実践SS学講座
「京滋EMG会秋季経営者セミナー」
【2008.3.23up】
第一部 講演「SS業界−不透明な時代を迎えて」
−今SS業界で起きていること
−今後のSSビジネスを決定づける要因
・元売戦略の底辺にあるもの
・販売店戦略の選択
・価格競争の克服問題
−SS業界マーケッティングの変遷と動向予測
−「生き残り」への勇気ある転換
−「小売りビジネスを生き抜く」5か条
「今SS市場で起きていること」
−SSビジネスに携わる約70%の販売店が、赤字経営にあえいでいる。特に、ローカル地域の市場混乱と販売マージンの減少が著しい。
・ガソリン需要の減少と販売マージンの悪化
・油外商品販売の大幅減少とパート時給の上昇 +従業員の確保が質・量ともに困難
・安売り大型PBセルフの侵攻と業態セルフの進出
−商社系が“孤立した”中規模店を、経営参加・経営支援方式で傘下に治めるなど、ネットワークを拡大してきている。
−異業種参入、「スーパー、ショッピングセンター、コンビニ」などの流通業者が燃料販売に取組み始めた。
・元売と小売流通業者との販売契約の締結 +次代販売チャンネルの開発
・業態小売りの「ワンストップ・ショッピング」戦略
+ガソリンの「副食化(ローマージン)」
・SS業界の矛盾とムダに着目
+施設への過大投資によるムダ
+正規と業転玉価格の矛盾
−SSビジネスからの撤退、廃業が急増している。
+07年度は約4000ヶ所が減少すると予測
−「業態化」に成功したセルフと、「専門化」したフルSSが、増収増益
・時代の流れ/変化への対応と従業員の戦力化
・経営者の勇気と決断による「アタッカーへの転換」
「今後のSSビジネスを決定づける要因」
1.元売戦略の底辺にあるもの
1)石油資源は不足気味に推移する
・元売の「売り手」市場
・しかし、小売市場は「買い手」市場
2)日本のSS業界は「セルフ20−10千ヶ所」に向かってリストラクチャリングを繰り返してゆく
・そのうちの80%は新規参入業者が占める
・次のメイン・パートナーは小売り流通業者
3)元売にとって「川下ビジネス」は長期にわたって赤字と予測
・人件費など経営コストの削減のリストラ継続
・代理店/SSへの指導は物理的に困難
4)成熟産業の宿命 ・転換につぐ転換、変身につぐ変身が求められる。
2.戦略の選択
1)寡占化戦略:「より多くの商圏シェアーを獲得することによって数少ない勝ち残り店となる」
+他店が撤退、廃業してゆくように仕向ける
+他店が撤退、廃業し易いように手を差し伸べる
+「業界の衰退必至」を信頼できる情報として広める
2)隙間戦略 :「成熟した業界であっても安定した需要のある分野、利益の高い分野への集中
を図る」
3)撤収戦略 :「事業資産の売却などキャッシュ・フローの最大化をはかる」
4)差別化戦略:「他店と違ったこと、相手の逆をゆく、発想を変える」
+消費者が欲しいモノに辿りつける助けをする
+ムダに着目する
+専門化を進める、得意分野に特化する。
つまり、競争相手が容易に模倣、追随できない体制を創る
3.「厳しい価格競争」の克服
1)古今東西からの訓え
+価格競争を徹底推進し、薄利多売に成功したお店が長期にわたって繁栄したケースはない
+しかし、高値価格政策を採用してきたお店が、それより早期に廃業・撤退を強いられたケ
ースが圧倒的に多い
2)問題提起
+資本主義社会は、価格を含め競争を繰り返すことによって、物価が下がり、効率を向上さ
せながら発展してきた
+SS業界にあっては、ネットワークの新陳代謝が図られ、「安全、快適、経済的」という
社会的使命を果たし、同時にモータリゼーションの発展に貢献してきた
+しかし、それに巻き込まれるSS事業者・SS従業員にとっては、お店の永続性、生存に
かかわる深刻な問題である
+嘆いてみても始まらない。どうすれば、この競争を賢明に乗り越えられるか、試行錯誤し
ながら、勇気をもって実践してゆくことが、今問われている
「SS業界マーケッティングの予測」
1.SS業界の変遷
項目 |
1970年代 |
1990年代 |
現在 |
主な扱い商品 |
燃料油、オイル TBAS、洗車 |
同左 |
同左
車検、クルマ販売 |
月間ガソリン |
80kl |
100kl |
140kl |
ガソリンマージン |
20円/L |
15円/L |
7円/L |
正社員比率 |
90% |
50% |
30% |
求められる運営形態 |
バランス型 |
ローコスト・ ハイボリューム |
大型セルフ |
プライスリーダー |
老舗店 |
中規模量販店 |
新興販売店、PB業者 |
2.SS業態別評価(満点:5)
競争項目 フル 単体 セルフ&複合 ショッピングセンター
価格 1 3 4 5
接客 5 2 3 1
利便性 1 2 3 4
集客力 1 3 4 5
合 計 8 10 14 15
3.顧客の消費財小売店選択理由
・ワンストップ・ショッピング
・品揃え、品質、価格
・長時間営業
・専門性
4.SSに求められる運営課題
・高い経営効率(ハイボリューム、ローコスト)
・併設ビジネス展開・新商品の取り扱い
・他が追随できない専門性(フルSS)
5.消費者のブランド・ロイヤリティー(元売選好度)
・食品小売業におけるPB比率(%)
イギリス 60
ドイツ 50
アメリカ 20
日本 10
・PBを買う主な理由
−メーカーものより安い 42%
−有力メーカーが作っている 21
−有力メーカーと同品質である 19
6.想定されるSS市場の動向
−顧客にとっては、元売選好度より、価格的メリットのほうが強くなってゆく
−流通業者による燃料販売ビジネスへの進出が急増する
・スーパー、ホームセンター、ショッピングモール
−併設業態を持ったSSが業界をリードしてゆく
−PBセルフの増加
−フルSSは作業、メカの専門性を持ったところが生き残る
−20年後には、新規参入業者が過半数以上を占めている
<参考:限界生産性低減の法則>
・同じことを続けていれば、その生産性、収益は次第に小さくなってゆく
・企業が何時までも同じことを続けながら、高い利益をあげ続けることは難しい
・よって、常に新しい分野にチャレンジする姿勢が重要である
「生き残り」への勇気ある転換(1)
1.比較・競争優位の法則
−自店はどの分野で他店と較べて優れているのか。
−自店は「A」という分野が好きではあるが、その分野には自店よりすごい店がある。「B」という分野では、そんなに競争が激しくない。よって、「B」に進めば成功する確立が高い
−自店にとって優位な「競争ルール」に基づいて競争することが大切である。つまり、競争市場では実力が発揮できる分野を探すことが必要である。
−新しい分野に出てゆくことは、自店の強みを捨てることではなく、むしろ自店の強みを活かすことになる。
2.主体性の確立
−「誰でも偉大なことを成し遂げられる。カギは努力でなくて、やるべきことが見つけられるかどうかである。世の中には勝者と敗者がいて、常に敗者のほうが多い。しかし、正しい相手、正しい味方、正しい方法を選べば、誰もが勝者になれる」
−「素晴らしいことを成し遂げるには、“モノを選り分ける”能力を習得し、決断したことを迷わずにやりきることである」
−自身で戦略、戦術を選択し、「独力で勝ち残ってゆくのだ」という目的意識をもって進めば、お店の主体性は確立されてゆく。つまり、為すべきことが明確になれば為さずにおかない耐え難い熱が湧き上がってくる。
−その第一歩:
<リーダーが進むべき方向の選択、その遂行・速さに大鉈を振り下ろすとき、経営に曖昧さがなくなり、お店は拡大・再生に向かう>
「生き残り」への勇気ある転換(2)
1.ロバート・アクセルロッドの訓え(「対立と協調の科学」より)
<自分が協力し、相手も協力するなら、自分も協力する。しかし、相手が裏切ったら、自分は報復する>
2.「継続的な繁栄は<協調の創造>から生まれる」
−ビジネス社会は、他の会社やお店との継続的な関係を保ちながら動いている。友好的であったり、競争しあったり、対立したりしながら、会社・お店は繁栄、衰退を繰り替えしてきている。
−この様な「他との関係」を上手くコントロールすることによって、「協力を創りあげた」お店が生き残り、繁栄している。
−しかし、この協力関係は、時には戦い、時には仲良くすることなしには生まれてこない。つまり、「目には目を、歯には歯を」の処し方が「生き残り」の知恵である。
−言い換えれば、人間社会では、相手を信用して付き合うか、「他人を見たら泥棒と思え」に喩えられるように、猜疑の目を持って接してゆくか、二つの対応がある。
−市場競争においても、競争相手と仲良くしたり協力しあう「友好関係」と、相手を敵視する「対立関係」がある。その両方に長所と短所がある。
−同業者と友好関係にあれば、価格競争なども避けられ楽な商売ができるが、競争がないため研究・工夫をしない。そのため、お店が成長しないというマイナスがある。
−では、お店を「継続的に繁栄させてゆく」ためには、競争相手とどの様な関係を築いてゆくべきなのか、経営陣はよく考え、行動することが求められる。
事例:「シジュウカラの知恵」
−大きな草原があり、そこに大小色々な鳥が生息している。その中で、ハト、タカ、シジュウカラの3羽の習性と種の繁殖への影響とを考えてみる。
−ハトは平和のシンボルで、相手を絶対に襲わない。常に協力ばかりしている鳥である。タカは常に相手を襲う。シジュウカラは相手が仲良くしてきたら絶対に襲わない。しかし、相手が襲ってきたら自分も戦う。
−大きな草原のあちこちにハト、タカ、シジュウカラが出てきている。弱っているハトが一羽いても、ハトはお互いに襲わないが、タカに直ぐにやられてしまう。
−タカは攻撃して相手をやっつけるが、自分達同士でもやり合うから、なかなか数が増えない。
−シジュウカラは戦ったり仲良くしたりするから長い年月の間に徐々に数を増やしてゆく。
−この3羽で陣取り合戦をしていくと、最後にはシジュウカラだけが繁栄する草原が出現する。
事例:「繰り返しが続くと協調的になる」
−第一次世界大戦のとき、ドイツ軍とイギリス軍がある戦場で何ヶ月も対峙した。
−週末になると、イギリス軍よりの弾丸の撃ち方が少なくなる。そのためドイツ軍も撃つのを少し減らそうと、考えるようになった。
−これはドイツ人がイギリス人を愛しているからではない。戦争だから、ドイツ人はイギリス人を殺していいと思っている。
−しかし、イギリス人を殺したい以上に、イギリス人に殺されるのは嫌だと思っているだけである。自分の命が欲しいわけである。
−イギリス軍の撃ち方が少ないからと、ドイツ軍が日曜日に攻撃していかないと、月曜日の朝のイギリス軍からの撃ち方が少なくなってくる。
−長い間この様にしていると、だんだんと両軍に協調のようなものができてくる。
−ところが、そこへベルリンから上官がやってきてドイツ軍のその状況をみて怒り、「撃て!」と命令した。すると、ドイツ軍が10発撃つとイギリス軍も10発撃ち返してくる。
3.<ティット・フォー・タット(目には目を、歯には歯を)戦略>
−「二人が相手を裏切るか協力するか」という競争をする。つまり、相手が協力してきたときに裏切ると、こちらは大変大きな利益を得ることができる。しかし、協力した方は一番ひどいことになる。また、お互いが裏切りあうと最悪の状態になる。これをゲーム化した「囚人のジレンマ」という競争理論がある。
−このゲームで最も強かった戦略は「目には目を、歯には歯を」、つまり「先ず協力する。相手が協力したら自分も協力する。しかし、相手が裏切ったら自分も裏切る」というものである。
−アクセルロッドは、人間社会が繁栄する重要な教訓として、次のように訓えている。
<自分が協力し、相手も協力するなら、自分も協力する。しかし、相手が裏切ったら、自分は報復する>
「小売りビジネスを生き抜く」5か条
1.お店の「使命」の再確認
・社会貢献の報酬が利益
2.お店の「ブランド」の確立
・お客様へのメッセージ
3.業務領域の拡大と再構築
・変わりゆく「顧客ウォンツ」への対応
・「モノ」から「こと」への発想転換
4.科学的経営の導入
・「矛盾、ムダ」というシガラミへの決別
・「出来る、出来ない」を議論する前に「すべきかどうか」を検討する
5.後継者と従業員の育成
・トップダウンとボトムアップの併用
・総括を「受ける覚悟」と「する勇気」の醸成
第二部 実践SSセミナー(講師:実践SS研究会 端山 忠彦)
テーマ :「目標達成のクリティカル・パス(急所)をつかむ」
−クリティカル・パス/マス概念の説明
−リアル・ケース・スタディー
+受講者から提出される「今後3ヶ月の目標、課題」達成のための「最重要業務」を探り出す
+受講される経営陣/マネージャーが「最重要業務」を共有し、現状立ちはだかっている「壁」の打破に挑戦
−資料:「CPセミナーの進め方」、「ケース・スタディーに有効な考え方」、「CP活動の最も深いところ」、「マーケティングの基本」、「セールス開眼」、「失敗の教訓」、「80対20の法則」、「お客様の不満解消」など
資料内容
・クリティカル・パス(CP)セミナーの進め方
・「試練に勝つケース・スタディー」の有効な考え方
・「CP活動の最も深いところ」
・マーケティングの基本
・セールス開眼(ケース・スタディー)
・SS店頭活動の3大欠落ポイント
・仕掛けづくりのステップ
・価値あるSSへの第一歩「お客様不満の解消」
・失敗の教訓
・「20対80の法則」の応用
添付:過去3ヶ月間の活動実績報告シート
今後3ヶ月間の挑戦課題と最重要業務シート
端山忠彦 実践SS研究会
2007年10月度セミナーより
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