端山忠彦の実践SS学

          シーズン5   漂流しはじめたSS業界


          三章 「必勝の型(かたち)を追求する」【2009年10月15日up




 世界同時不況という嵐の中で、大型船が沈みゆくように、米ゼネラル・モーターズが遂に経営破たんしました。
 
GMの危うさについては、20年余前から「成功がもたらした失敗」の代表事例として、ビジネス・セミナーなどでよく議論されていました。「長期的な視野にたって、市場の変化に対応し、使命を全うする」という教訓を学んだように憶えています。

 SS業界も例外ではなく、熾烈な市場競争の中で、業績が低迷する多くのお店が廃業へと追い込まれています。GMの轍を踏むことなく、いかに生き抜いてゆくか、経営陣の手腕とリーダー・シップが問われるところです。

 市場で勢力を伸ばしているのは、“フリート”とよばれる広域販売業者、元売資本参加の大手特約店・代理店、商社系販社、有力PB業者などではないでしょうか。彼らは超大型セルフSSを次々とオープンさせ、攻撃的な価格政策で販売シェアーを拡大させてきています。この影響でしょう、SS閉鎖の急増が目立ってきました。生き残りに必要とされる「生存条件」のハードルが一段と高くなっていることが判ります。

 廃業・撤退に追い込まれるお店には共通する特徴があります。
「立地、敷地面積、設備で劣る」、「販売戦略が明確でない」、「油外商品販売が弱い」、「市況対応が遅い」などがそれですが、蓋然性の高いことばかりです。しかし、何故このような事態になってしまったのか、その要因に注目する必要があるでしょう。そこに、お店がこれからの激甚な市場競争を生き抜いてゆく上での重要なヒントがあるからです。


 先ず、その一つとして、最近よく話題にされる「小型改造セルフSSの閉鎖」を取り上げてみましょう。
 一般的な指摘は、「セルフ
SSの成功条件」から外れた無理な投資の結果であるというものです。つまり、最初の2−3年は順調にいったが、周辺に規模の大きいセルフSSが増えてくるに連れて業績が悪化し、採算ラインを下回ってしまったケースです。
 しかし、こんなことは改造を計画した時点で容易に予測できたことです。最初から投資効果が得られる期間を3−4年と見積もって簡易改造をし、予測した損失がはじめる前に閉鎖し経営を前進させているお店を、私は数多く知っています。


 市場動向を見極めて適切に対処できたお店と、そうでなかったお店との差が、天と地ほどの違いになっていることが分かります。
 お店の経営には、その時々の「必勝の型」があります。
 それを軽視して無理な営業を続けていると、お店に余力がある間は大事に至りませんが、最近のように下り坂の市場環境下では致命傷へと発展してゆくと云えるでしょう。
 そんなことから、経営陣の方々には、どんな場合にあっても「必勝の型を追求する」姿勢と強い精神力をもって、競争に立ち向かわれることを願って止まないわけです。


 そのテーマの一つ、燃料油の“仕入れ問題”へ議論を発展させてみましょう

 前夏季号において、元売の新仕切り方式に関連してお店にとっての基本姿勢を検討しました。残念ながら、その後のガソリン販売マージンを2−3円/Lも減少させているお店が多いのに驚いています。誰が、何がそうさせているのかをしっかり検証する必要があります。それが、今後の経営改革の原動力になってゆくからです。

 先に申し上げた大手販売業者の大型セルフSSが小売り市況をリードしている現状は、ご存知のとおりです。
 確か元売は、新しい仕切り制度を導入する時に一般の特約店・代理店に対し、これらの大手販売業者とも同じ土俵で競争にできる「透明性の高い制度」だと公言していたはずです。
 しかし、その実態を個別にチェックしてゆくと、残念ながら、元売と大手販売業者の間で「不透明な取引」がなされているとしか思えない、仕切り運用がなされていることが判ります。


 ある市場で繰り広げられているガソリン小売価格を、フルSSを基準にSSタイプ別に再現してみることにします。

・一般フルSS   : A円/L(元売正規仕入れ+8円)
・大手大型セルフSS: A円−8円/L(=B円/L
・中規模セルフSS : B円+2円/L(=A円−6円/L
<参考>
・業転価格(持届け): 元売正規仕入れ−6円/L

 簡単に、私なりの解説をしてみると、こんな風に要約することができます。

 大手の大型セルフSSは一般フルSSの仕入れとほぼ同じレベルで売っており、中規模セルフSSがそれより2−3円ほど高値で追随。
 フル
SSは価格競争から距離を置いているものの、これ以上の販売量減少を防ぐため8−10円/L程度のマージンで頑張っている。
 深刻なのが一般的な中規模販売店のセルフ
SS。元売正規仕入れならマージンは2−3円/L。苦しい値幅での商売を強いられている。
 逆に、優位な展開をしているのが大手販売業者の大型セルフ
SSプライス・リーダー損をする値付けをしないし、販売量とマージンの両方を満足させる「必勝の型」で臨んでくるから、5−6円/Lのマージンを確保しているはず
 よって、中規模販売店より3−4円有利な仕入れを実現していると想定しても、大きな間違いはないと思われる。解りやすく業転価格に換算すると“プラス1円/
L”前後のレベル。

 これら大手販売業者は、元売から月間数万キロ以上の燃料油を引き取り、また元売が期待する超大型セルフSSを着実に開発しています。元売の販売シェアーの維持・拡大に大きく貢献していると云えるでしょう。当然、これを武器にして有利な仕入れ交渉を展開し、納得のいくレベルを引き出しているとしても何の不思議もありません。

 そうは言うものの、一般的な中規模販売店にとっては、“勝負にならない”不利な競争を強いられるわけですから大変です。
 販売量を維持しようと思えば採算を犠牲しなければならない、採算を意識すれば量を犠牲にしなければならない、ジレンマに陥り「必勝の型」を敷くことができない
 そんな店が多くなっていることでしょう。

 このような状況を、果たして元売の指導下で乗り越えてゆけるのか、自力で解決してゆくのか、経営陣に突きつけられている命題は深刻です。


 加えて市場競争で劣勢な状態が恒常化してくるとお店の中の緊張感が落ちてくるのは、ご経験のとおりです。
 従業員のヤル気が萎え、目標達成へのあきらめムードがまん延してくる上に、経営陣のみならず従業員までもが怒りっぽくなってしまうため、チームワークが極度に低下します。
 所謂「必勝の型」から大きく外れた態勢に陥ってしまうことになります。


 私の研究会の会員SSで、長い梅雨がつづいた頃に、こんなことがありました。

 このSSはフルサービスで油外収益が前年実績で月間150万円。ところが、年初からの減収傾向に歯止めがかからず、この月は中旬を過ぎても50万円にも満たない惨憺たる販売不振に陥ってしまいました。
 店主は強い危機感から堪りかねて、「お前たちは何をしているんだ」、「自分の給料分も稼げていないじゃないか」、「親切な接客は結構だが、“儲ける”という踏み込みができてないじゃないか」、「こんな調子が続けば、店は3ヶ月でつぶれてしまう」と、従業員に“爆弾”を落としたのです。


 意外にも、“活”を入れられた従業員たちは、心のモヤモヤが吹っ飛んだように、文字通り“必死”になって粘り強い販売活動をやり抜きました。
 その甲斐あって、目標に近い金額まで挽回することに成功したのですが、“雷”を落とさなければならない方はさぞ辛かったことでしょう
 しかし、「人間というのは放っておくと惰性に流され、易きについてしまう」と言われるように、時にはこんな対応も、従業員活性化の「必勝の型」の一つだと改めて認識させていただきました。


 今ほど「利は元にあり」という言葉が身に沁みるときはありません。
 そこで今後の“卸売り”市況の展開、その中で闘える仕入れが果たし可能になるのか、その点を考えてみましょう


 欧米の石油製品の卸売りマーケットでは、ブランデッドという正規製品とジョバーと呼ばれる非正規製品が、5050の割合で取引きされていると言われています。その価格差は平均的には「1円/L」内外で変動しているとのことです。
 この値差になるまでには、長い時間の経過と、業界構造、それに伴う市場環境の変化があったと推察されます。


 有名な異業種流通業者が、ハイパーと呼ばれる超大型セルフSSとジョバー玉を武器にSS業界に参入してきたところから、本格的な価格差の縮小がはじまります。先に述べた大手販売業者を、欧米のハイパー業者に置き換えてみると、今後のSS業界の進む方向が浮かび上がってくるような感じがしますが、いかがでしょう。

 日本はやっと市場相場に連動した価格体系に移行したところです。それによって、卸売り相場の値差が縮小してきたことは事実です。
 しかし、欧米並みになるには、皮肉なことですが、市場での影響力を拡大し始めた大手販売業者の販売シェアーが更に増大し、それに対抗する専業販売業者が出現してくるまで、いま少し時間がかかるものと予測されます。


 それまでの間、一般的なお店が大手販売業者の侵攻に耐えられるか、それが問題です。
 大方の見方は“否”です。
 その理由は、何度も申し上げているように、彼らと比べると未だにしがらみに囚われ、「必勝の型」が構築されるに至っていないからです。


 経営陣が“損”というものに真正面から向きあい、現状の仕入れに憤り感じるところから、“勝負になる仕入れ”への行動が一気に加速するでしょう。
 そのような気概を、先人は次のような言葉で我々を鼓舞してくれています。それを紹介して、「実践
SS学」秋季号の結びとします。


世の中の変化より自分が変わるスピードが速ければ、その人は成長し、世の中をリードしてゆく。そのスピードは一つのことにこだわらず、機に先んじて旧い殻を脱ぎ捨てる勇気と覚悟によって決まる


                                  実践SS研究会  端山 忠彦

                 =『SS Family』誌 2009年秋季号に掲載=