端山忠彦の実践SS学



  「セルフ化時代の経営革新」






       第一章 「アタッカーへの脱皮」 【2007.1.19 up】




 新年を迎え、読者諸氏にはお店の経営改革に想いを巡らせておられることと存じます。その参考になればと思い、昨年に引き続いて本年も、私の目に映る市場からのメッセージを当誌上でお届けしてまいります。ご愛読のほど宜しくお願い申し上げます。
 それでは早速、昨年の市場動向を振り返ることから進めてまいりましょう。



 原油価格の相次ぐ上昇が8月に天井を打ち、9月に入るや下落に転じました。そして10月から11月にかけて、最も高騰した時点の価格から20ドル以上も急落したのは記憶に新しいところです。この原油価格の激しい変動がマーケットを大きく揺さぶり、業界に潜在する矛盾と問題点を表出させて、SS経営の格差をあぶり出してきています。

 フルサービスSSにおいては、セルフサービスSSとの価格差が拡大し、お客様の節約志向と相まって燃料油・油外商品ともに深刻な減販に陥り、閉塞感が強くなってきています。特に、油外収益の直線的な減収状況は予想を大きく超えるものではないでしょうか。

 セルフサービスSSの分野では、新規オープンとフルサービスから改造オープンするSS数が大幅に増加しました。その結果、既存セルフSSの販売量の伸び悩みが目立ちました。加えて、秋に入ってからは卸売り市況の暴落を背景に、無印・PB・大型セルフなどが一斉に売り攻勢に転じ、セルフ対セルフの熾烈な価格競争が多くのマーケットで展開されています。

 元売の動向に目を転じると、仕切り価格政策を転換してきたことが注目されます。
 元売各社は、夏頃までの需給タイト化をバックにこれまでの未転嫁分を含めた「あるべき価格レベルの実現」に乗り出してきました。これは、一見すれば市況の底上げにつながるようですが、その実態は元売自身の欲望をむき出しにしたエゴのようなものでしょう。なぜなら、このことによって傘下販売店のマージンがアップするわけがないからです。

 この間隙を突いてきたのが、いわゆる商社系と呼ばれている卸売りグループです。柔軟な価格対応を武器に「マージン圧縮に悩む」販売店を傘下に取り込んで、販売シェアを伸長させています。

 こうした流れは何を示唆しているのでしょうか?


 すでに5000箇所を突破したセルフサービスSSはマーケットシェアが(水が水蒸気に形を変える「シンギュラー・ポイント=昇華点」にたとえられる)10%を大きく超えてきました。今やセルフサービスは爆発期に入ってきたと考えられます。
 サービス・ステーション業界が「セルフサービス業界」に変わり、「施設と価格」で勝負する時代に突入してゆくことを明確に示唆しています。

 各地で、これを裏付ける現象が頻発していますので、簡単に紹介することにいたします。

 熾烈な価格競争が展開される中で私が目にした最安値は10月下旬時点でセルフ118円/L、フル125円/Lでした。小さな市場に無印セルフが進出オープンしてきたのに対抗し、既存PBセルフがこれに追随し、商圏内に安値価格が一気に拡がりました。特筆すべき異変は、同じマーケット内にある幾つものフルSSが価格面でセルフSSに追随したことです。

 セルフサービスが解禁されてすでに9年の歳月が経過しようとしています。その間、業界では2〜5円/Lの格差を認める「棲み分け論」が主流でした。
 その結果、多くのフルSSが顧客をセルフに奪われ、販売量を激減させてきました。しかし昨今は、たまりかねたフルSSがボリューム奪回に向けて死に物狂いになり、逆襲に出てきています。激烈な顧客争奪戦が起こっています。


 セルフサービス分野に視点を絞って見ると、無印・PB・フリート系など、これまでSS業界が「異端的な存在」と見做してきた業者の新規進出が顕著になっています。彼らの投資・価格戦略は、明らかに月間1000KL/SS以上を狙っていることが伺えます。欧米に見られる「ハイパー型」のような存在に成長してくる可能性があり、業界全体にとって大きな脅威となるでしょう。

 それでは、この様な事態にどう対処すれば良いのか?

 この問いが今年最大の経営課題であることにどなたも異論はないでしょう。しかし、山にも幾つもの登り方があるように、この課題への対応も一様ではありません。そこで、私が経営者ならどうするかを考えてみました。その骨子をまとめましたので、読者各諸氏がお店の改革を実行されるに際して参考にしていただければ光栄に存じます。



《私がフルサービスSS経営者の場合》

 廃業・閉店にみられる最大の理由は、経営者が「顧客の減少によって気力を失う」ことです。私は先ず、お店の「生存ライン」となる最低必要販売量を算出します。そして、この数量を維持するために、時にはセルフ価格に追随するなど、あらゆる努力を傾注していきます(もしもこの最低数量を確保できない場合には、閉店することが私の最良の選択肢となります)。

 次に、油外収益が大幅に減少してきているので、これを反転させて増収へと持っていく対策を講じます。油外商品の品目ごとの販売状況を診ると、オイル・TBASといった伝統的な油外商品が大きく減販しています。その理由は、価格を含めお客さんにとって商品購入の選択肢が多くなっているためです。伝統的油外商品でお客さんとの接点を維持することが益々困難になってきている現実を冷静に検証してみます。そうすると、これらの商品での失地挽回は見込めないことがよく判ります。例えば、オイルの価格を下げて売ってみてもマージンの減少を補うだけの数量を販売するまでには相当の年月がかかります。それ故に私は、油外のターゲットを作業分野に方向転換します。

 続いて、「お客様は何にお金を使うか」を現実に即して考えてみます。例えばタイヤのパンクを取ってみると、従業員がそれを発見するだけでセールスをしなくてもお客さんからの修理依頼があります。クルマをリフトアップすると、タイヤ・ブレーキ・マフラーなど、そのクルマを「快適調整」する作業チャンスは一気に拡がります。お客さんは、ルブ・ベイに入ると自分の車のことについてあれこれと話し出します。こちらの説明することも素直に聞いてくれます。こうした場面を創り出すことが油外収益反転のキーポイントです。私の新たな収益源の発掘はここから始まります。


《私がセルフサービスSS経営者の場合》

 
これまで異端と見做されてきたセクターが市場への価格的影響力を強めてくることは明白です。そして、セルフ対セルフの価格競争になった時に果たして系列玉で戦えるかと考えると、彼らの仕入力からして相当の厳しさを覚悟しなければなりません。当然のこととして、月間500KL/SS程度の中型セルフが彼らの攻撃対象になります。従って、価格でねじ伏せられない対策が必須です。それ故に私は、価格追随を決断することになります。

 燃料油のマージン圧縮のために、かつてのフルSS同様に油外収益の向上による価格競争力の下支えが大型セルフとの競争には不可欠となります。セルフSSにおける油外販売は2段階に分けられます。先ずは「点検」と他のチャンネルと競合できる「価格」を武器とした商品販売を推し進めます。そして前述の「ルブ・ベイ作戦」の展開へと進みます。




 経営理論に「能力×努力×方向性」という公式があります。これは、お店を構成する要因が効率よく相互作用した時にその生産性が飛躍的に向上することを教えてくれています。

 需要が伸びている時代は「普通の努力」だけでも追い風に乗ってそこそこやって来れました。しかし、今のように「強い向かい風」が吹き荒れる環境下ではどうでしょうか。「能力・努力・方向性」のどれ一つが欠けても存続は困難かもしれません。
 中でも店主が「方向性」を間違えれば、有能な従業員がどんなに努力しても、時代の趨勢に押し流されて業績の低迷が続くことは止むを得ないことです。まさに、かつての勝者が現在のそれでないように、必ずしも現在の勝者が将来における勝者ではない所以(ゆえん)がここにあると申せましょう。

 然らば、勝者に共通するところは何なのか?

 当然湧いてくる質問です。その答えとして私は、「いつの時代も先見性を持って積極的にお客様に価値あるものを提供してゆく精神」と「新しいことに挑戦してゆく魂」だと考えます。
 つまり、攻撃的精神を持った「アタッカー」こそが今SS業界が遭遇している難局を克服し、勝利してゆく経営スタイルだと確信する次第です。
 しかし現実には、攻撃者であり続けることは難しいことです。なぜならば、結果が不確定なことに対して「決断」して攻めなければならないからです。


 お店の様態を革新するには経営者の「心を決する気力」が必要です。つまり、「命運を賭ける勇気」が要求されます。経営者の方々のエネルギーと生命力はそのほとんどがこの点に費やされる、と言っても決して過言ではないでしょう。
 もし、この精神パワーに衰えを感じた時には「然るべき、アタッカー的人材に後継を託するのが賢明な選択である」と私はアドバイスします。最も避けなければならないことは決断を先延ばしにしてお店の体力を消耗させてしまうことです。そうした過怠
(かたい)の無いことを願ってやみません。

 もしも今「あなたの言うセルフ化時代の経営とは何か?」と問われれば、私は「移り変わる市場環境に合わせて経営者が脱皮してゆくことだ」と答えるでしょう。旧い衣を脱ぎ捨て、新しい衣を纏って進化してゆく。それでこそ勝機が訪れるからです。自然界の営みの中で観察される見事な脱皮「蛻変(ぜいへん)」にそんな気持ちを重ね、新年号の結びといたします。読者諸氏の「アタッカーへの脱皮」を誌上より見守っております。

 「昆虫は卵から幼虫になり、さなぎに変じ、成虫となる」

 次号のこの誌上においては、「第2章−顧客を創造する」をテーマに持論を展開してゆく予定です。ご期待ください。



     実践SS研究会 端山 忠彦

   NICHIBO SS Family 2007新春号掲載】