実践SS学・セミナー
「販売を創造する」
〜クリティカル・パス実践フォローアップ〜
[T]活動報告&目標設定
1.10月〜1月の実績と活動状況
・目標/計画、結果(出来るだけ数字で表現する)
・実行したクリティカル・パス業務、失敗したこと
2.2月〜4月の挑戦
・目標/課題(具体的に)、自分が取組むクリティカル・パス業務
[U]ケース・スタディ「セールス開眼」
1.具体的事例
−Aさんはあるベッド販売会社の販売員です。まだ入社3年目にもかかわらず、幸運にも恵まれて大変いい成績を上げ、将来を嘱望される存在になっていました。そうした状況から自信過剰になり、自分は実力があるのだとうぬぼれていました。そんなAさんを本社は、業績の悪い四国徳島の営業所を建て直すため、所長として異動させました。
−Aさんは前の営業所時代と同じやり方で一所懸命努力しました。しかし、実績は一向に回復してきません。Aさんはプライドも自信も全く失い、辞職して責任を取ること・そして転職することを考える日々を送っていました。
−そんな時、新聞で所得番付の記事を見ました。それによると、あの松下幸之助を抜いて、この徳島の大塚武三郎という人が全国で一番になっていました。その人は大塚製薬の創業者です。Aさんは大塚さんに興味を持ち、「どうしたら、こんなに多くの所得を稼げるのか」聞いてみたくなると同時に(自分の今の苦境について相談し、何かアドバイスをもらおう)と考えました。自宅に電話したところ、お手伝いさんが雑誌のインタビューと間違えたのか、アポイントが取れました。そして、約束の日に自宅に伺い、幸運にも直接話を聞く機会に恵まれました。
−大塚さんはメディア・インタビューではないとすぐに気づきましたが、追い返すこともせず、Aさんの今の状況と悩みを聞いてくれました。が、Aさんの説明が30分ほど続いた頃、大塚さんから質問が飛んできました。
「ところで、君は何を売っているんだね?」
Aさんは「ベッドです」と答えました。すると大塚さんは2〜3分目をつむり、
「それで何を売っているんだね?」と、同じ質問を何回も繰り返されました。
「失礼ですが、4本の足があってスプリングの付いているベッドです」と、Aさんは答え続けました。
「そんなことは、君に言われなくともわかっとる」と、大塚さんはAさんを一喝しました。
(ベッドでないとしたら、何なのだ)と自問したAさんはあることに気付き、答えました。
膝をポーンと叩いた大塚さんは、「そうだ、君の売っているものはそれだ。忘れるなよ!」と諭してくれました。その瞬間にAさんは、(本当に目が覚めた。目からうろこが落ちた)と感じました。
−その後Aさんは、大塚さんのアドバイスに従って、セールス活動を営業所一体となって展開しました。最初の頃はなかなか実績向上には結びつきませんでしたが、次第にお客さんの反応が良くなり、2年後には全国ナンバーワンの業績を上げるなど、徳島営業所をトップクラスの拠点に育てることに成功しました。
2.質問
1)あなたがベッドのセールスマンなら、どのような売り方をするでしょうか。
2)Aさんが、大塚さんに会う前に売れなかった理由を、想像してみてください。
3)Aさんが大塚さんの質問から気づいたことは、何だったと思いますか。思いつくことを色々書いてみてください。そして、違うと思うものを順番に消してゆき、最後に一つ残してください。
4)あなたが販売しなければならない主な商品は、燃料油を除くと、何ですか。
5)あなたはお客さんに「何を売っているのか」と、大塚さんに尋ねられたら何と答えますか。思いつくことを書き出し、最後に一つ残してください。
[V]Aさんがたどりついた販売の奥義
1.ベッドとは何か?
−私は確かにベッドを売っているし、お客様も買ってくれている。でも、今まで気が付かなかったが(売っているのはベッドではない!)という確信のようなものが沸いてきた。
−ベッドはただ寝るだけのものではなく、快適に眠るためにある。私はお客さんに快適な眠りを売っていることになるのではないか。
2.販売の奥義
−我々の販売活動は商品と代金のやり取りという行為ではあるが、実質的には、その商品の持っている「真の役割」を買っていただいていることになる。よって、商品の奥底にある役割を訴求することが販売活動の中心となる。お客さんがその商品を受け入れるときは、「その商品の真の役割」を理解していただけたときである。
−販売実績が上がらないのは「プロセス=行動」が間違っているためである。よって販売活動に入る前に販売員の商品に対する「見方、考え方」をしっかりと確立する必要がある。
3.販売員の使命
お客さんから見たとき−納得して買っていただける理由は何か?
−感心、感動、感謝していただくこと…その商品によって得られる素晴らしさを教えてあげる。販売とは教えることである。
−「要らない」といわれたら、必ず「どうしてですか」と聞き返す……営業は断られたときから始まる。「ノー」という人を「イエス」に変えさせる。
[W]討論:油外「ルブ・ベイ」作戦の実施状況
前回のセミナーで、これまでと同じ方法での油外取組みでは、収益の減少は避けられないことを確認しました。つまり、TBAS、オイルなどを単品で勧めても、なかなか接点を作ることが難しいお客さんが増えてきているからです。
そこで、「クルマを診る」ことから入る「快適調整」作業チャンスを多くすることを説明しました。その手段として「クルマをルブ・ベイへ誘導し、点検、お客様とのコミュニケーションを深める」作戦を実施することを推奨しました。
その具体的な活動として「リフトアップ点検」の重要性を理解していただきました。今この活動に、実践SS研究会の会員SSの多くが取組んできていますが、「クルマをルブ・ベイに誘導する」ことの難しさに、多くのSS従業員の人たちが直面しています。
なぜ難しいのか、その理由を見つけ出さなくては、この壁を乗り越え、油外収益を反転増収してゆくことは困難です。皆さんと一緒になって原因を考え、同時に解決策を見つけ出したいと思います。討論する前に、皆さんの店頭での経験をうかがいます。
1.お客さんにどの様にアプローチしましたか
2.お客さんの反応はどうでしたか−断られたケース/理解してもらったケース
3.あなたは、どの様な気持ちで取組みましたか
4.あなたにとって、最も難しいところは何処ですか
[X]販売を創造する
1.販売の基本概念
【ものを売るとは、「商品の本質、役割」を教えることである】
2.お客様心理の8段階
警戒:「何か売りつけられるのではないか」と警戒する。
注意:「何だろうか」と注意を払う。
興味:「変わっているな、なるほどなあ」と興味を持つ。
連想:「これを買ったらどうなるかな」と連想する。
欲望:そうすると、「欲しいな、買いたいな」という段階に進む。
比較:しかし、「もっと安くて、良いものがないか」と比較・検討する。
決定:商品説明と価格に納得できれば、注文する。
満足:そして、商品を手にして満足する。
3.優秀な販売員の営業能力
・取扱商品の「商品哲学」を語ることができる
<事例−1>
クリケットという名前の付いた、目覚まし機能が付いた腕時計がある。ジーッという音が、日本人にはセミの鳴き声に聞こえるが、外国人にはコオロギに聞こえるらしく、商品名になっている。会議、スピーチ、何かをするときの合図に使うなど、仕事には重宝な時計である。ワニ皮のベルトも厚くて丈夫、値段もさほど高くはない。買いたくなったのは、それだけではない。アメリカの歴代の大統領が3人も続けて使っていたことに、心動かされたからである。なぜ、知っているかというと、店員さんが教えてくれたからである。まさに、販売は教えることである。
[Y]従業員が鍛錬すべきところ
1.精神武装
・この商品はお客様のためになる。
・この商品はお客様の役に立つ。
2.技術武装
・商品の長所、短所を説明できる。
・商品の役割、本質を理解している。
・お客様に教えることができる。
・売れなかった、説得できなかった理由を考える。
3.態度武装
・お客様の「警戒心」を解く。
・「何かお手伝いしましょうか」
・お客様の声、意見を聞く
<参考:新しいことへの挑戦>
−販売実績が下がってきているので、新しい収入源を見つけるために方向転換を指示するが、ベテラン従業員ほど行動を起こさない。その影響で若い従業員も動かない。結果として業績が回復しない。その理由をあるベテラン従業員に尋ねたところ、「変えなければならないという気持ちにならない」、「気持ちを突き上げてくるものがない」、と答えてくれた。つまり、「そんなにしなくても自分の実績は上げることができる」と考えているのかも知れない。「答えの分からないことはやりたくない」のかも知れない。
4.販売員に必要とされる営業力
・取扱商品の本当の役割が何であるかを全員の意識に徹底させる。なぜなら、多くの商品が「説得商品化」しているから。
・商品の説明が不十分だったり説明の仕方が間違っていたりしたら売れない。カタログ通りの説明ならお客さんは何の興味も沸かないし、「よし買ってやろう」という気にならない。
・商品の説明とは、商品知識ではなく、「セリング・ポイント」を話すことである。セリング・ポイントとは、「商品の特色」と、お客さんが興味を持ち「欲しいと求めているところ」とが交わるところ。
・販売員が、商品の個性、特色、役割を説明でき、お客さんの要望と価値観を知ることができれば、ほとんど間違いなく商品は売れる。
<事例―2>
時計を買い替えることになって専門店に行った。そこでローレックスを勧められた。時計などそんなに高くてなくていいと思っていたので、「贅沢すぎる」と断った。店員は少しも贅沢ではないという。「お客様のお子さんはいくつですか。このローレックスは、お客様からお子様へ伝えることのできる時計です」。ご自分が30年使い、ご長男が40歳代になられたときにプレゼントすることが、充分に可能である。なぜなら、ローレックスはそういう造りをしていると、店員は説明した。それを聞いて直ちに買おうとおもった。とにかく父から子へと受け継がれてゆく。50万円で買って50年使うと、1年当たり1万円、1ヶ月800円の出費ということになる。この店員さんは、ローレックスという時計を売ったのではなく、「ローレックスの持つ意味」を売ってくれたのである。
<参考:論語より>
−小農とは、草が生えても草を取らない者をいう。
−中農とは、草が見えたら草を取る者をいう。
−大農とは、草を見ずして草を刈る者をいう。
[Z]仕事を習得するメカニズム
1.トヨタ 張会長の言葉
「教育」は知らないことを教えてもらうこと。教育で得た知識を「身体に覚えこませ」、本当にして行くのが「訓練」、「実行」。頭の中で分かっていても、はじめは身体がついてこないので、「繰り返し、繰り返し」やってみる。そのうちに本当に「その知識を理解できる」ようになり、新しい仕事・技術などが習得できる。
2.人間の記憶メカニズム(「基本セールス」ダイヤモンド社)
a)人間は、「聞いた」ことの10%を記憶する。
b)人間は、「見た」ことの35%を記憶する。
c)人間は、「聞いて、見た」ことを65%記憶する。
d)人間は、「参加した」ことの90%を記憶する。
3.失敗学(工学院大学 畑村教授)
−動物は本能的に同じ過ちを繰り返さない。獲物が取れない(失敗)だけでなく、命をも落としてしまう(危険)から。
−失敗は、何かを作ろう、何かをしようと思ってうまく行かなかった行動、活動、実行の結果。
−失敗には、うまくゆかなかった理由があるから、人を引きつけるものがある。
−なぜか? うまくやるための教訓があるから。
[[]他業に学ぶ「包丁の実演販売の10か条」
【基本となる考え方……使い方を教えれば売れる商品がゴロゴロしている】
第1条「売りつけてはいけない」
・「買ってくれ」とは絶対に言ってはいけない。商品を押し付けるのではなくて、あくまでお客さんの意思で買ってくれる様にもってゆく。「買ってください」「これがいいですよ」とストレートに言ってもお客さんは気分を害する。
第2条「呼び込みをしてはいけない」
・お客さんを立ち止らせるためには、「ちょっとお客さん」と呼びかけてはダメ。それでは相手が警戒する。お客さんがいなくてもいるつもりで実演をしていれば、自然と人が立ち止まる。一人でもギャラリーがいれば後は人だかりが人を集める。
第3条「客の目を見て笑顔で話す」
・必ず相手の目を見て話すこと。目が合ったら笑顔でいい印象を与える。実演では飽きさせないことが大切。そのためには、お客さんの反応を見て話の内容を作り変えていくことが必要。
第4条「商品は自分で使って自信を持つ」
・売る商品は自分で使ってみていいかどうか判断する。商品に惚れ込めば自然と声が大きくなる。
第5条「立ち去る客を引き止めてはいけない」
・興味を持ってくれたお客だけに一生懸命説明する。一人のファンを作れば口コミでどんどん評判が広がってゆく。
第6条「欠点も説明する」
・「この包丁は何年もつの?」と聞かれたら、20年と答えるのがこの世界の常識。こまめに手入れをすれば確実にもつ。でも、私は「5年」と答える。実際にそんなに手入れする人は滅多にいないから。これが信頼されるコツ。経験から言うと3割はマイナス面を説明するのがいい。要は真実をちゃんと説明すること。
第7条「ライバルをけなさない」
・比較商品を持ち出したり、悪口を言ったりしない。人の悪口を聞いていて気分のいい人はいない。本当にいい商品なら比較する必要はない。
第8条「しゃべり過ぎない」
・人を立ち止まらせるためには、トークは不可欠。しかし、目の前にたくさんお客さんがいるのに売れないのは、しゃべりすぎているため。それでは、お客さんが買いづらい。お客さんが買う気になったところで、すかさず「間」を作る。
第9条「クレームはチャンスと心得る」
・「買ったけど、こんなもの切れるか」という客がいる。ここで「そんなことありません」と無視しては絶対にいけない。そんなときは「こうやって研げば切れるようになります」とクレームを実演の中に組み込み解決する。クレームをいってきたお客さんは満足するし、周りのお客さんの信頼も増す。クレームをいってきた客がファンになることが多い。
第10条「客に楽しんでもらうことが一番」
・売ろう、売ろうとあせると、かえって売れない。(売れなくてもいい、お客に楽しんでもらえればそれで充分)と思えるようになってから売り上げが伸びるようになった。また、喜んで買ってもらうことも、絶対必要なこと。
端山忠彦 実践SS研究会
2007年2月度セミナーより
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