端山忠彦の実践SS学

        シーズン6   系列の希薄化がすすむSS業界


        第一章 「油外常連客を増やす」【2011年2月24日up




 グローバル経済が新興国需要に引っぱられる形で、国や地域と業種によってバラツキがありますが、徐々に回復しつつあります。特に、情報技術を扱うIT関連業種が快調です。新しい時代を切り開いてゆく分野だけあって、突出した業容の拡大が続いています。
 次いでエコ関連に活気がありますが、世界的な景気浮揚の牽引車は自動車業界ではないでしょうか。ハイブリッド・カーがもの凄い勢いで売れていますし、電気自動車への期待は大変なものです。我々人類に“新しい生活様式”を提供してくれる分野に活気と刺激が満ちているのは、当然と言えるでしょう。

 

日本においても、エコ・ポイントをはじめとした政府の景気刺激政策の後押しが奏功し、TVのデジタル化・3Dの登場などもあって、家電業界がV字回復を果たしてきているのは周知の通りです。しかし、石油業界に目を移すと、残念ながら往年の勢いを失い、需要が減退してゆく斜陽産業の色彩を濃くしてきているのが印象的です。

元売はかつて、ガソリンなどの製品を生産する以上のエネルギーを使って、その普及と販売網の拡大に積極的でした。特にSS部門では、系列強化のために販売店の勧誘・育成に力を入れて取組んでいたことがついこの間のことのように想い出されます。マーケティングにも多大な投資をし、魅力的なSSづくりに励んだものです。

その一方、石油という製品の特性から、合理化・効率化が薄利多売競争を生み、ガソリンのマージンが20円/Lから5円/Lにまで圧縮されてしまいました。時代の潮流とはいえ、十年前までは夢想だにしなかったことではないでしょうか。

 

需要が伸び盛りの時の元売は、「販売店とともに発展しよう」と二人三脚政策を掲げ、製品の流通から末端価格にいたるまできめ細かい系列政策を展開しました。しかし、減退期に入るや、自らの保身に汲々とする“精製メーカー”へと変貌してしまいました。寂しいかぎりですが、それでも「対等の立場で取引をする、当たり前の関係になった」と考えれば納得できることです。

JXホールディングスの誕生が、その象徴かもしれません。この合併によって需給調整が大きく進展しはじめ、これまで製油所の稼働率を下げるだけだった「減産」が元のレベルには戻れない精製能力の「削減」へと、画期的な一歩を踏み出したからです。何はともあれ、この心理的効果がタイトな需給状況をつくり出していますので、当分は安定した市場環境が維持されるものと、予測されます

 

もっとも、いいことばかりではありません。
 元売が仕切り価格制度を改定し、ブランド料値上げと“ローリー運賃の実費徴収”という新手の政策を打ち出してきたからです。特に運賃の実費徴収は、その政策精神に問題が投げかけられています。
 なぜなら、「製品を基地で渡し、そこから先はご自由に・・・」というのは、製油所や油層所からの遠近によって卸し格差を生じさせるからです。地方や遠隔地のお客様は高値で買わされる、差別的で甚だ公平を欠いた政策だと言わざるを得ません。元売として過去一貫して標榜してきた、全国一律サービスを根底から瓦解させる恐れもあります。もし、消費者団体が取り上げれば、政治問題化するのではないでしょうか。

地方の販売業界にあっては、「元売、何するものぞ」という感情が蔓延しています。具体的には系列意識の希薄化であり、ローカル・エリアへの業転玉の多量流入です。これが市場荒廃を招き、“系列崩壊”というモメンタムを惹起しています。やがて都市部へと波及してゆくのに、そんなに多くの時間を要しないでしょう。

 

SSビジネスを「マクロ」にみるなら、「全く魅力のない業種」というのが一般的な見方でしょう。しかし「ミクロ」でみるなら、なるほど需要は半減するかも知れませんが、それ以上にSS数が減少していくためにSS一軒当りの需要は多くなることが容易に予測されます。
 それ故に「かえって、良い商売になる」、というのが私の見方です。さて、何パーセントのお店が、この環境変化に適応できるか。近い将来、読者諸兄には、「貴殿の戦略、奈辺にありや」と問われることになるかもしれません。

 

日本で年間10億円以上を売り上げる企業が全体の約3パーセント、業歴百年を超える老舗も3%だと云われています。同様に、燃料油・油外ともに立派な実績をあげているエクセレントSSは、私の観るところ、100ヶ所中2−3ヶ所ぐらいです。残り97パーセントの企業やお店は、“間違ったこと”をやっているから、この“3パーセント”に入れないというわけです。
 日常の業務に追われ、近隣と同じこと、つまり常識的なことをやっていたら成功は覚束ないことを示唆しています。言い換えれば、「
97%という常識を疑って、生きのびる工夫をしろ」との訓えではないでしょうか。

 これまではその時々の環境に合わせた形で、“客数の拡大”、“経費の削減”、“仕入れの効率化”に力を注いで、厳しい競争を乗り越えてこられたことと存じます。これから先も、同じ戦略でやってゆけるかと尋ねると、ほとんどの経営陣の方は「否」と答えられるでしょう。
 では新たな戦略を講じていくのかというと、実際には多少の戦術的変化はあっても過去と同一の路線上を走る。これが経験的な常識です。“
97パーセントの世界”から脱皮することの難しさを物語っています。

 

 さて、今後のSSにおける“3パーセント”とは何か、を考えてみましょう。私の考えではそこに“質的なエリア”という仮説が成り立ちます。

たとえば、顧客数はSSの「立地、施設規模」で決まります。それを超えて集客するには、販売マージンを犠牲にしなければなりません。リッター当り2円のマージンで900KLより、5円のマージンで400KL売るほうが有利だからです。
 仕入れ価格が他店と変らない環境下での競争戦略に、<生きのびる>という命題を挿入すると、「油外商品を買ってくれる上質な常連客の拡大」の重要さが浮かび上がってきます。つまり、物理的な要因で顧客数が決まってくるため、今まで以上に客単価を高めてゆくことが、業績の維持・向上にとって必須の条件になってくるわけです。

 

そうはいうものの、簡単なことではありません。これまでと同様に「販売のカベ」があるからです。お客様の「断りのカベ」を破れずに立ち往生しているのが、多くのSS現場での実態でしょう。一応の知識と技術は身につけているので、お客様から「このクルマにはどんなオイルが最適か」などと訊かれれば、滔滔(とうとう)と説明することができます。しかし、そんなチャンスは“そうそう”ありません。

 お客様は、「見ず知らずの販売員がアプローチしてきても信用しない」習性を持っています。勧められるままに買っていたらお金がいくらあっても足りません。そこにもってきて、販売員の対応に魅力がなければなお更信用してくれません。
 一方、既にオイル交換などを定期的に依頼してくださっている常連のお客様の場合はどうでしょうか。そばで見ていて心地よい親密感がお客様と販売員の間に漂っています。ある種の人間関係ができ上がっています。お客様の好み・職業・趣味にいたるまで観察し、それに基づいた接客サービスを心がけた賜物であるといっても過言ではないでしょう。

 

では“販売員と親しくなる”に至るお客様の習性を2−3紹介してみることにします。

お客様は、自分の頭の中にあることを販売員から話しかけられると、信用しがちです。また、自分のクルマの性能と外観を良い状態に保つことには積極的ですので、それをよく理解して手助けしてくれる販売員には、親しみをもってくれます。こんなこともあるでしょう。お勧め商品の実物を見せると具体的な質問をしてこられ、会話が弾みます。面白いのは、安い商品に食指を動かされても、最終的には品質の高い商品を選ばれることが多いことです。それは「安いものには品質が伴わない」という理(ことわり)知っておられるからじゃないでしょうか。

 

これらのことを念頭に置いて接客を繰り返すうちに、簡単な会話で意思疎通ができるようになります。そうすればシメタものです。「クルマのことで相談があれば、一度声をかけてみよう」となり、お店に「新しい油外常連客」を獲得できる可能性が一気に拡がってくるのは、経験されている通りです。

 そこで、こんなチャンスを多くつくり出すには、なんといっても「お客様の断りの力を弱める」技術を身につけおく必要があります。
 先ず、一度の断りもなく買ってくれるお客様はいないでしょうから、「断られてガッカリする」ことから早く卒業しなければなりません。ただ、販売員が頼りなかったり感じが悪かったりすると、お客様は「強い断り」を返してきます。そうなることだけは避けねばなりません。
 販売の基本を土台にした「自信」と「好印象」を与える工夫とお客様の<本質的な購買心理>への関心をもつことが、「お客様の断りの力」を弱める働きをしてくれます。そうしてゆけば、“エクセレント
SS”への扉が、徐々に開かれてくるでしょう。そんな展開を切に願う次第です。

 

 最後になりますが、SSを取り巻く市場環境は益々逆風が強くなってきます。お店の舵取りをヨットに喩えるなら、どんな向かい風でも、風をよみ、何枚もの帆をたくみに操り、前進して行くことです。その推進力となる風、つまり「油外常連客」を帆いっぱいに受けて、本年を乗り切って行かれることを、誌上より期待し願っております。

私のビジネス語録「クリティカル・パス」の一語を紹介し、2011年新年号の結びとします。

 

  <リピーターがお店の成否を左右する。販売そのものは一過性であるが、

   そこに“技術力と人間力”の裏づけがあれば、永続性が確保される>



                                実践SS研究会  端山 忠彦

                 =『SS Family』誌 2011年新年号に掲載=