端山忠彦の実践SS学

     シーズン4   混迷市場を生き抜く経営改革



             第一章 「経営スピードを上げる」 【2008年3月5日up】



 新年明けましておめでとうございます。本年も当誌上において、SS業界の環境変化を生き抜いてゆく方策などをご一緒に考えて参る所存ですので、引き続きご愛読をよろしくお願い申し上げます。

 昨年一年を振り返ってみて、「SS業界はいよいよ不透明な時代を迎えた」というのが、私の感慨です。そこで、昨年の市場動向を再確認しながら、私の思うところを検証するところから議論を進めて参ります。

 ガソリン需要は、大方の予測どおり、一年を通しては2%前後の減少でした。しかし、原油価格が秋口から更に急騰してきたことから、お客様の節約志向が強くなり、年末には3%を超える販売減になったのではないでしょうか。同時に、このことが、年末商戦での価格競争を助長する大きな要因となりました。

 ガソリンの販売マージンを見ると、商圏のプライス・リーダーにしっかり追随してきたお店で約1・5円/リッター程の減収となっていますので、平均的にはそれ以上でしょう。油外部門では、SS間での二極化の傾向が益々拡がっており、その特徴は、フルサービスSSが大幅に減少させているのに対して、セルフサービスSSが総じて増収傾向にあることです。

 フルSSの場合、減収の原因が顧客数の減少にあることは当然ですが、見逃せないポイントとして、旧態依然とした品揃え・販売手法が、お客様のニーズ・ウォンツを摑まえ切れなくなっています。これに対してセルフSSでは、油外販売に目覚め、活動が活発になってきているところが目立ちます。そうした中で、セルフ先行SSが、後続組の追い上げに遭い、苦戦しているのも事実です。

 また、セルフSSビジネスに成功を収め、絶好調のはずの販売店さんでさえ、「異業種からの新規参入業者と伍して競争して行けるのだろうか」と、不安を強めてきています。彼が編み出してきた必勝のSSビジネス・モデルも修正を迫られ始めている証しであり、混迷する業界環境を象徴的に物語っている出来事だと、私は見ています。

 元売の代理店・特約店政策に目を転じてみると、多くの店主の方たちが憤懣やるかたなく思い、この先の孤立を感じさせる政策展開が垣間見えてきます。

価格関連……値決め交渉はほとんどなくなり、通告ベースでの取り切りが多くなった。市況陥没地域への特別対応が少なくなってきた。

販売店支援プログラム……販促、訓練、経営カウンセリングなどが質量ともに大幅に低下してきた。訓練などは外部へのアウト・ソーシングが定着している。

販売店とのリレーション維持政策……スポット買い、転籍発言などの示威行為に対しても、引き止め説得が表面的であり、誠意のようなものが薄れてきた。

 元売にはそれぞれ独自の経営戦略があり、販売政策も異なりますが、共通していることはどの元売も明確なシナリオを持っているということです。
 しかし、残念ながらベールに包まれているために先を読むのは至難の技ですし、もしもこれを一枚一枚剥がしてゆくなら、きっと「頼るものは自分しかない」という思いが募ってくることでしょう。それがまた代理店・特約店さんを更に「自主独立路線」へと駆り立てて行くだろうと、予測されます。


 最近とみに「元売との付合い方、経営の舵の取り方」などについて、質問を受けることが多くなりました。大抵の場合、次のようにアドバイスさせていただいています。
 一言でいうなら、「経営スピードを上げろ」です。


 お店にとっての外的な経営要素は、お客様、元売、競合SSで構成されます。これらが、独自のスピードで形を変えながら市場環境をつくり出しています。お客様は社会全般の動きを反映させながら消費様式を変化させています。元売は石油情勢を勘案しながら経営政策を常に修正しています。商圏内の優秀店は店舗・販売活動を最も速いスピードで展開しています。
 もし、お店がこうした動向についてゆけないとするなら、残念ながら好業績をあげることは困難であると申し上げるしかありません。


 例えば、セルフサービスが解禁され、早期に導入されたお店は、その時点で一気にアクセルを踏み込みスピードを上げて他を引き離しました。フルサービスSSの油外販売では、定番商品だけに頼っていてはダメだと気づいたお店は車検・車の販売・修理・メカ作業などの新しい領域へとハンドルを切りました。
 経営コストの削減についても、一度はリストラを敢行して人件費を合理化しましたが、その後は新たな人的戦力の向上策を推進し、着実にスタッフを充実させてきています。
 私は、これらの実施・遂行力を「経営スピード」と呼んでいます。



 カナダのロバート・アクセルロッドという研究者が、彼の著作の中で、経営課題を確実に遂行してゆく上での重要な教訓を幾つかの事例を挙げて説いています。その著作を『市場主義』と題して伊藤重元氏が解りやすく邦訳してくれていますので、内容を要約して紹介いたします。お店の経営改革への心強い参考資料になると存じます。

ビジネス社会は、他の会社やお店との継続的な関係を保ちながら動いている。友好的であったり、競争しあったり、対立して繁栄と衰退を繰り返している。

この様な「他との関係」を上手くコントロールすることによって「協力を創り上げた」お店が生き残り、繁栄している。しかし、この協力関係は、時には戦い、時には仲良くすることなしには、生まれてこない。

市場競争においても、競争相手と仲良くしたり協力し合ったりする「友好関係」と、相手を敵視する「対立関係」がある。その両方に長所と短所がある。

同業者と友好関係にあれば価格競争なども避けられ、楽な商売が出来る。しかし、競争がないため研究・工夫をしないので、お店が成長しないというマイナスがある。


事例1「シジュウカラの知恵」

大きな草原がある。そこに大小色々な取りが生息している。その中で、ハト、タカ、シジュウカラの三羽の習性と繁殖への影響とを考えてみる。
ハトは平和のシンボルらしく、相手を絶対に襲わず、常に協力ばかりしている鳥である。タカは常に相手を襲う。シジュウカラは相手が仲良くしてきたら絶対に襲わない。しかし、相手が襲ってきたら自分も戦う。
大きな草原のあちこちにハト、タカ、シジュウカラが出てきている。弱っているハトが一羽いても、ハトはお互いに襲わないが、タカだったら仲間に直ぐにやられてしまう。タカは身内同士でもやりあうからなかなか数が増えない。シジュウカラは、戦ったり仲良くしたりするから、長い年月の間に徐々に数を増やしてゆく。
この三羽で陣取り合戦をしてゆくと、最後にはシジュウカラだけが繁栄する草原が出現する。


事例2「繰り返しが続くと協調的になる」

第一次世界大戦の時、ドイツ軍とイギリス軍がある戦場で何ヶ月も対峙した。
週末になるとイギリス軍の弾丸の撃ち方が少なくなる。そのため、ドイツ軍も撃つのを少し減らそうと考えるようになった。これは、ドイツ人がイギリス人を愛しているからではない。戦争だから、ドイツ人はイギリス人を殺したいと思っている。しかし、それ以上にイギリス人に殺されるのを嫌だと思っているだけである。自分の命が欲しいわけである。
イギリス軍からの撃ち方が少ないからと、ドイツ軍が日曜日に攻撃していかないと、月曜日の朝のイギリス軍からの撃ち方が少なくなってくる。
長い間この様にしていると、だんだん両軍に協調のようなものが出来てくる。


ティット・フォー・タット(しっぺ返し)戦略

二人が相手を裏切るか協力するかという競争をする。つまり、相手が協力してきた時に裏切ると、こちらは大変大きな利益を得ることが出来る。しかし協力した方は一番ひどいことになる。また、お互いが裏切ると最悪の状態になる。これをゲーム化した「囚人のジレンマ」というゲーム理論がある。このゲームで一番強かったのは「目には目を、歯には歯を」であった。
つまり、「自分が協力し、相手も協力するなら、次も自分は協力する。しかし、相手が裏切ったら、自分は報復する」


 ロバート・アクセルロッドの教訓は、混迷するSS業界を生き抜いてゆくビジネス魂を見事に示唆しています。
「他との力関係をバランスさせる」、そうすれば自ずと「経営スピードは上がる」との訓えです。
 ここに、お店を永続的に発展させる、基本戦略があると言っても過言ではないでしょう。


 次回のこの誌上においては、表題の第二章として、「失敗に学ぶ」をテーマに実践SS学を展開してまいる所存です。ご期待ください。


                                   実践SS研究会  端山 忠彦

                   [『SS Family』誌 2008年新春号に掲載]