズを満足させる三種の神器の一つであったことは、経営者の皆
さんがよく記憶されているところです。

 
その後は、社会が発展するのに伴い、お客さんのニーズは「経済性」、即ち「価格」
が大きな要因としての順位を上げてまいりました。
 今となれば懐かしい言葉ですが、ここに「ローコスト・ハイボリューム・オペレーシ
ョン」が出現する最大の背景がありました。


 現在は、その延長線上にあるわけですが、運営コストが合理的に削減できる「セルフ
サービス・システム」の登場によって、お客さんはより大きな経済的メリットを享受で
きるようになり、一方SSは販売規模においてスケール・メリットを追求することが可
能になってきました。


 そして今、立派な大型セルフSSが多くのお客さんを引きつけつつあるのは、お客さ
んのニーズにマッチした「お得な価格」に加えて「便利」「心地よい」「キレイ」「信
頼できる」といった「快適さ」を提供しているからであろうと、容易に評価することが
出来ます。


 将来の市場において、「経済的(お得な価格)」差別化を恒久的に続けることは困難
です。従って、「質(快適さ)」の高いサービスを提供することによって差別化をし、
より多くのお客さんを獲得すること(結果としての量販)が、より多い収益をもたらす
可能性を高めます。この方向を追求することが、必須条件となります。

 何故「量販」か?
 それは、石油産業の最も重要な経営の「解」が「効率」にあるからです。

 もう一度申し上げます。
「量から質」ではなく、「量と質」両面の追求です。


 然らば、それまでの間、どの様な経営方針でお店を運営してゆけばよいのか、という
現実的な問題が生じてまいります。

 私は、お店の現在の状況に応じて、次の4つの運営形態に徹しながら変革してゆくの
が最善の策である、と考えます。


・「フルらしい」フルSS
・「セルフのような」フルSS
・「セルフらしい」セルフSS
・「フルのような」セルフSS

 何故か?

 日本のSS業界は、これからの5年から10年の間は、今まで規制によって遅れてい
た構造的な変革の時期を迎えます。
 その変革者の選別を市場に委ねるなら、少なくとも「現行SSのもてる能力をメリハ
リをつけて発揮している」ことが、そのハードルの一つになるからです。


 次回からは、これらの「SSを成功させてゆくための方法論」について、「クリティ
カル・パス」、「クリティカル・マス」という概念を紹介しながら、ご一緒に考えて参
りたいと存じます。ご期待ください。




                             実践SS研究会  端山 忠彦

           【NICHIBO SS MAGAZINE『SSファミリー』2005秋号に掲載