【2006.4.21 up】
第三章 モメンタムと求心力
SS業界の流れは、年を追うごとにセルフ化への傾斜を強くしてきています。この流れに上手く乗り移れたところ、これからの本格参戦を計画しているところなど、お店の経営事情によって多岐に亘っています。
経営者セミナーなどでお会いする人達の多くが、異口同音に「SS経営にとっての競争の次元が変わってきた」とおっしゃいます。「赤字SSを抱えていては勝負にならない」と嘆息される方が多い現状です。
これ迄は、元売も、特に販売店側は鷹揚に構えて、極めて日本的な発想でセルフ化の潮流に対応してまいりました。
その結果が、お店の収益規模が縮小するにつれ、油外販売の弱いフルサービスSSとローボリュームのセルフサービスSSが垂れ流す「赤字」に耐えられない経営状況を招いています。
これまでの延長線上では、経営が成り立たないぐらい、大きく市場環境が変化してきたということです。
つまり、経営の枠組を「物的にも人的にも、変わり行く市場環境に合わせて整備した」者だけが競争に勝利する、そんな市場原理が明確に働いています。
その影響でしょう、昨年の後半あたりからセルフサービスSSの第2次拡大期が既に始まっていると、私はみています。
セルフサービス解禁後の給油所の販売統計資料を見ると、セルフSSは数においてまだ約10%に過ぎませんが、ガソリンの販売量では40%前後まで占有率を上昇させてきています。
これを各マーケット内の販売店構成比の観点から見ると、業者間の販売シェアの移動状況がよく分かります。商圏内における「業者間の勢力図」が大きく塗り替わってきています。SS業界の「盟主」が入れ替わってきたということです。
かって業界の盟主といわれた大手老舗店は、平均的に申し上げるなら、未だフルサービスSSに重心をおいた経営を継続しております。その結果、集客力・販売力において陰りが見えるのは、以前の実力を知っているだけに、残念であるとの感慨を深くしています。
一方、「ローコスト・ハイボリューム」に徹してセルフ化戦略を推進してきた中規模販売店は、今や圧倒的な販売量を実現しています。実質的な業界の「新しい盟主」としてマーケットに大きな影響力を与えつつあるのは、どなたもが実感しておられる通りです。
いち早くセルフ化に取組んだ先発グループの特徴を見ると、共通しているところがあります。
それは、平均的に見て、「油外販売力に自信を持っていなかった」ということだろうと思います。よって、経営者の人たちにとっては、セルフ化による燃料油の拡販こそが勝ち残るための必然の選択肢であったといえます。
逆に地元の大手老舗店は、熟練した従業員を多く擁し、高い油外収益を実現していました。それ故にセルフ化へのニーズが低かったといえます。
加えて、経営の多角化を進め、市況活動の中心的存在であったことから多くの『しがらみ』もあり、セルフ化への転進が遅れてきたのも、止むを得ないとの感がいたします。
これら大手といわれるお店は、投資力があることから、セルフサイビスを試験導入されています。しかし、そのセルフSSの運営戦略が「フルサービスSSの価格防波堤」的な色彩の強い形になっており、施設の能力を存分に発揮するに至っていないのが残念です。
今後ともそうかと問われれば、私の答えは「否」です。
すでに巻き返しが始まっています。大型セルフSSの新規開発、フルSSのセルフ改造などの計画をよく耳にします。本格的なセルフ化政策に転進してくるのは、目前に迫っています。
セルフ先発グループにあっては、元売をも含め、「あのセルフSSは、自動車用燃料油で〇〇〇KL/月を販売している」との評価に終始しているケースが多く見受けられます。
しかし、お店の関心が販売量だけに偏重していては、近い将来に行き詰まりが表面化してくるでしょう。
なぜなら、前述のとおり、油外販売に強い大手販売店がセルフに参戦してくるからです。その実力からして、先発組に追い着くのにそんな時間はかからないでしょう。
セルフサービスにとっての最大競争要因である「価格」は、「セルフ対セルフ」の構図がより鮮明になってきます。
それを支える競争資金の捻出は、これまでの経費削減、増販による効率化から「油外収益の拡大」に移ってくるでしょう。
この分野に強い後発大手が競争力を増してくることは、容易に予測できます。ここに、先発グループがうかうかしておれない背景があります。
では、フルSSの経営実態に目を移します。
市場の激しい価格競争から距離を置き、お店独自の価格体系に戻し、収支をバランスさせてきているところが多いのが現状です。しかし、収益の低下傾向に歯止めはかかっていません。
これらフルサービスSSの店主の人達が最近よく口にされることは、「ガソリンのダウンは仕方がない。油外の大幅減収は想定外。巻き返すにはガソリンを取り戻すしかない」です。
すでに、緻密な作戦を展開し、結果を出しておられるお店が増加してきています。それでも、業績が低迷しているというのが実情でしょう。
最近の油外販売不振の原因を探ってみると、気づくことが二つあります。
一つは「価格の高止まり」で、もう一つは「商品キャンペーンの激減」です。
一方、カーディーラー、オートショップなどの競合チャンネルは、毎週織り込みチラシを入れるなど、積極的な拡販活動を展開しています。
このように比較してみると、特に、フルSSにおける販売減少などは、ある意味で自業自得と言わざるを得ません。
「購入客数X粗利単価」で粗利益額は算出されます。価格を然るべき競争レベルに設定する。例えば、オイルの収益レベルでも「価格を下げ利幅を縮小し、購入客数を増やす」方針に切り換えるないとするなら、日本の小子化同様、限りなくゼロに近づいてゆく結果になるのは自明です。
セルフサービスSSの場合は、まだ「施設=燃料油販売拡大」で頑張れる部分があります。しかし、フルサービスSSが「従業員=油外販売の拡大」を追及せずして、その存立は困難です。
「年間を通じてコンスタントに売ってゆこう」との考えから、キャンペーンが少なくなったのだと推察していますが、果たしてその通りになったかと云えば、残念ながら前述の通りです。
つまり、SS内に売って行こうという『モメンタム(勢い)』が大きく後退してしまっています。即ち、「形の消滅」がヤル気を殺ぐ状況を招いています。
これは、何としても改善されなければならない経営テーマだと、確信いたします。
一般的に業績が低迷しだすと、経営陣・従業員の間に互いが相手に対し不満を抱くようになります。
従業員が経営陣によく持つそれは、「自分勝手だ、あれこれうるさい、お客さんがプラスになることを考えない、結果ばかりだ、頑張ればっかし……」などの「沈黙の不満」です。
しかし、不満の原因である「なぜ売れないのか」については、意外と彼らにも見えていません。経営陣の指示が適切でないのか、現場の業務能力が足らないのか、いずれにしても原因が分からずに日常業務は進行しているのです。
経営陣はこの不完全な状況に注視しなければなりません。
彼らの「沈黙の不満」を取り除くことが出来れば、お店の中に「モメンタム」が戻ってまいります。彼らは見違えるように自信を取り戻し、業務に真剣に取り組み始めます。新しい知識・技術の吸収にも積極的になります。
また、経営陣を中心とした「求心力」が、お店の中に機能し始めます。「1+1」が3にも4にもなってくる展開が、ここにあります。
残念ながら、この『求心力』も偶然に生じてくるものではなく、少なくとも経営陣が、そのための努力、研鑽をせずして、永続性のあるものを醸成してゆくことは出来ないでしょう。
もし、若い従業員の人達を一瞬たりとも給油機の一部とか、店頭の守衛係だと考えるような経営陣がいるとするなら、そのお店が現下のSS業界の揺籃期を乗り切ることは、極めて困難だと申し上げざるを得ません。
販売政策に「勢いのある内容」を盛り込み、これを展開してゆくことによって『モメンタム』を起こし、経営陣が彼らを補佐しながら、成功させることによって『求心力』を高めてゆく、というのが基本的な「あるべき姿」です。
要となるのは「求心力を醸成する」ことですが、勢いのないところには『求心力』が芽生えてこないのも、また事実です。
その様なことから、私は、経営陣に求められることの要諦を次のように考えています。それを紹介して、4月度「実践SS学」の結びとさせていただきます。
1.資 質
・卑怯ではない
・責任感、好奇心、探究心が強い
・新しいことに積極的である
・従業員を愛情をもって叱れる
2.業務力
・現場業務の少なくとも一つには精通している
・目標達成の筋道を立案できる
・その計画を従業員に理解させ、納得させることが出来る
・従業員の能力を吐き出させ、ゴールに辿りつかせる
ことが出来る
3.行 動
・計画の狙いを従業員に絶えず説明し、具体的な活動を頭に
叩き込んでゆく
・従業員のミスを、包容力をもって処理してゆく
・計画が何処でどのような困難に遭遇するか、またその原因を
いつも想定しておく
次号のこの紙面おいては、このモメンタムと求心力を醸成してゆく上で重要な活動となる、「試す」をテーマに、「デ・ファクト・スタンダード」の概念を紹介しながら、持論を展開させていただく予定です。ご期待ください。
実践SS研究会 端山 忠彦
【NICHIBO
SS Family 2006春号掲載】
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