端山忠彦の実践SS学

        シーズン6   系列の希薄化がすすむSS業界



         第二章 「教わらないことを学ぶ」【2011年5月27日up



 東日本大震災が地震、津波、原発事故による放射能汚染というトリプル被害をもたらしました。被災された皆様に、お悔やみとお見舞い申し上げます。また、被害を受けられたお住まい、お店などの一日も早い復旧・復興をお祈りいたします。

 

 巨大地震と大津波に襲われた3月11日以来、東北地方のSS業界石油製品の供給が断たれるなど、大変厳しく困難な状況に陥りました。同時にライフラインも壊滅的な打撃を受けたため、SSにはガソリン・灯油を求めるお客様が押し寄せて長蛇の列をなし、お得意様からの「凍えそうに寒いので灯油が欲しい」との悲鳴に近い電話が鳴り続けました。

その様な状況を見聞きするにつけ、長年元売で働いていた私は、
「元売は何をしているのだ」、
「自分たちの使命が何であるのか分かっているのか」
 と、強い苛立ちを覚えずにいられませんでした。


 これは私の実践SS研究会の会員SSから聞いたことですが、震災から三日ほど経った頃に元売の担当者から次のような電話があったそうです。

「東北の製油所・油槽所はすべて操業停止です。復旧の時期がいつ頃になるか、まったく分かりません」、「道路網が寸断されているため、商品配送の目途が立ちません」、「慌てても仕方ありませんので落ち着いたら連絡させていただきます」

この話を聞いた時に、私は情けなくなりました。そして、この電話を受けたお店の方の元売に対する気持ちは(切れたな)と感じました。
 なぜなら、
「元売本社は事態の解決に向けてどのような対策を立てているのか」、
「日本海側の油槽所など他地域からの供給はあるのかないのか」、
「この非常事態に系列SSとして店頭でどのように対処すればよいのか」
 といったお店が知りたい肝心なことには何一つ触れていない、元売側の事情説明に過ぎなかったからです。

この時私は、相談のあったお店には次のようなアドバイスをさせてもらいました。

「東北のSS業界がどのように復旧してゆくのかを想定しておきましょう」
「石油組合や大手販売店など行動範囲の広い仲間を訪問して情報を集め、これからなすべきことを考えましょう」
「常連客を訪問してどのような不便な生活をしておられるのかを把握しておきましょう」
「それをしておけば後日の仕事の優先順位が判ります」

 皆さんがこれらを実行出来たかどうかはまだ聞いていませんが、少なくとも右往左往する事なく、その後の正常な営業状態に移行して行かれたものと確信しています。

 

 一方、世界の石油状況も激動していました。最大の出来事は原油価格の高騰でしょう。新興国の石油需要の拡大が続く中、中東とその周辺諸国での民主化を求める反政府行動のうねりが産油の操業に混乱を引き起こし、利に敏い投機マネーが原油相場を120ドル/バーレル台へと一気に上昇させました。
 それによる製品価格の高騰が、日本の石油業界の場合は追い風となり、元売と販売業者を儲けさせたのですから何とも皮肉なことです。

 ガソリン平均市況の値動きを昨年12月末とこの半年のピーク時とで比較すると、業転玉は18円/L、系列仕切りが13円/L、小売市況が15円/Lほど上昇したと推定できます。
 PB、大手量販セルフSSが率先して値上げに走ったのが印象的でした。彼らの低価格販売が単なる安値仕入れに支えられたのに過ぎないことが明らかになった瞬間でした。
 系列SSは一糸乱れずに販売価格を[適正レベル]へ引き上げることができ、マージンアップに一息ついたことでしょう。これが
4月上旬までの状況ではないでしょうか。

 その後は、震災による経済活動低下と消費自粛の影響から、ガソリン需要が10%前後落ち込んで市場は弱含みに転じてきています。

 前述のPB販売業者などは再度強気な姿勢を示し始めています。確か
3月中旬頃だった思いますが、PBセルフSSの系列回帰がまことしやかに囁かれていました。
 その頃のセミナーで私は
「系列回帰はないと思う。PB業者は仕入れが系列レベルになっただけでほとんど損失をこうむっていないし、消費者は価格の高止まりで低価格志向をより一層強めてくるはずだから」
 と見通しを述べましたが、おおむね私の観た方向へ動いているようです。

 お店の経営の圧迫の原因は燃料油の販売量減少とマージン幅の縮小、そして油外商品の減販です。
 セミナーでこの傾向を反転させ収益を改善させる方法についての質問をよく受けます。その時私は「油外商品販売に傾注すること」を勧めます。それこそが顧客掌握の方法を考えさせ学ばせてくれるからです。
 つまり、日常活動を通して顧客掌握のコツや決め手を「なる程そうか」と体得することで収益改善の実効は上がります。その目指すべきところについて以下、私の持論が読者諸兄の参考になれば幸甚です。

 

 SS現場での油外販売を観察すると[売れない病]にかかっているSSをよく見かけます。その症状は「お客様の気持ちが分からない」、「売れる商品のトレンドが判らない」、「やっていることに自信が持てない」といったものです。
 景気がいい時にはソコソコの業績を上げているが、不況になるとガクンと売れなくなるお店の特徴でもあります。
 一方、景気に余り左右されることなく安定した販売力を発揮しているお店は、常に「なぜ売れないんだ」、「どうしたら売れるんだ」と熱心に研究していますし、ある工夫を思いつくと「それで売れるのか」と更に検討を加えています。
 これらのお店の接客姿勢の特徴は、徹底してお客様の不満を聴きとろうとしていることです。また、常に他業種を含め優秀店から学ぼうとしていますし、何がお客様を魅きつけているのかを自分の眼で確かめています。感心するのは、それらのお店が[お客様の心]を嗅ぎとろうとしているところです。

 一般的に油外商品を購入してくれるお客様でも、普通のお客様は「この間の洗車はいかがでしたか」と尋ねられると「ああ、よかったよ」と言ってくれます。
 しかし、こだわりのある常連のお客様だったらどうでしょう。「ホイールの磨き方がもう一つだったな」と不満を漏らされるかも知れません。
 こんな時、「よく見ておられるなあ」と反省して次に生かしてゆくのです。

 この[不満を生かしていく姿勢」が安定した業績を導いてくれます。優秀店には必ずそうした[深いところ]があります。その奥深さを学びとれなければ、真似てみても継続することが出来ず、業績向上には至りません。
 このことの重要性に目覚めるなら、顧客掌握のセンスと能力は自然と身についてくるものです。「自分の眼で見たものから学習する努力」と「お客様から教えていただく姿勢」が何よりも大切なのです。

 

 人間には「視覚、聴覚、味覚、臭覚と触覚」の五感があります。我々はこの本能的な能力を使って世の中のことを学び、生きています。
 この五つの感覚を体験的に鍛えてゆくと、例えば「お客様が口に出さない声を聴く」、「見えない姿を心に描く」といった、いわゆる[第六感]が磨かれてきます。
 そうすると、困難な仕事にも勝算を見出すことができ、成功する確率は飛躍的に高くなるでしょう。

 最も大事なのはその過程で得られる[経験知]で、[生きた知恵と勇気]が授けられます。厳しい体験をした人が、それを境に成長して、危機に遭遇しても動じなくなり洞察力が鋭くなるのはよく知られていることです。苦労や失敗をしたことのない人が、かえって信用されず、期待されることが少ないのは周知の通りです。それほど経験を積み重ねることが大切なのです。

 

 まもなく大震災からの復興を契機に新しい日本の国づくりが動き出します。その骨格の一つにエネルギー源のシフトがあります。石油と原子力への依存度を減らし、再生可能なエネルギーを開発し拡大してゆく計画です。石油産業への投資は相対的に減少してゆくでしょう。
 元売は今後、マーケティング拡充による量販よりもマージン(原油と卸価格の差)の拡大を狙う、供給者としての立場を強めてゆくと思われます。そのため、お店が頼れるのは[己の手腕]だけと言っても過言ではありません。

 となれば「お客様をしっかりとお店に魅きつける姿勢が不可欠」なのは言うまでもありません。例えば、減収の目立つ油外販売の根底には[ホスピタリティ(もてなし)]がある、と私は思っています。お店に来てくださる
1020%のお客様に「おもてなしの心を持ってパーソナルに対応する」、これが低迷する業績を反転させてゆく根っこになります。ただし、その[おもてなしの心]は教わるものではなく、それぞれのお店が培ってゆくものだと考える次第です。

 

 最後に、私のビジネス語録「クリティカル・パス」から一語を紹介し、「実践SS学」夏季号の結びとします。読者諸兄のご活躍を誌上より願っております。

「知らなかったことを知ると希望が湧いてくる。だから勉強には価値がある。ことに自己の疑問を潜り抜けたものは血肉化した知識となる。この学習と経験が我々の成長にとっての両輪となる」



                                実践SS研究会  端山 忠彦

                 =『SS Family』誌 2011年夏季号に掲載=