端山忠彦の実践SS学 シーズン5 漂流しはじめたSS業界 |
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第二章 「異質競争への挑戦」 【2009年7月10日up】 現今の日本の景気後退が、“ハーフ・エコノミーへの転落”を危ぶまれるほど実体経済を弱め、我々の業界でもその余波が、需要の減少・市況の低迷・マージンの圧縮などの形で、表面化してきました。これに業界特有の混乱が加わり、まさに嵐の中を漂流する帆船のごとき極めて不安定な局面へ突き進みつつあると言えるでしょう。 特に、「スーパー・セルフ」といわれる大型セルフSSの侵攻が、それを加速させています。 彼らの販売価格は、これまでの量販型セルフSSとも明らかな一線を画すほどの超低レベルです。これには脅威すら感じます。市場競争の次元が大きく変わりつつあると云っても過言ではありません。現下の情勢は、「如何したら、お店を防衛してゆけるのか」という“重いメッセージ”を発しています。 昨年の10月から元売ごとに新しい仕切り価格制度、いわゆる業転価格に連動した方式が順次導入されてきました。多くの販売店は、“業転”という言葉に強く反応され、「安くなるんだ」という気持ちを抱かれたことを、私も直接・間接にお聞きしました。 しかし、この半年間ほど実際に試行された感触はいかがでしょうか。私の知る限りでは、その有効性に疑問の声をあげておられる店主の方が、圧倒的に多いようです。この人たちの評価は概ね次の通りです。 ・「実際の小売価格とリム(業転)価格が連動している範囲は小さいな」 ・「有利かどうかは、付加される“ブランド料”などの値幅によるな」 ・「この付加部分が大きいと全く魅力がないね」 ・「元売間で付加部分に差があるなど、仕切り制度が異なるのは、市況混乱の元凶になるな」 ・「選んだ制度の変更が一年間できないのは、不条理だね」 現在、業界の中に、コスト積上げ・市況対応・リム連動と三つの仕切り制度があるのは、ご承知の通りです。いずれが販売店にとって有利かは、残念ながら、分かりません。なぜなら、その時々の市況、需給状態によって有利・不利が異なるからです。ここが厄介なところだといえます。 小売市況というものは、ご経験の通り、“安い玉”を握ったものがリードしてゆきます。より多く売ろうとするわけです。 ところが、“高い玉”しか手当てできないものも、競争上自己のマージンを削って、プライス・リーダーに追随してゆかねばならないところがあります。 そうなると、需給がタイトな時は、業転価格が高くなるため、リム連動が不利になります。逆に緩んでいる時は、市況対応型が不利になるでしょう。 しかし、元売と販売店の二者間でみるなら、一年間の平均仕切り価格は、いずれの方式であっても遜色のない範囲内にあると想定されます。それは、その様にデザインされているからです。 ここでもう一つ、お客様とSSの視点からみてみましょう。 お客様は、一般的に、値段の安い店を探して移動する傾向があります。ですから、SS側は販売価格の上げ下げするタイミングに神経を使います。タイミングを見誤ると、お客さんを失うか、得べかりし利益を取り損ねるか、どちらかの「機会ロス」が発生するからです。 よって、常にお客様の要望に応えられる安い仕入れの実現が、商売繁盛の秘訣であることは、私が申し上げるまでもありません。つまり、生き残るためには、その時々の有利な仕入れ方式を柔軟に使い分ける、お客様の「購買代理人」的な仕入れ姿勢が、求められるわけです。 では、“仕入れ”のことはこれぐらいにして、現状における経営上の難問、熾烈化する市場競争を生き抜く具体策へと、議論を進めてゆくこと致します。 冒頭で申し上げたとおり、市場混乱の元凶の一つは、これまでには存在しなかった異端的な販売業者が登場したことにあります。これが市況の低下を招き、8−9割のお店が赤字ではないかと報じられるほど経営環境が悪化し、昨日までの繁盛店が一夜にして衰退への道をころがり始める現象が出ています。市況の混乱が大体こんな具合に進んできた、あるいは進み始めている、市場が多く見られます。 ・スーパー・セルフSSが開店する ・オープン価格は、信じられないような超安値。こちらの仕入れ値より低い ・どこから集まってくるのか、お客さんが長蛇の列をなしている ・覗きにゆくと、見知ったお客さんが結構いる ・周辺SSはオープンセール中は“止むなし”と静観している。そのため店内は閑散としている ・オープンセールが終了する。通常価格の掲示にかわるが、依然3−4円安い ・周辺SSが、販売減少を最小限にすべく、ほとんど同価格で追随する ・スーパー・セルフSSは、「ここまでおいでよ」とばかりに値段を下げてくる ・また、数店のSSが、それに追随する さて、この悪循環をどう克服して行くか。 どうしたら、彼らから距離を置いてお店を維持していけるのか。 これまでになかった重い経営課題が、経営陣の方々に圧しかかってきています。 先ず、なぜSS業界における価格競争には際限がないのかと考えてみます。 それは、扱っている商品にブランド間の品質差ほとんどない、いわば「同質競争」だからであると分析されます。 それ故に価格の競争に傾くわけですが、従業員を鍛えることもいらない、簡単な手段であるからともいえます。 一方、お客様はSS側の対応が何処も同じなら、値段の安い方を選ぶ傾向があります。だから、好むと好まざるに関わらず、SSは顧客数の維持のために、価格競争を避けて通ることはできません。 従って、価格競争はしなければならない。ただ、“その領域だけ”というのが問題なのです。 私の研究会の会員で、かつて優秀なフルSSの経営者だった人がいます。その人は今、SSの一顧客です。彼がSS選びについて、こんな感想を語ってくれました。 ・「やはり、安くて大きくて愛想のよいSSに入ってしまうね」 ・「もし従業員の中に知り合いがいれば、気安く話すことができるので、そちらに行くね」 ・「こちらを客と認識して対応してくれると、うれしいからね」 私は、この感想の中に、宿命的な同質競争から抜け出すヒントがあるように思えるのです。 スーパー・セルフSSの強烈な物量作戦に対し、お店を防衛して行く上で、彼らとは異なる領域を補強することが、極めて重要な経営テーマとなります。それを「異質競争」と、私は呼んでいます。異質とは、“他と違う”ことを意味します。 たとえば、セルフSSを利用されるお客様も、最初は、自らすすんで従業員との接触を求めようとはしないかもしれません。しかし、給油でSSを訪れたときに、従業員と知り合いになっていたとしたら、どのように発展して行くでしょうか。 「あのセルフSSには、“知り合い”がいる」、 「わざとらしくない挨拶をしてくれる」、 「心安く話しかけられる、・・・」となっていくでしょう。 その先には、「そんなに価格に遜色がないなら・・・」ということにもなることでしょう。 ここに、スーパーSSとは違った雰囲気が、そのお客様との間に生まれてきます。それがお客様にとっては、なんとも心地よいのです。 その“異質なる”ものが、果たしてセルフSSで創り出せるのか。その第一歩が、「お客様を名前で呼ぶ」というところにあると、私は確信し、実践SS研究会の会員SSに勧めているところです。 ・「いらっしゃいませ。いつも来店ありがとうございます」 ・「何かお困りのことはありませんか」 ・「今のところ、ないなあ」 ・「ところで、私は・・・と申しますが、お客さんのお名前は何とおっしゃるんですか。差し支えなかったら教えてください」 ・「どうして、そんなこと聞くの」 ・「お客さんを覚える近道だからです」 この活動によって、50−60%のお客様を名前で呼べる“知り合い”になるなら、固定化率は大幅に上昇し、店頭の雰囲気が一変します。また、当然のことながら、油外商品・サービスの依頼が増大します。何よりも、スーパー・セルフSSからの脅威が心理的にも和らいでくるでしょう。 しかしながら、取り組まれたら分かりますが、この活動はそう簡単には定着しません。なぜなら、従業員の意識を変えなければならないからです。 今までと同じ枠の中で動いている限り、「他店でできないことは、自店でもできない」のは当たり前です。お店に携わる人たちの意識の変革なくして、「異質競争」には参戦できないといえます。 言葉を変えて申し上げると、“オンリーワンになる”のと同じ心構えが必要だからなのです。これを為しえてこそ、次なる戦いのステージへと駒を進めることができます。こんなことから、経営陣各位の「異質競争への挑戦」を願って止まない次第です。 最後に、この難局に立ち向かう心構えとして、先人の核心を衝く教えを紹介し、「漂流をはじめたSS業界―第二章」の結びといたします。読者諸兄の健闘を、誌上より期待しております。 <人間、戦うか、逃げるかである。その前に、追い込まれる局面がある。創造的な知恵は“追い込まれた”時に搾り出されてくる。知恵は困らねば出てこない。死ぬほど困れば、必ずいい知恵が出てくる。しかし、往々にして、そこまで自分を追い込まない。だから、ブレーク・スルーできない> |