端山忠彦の実践SS学



  「セルフ化時代の経営革新」






       第二章 「販売を創造する」 【2007.5.12 up】





 今冬が世界的に暖冬であったことから、原油価格も、大方の予想であったドバイベースで55±2ドルを下回り、一月下旬には48ドル台をつけるなど、軟調かつ不安定に推移しています。製品市況も昨秋より一気に下落してきており、ガソリンにおいては、系列とスポットの価格差が10円/リッターも開く状況が長期に続いています。これにセルフSSの増加が重なり、かつてなかった程の乱戦が広範囲に恒常化しているのが、この半年程の市場動向の特徴ではないでしょうか。
「小売り市況が下がり場面では業転に連動する」とは、よく言われてきましたが、将にその通りの展開です。

 この単純な習性に慣れた無印、PB、大型量販店がマーケットに攻勢をかけ、これに対して元売系列店が「生存をかけて」形振り構わずに価格追随してゆく。これが、今後当分の間繰り返される市場競争の構図でしょう。そして販売マージンを切り下げながら、業界が大きく変貌してゆくのだと、予想されます。

「お米」はかつて、米屋さんがそれぞれの地域にあり、独立した商品でした。20年余り前に免許制が廃止になって以降は、お米の販売マージンが薄くなってしまったことも手伝い、単独の店舗では採算を維持することができない商品に変わってしまいました。

 ガソリンがお米と同じ道を辿るとは思いませんが、そういう要素を持った商品であることは、間違いないでしょう。ガソリンマージンの減少を油外収益で補うことができなければ、スーパーマーケットなどとジョイントした複合形態が、この様な商品の最適販売拠点になるかも知れません。
 そのような事態にならないためにも、今こそ経営陣の人たちが発想の転換を図り、お店の販売方法そのものを革新してゆく必要があると、私は常々思っています。

『戦争論』という古典の中に『勝利の3原則』が書かれています。大筋は次の通りです。

「兵力は質量ともに相手を上回って戦え」
「勝敗を決する主戦場を定め、そこに兵力を集中して戦え

「自軍の能力を超えて勝ちすぎず、その限界内で戦え」

 SSビジネスにとっても、興味深く示唆に富んだ訓えと思い、次の様に読み換えてみました。

「店舗、従業員、仕入れは、質の上で遅れをとるな
フルなのかセルフなのか、経営資源をどの店に集中するのか、戦う時と場所を見誤るな
お店の能力を見極め攻めすぎるな。相手の攻勢に対して守りすぎるな。半年後の店の形を想定して戦い、布石せよ」

「言うは易く行うは難し」ですが、この原則をどこまで忠実に実践してゆけるか、これからの乱戦を凌いでゆく根幹がそこにある様に思います。


 では、前述した経営環境を念頭に置き、本題である油外販売の発想を転換してゆく枠組について、ご一緒に検討してゆくことに致しましょう。

 SS業界にとっての最も深刻な問題を、私は、油外購入顧客のSS外への流出であると捉えています。「いやそうじゃない。激しい価格競争だ」とおっしゃる読者諸氏が多いことでしょう。
 しかし、視点を変えて見てみると、ガソリンの乱売によるお客さんの争奪戦は大変ですが、お客さんはSS間を移動しているだけです。業界から流出してはいません。

 この事実を踏まえて考えると、SS業界のアフターマーケット・ビジネス構造に、何か異変が起こっていると感じないわけにはいきません。現状のまま推移すれば、SS業界のシェアが回復困難なまでに減少するのに、そんなに長い時間はかからないでしょう。

 カーディーラーは、その技術力を背景に総合的なカーコンサルティング・プログラムを展開し、お客様との日常的な接触を深めています。オートショップは、魅力的な価格・品揃えに加え、技術的なサポート体制を整備してカーケアー部門の強化を図っています。アクセサリー、スペシャリティーはホームセンターが売り上げを拡大してきています。

 一方SS業界は、人手不足も加わり、販売が益々短絡的な傾向を強めています。つまり、「販売は商品と代金との交換である」との接客姿勢が強くなってきているように見受けられます。
 例えばタイヤ販売などでも、「安全・快適・経済性を売るのだ」という意識が店頭に不足してきていることは否めません。販売を創り出してゆくプロセスの省略が目立つわけです。

 ここで私が嘆いてみたところで仕方がありませんので、或る会員SSが取組んできた「創造的販売力の向上」事例を紹介することによって、私の言わんとするところを説明してゆくことに致します。

 このSSは、2年程前に窒素ガスの精製機を導入して、「チッソガスの注入販売」に取組んできました。最初の3ヶ月ほどで、「タイヤの安全性を高めるチッソガスの注入はいかがですか。2千円/台です」のアプローチで、200台ほどの販売に成功します。しかしその後はさっぱり売れなくなり、この商品はタイヤ購入客へのサービス品になってしまい、忘れられた存在になってしまいました。

 そんなこともあり、その後も油外販売の減少から抜け出せずに1年余りが経過し、いよいよお店の中に悲観的な雰囲気が漂い始めた昨年の夏に、店主の方から「何とか油外販売を立て直したい」と、私のところに相談がありました。そこで私は、従業員の意識改革を図る意味合いをも込めて、再度この商品に取組んでもらいました。その理由は、なぜ売れなくなったかを従業員の人たちが理解せずにいたからです。
 タイヤ圧を保つのに、無料である空気に換えてチッソガスを注入することによってお客さんに2千円出費させるのですから、従業員が販売するのには難しい商品です。私が再度の取組みを勧めたのは、ここを乗り越えることがこのSSにとっての「クリティカル・パス」と考えたからです。

 先ずアプローチから変えました。これまでの「売り込み型」から「商品説明型」へ、です。チッソガスの特性、タイヤ性能向上効果、航空機・レーシングカーなどに使用されている事実などを、お客さんに伝えることに専念させました。
 その結果、お客さんの反応が一気によくなりました。
「そんなにいい商品ならお願いします」と、売り込まなくても、注文してくれるお客さんが増えだしたのです。
 従業員の人たちも「商品の持っている力、役割を理解してもらえれば売れるんだ」と、油外販売に自信が芽生え、ある種の「開眼」めいたものを感じ取った様でした。また、その影響は当然他の商品、作業の販売にも波及し、このお店は現在、前年同月比で30―50万円の反転増収を実現し、ルブ・ベイでの作業分野の改革に取組み始めています。


 この活動の中には、多くの教訓が含まれていますが、「油外ビジネス改革」の核心は、次のように要約されます。これをラストメッセージとし、春季号「実践SS学」の結びと致します。

・「販売とは教えること」である。その商品によって得られる素晴らしさを、お客さんに教えてあげることである。
・お客さんに教えることのなくなった商品はセルフ・サーブ化してゆく。
・逆に、商品の本質、役割、魅力などと一緒にそれにまつわるエピソードなどを、お客さんに伝えることができるなら、まだまだSSは販売拠点としての将来性は高い。
・但し、経営陣がこの考えを自分のものとして自らが実践しない限り、お店に浸透することはない。

 次号のこの誌上においては、第3章として「主体性を確立する」をテーマに、セルフ化時代におけるSS経営のあり方について、ご一緒に考えて参る予定です。ご期待ください。




     実践SS研究会 端山 忠彦

   NICHIBO SS Family 2007春号掲載】