端山忠彦の実践SS学



  「セルフ化時代の経営革新」






       終 章 「業務領域を再構築する 【2007.10.17 up】




 今年も春ごろから原油価格の騰勢が再び始まり、夏場に最高値をつけました。しかし、市場では競争の厳しさを反映して、値上がり分の転嫁すらままならない状況が続いているのではないでしょうか。何か競争構造において、これ迄になかった異変が起こり始めていることを予感させます。これらの背景を検証しながら、その示唆するところを、ご一緒に検討しゆくことから始めて行くことにします。

 石油情報センターの統計資料によると、今から20年前の1987年4月のガソリン小売価格が131円/リッター、原油価格が約19ドル/バーレルと記録されています。一方、今年の7月下旬は、それぞれが141円と67ドルです。原油コストが48ドル上昇したにもかかわらず、小売り価格がわずか10円の上昇でしかありません。
 原油の値上がり分、48ドル/バーレル(36円/リッター)を単純に131円に転嫁すると、想定小売り価格は167円/リッターとなります。「167‐141=26円/リッター」を、精製・販売業界が吸収して来たことになります。積極的に申し上げるなら、セルフ化による構造改革などがもたらした、SS業界の社会的な貢献だと云えるでしょう。


 この様なことは何もSS業界に限ったことではありません。スーパー、家電、衣料業界などの新興流通業者が消費市場を席巻し、大幅なコスト・ダウンをはかりながら価格破壊を実現してきたことは、ご承知の通りです。その過程で、特に販売業界では、「新旧交代」が余儀なくされ、事実多くの老舗販売店が市場から去ってゆきました。これからの市場動向を予測するとき、これに近い道をSS業界が辿ってゆくのではと思うのは、私だけではないでしょう。

 小売り業界は、「業種小売り」と「業態小売り」に大きく二分されます。米屋、八百屋、電気屋といった「・・屋」のつくお店が前者だといわれ、後者はお客様に複合的な利便性を提供する店舗を指します。その業態小売りでは、顧客は生活に必要な商品、サービスなどを一か所で購入することが出来ます。更に、テナントに専門店も入っていることから、質的にも魅力あるショッピング・サイトとなっています。地域の「商業施設の集積地」へと益々発展してゆくでしょう。
 その主な要因は、必要な商品・サービスを自分で選ぶことができる、「顧客の成長」、「賢い顧客の増加」、加えて一ヶ所での買い物を可能にする「ワン・ストップ・ショッピング」の利便性が、忙しい現代人にとって最適な店舗形態を備えているからです。

 SSビジネスは、危険物を扱うという特殊性から、「業態小売りのらち外」にありました。しかし、それもセルフ・サービス導入以後、これらの業者の「顧客の集中戦略」のもと、スーパー・ショッピングセンターなどがパーキング・エリアに給油設備を設置し、燃料販売に乗り出してきています。ここで注目すべきことは、ガソリン販売がSS側にとって「主食」であるのに対して、彼らにとっては「副食」に過ぎないということです。この両者による顧客争奪戦がどの様な展開を見せるか、読者諸氏は是非想像してみてください。

 マーケッティングの教科書によると、その使命は「消費者の欲望の発見」、「商品力の充実」、「商品の普及・販売」とあります。つまり、その時代の顧客ニーズを見抜き、より良く安い商品を、より良いサービスで提供してゆくことであると教えています。消費者の購買行動は、「何を買うか」から「何処で買うか」にシフトしてきているといわれます。「ドライバーは、ガソリン給油にSSに来る」という前提が崩れ始めています。スーパーなどの給油施設での販売状況を見ていると、一種の焦りのようなものを感じざるを得ません。

 お客様の感覚は、既に、自分にピッタリの商品のある「・・屋」から自分にピッタリの「品揃えのある店舗」へ行くことを優先させ始めています。「ストア・ロイヤリティーの時代」といわれる所以が、ここにあります。「あのストアに行ったついでに、ガソリンを入れておこう」という行動・思考パターンになってゆくのでしょう。SS業界がこの変化に、どの様に対応して行くのか、そのことが問われる時がそこまできている、と云っても過言ではありません。


 これらのことを考える前に、これ迄に指摘されてきた「セルフ化時代の生き残り策」を再確認し、次なる市場競争への対応策を、ご一緒に検討してゆくことにしましょう。

・「もっと頑張る」
 これ迄の延長線上の努力では、残念ながら流れを変えることはできない。
・「競争をなくす」
 行政による規制の発動、組合の流通対策の徹底ということになりますが、これまでの経緯からして期待できない
・「競争相手を抹殺する」
 M&Aなどによって競争相手を減らしてゆくことを意味しますが、異業種からの参入があるため、効果的な手段ではない
・「撤退する」
 お店の体力のある内に経営資源を有望な分野に投入することであり、賢明な判断である。
・「差別化する」
 他のSS、店舗で提供できない商品、サービスを販売するのだから、これこそが経営継続には必須の生き残り策といえる

 異業種が新しい業界に進出してゆくときの定石は、「相手の矛盾を突き、ムダを省く」です。SSビジネスを例にとると、先ずレギュラーとスポット取引の仕入価格の矛盾、次に施設に対する過大投資のムダとなります。この二点に注目するだけで、相手側に相当な価格競争力が生まれます。
 更に、特筆すべきは破天荒な販売政策でしょう。「メーカーは、安くて良い製品を作ることに専念すべきで、どの様な売り方をするかは、販売業者が決めるべきことである」との強い独立性を持っていることです。


 これらの定石に加えて、前述のワン・ストップ・ショッピングの強みを重ね併せてみてください。セルフ対セルフの競争どころではない「ローマージン競争」に発展してゆくことが、容易に予測されます。
 そんなことから、私は、SS経営者の方々に、「お店の業務領域を根本的に考え直すべきだ」と、警鐘を鳴らしている次第です。



 マーケッティング理論の中に「比較優位の法則」というのがあります。お店の新しい領域を探り出す参考になれば、嬉しく思います。こう教えています。

・商圏内で自店は何に優れているのか。自店は「A」という分野が好きで、得意だと思っているが、他にスゴイやつがいる。「B」という領域ではそんなに競争が激しくない。だから、「B」に進めば成功の可能性が高い。

・新しい分野に進むことは、一見自店の強みを捨てることの様に感じるが、むしろ活かすことになる。


 この様にして進出分野が探り出せたら、次にヤリ方をかえる、つまりお店の経営姿勢を変えなければなりません。それが差別化です。それをプログラム化する根幹を、私は次のように考えています。これを反芻し、ご自分の信念へと昇華いただければ、心強い限りです。

・お客様が欲するモノに辿りつける様に手助けする。
・店があるからお客が来るのではなく、お客が来るところしかお客様は来ない
・「モノ」を売ってはいるが、「お客様のニーズを満足させます」というメッセージが伝わるお店の「ストア・ブランド」を構築する
・経営陣が、このプログラムをやり続ければ必ずお客様が増えるという信念を持つ



 異業種からの参入は始まったところです。まだ、我々に一日の長があることは確かです。それが活かせるかどうか、その条件を紹介し、「実践SS学」秋号の結びとします。

 現状の販売低迷は、「お客様の商品選択力」が「お店の商品推奨力」を上回りはじめたからである。経営陣が早急に検証し、真摯にこれを認識する




 次号からは当誌上において、「異業種参入時代を迎えたSS業界」をテーマに、自論を展開してまいる所存です。ご期待ください。


     実践SS研究会 端山 忠彦

   NICHIBO SS Family 2007年秋号掲載】