端山忠彦の実践SS学

       シーズン4   混迷市場を生き抜く経営改革




       終 章 アプローチ・会話力を磨く 【2008年10月25日up



 石油業界にとって激変の2008年も残すところ3ヶ月になりました。
 振り返ってみると、4-5月の暫定税率騒動、凄まじい原油価格上昇、相次ぐ大幅な転嫁値上げに右往左往しました。結果としては、「忙しく働いた割には儲かってない」というのが、この半年間の経営陣の方々の感慨であろうか、と推察いたします。原油は「売り手市場」、ガソリン小売りは「買い手市場」というねじれ構造が、その辺の事情をよく物語っています。


 津波のような値上げが、ガソリン需要を5%ほど奪い去り、これが小売り市場を軟弱なものにしています。販売業者にとっては、まさに「元売と消費者との挟み撃ち」に遭ったような閉塞感が、この先も続くと覚悟しなければなりません。大型セルフSSの攻勢、15円/リッターにも及ぶ商圏内市況差、そして油外収益の長期低落という要因が、SSの撤退・廃業に拍車をかけてくるでしょう。

 このようなネガティブな販売環境の中ではありますが、SS業界にとって朗報があります。日本を代表する元売2社が、卸価格の値決め制度を「コスト積上げ方式」から「市場価格ベース」への変更に既に動き始めています。欧米では既に一般的なことですが、「大手、小手を問わず同一価格を適用する」と、画期的な踏み込みです。

 この辺の事情を深読みすると、これら元売の価格運用が場当たり的な状況に陥っていることがよく分かります。事後調整、市況特価、業転連動仕切りなどに膨大なエネルギーを費やし、しかも不透明で非生産的な運用に終始しているのでしょう。「大量取引=優遇価格の適用」では、元売自身がこの先収益性を高め、強固なネットワークを築いて行けないとの認識から、背水の陣で取り組んでくるでしょう。「大手特約店との取引改善なくして改革なし」との覚悟が感じられます。

 新価格制度が発表通り運用されるなら、卸価格の絶対レベルが下がるわけではありませんが、大手、中・小手のSSが価格面で同じ土俵上での勝負となるわけです。真に力のあるSSしか勝ち残れません。「大手が必ずしも勝ち残るわけではない」とのクリアーなメッセージが伝わってきます。

 また一方、「ある外資系元売が、日本の流通市場から実質的に撤退するだろう」と伝えられています。事実とすればメジャーにとっては、最早ダウン・ストリーム部門が魅力あるビジネス領域ではなくなっていることを象徴する展開です。

 これら元売の「旧い衣を脱ぎ捨て、再出発だ」という大胆な取組み、変身をみると、SS業界が次なる競争環境に向かって、既に動き始めていることを強く感じます。



 さて、前回この誌上で、今後の経営課題が「仕入れ改革」と「従業員の育成」にあると申し上げました。前者については、前述のとおり、改善される見通しがつきました。残るは「従業員の育成」です。

「従業員は育たない」
 これが私の実感です。その理由は、セミナー活動をやっていて感じることなのですが、若い人たちに「学び、成長する、意欲が欠如している」としか言いようのない出来事が余りに多いからです。「よしっ勉強して一人前になってやろう」という波動が伝わってくる受講者は、せいぜい全体の5%位です。


 従業員の販売力に依存したSS運営形態を継続するか、「施設と価格」という物理的な要因をベースとした形態を採るか、経営の安定化という観点から再検討する必要があります。

「従業員の働きに依存する」経営は、既にご経験の通りで、なかなか期待する業績が上がっていないのが現実です。今後反転し、人件費以上の油外収益を実現できるSSは、ほんの一握りでしょう。

 一方、「施設と価格で売る」ベンディング・マシーン商法が安定的な利益を稼ぐビジネス・モデルとなる日は、そう遠くないでしょう。そのときの従業員の仕事は、安全管理、機器の操作説明、施設の清掃などの受動的な業務に移行しています。つまり、人件費を極限まで圧縮した「ローコスト・オペレーション」が、主流になっているかも知れません。

 とはいえ、金儲けだけが商売ではなく、若い人たちを世の中で通用する一人前の「仕事人」に育てるのも、ビジネスの面白さ、遣り甲斐の一つであると、私は思っています。当然、経営陣の方々の社会的な責務の一つでもあるでしょう。

 わずか「5パーセント」の確率ですが、その困難なことに挑戦し、成功させて行くことが経営陣の使命ではないでしょうか。その気概が萎えてきたなら、「然るべき後継者にバトン・タッチすべき」と考えますが、いかがでしょうか。

 従業員は店頭活動、つまりお客様との接点で成長して行きます。そこを充実させることなくして、一人前になることはありません。商品も売れません。買っていただくことによって成長して行くと言ってもいいでしょう。
 その勘どころが、「お客様へのアプローチ力、会話力」にあります。前述の通り、従業員の育成は「労多くして報われることの少ない」仕事ですが、そこを磨いてやることによって、お客様と接する仕事に楽しさを感じる従業員が、必ずや多くなるでしょう。


 そんな思いを込めて、今号では「アプローチ・会話力」を、どの様に指導すれば効率よく磨くことができるのか、私の考えるところを以下展開してまいります。読者諸氏の参考になれば、うれしく思います。



 商品販売の基本がお客様とのコミュニケーションにあることはどなたも異論はないでしょう。 言い換えれば、「お客様の言っていることを正しく理解する」、「販売員の説明、提案、アドバイスなどを、お客様に正しく理解してもらう」ことが基本となります。
 そのためには、先ず「お客様を知る、お客様に知ってもらう」が、必須です。ある程度分かっている事でも好意を持って質問し、お客様に答えてもらう。そうすることによって、会話が一方通行にならず「行ったり、来たり」します。その過程で、お客様が何に関心があるのか、どの様なことに気を使っているのか、こちらの言っていることを理解されているかを、把握することができます。


 これを「ヒアリング」と呼んでいます。
 難しいところは、「お客様がなかなか本心を出さない」、「警戒心を持たせてしまう」ところです。「SSのために・・・、自分のために・・・・」でアプローチすると、間違いなくこの落とし穴に嵌まってしまいます。


 しかし、「お客様の気持ちをもっと知ろう」と考え、お客様の立場に立ってアプローチしてゆくと、「俺(わたし)のことを分かってくれている」と感じ、こちらの説明、質問に積極的に応えてくれるものです。その結果は、経験されている方も多いでしょうが、次のような展開を期待することができます。
「クルマを任せてくれる」、
「相談が多くなる」、
「提案した商品を親身になって検討してくれる」、
「お客様の要求が高度化、高額化してくる」、
「こちらも勉強するようになる」、
「お客様を紹介してくれる」


 そんなこと「当たり前のことじゃないか」とおっしゃる経営幹部の方々が多いでしょう。しかし、お客様と屈託なく内容のある会話ができているのは、極少数の従業員だけです。
 それはなぜなのか?
 多くの従業員は断られたら恥ずかしいし、知識のなさ、技術の低さをさらけ出すのが怖いからです。最大の原因は、「従業員が<納得するやり方>を教えられていない」ところに限りなく収斂してきます。


「お客様が知りたがっていることが何かを考えていない」、
「お客様が聞きたがっていることを話さずに、自分が言いたいことばかりを話している」、
「パンフレットにある、<ありきたり>の説明をするのが精一杯で、自らが咀嚼した言葉で喋れない」
 このような接客が日々店頭で繰り返されています。従業員が育たないのは当たり前と言わざるを得ません。経営陣の方々が「教え続ければ、必ず一人前になる」と確信されることを願ってやみません。


 その具体的なドリルとしては、従業員の人たちを2人一組にして「ロール・プレイ」で、お客様へのアプローチ・会話の仕方を徹底して鍛えることをお勧めします。
 経営幹部の方々の役割は、そのロール・プレイが、
「理屈が通っているか」、
「流れが自然か」、
「お客様が応えやすくなっているか」、
「お客様に喋らせているか」、
「お客様を知るため、真摯に質問がなされているか」、
「警戒心を持たれない形になっているか」、
「お客様にゆとりを持たせる形になっているか」、
「しつっこくないか」、
「次に繋がる形になっているか」
 これらの基準を満足させる技量になるまで、妥協せずに練習させ続けることです。


 この訓練で合格できる従業員は20人に1人です。しかし、幹部の人たちの情熱次第で、その比率は高くなってゆきます。その根っことなるところを示唆させていただき、「混迷市場を生き抜く経営革新-終章」の結びとします。

 唯一「お客様の立場に立って・・・」の接客姿勢が、「お客様のために・・・」、「お店のために・・・」両方の目的を満足させる。

 これら 3つの接客姿勢の相互に関連するところを、経営陣が再構築し、自らの言葉で従業員に叩き込む


 次号においては、「質問力」をテーマとして自論を展開させていただく予定です。ご期待ください。


                                  実践SS研究会  端山 忠彦

                  =『SS Family』誌 2008年10月号に掲載=