端山忠彦の実践SS学

       シーズン4   混迷市場を生き抜く経営改革



             第二章 「失敗に学ぶ」 【2008年5月30日up



 暫定税率問題がSS業界にかつてない混乱を引き起こしました。「需要の低迷と低収益性」という双子の経営悪化要因に苦しむSS業界に多くの不都合をもたらしたのではないでしょうか。即時に値下げに踏み切ったところが在庫分についての大幅赤字を余儀なくされる一方、在庫に足をとられて値下げが遅れたところは多量の減販に見舞われたからです。しかし、この混乱は業界のリストラクチャリングを加速する契機になるかも知れません。
 事実フルサービスSSの中には、既に価格競争から距離を置いているところが多く、「やれるところまでやって……」というスタンスの商売に変わってきている様に見受けられます。「もう疲れた」というお店も増えています。また、一部のセルフサービスSSは、「マージンを削って量を追いかけるのは、一休みしよう」と、低マージン路線からの転換を模索し始めています。


 価格と販売数量の関係は、マーケティングでは「スケール・カーブ」という下のグラフを使って説明します。

    (グラフ)

 他の条件が同じなら、価格を安くすればするほど販売量が増え、逆の場合では減少します。但し、価格を下げ続けても数量が無限に増えるわけでなく、あるレベルまで来るとカーブが横這いになって、販売量が一定になってしまいます。グラフのカーブは「臨界量」という概念を教えてくれているのです。
 激しい価格競争が収束するのは、臨界量に達してきたからだと云えます。しかし、普通のお店がそこまで追随できずに競争戦線から離脱してゆくのは、「仕入れ力」に限界があるからかも知れません。


「今最も元気のいいSSは何処ですか?」
 私はよくセミナー会場でこう質問させていただきます。すると全員が一致して、「どこそこのPB、広域業者のセルフだ」と教えてくれます。そこで、これらの元気のいいセルフSSの「将来的な市場適応性」などについて、出席者の皆さんと討論します。彼らの掲出している価格レベル、施設の規模・内容、従業員の動きなど外面的な部分から、戦略を読み取ってゆきます。
 そうすると、大変興味深いことですが、マーケットをリードしている彼らが見据える「将来のビジネス像」が見えてきます。場合によっては、彼らが想い描く壮大な野心までもが見えてくるから不思議です。その反面、とても残念なことですが、一般のSSが「旧い体質を引きずりながら対峙している」ことも浮き彫りになってきます。




 前置きが長くなりましたが、ここからは本題である「現下の混迷する市場を生き抜く方策と知恵」を求めて行く一つの方向として、「失敗、過ち、ミス」など、「負」の視点から、私の考えるところを、以下展開してまいります。お店の参考になれば光栄です。

 先ず、お店が今日まで存続し得たということは、ある意味において「経営陣の皆さんが、それぞれに勝利者であった」と云えます。多くの試練を自己の才覚で乗り越えてこられたからです。つまり、多くの経営上の不都合、失敗、業務ミスに遭遇したにも関わらず、それらを見事に克服され、経営手腕を高めてこられたからだと確信します。お店の業容の格差は、その中での学びの度合いの大きさや深さによるものだと考えれば納得がゆきます。

 ここで読者諸氏には、お店の現状を想い描いてみてください。
 果たして、成功しているのか、失敗の中をさまよっているのか……。
 上手くいっていないとしたら、どこに原因があるのか……。
 お店の内側にあるのか、それとも外側にあるのか……。


 内部の問題として多いのが、「従業員のモチベーションが低い」こととか、「販売戦略が的を射ていない」などです。しかし、市場の激しい価格競争に対応できない「仕入れ力の弱さ」が最大の敗因かもしれません。
 何がそうさせるのか。煎じつめれば、競争相手が今までのこちらの商売の仕方、考え方と違うところから攻めてきているのに対して、こちらが従来と同じ戦い方をしているからではないでしょうか。


 失敗には注意しなければならない特徴があります。それは、連続して起こるということです。
 ミスがミスを呼び、不都合なことが継続・拡大し、習慣化してゆきます。業績が低迷し始めると長期化するのはその為です。
 失敗を繰り返さないためには、その起因となっているところの真相を突き止め、多角的に分析することによって、その示唆するところの改善・改革に取組む以外に方法はありません。


 しかしながら、人を替えるにしろ、仕入れ先を変更するにしろ、また販売政策をより積極的にするにしても、経営者の内面、つまり価値観のようなものに修正を加えていかなければ踏み出せないという側面があります。なぜなら、経営者の人格、性格、人生観などがお店に強く反映されているからです。これが、経営改革の一番難しいところであります。

 一概に失敗といっても二種類あると、私は考えています。
 一つは、何もせずに招く「消極的なもの」です。この場合、当事者が自覚する度合いが低いため、現状を好転させてゆくエネルギーが乏しく、立ち直りは難しいでしょう。
 もう片方は、業績を上げよう、改革しようと取組んだにも関わらず、上手くいかなかった「積極的な失敗」です。ここには、現実の厳しさ・己の甘さなど、多くの教訓を学び取るチャンスがあります。これに悔しさも加わり、目指す経営改革が推進力を増してゆくのを、私は何度となく見聞しています。


 他の世界ではどうでしょう。
 自然界にいる動物は本能によって、同じ過ちを繰り返しません。そんなことをやっていたら、獲物にありつけず、下手をしたら命を落としてしまうからです。彼らにとっては、毎日が真剣勝負の連続で、生き抜くための競争の繰り返しです。
 スポーツ界がこれに近い生存競争をやっています。選手達は、試合・競技に勝つため、記録を破るために、必死になって自分の技を磨き、己を鍛えています。ほとんどの時間を、自己の欠点、よくやるミスの克服に費やしています。事実、監督やコーチも、彼らの抱える問題点を厳しく指摘し、その修正・矯正の指導に全力を傾けています。試合に負けた後に、その敗因を徹底的に検討・分析しているのをよく見かけます。そこに、次に勝利する教訓があるからです。


 では、SS現場ではどうでしょうか。これらのプロセスを省略しているところが多いのではないでしょうか。
 確かにスポーツとは違って、従業員への「上手くなるんだ、成長するんだ」という動機付けは難しく、アドバイス・指導・訓練がなかなか有効に働かないという事情があります。しかし、ここで諦めていたら、市場からの退場を強いられるでしょう。
 そうです。ここが、業績低迷から脱け出せるか否かの分岐点なのです。
 理解を深めていただくため、部下のモチベーションに失敗したマネージャーが、それを乗り越えて、やる気を起こさせてゆく事例を紹介いたします。参考になれば、嬉しく思います。


●業績低迷ケース
「お前の実績が悪いため先月は目標を達成できなかった。社内ランクも下から△番目で最悪だ」
「お前は経験もあり、実力があるんだから、もっと頑張ってもらわないと困るじゃないか」
「根性を入れて、先頭になってやってくれ」

●業績好転ケース
「俺はこのSSを◎のようなレベルに持っていきたいと思っている。そのために、目標を達成する努力を俺なりにやっている」
「残念ながら、お前も頑張ってくれたが、先月は目標を達成できなかった」
「お前が・・のように動いてくれた、今月は取り返せる」
「今月の頑張りを期待している。一緒に頑張ろう」

●マネージャーの教訓
「部下は注意されると、神妙に聞いてはいるが、内面では反発を感じていることが多い。こんな時は、行動を変えようとはしない」
「協力を求めると、心を開き始める。やってやろう、自ら変わろうという気持ちがわいて来るようである。部下が行動を変えるのは、納得したときだけだ」



 セルフサービスが解禁されて10年が経ちます。SS業界の様相は一変しました。しかし、経営のあり方について申し上げるなら、まだ「旧い体質を無意識のうちに振り回している」様に、私の目には映ります。言い換えれば、フルサービス時代の慣習に浸っておられる様に見受けられるところがあります。
 その中でも、特に、「元売」と「お客様」にまつわるところではないでしょうか。
 何故なら、「仕切り価格」と「油外商品のお買い上げ」に対するお店の不満が未解決なままに推移しているからです。
 経営陣の方々には、この二点については猛省していただかなくてはなりません。ここを改革しない限り、前述の「元気のいいセルフSS群」に、益々隅っこに追いやられてゆくでしょう。


 再度申し上げます。「なぜ、うまく行かないのか」、そこにメスを入れない限り、お店の存続は困難です。重ねてきた失敗の原因を見つめてください。そして、その真因を突き止め、思い切って改革に乗り出してください。そうすれば、新しい市場に適応できる「お店、SSの形」が出来てきます。誌上より、益々のご精進を期待しております。

 最後に、「ミスと失敗の違い」について、想うところを記し、春季号の結びとします。

●失敗とは、挑戦したがうまく行かなかった行為の結果をいう。ミスは、起きてはいけない、偶発的な「危険なできごと」である。ミスは失敗の予兆でもある。

 次号のこの誌上においては、「混迷市場を生き抜く経営改革」の第3章として、油外商品販売を中心とした「アプローチ・会話力を磨く」をテーマに自論を展開してゆく予定です。ご期待ください。

                                  実践SS研究会  端山 忠彦

                  =『SS Family』誌 2008年初夏号に掲載=