端山忠彦の実践SS学

          シーズン5   漂流しはじめたSS業界


             四章 「逆算を発想する」【2010年2月19日up



 日本の経済の不況は、一段と深刻度を増し、デフレ状態に入ってきました。食料や衣料などから最先端ITにいたるまでほとんどの商品、サービスの価格が大幅な下落を続け、デフレ・スパイラルに陥る危険性さえ伺えます。資本主義社会の弱点のひとつである「過当競争」が市場を蝕みはじめたと云えるでしょう。
 特に
SS業界にあっては、昨年の秋ごろより需要の加速的減退と価格競争激化によるガソリン・マージンの大幅な縮小、加えて油外販売の不振が顕著です。このまま経営を続けていけるのか、多くのお店に底知れぬ不安感が漂いはじめているのではないでしょうか。

 市場競争の制限については昨年、公正取引委員会が不当廉売規制に関するガイドラインを改定し、市況の是正に乗り出そうという朗報があります。それによると、「仕入れ価格」に運送費と人件費を加えた、所謂「総販売原価」を下回っての販売はまかりならぬという内容です。
 しかし、「果たしてこの審査基準が機能するか」となると、残念ながら“否”と申し上げるほかありません。
 なぜなら、お店の間で仕入れ価格に大きな格差があるからです。少なくとも5円/
L以上はあるでしょう。ここにメスを入れない限り、法律によって市況を是正してゆこうとすることは、現実的には極めて困難であると云わざるをえません。
 即ち、元売の仕切り価格に規制の網をかけるか、みんなで業転玉を買い、仕切り格差を縮小することしかないように思えます。


 現在、国内のガソリン販売量の構成は、約80%が正規取引分で、残り20%が業転に放出されていると推定されます。しかし、前号でも触れたように、正規取引ではあっても、ほぼ20%のシェアーを持つ広域販売業者・大手販売店の仕入れ価格が業転レベルに近いということを考慮すると、合計40%ほどの数量が業転相当の価格で市場に出回っていると云っていいでしょう。

 たとえば、正規と業転の価格差が「6円/L」あるとすると、市場における平均的な卸価格は一般的な元売仕切りより“2.4円/L(6x40%)”低いレベルにある計算されます。
 言い換えれば、お店の仕入れが業転レベルより“3.6円/
L(6x60%)”以上高いとするなら、市場平均より割高である云えます。これでは勝ち目がないかもしれません。「利は元にある」とするなら、お店にとって最優先の経営課題が「仕入れ改革」となるのは当然でしょう。

 今後の業界の趨勢を測る上で、重要な要素であるSS数の動向に注目する必要があります。
 石油情報センターの資料によると、昨年の6月末での在籍
SS数は約42,000ヶ所、そのうち8,000ヶ所がセルフSSです。セルフSSの所有形態は元売社有が45%、系列販売店が40%、残り15%が商社系及びPB業者となっています。最近では、元売系列以外のセルフSS数の伸長が顕著となってきているのが特徴です。

 セルフSSでの販売量は、この10年間で全体の60%に近いところまで占有率を上昇させてきています。セルフ・サービスが日本より約30年早く解禁されたアメリカでは、メジャー系の状況をみると、解禁後10年で55%、その後10−15年間で90%にまで達しています。
 日本はこれとほぼ同じペースできており、今後も同様の軌跡を描いて販売シェアー90%まで成長してゆくとすると、
 
2020−2025年の在籍SS数は“12,000ヶ所(8,000x90/60)”
と算出されます。
 今後の需要減、エコカー、代替燃料への転換を考えると、セルフ
SSで“10,000ヶ所”前後とみるのが妥当でしょう。

 このように、42,000から10,000ヶ所に近いところへと大幅に減少してゆくわけですから、益々生存競争が厳しくなってくることが容易に予測されます。
 読者諸兄には、10年後といわず5年後でいいですから、「お店を取り巻く環境がどのように変貌しているか、元売との関係は、仕入れ形態は、価格競争の状況は・・」などの観点から想像してみて下さい。
 そして、“そこから逆算”してみると、今なすべきことがはっきりしてくるでしょう。即ち「より早く将来の型(かたち)をつくり上げる」、これが次なる経営命題として浮上してくるはずです。


 事実、最近は代理店さん・特約店さんが元売と揉めているのをよく耳にします。発端は仕切り価格の調整、社有SSの運営、大型セルフSSの侵攻に対する支援などを巡ってのトラブルが大半です。
 販売店さんは現在を語り、元売は将来を見つめて政策を展開しているわけですから、お互いが折れ合うのは大変です。元売側の判断基準は、お店が5−10年後も市場に存続しているかどうかにあるわけですから、そういう意味でも、「逆算の発想」への切り換えなくしてお店の舵取りは益々困難になってくるでしょう。


 それはそうと、昨年後半からのデフレ報道を機に、消費者の油外商品の購買マインドが一気に冷え込んできました。従業員の人たちの販売力が全く通じなくなってきた感じです。
 また、
SSの利便性が相対的に下がってきたようにも思えます。その要因として、不況下であるためオートショップの価格面、カーディーラーの技術面での優位性が際立ってきたことがあげられます。

 一般的に、SS従業員の人たちの販売意欲は、その時々の売り上げの多寡に比例しがちです。売っているのか、売れているのかは別として、好調なときはお客様に積極的にアプローチしていますが、売り上げが落ち始めると別人のように動きがショボクレてきます。
 中には「何クソ!」と思う従業員がいて、アプローチ方法を工夫したり、商品を切り換えたりしながら粗利益額を維持させています。野球にたとえると、“内野ヒット一本でも”という粘りです。なぜ売れないかの原因、理由を探りあてる努力を怠らないところが印象的です。


 前号で“必死”にさせる活性化事例を紹介いたしました。真似られたSSの多くは、実績が上がると同時に、この戦法が何度も使えないこともお解かりになったはずです。
 なぜなら、刀に例えるなら“鈍(なま)ら”になってしまうからです。
「何をやっているのだ」と雷を落としても、「社長がまた騒いでいる」程度の受け止め方になってきます。そうはいうものの、常時“必死”になって取組んでもらわなければ、現状の減収を食い止め反転させてゆくことができないことも、また事実です。


 私の実践SS研究会の会員SSで、ある工夫をすることによって“必死さ”を継続し、業績を向上させることに成功しているところがあります。その取組みの核となる背景を紹介いたしますので、現状の活動に取り入れ、油外販売の再構築に役立てていただければ、嬉しく存じます。


■頭で覚えているような知識、技術レベルでは実践では通用しない。販売のための基礎練習をしているようなものだ。

店頭での販売活動はすべて“アドリブ”である。基礎知識・技術を“実践的レベル”に高めなければならない。それは当人が“必死”になって取組んでこそ身に着くものである。

一般的に油外目標に対する執念は、周囲の状況を見ながら「あいつだって悪いのだから、俺だって・・・」という相対的なものになりがちである。

■本人が申し出た「申告目標」であったらどうだろうか。“面子、プライド“にかかわることだから真剣・必死にならざるをえない。自己の目標に固執していく可能性も高くなるだろう。

これを毎日の販売活動に落とし込む。その日の業務が終わったところで「翌日の目標粗利額」をノートに書き込み申告する。そして翌日の終了時にそれに対する実績と差額を記入する。同時にその翌日の目標額を申告する。

これを繰り返してゆくと、明日の目標額を稼ぐための具体的な方法を考えて店に出勤するようになる。つまり、販売活動が「予習型」へと変わりはじめる。

■重要なことは稼ぎが悪い日にその原因・理由を考えることである。そうすると、翌日の申告額クリアーに執念を燃やすようになる。これが従業員を成長させてゆく核となる


 お気づきの通り、この仕組みは販売量ではなく「粗利益額」に力点を置いています。もはやオブラートで包んだような量的目標は、従業員を鼓舞するに際して、どうも的を射ていないように思うからです。
 従業員が「今日幾ら稼いだ、明日は幾ら稼ぐ」「明日、オイルを何
L、洗車を何台、その他作業を何円をやらなければならない」と“逆算”する姿勢になれば、「実践能力」即ち「稼ぐ力」は強化されてくるでしょう。
 先ずは、「油外粗利額申告ノート」をつくり、記入してゆくことを習慣化することからはじめられることをお薦めします。やり始めたら、これもまた定着させることが難しいことがお分かりになります。


 元売もいよいよ、「逆算の発想」から、太陽光電力事業、燃料電池など新しいビジネスへと舵を切り始めました。企業としての存亡に危機感をにじませています。SSのみならず石油業界全体が、将来性のある事業を暗中模索していると云っても過言ではないでしょう。
 一方、市場競争は業界にはびこる“矛盾”を修正しながら熾烈さを増幅させてくるでしょう。
 しかし、待っていてはダメです。
 その矛盾をより早く積極的に解消すること、つまり「早いものが遅いものを喰う、この市場原理こそがお店の永続性を高めてゆくことである」と申し上げて、「実践
SS学」2010年最初のメッセージいたします。
 読者諸兄の益々のご活躍を、誌上より期待しております。



                                  実践SS研究会  端山 忠彦

                 =『SS Family』誌 2010年冬季号に掲載=