端山忠彦の実践SS学



    「新たなる可能性への挑戦


    【2006.1.6 up】


              第二章
 価格競争からの脱却




 原油の投機的高騰も一段落し、市場の製品価格もしかるべきレベルへと降下してきています。この一年間の環境変転がもたらしたものを要約すると、「セルフサービス店が数において全体の10%を超え、増勢してきた」、「ガソリン高騰によるお客様の節約が燃料油の需要を押し下げ、需給関係が緩んできた」、「価格競争が再燃し、フルサービス店の収益悪化が一挙に表面化してきた」、「フルサービス店のセルフ化改造計画が急速に増えてきた」ことなどが代表的な現象と言えます。

 しかし、このような過酷とも言える環境の中にあっても、優秀な成績を上げているフルサービスSSが数多くあることも事実です。その共通する特徴は、メカと作業に強い販売力を持っていることで、「まさにフルサービスらしい」フルサービスSSであることです。「セルフサービスのような」フルサービスSSとの二極分化がすすんでいます。

 一つのグループは、セルフサービスSSの価格に追従して販売量の減少を防ぎ、油外収益力を存分に生かして燃料油マージンの減収をカバーしています。他方は、油外販売力が平均的もしくは平均以下のSSですが、お客様の節約志向も加わって、燃料と油外の両方で収益レベルを低下させています。

 セルフサービス組では、大型の「セルフサービスらしい」セルフサービスSSが施設の優位性と大胆な価格攻勢で販売量を大幅に伸ばした結果、燃料油の総マージンアップが寄与して、開店以来の好成績を挙げています。また「フルサービスのような」セルフサービスSSでは、拡大した販売数量を背景に、お客様とのコミュニケーションを強化してバランスよく稼いでいるのが目立ちます。

 この様に、「ハードウェア戦略」と「ヒューマンウェア戦略」をSSの実情に合わせて忠実に展開しているお店が実績面でも抜きん出ていることがご理解いただけると思います。

 さて、ここで議論しなければならないことは、何故に現在のようなSS間格差がついてきたかということです。それは、現況のフルサービスからセルフサービスへと市場の潮流が大きく変化しているときに、経営者の人たちが往々にして嵌る罠があります。時代の変化が問いかけている課題に目を背けて「急所となる経営課題への対応」を先延ばしにしてしまう傾向がそれです。


 アメリカ流の経営手法に「クリティカル・パス」という概念があります。その意味するところは次の通りです。

・危機的な経路。計画を進める上で最も困難に部分。
・仕事上の目標や課題を遂行する上で「この業務さえ突破すれば目的や課題の80%以上は達成できる」という最重要業務。

 この概念を「フルサービスらしいフルサービスタイプSS」に当て嵌めてみますと、大抵のお店にとって油外販売力強化が最大のテーマとなります。それを突破するためには、従業員の訓練・新商品の開発・価格レベルの見直し・セールストークの工夫など、沢山の課題があります。この中で、従業員のレベルアップが最も持続的効果を期待できる優先課題であることについてはどなたも異論はないでしょう。問題は、この課題を達成するのに、「現在の従業員を再教育」するのか、「他所から有能なスタッフをスカウト」してくるかに分かれます。クリティカル・パス分析では「他所からスカウト」の方をとります。なぜかと言うと、すでにお解かりと思いますが、現在の従業員たちに「これまで出来なかったことを再教育によって成し得るかどうか?」が極めて疑問だからです。


 もう一つの事例として、セルフサービスSSにおいて収益を向上するための最大テーマである「燃料油販売量の拡大」を取り上げてみましょう。ここでの課題は、ご承知の通り、価格を競争優位な低レベルに設定することが何よりの根幹となります。これを長期にわたって継続して行く訳ですから、ある時は原価すれすれの時もあるでしょう。それ故に途中で挫折するお店が多数出てくるのは経験されている通りです。よってこの場合のクリティカル・パス分析は「経営者の決断と勇気」という課題を指し示します。

 経営者の方々はこれまで多くの目標を立て、それらを達成するために果敢な取組みをしてこられたことと思います。しかし、その多くがいまだに達成されていないとするなら、「達成へのクリティカル・パス」を外した業務遂行に終始していたのではないかとご自身に問いかけてみてください。

 SS経営も他業種と同じように、利益を拡大し、お店の永続性を図っていくことが望まれます。そのための課題は、大きく別けて三つあると、私は考えます。

 最初は、元売会社など仕入先との「縦の仕事」です。次に、従業員教育・健全財務・販売活動強化をはじめとした「内なる業務」です。そして、価格を適性レベルに維持するための「横との関係維持」であろうと思います。

 中でも、「価格的な競争をどのように乗り越えていくか?」が最もデリケートで難しい問題です。競合SSより安いことが優位なのか、高く売ることが優位なのか、どちらなのか混同してしまいます。正しく定義すると、「競合店より少し高く価格を設定しても販売量が落ちず、お客様の満足感も損なわれない」価格レベルを追及することがこの問いへの解答であろうと考えます。

 熾烈な価格競争に勝ち残って多くのシェアをつかんだ成功店は、一般的に言うと、その後は保守的な価格政策を取り、マーケットリーダーを自任した高値販売になります。しかし、ハイマージンをエンジョイできるのもそう長くはありません。新たな挑戦者が安値攻勢をかけてきてかつての勝者を倒していくことになります。まさに「盛者必衰の理」です。

 自由な資本主義社会では、あらゆる分野が、この繰り返しによって発展してきました。つまり、競争によって価格が下がり、サービスが低料金で享受できる様になって来ました。かつてSSはガソリンのマージンが20円/L程ないとやっていけなかったものが、現在は10円/L前後で黒字が出る経営へと効率を上げてきました。お客さんにとっての「安全、経済的、快適」がより一層内容のあるものへと質的な向上を図ってきました。

 とは言うものの現実問題として、熾烈で厳しい価格競争に巻き込まれているお店にとっては、深刻な死活問題であることも事実です。しかし、現状を嘆いているだけでは何も始まりません。「いかに克服するか」に取り組まなければ「座して死を待つ」のみでしょう。

 市場における競争の原点を突き詰めていくと、競争相手に「模倣・追随を許さない優位性」を構築することが勝利につながる、ということに行き当たります。SS業界の場合、価格追随とか販売促進内容を真似るといった、単純な次元での競争をしているケースが多々見受けられます。視線を一歩高い次元に引き上げて対処しているSSは、マーケットにおける競争をすでに克服し、安定した経営を実現しています。

 なぜそのような差異が生じるのか?

 SS内には数多くの業務・販売商品・サービス活動などがあります。それらに複数の従業員が対処することによってSSの運営はなされています。その一つの部分をとって見れば、例えば、価格設定・販売促進・お店の清掃や整理整頓などは競争相手が簡単に真似ることが出来ます。しかし、店主の「経営方針」と従業員の「仕事に取組む姿勢のあり方」は容易に真似ることが出来ません。他店にとって模倣や追随が難しいことを成せば、必ずや、お客さんにとって魅力的なお店へと高めていくことが出来ます。

 日々の接客において、従業員は複数の作業と対応を流れ作業のように処理していきます。その時に「間(ま)」が生じます。その間で生じる「洗練された動きと仕草」や「上品さ、親切さ、気配り」などが、お店で提供される商品とサービスに独自の価値と魅力を付加します。つまり、SS内にある商品・作業・サービスなどはすべて互いに響きあう「相互補完関係」にあります。その相互補完の「結びつき方」こそが、「競争相手に模倣・追随を許さない優位性」を確立する根幹となります。

 お客様は、このお店独自の魅力に対して燃料油でいうなら2〜3円/Lのプレミアムを支払ってくれるでしょう。独自の魅力は同時に、色々な油外商品購入と作業依頼の動機に大きな影響を与えてくれるのです。

 芝居や演芸そしてスポーツでも音楽でも、「間、タイミング、リズム」が大切だといいます。この「間」は、特に第三者が真似るには、最も難しい要素です。SS運営にも「間」があるのです。ここに磨きをかけてこそ、競合SSに対して優位性が確保され、「価格競争から脱却したSS経営」が実現できる可能性があります。この点に注目してSS経営にまい進されれば、必ずや商圏内で頭一つ抜け出した存在へとポジションを上げることに成功されると、私は確信しております。

 次号のこの紙面では、今回述べさせていただいた優位性を構築するために不可欠な要素となる「経営陣とマネージャーの求心力」をテーマに、持論を展開させていただく予定です。ご期待ください。

                             実践SS研究会 端山 忠彦


                      NICHIBO SS Family 2006新年号に掲載】