第三章 「主体性の確立−仕掛ける−」 【2007.8.10 up】
今年は、春先から初夏にかけて、ガソリンの卸売り相場が急騰しました。原油価格の上昇と需給のタイト化がその背景です。
しかし、小売り市況は総じてコスト上昇分の転嫁値上げに終始して値取りが進まず、残念ながら販売マージンの改善は出来なかったのではないでしょうか。
セルフサービスSSの急増と、車の保有台数減少や小型化などによる需要減が、販売業界に心理的な価格抑制要因として強く働いていると考えられます。
実際の需要減は1‐2%に過ぎませんが、「何としても販売量を増やしたい」「失った分を取り戻さなければならない」「もうこれ以上減らせない」というSSが多く、「値上げ幅の設定がどうしても消極的にならざるを得ない」経営陣の方々の苦悩がひしひしと伝わって参ります。
そして一方では、業界に見切りをつけての撤退・閉鎖が急増しています。
後継者難・施設の老朽化などと理由は色々ありますが、販売量の減少からやる気を失った経営者が多く、熾烈な競争下での生き残り条件が『ハイボリューム』に収斂していることを窺わせます。このような事象を考慮すると、いよいよ今年はSS数の減少が、比率にして10%を超え、実数で4000〜5000ヶ所に達するだろうと容易に予測されます。
約30年前に『ローコスト・ハイボリューム』の運営形態がSS業界に登場しました。
その頃は、現在の完全自由競争と違って、石油業法の下で競争を制約する業界構造が残っていたために、量販を狙うSSもせいぜい2〜3円安の看板を掲出する程度であったと記憶しています。それが、セルフサービス解禁後には5円/L程度に広がり、今冬には一時、フルサービスSSとセルフサービスSSの価格差が10円/L前後にまで拡大しました。
その時私は、「これは仕入れ価格競争だ」と実感しました。
こうした時代の変化を踏まえ、今回は、市場競争に大きな影響を与えている『業転(業者間転売)』といわれるスポット玉について、少し触れることから始めることに致します。
フルサービスSSが華やかなりし1980年代の業転玉の規模は、国内精製数量の1%未満でした。それが、セルフ解禁直後に5%程度に増加し、その後は拡大の一途を辿り、現在は10%を大きく上回るレベルになっている、と推測されます。では、何故こんなにまで拡大してきたのか。大方の筋道はこうです。
・セルフサービスSSの攻勢で、フルサービスSSの販売量が大きく減少。
・その影響から正規の仕入ではやってゆけず、やむなくスポット玉で帳尻を合わせるSSと、価格競争力を高めようとするSSが増加。
・元売が販売シェアを維持するため、ロス分をスポット・マーケットへ放出。
・その影響でまた市況が悪化し、正規玉の販売が減少……という悪循環が増幅。
・これに商社玉が加わって大きな卸売りマーケットが形成されると同時に、石油市場にとって不可欠な存在へと成長。
今後も、需給に混乱が生じる度にスポット取引は拡大してゆくでしょう。但し、所謂業転玉には、品質に関する元売の保証がありません。その点を申し添えておきます。
約100年前にイタリアの経済学者が、当時の社会現象などを観察・研究し、次のようなことを提唱しました。
「ほんの一部の要因が、全体に決定的な影響を与える」
「決定的に重要な少数と取るに足らない多数がある」
これを『バレートの法則』と言い、マーケティングの分野では『80対20の法則』として今日も活用されています。有名な事例として、「ビール全販売量の70〜80%は20〜30%の酒飲みが呑んでいる」、「会社の利益の80%は優秀な20%の社員が稼いでいる」などが紹介されていますので、ご存知の読者諸氏も多いことと思います。
元売のガソリン販売状況を調べてみると、各社に共通する不思議なデータに突き当ります。それは、「販売数量の80%は、20%の特約店・代理店が取り扱っている」、「20%のハイボリュームSSが全販売量の80%を販売している」ということです。
(なるほど、ここに元売の価格政策発想の基本があったのか……)と思うほど、偶然とは思い難い一致です。
というのも、現行の卸売り価格体系は各社とも、大手には『業転・リム連動方式』、一般のお店には『販売・SS規模で調整する価格スキーム』が採用されているからです。つまり、「核となる販売量(80%)の維持」と「ハイボリュームSSの拡大」に焦点が当てられていることを読み取ることができます。
また、皮肉なことではありますが、「高い価格で販売しているSSが赤字」、「安い価格で売っているハイボリュームSSが黒字」というデータの開陳が多くなりました。販売業界がこぞって、『セルフサービスSS(ロープライス・ハイボリュームを狙える)』に傾斜を強めているのはその影響でしょう。当然、次なる競争テーマは、更なるハイボリュームを狙っての「規模の大型化、複合業態の多様化」へと移行しています。
この様に検証してくると、勝ち残り策が、販売量の尽きることのない拡大競争にあることは明白です。それにも拘らず、いまだにその決心が着きかねているお店が多いのも、また事実です。その違いは何処から来るのか……。
私なりに考えるに、「経営陣の自主性と主体性」に大いに関係があると思えてなりません。
SS業が他の小売業と較べて大いに違うところがあります。経営の重要な領域を元売に依存している比重が非常に高いことです。商品である燃料油の供給・配送、店舗開発、販売促進、従業員訓練、経営戦略、その立案など、多岐にわたって依存しています。また、店頭価格の設定についても、永きにわたって石商の流体活動に頼ってきているのが実情です。「自主性と主体性」が希薄なまま今日に至ったと思わざるを得ません。
果たしてこの依存体質のままで迫り来る淘汰の洪水を泳ぎきれるのか……。はなはだ心もとなく感じるのは私だけでしょうか。
この体質が育まれてきた背景を探ってゆくと、SS業界関係者が求めて止まない「共存共栄」に発する「競争より共生」という極めて日本的な業界哲学にその根っこがある様に思われます。
「共生」とは、販売店・SS同士が助け合うことによって店側の利益向上を図ることを意味します。「自然との共生」などとは次元が異なり、大きく偏ればお客様を欺き、業界の発展・改革をも阻害することになります。終局的には、業界の「共滅」につながる恐れさえあります。なぜなら、商品やSSの選択権は消費者が持っているからです。
一方、「競争」は同業者同士が叩き合う厳しい局面はありますが、「適者生存の原則」に則り業界の健全な発展が促進されます。事実、競争は社会・消費者に様々なメリットを還元することから、その経営努力が正当に評価され、お店の永続性を確固たるものにしてゆきます。
ことほど左様に、「共生」と「競争」とは正反対の結果をもたらす行為であると言えるでしょう。従ってお店の主体性の確立は、経営陣が「競争なくして発展なしを肝に銘じる」ところから始まると言っても過言ではありません。
競争を恐れない立場から自分のSSを見直してみましょう。例えば、「業界の80%の利益は20%のSSが稼いでいる」のに、自分のSSがその中に入っていないとしたら、その原因がどこのあるのかを考えて戴かなければなりません。そのチェック・ポイントを申し上げます。
一つは、経営陣が仕入れに関して、目標レベルの獲得にどれ程の努力をしているのかであり、もう一つは、従業員の接客、給油、油外受注、作業などが、次のような受身的な処理、「こなし型」に陥っていないかです。
・知識も経験もあるにもかかわらず、言われたことの表面しか理解できない。
・指示された範囲以上のことはしない。
・細かいことが分からないと先に進めない。
・易しくても難しくても、仕事の仕上がりはほとんど同じ。
上位20%のSSには、目標を達成するための問題・目的意識が明確にあります。その特徴は、業務の全分野にわたっての多くの「仕掛け=トライ」です。
実際には失敗に帰する事の方が多いのですが、その実施過程で、従業員を含め「モノを選り分ける能力と根性」という、教えることの出来ない力が養成されます。これが「商圏内で競り勝ってゆく」のに極めて重要な条件なのです。
そんなことから、私はこれらを「主体性がある、動きのあるSS」と呼び、微力ながら、その実現に尽力させていただいている次第です。
「独力で勝ち残ってゆくのだ」という目的意識が生まれてくれば、どのような紆余曲折を経ようとも、最後にはその目的を成し遂げることが出来ると言います。なぜなら、何を為すべきかが明確であるため、為さずにはおられない情熱がわきあがってくるからです。ここに「トライする、仕掛ける」を基本とした「主体性を確立する」SSづくりの根幹があります。
店頭において「仕掛けて」いなければ、目の前に現われたビジネスの芽に従業員は気づきません。また、経営陣も新しい収入源となるビジネスチャンスを見逃してしまうでしょう。しかし、お店が「決定的に重要な活動=仕掛け」を展開してゆくなら、必ず経営の主体性が蓄積され、「重要な20%のSS」への仲間入りを果たされるものと確信いたします。その目安となるところを紹介し、SSファミリー夏号の『実践SS学』の結びと致します。
「店主が、進むべき方向の選択、その遂行・スピードに大ナタを振り下ろすとき、経営に曖昧さがなくなり、店は拡大・再生に向かう」
次回、「SSファミリー誌」秋号においては、「ビジネス領域の再構築」をテーマにSS経営の革新策について、ご一緒に考えてゆく所存です。ご期待ください。
実践SS研究会 端山 忠彦
【NICHIBO
SS Family 2007年夏号掲載】
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