端山忠彦の実践SS学

             シーズン5   漂流しはじめたSS業界


         第一章 質問力・説明力を磨く 【2009年2月14日up



  昨年の夏場より米国発の金融危機に始まる、世界的な景気急減速の影響を受けて、石油需要が実需、予測ともに減少に転じました。
 その結果、上昇を続けていた原油価格が一転して降下を始め、
11月には最高値の三分の一を下回るレベルまで暴落してきたことは、記憶に新しいところです。

 この原油市況に呼応して、国内のガソリン市況も坂を転げ落ちるように、瞬く間にリッター当たり70円前後もの値下がりです。
 同時に、この過程で、ある種の混乱と痛みを伴った新たな変化が、業界内に起こりつつあるのを感じます。


 大型セルフSSが顧客の確保を狙って先取り値下げに走りましたが、マージン確保の気持ちが強い多くのフルSSと弱小セルフSSは、仕入れ価格を確認してからの動きとなりました。
 特に、弱小フル
SSは需要減少の煽りをもろに受けて、平均的に二桁に近い率の減販に追い込まれるなど、苦しい状況に陥りつつあるのではないでしょうか。

 これら一連の市場動向を見ていると、業界がこれまで基準としていた拠り所を失い始めたように見受けられます。
 つまり、約10年前にセルフ・サービスが解禁されて以来、市場は混乱の一途を辿り、今また仕切り価格体系が「コスト・ベース」から「リム連動方式」へ改革され、市場が新しい価格形成メカニズムを模索する、不安定な状況にあるからです。


 価格が下落する局面にあっては、「月極め」より「週決め」が有利です。「コスト」より「マーケット」ベースの方が競争力のある対応が可能です。現状、この二つの方式が混在しているわけですから、業界としては甚だ統一性を欠いた状況に陥っていると言わねばなりません。
 石油組合の流体活動が説得力を失っています。販売店は、元売との関係が脆弱になり、孤立し始めています。

 まさに、
SS業界が「漂流をはじめた」といっても過言ではないでしょう。

 当然のことながら、「自分で考え、行動し、解決する」、自己責任経営の重要性が増してきます。この業界漂流が「篩(ふるい)」となり、お店の生存・競争力を峻別してくるもと予測されます。

 現在、全国に約4万3千ヶ所のSSが営業を続けており、その内8千ヶ所がセルフSS、3万5千ヶ所がフルSSだと推定されます。
 前述の「篩(ふるい)」の対象が、フルと弱小セルフSS
であるだろうことに、大きな異論はないでしょう。その最大の要因は大型セルフとの価格差です。特にフルSSの場合、10円/リッター前後が平均的なところです。

 この価格差を「縮小してゆくのか」、「納得していただくのか」、フル
SSにとっては、存立を大きく左右する経営課題でもあります。これが販売数量と人件費に起因することは、ご承知の通りです。

 例えば、大型セルフSSが500キロ販売し、人件費が700千円/月なら、リッター当たり「1.4円」。同様に、フルSSが100キロの1,000千円/月なら、「10円/L」の人件費となります。フルSSは「8.6円/L」のコスト高です。これを油外販売でカバーするのは、難しいと云わざるを得ないでしょう。

 お客様から「どうしてあそこのセルフSSと比べて<10円>も高いのか」という不満めいた質問を、従業員の人たちがよく受けています。「あちらはセルフ・サービスだから・・・」と説明している光景をよく目にします。
 お客様も、それ以上突っ込んでこないので、「納得してくれた」と理解しているようですが、果たしてそうでしょうか。
 お客様の数が減少している現実をどの様に受け止めるかです。


 お客様はサービス形態の違いは承知の上で来店されているのですから、先の説明だけでは、「なるほど・・・」ということにはなりません。
 前述の「8.6
円/Lの差」を具体的に説明できれば、説得力が一気に増してきますが、簡単ではありません。
 しかし、ここで躊躇していてはダメです。「私の接客サービスは8.6
円/L以上の値打ちがある」との気概を持つのです。
 それでこそ、初めてセルフ・サービスに立ち向かってゆけるバックボーンができて来ると考えますが、読者諸氏はどのように思われますか。




 さて、ここからは、お客様に「なるほど・・・」と思っていただくために、「適切に質問し、説明する」ことの重要性について、詳しく検討を加えてまいります。前号の「アプローチ・会話力を磨く」と併せ、お店の接客サービス力の向上に役立てていただければ幸いです。

 お客様は、商品を購入するに当って、色々と思いを巡らせます。それは、無駄なもの、意味のないものにお金を使いたくない心理が働くからです。そのため、購買行動の初期段階では、強い「警戒心」を持っておられます。
 販売員がアプローチしてゆくと、「何か売りつけられるのではないか」と身構え、そこを過ぎると「何だろう」と勧められた商品に注目されます。
 そして興味を示され、「なるほど、この様なものがあるのか」と、こちらの説明に耳を傾けてくれます。
「これを買ったらどうなるのかな」と想いを膨らませ、手にした自分の姿を連想し、
「欲しいな」という欲望の階段を登ってゆかれます。
 同時に、「ちょっと待てよ、もっと安くてよいものがあるかも・・・」とブレーキをかけ、他と比較し、検討を加えられます。
 販売員がハラハラ、ドキドキする瞬間ですね。
 そして、ここを乗り越えると、購入を決心されるわけです。


 お店で展開しているセールス・トークなどを、想い描いてみてください。例えば、オープン・ボンネットとしましょう。
 お客様に勧めた瞬間に、何か売ろうとする「殺気」を感じとられ、その先へ進めないというのが多いと推察します。


 この殺気を最小化することができれば、高い確率でお客様を「連想、欲望」という段階に誘導できます。一気にヒット率が向上するでしょう。
 しかしながら、このことを意識し、工夫した接客活動に励んでいる従業員が何人いるでしょうか。案外少ないのが現実です。


 多くの従業員は、「点検、報告、商品の勧め」というステップでアプローチしています。
 典型的に警戒心を生む形ですね。お客様を「観察し、質問する」ステップが抜けているため、お客様を把握できていないからです。
 先ずは「何を見ておられるか、何に興味を示されるか」に注目する必要があります。そうすれば、自然と次なる「的を射た質問」ができ、セールス・トークに流れができて来るでしょう。


「このクルマで何キロ走っているんですか」、
「25千キロぐらいかな」、
「そんなに走っているようには見えませんね、手入れがいいんですね」、
「そうかな・・」、
「どんなエンジン・オイルを使っているんですか」、
「知らないよ、ディーラーに任せっぱなしだから」、
「このクルマにピッタリのオイルがあったら使ってみる気持ちがおありですか」、
「燃費が良くなったり、エンジンに良いのなら考えてみるよ」、
「今入れておられるオイルを診てみます。ボンネットを開けてください」・・・・・


 このアプローチは、お客様が「答えやすい質問」から始まり、「余り話したくないが、従業員が知りたい質問」へと進み、警戒心をもたれることなくオープン・ボンネットへと展開しています。
 この後は、お店でやっておられる通り、「教える・気づかせる」、時には「不安・疑問を持たせる」ことによって、お客様は真剣になってきます。
 例えば「こちらが教えたくない」仕入れ値、「相手が話したくない」現在購入している場所や値段などに会話が進むなら、お客様が購入する可能性は極めて高くなってゆくでしょう。
 それほど「質問力と説明力」は、販売に携わるものにとって重要な業務能力なのです。従業員の皆さんが肝に銘じ、その研鑽に励まれることを願って止みません。




 SS業界は、これから本格的な「淘汰期」を経験し、次なる「変革期」へと進んでゆくでしょう。その間、経営陣としては不安が募るところです。
 しかし、明確なことがあります。
 これ迄、お客様と従業員の人たちがお店を支えてきてくれました。今後も、この原則に些かの変わりもないでしょう。


 最後に、その接点となる核心のところを紹介し「漂流をはじめたSS業界 第一章」の結びとします。読者諸氏の一層の奮闘を切に期待しております。

<お客様を楽しませることが、接客サービスの使命である。その質の高さが利益を生む。経営陣の発想を変えない限り、この高さは変わらない>

 次号においては「学習するお店が伸びる」をテーマに、持論を書き連ねてゆく予定です。ご期待ください。

                                  実践SS研究会  端山 忠彦

                 =『SS Family』誌 2009年新年月号に掲載=