鬼庭秀珍 蛇淫の洗礼 |
第二章 奪われた操 コトッ。 椅子の脚が床を叩いたような音が聞こえた。ほぼ同時にミシッと、床板が軋む音がした。 廃屋の中に誰かがいた、それも間近なところに……。 床の軋み音が一定の間隔をおいて鳴り、次第に近づいてくる。 一歩一歩ゆっくりと、歩み寄って来る誰かが……。 妹尾毬子は、パンティ一枚の下腹部を隠すように縛られている両脚を折り曲げ、慄える心に鞭打って、恐る恐る、音のする方角に顔を向けた。その毬子の目に映ったのは、武田悟郎の痩身だった。 手足が長い武田は大きな蜘蛛のように見えた。その大蜘蛛の、ツルンとして表情の乏しい顔が近寄って来る。 「た、武田さん。どうして? どうしてこんな酷いことをなさるの?」 毬子は横に丸めたからだの首だけを立て、すがるような眼差しを武田に向けた。 「どうして……と訊かれてもねえ」 「わ、わたしを……どうなさるつもりなの?」 「さて、どうするかなあ。只今考慮中ってとこだな」 「ひどいっ! ひどいわ、武田さん……」 わたしがもうじき藤田さんと結婚するのをあなたは知ってるはずなのに……と、口にする前に毬子はすすり泣きをはじめた。 その毬子の悲しげな姿を、武田は無表情に見下ろしている。そして、ポツリと言った。 「毬子さんのこういう姿をさあ、俺、一度見てみたかったんだよ」 「そ、そんな……」 自分の欲望を充たすためにあなたは親友の婚約者をこんな目に遭わせたのか、と言ってやりたかった。が、(やはり……)という沈痛な思いがその言葉を呑み込ませた。毬子は、硬くした全身を小刻みに震わせた。 「綺麗な女は裸にして縄で縛り上げるとますます綺麗になるって、あいつが言ってたのは本当だな……」 突っ立ったまま武田は独り言を呟いた。 (あいつ? あいつって誰のこと?) 武田の呟きを訝しく思った毬子だったが、今はそれどころではない。何としても武田の毒牙から逃れたい。焦燥感に包まれた身をよじり、柔肌を縛める縄をキシキシと鳴らした。 武田は、パンティとブラジャーだけ残された裸同然の身に縄をまとっている毬子をじっと見つめた。ニンマリと口の端を吊り上げた顔が(さあ、これからこの獲物をどう料理しようか……)と言っている。 「武田さん、お願いです。この縄をほどいてください。手首が痛くて、腕が痺れてしまって感覚がないの……。お願いします、縄をほどいてっ」 毬子は、厳しく後ろ手に縛められているからだをよじって、涙声で哀願した。が、何の言葉も返って来ない。 武田は毬子の艶めかしい姿に魅入られているように動かない。その瞳の奥で、ゆらっと、性衝動に駆られている淫らな光が揺れた。その欲情の炎を見た毬子は身を固くし、端整な顔一面に怯えの色を濃く浮かべた。 と、その時、武田がすっと腰を落とした。毬子の艶やかな肩に両手を添えて抱き起こすと、後ろ手に縛った毬子を横座りにさせた。そして、足首を縛り固めた縄の結び目をほぐした。 手際よく両脚を縛った縄をほどき終えた武田はさっと毬子の背後へ廻った。 ああっ! いきなり背中に束ねられた両腕を持ち上げられて、毬子は前にのめった。その背中に伸びた武田の手がブラジャーのバックベルトのホックを外した。 「な、なにをなさるのっ!」 激しく狼狽した毬子は、肩を揺すり、前にのめった顔を左右に振った。 その毬子をいとも簡単に仰向けに押し倒した武田は、胸前にたるんだブラジャーをたくし上げ、こぼれ出た毬子の白い乳房に猛然とむしゃぶりついてきた。 「あっ、イヤっ! お願い、やめてーっ!」 千切れんばかりの悲鳴が廃屋によどむ空気を引き裂き、壁の隙間から屋外へ流れ出た。が、轟々と滝壺を打つ水の音がそれをすぐに吸収した。 泣き叫ぶ毬子の緊張した乳房を獣の情欲に駆られた手が揉みしだき、毬子の意に反して急速に膨らみを増してきた赤い乳首を煙草のヤニ臭い口が含む。 「た、武田さん。やめてっ、やめてください!」 うっ! 乳首に軽く歯を立てられて呻いた毬子の、柔らかさを増してきた乳房の真っ白い表面を武田の舌がぬるぬると這う。と同時に指が女陰に侵入してきた。 「イヤっ!」 逃れようとひねった腰が押さえつけられ、下腹部を覆ったパンティが白く艶やかな太ももを滑っていく。 「あっ、ああっ!」 毬子の、露わにされた真っ白い太もものつけ根で、恥丘を覆う繊毛の茂みがふるふると震えた。ベージュ色の薄い布は、紐のようになって足元に引き下げられている。それをスルッと足首から抜き取った手が、毬子の白く丸い膝にかかった。 武田は、毬子の両脚を強引に押し開こうとした。 「イヤっ! そんなことやめてっ!」 必死に閉じようとする左右の膝の裏に武田の手が差し入れられ、白磁のように輝く伸びやかな毬子の二肢が持ち上げられた。 「やめてっ。やめてください。お願いです」 毬子は、不自由な上半身をよじって哀願した。 しかし、武田の動きは止まらない。毬子の伸びやかな二肢に自分の腰を挟むように抱かせると、武田は、もはや逃れようのない毬子の股間で素早く下半身を露わにした。そして、おもむろにいきり立った熱い肉棒を慄える女陰にあてがった。 「イヤっ、やめてっ!」 毬子は懸命に拒んだ。が、その女陰にズブズブッと、武田の分身が荒々しく浸入した。 「い、痛いーっ!」 下腹部に生じた鋭い痛みが瞬時に背骨を貫いて脳に達し、毬子はしなやかな首を大きく仰け反らせた。 その時、武田は腰の動きを止めた。が、廃屋を揺るがした悲痛な叫びもまるで聞こえなかったかのように、再び武田は激しく腰を突き動かした。 「イヤっ、やめてっ、あっ、あっ、こんなことイヤっ、やめてっ」 必死に武田を制止しようとする毬子の女陰を、武田の逞しく怒張した熱い肉棒が容赦なく突き立てる。藤田正弘一人のために大切に守ってきた女の秘所が、無残にも、それも藤田の親友によって蹂躙されている。こんな理不尽なことがあっていいはずがない。しかし、今の毬子にそれを押し止める手立てはなかった。この悪夢のような凌辱に耐えるほかはなかった。 毬子は、後ろに縛られている両手の指を固く握り締めて、抵抗を止めた。血が滲むほど唇を噛み締め、口惜し涙をしたたり落とした。 その時、武田の腰の動きがゆるやかなものに変わった。挿入した熱い肉棒でゆっくりと女陰の中をかき回す。女陰の入り口まで引き下げては深く突き入れ、花肉の襞を刺激した。 あっ、あっ、ああっ、はあーっ。 巧妙な腰使いに、つい、毬子は喘ぎ声を洩らした。 汚辱に泣き憎しみを募らせる気持ちとは裏腹に、毬子の秘所には女の蜜があふれ出ている。花肉の襞が収縮をはじめていた。つい先ほどまで拒絶の言葉を発していた毬子の口から、思いがけずも、甘く狂おしい音色が洩れて出た。 * 抱いた怖れが現実となり、毬子は、藤田正弘に捧げるつもりの操を武田悟郎に奪われてしまった。その毬子の真っ白い太ももをひと筋、赤い液体が伝った。 事を終えて立ち上がった武田の股間では、まだ男根がいきり立っている。先端が朱に染まっていた。 「やっぱり処女だったんだね、毬子さん」 なぜか申し訳なさそうな表情を見せた武田は、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、ようやく萎えはじめた男根の先端を拭った。 ズボンを穿いた武田は、汚れたハンカチで、毬子の下腹部からジュワッと滲み出している赤いものが混じる白濁した粘液を丹念に拭いとった。 放心している毬子は、虚ろな両眼の下で口を半開きにし、武田にされるがままになっていた。 毬子にパンティを穿かせた武田は、毬子を抱き起こして上半身の縛めをほどいていった。 くびれた腰を緊めつけていた縄が外され、両手首の縛めもほどかれた。肘の縄がほどかれ、柔らかい二の腕をきつく後ろに束ねていた縄も外された。 毬子は、痺れの残る手で胸前にたるんでいるブラジャーのカップをたわわな乳房にあてがい、両手を背中に廻した。ブラジャーのバックベルトのホックを止めると、その手を横に下ろそうとした。 その時、タイミングを見計らっていたように、武田は毬子の両手首をギュッとつかんだ。 「な、なにをするのっ! 放してっ!」 咄嗟に毬子はからだを前に倒した。しかし、武田の手は離れない。毬子の華奢な両腕は逆手にねじられ、左右の手首がブラジャーのバックベルトの上に重ね合わされた。 武田は、背中の高い位置で交差させた毬子の両手首を片手で強く押さえ、もう片方の手で床にとぐろを巻いている麻縄をつかんだ。 「ああっ、イヤっ! 縛られるのはイヤっ!」 毬子は、前に押し倒されたからだを必死に揺すって武田の手を振りほどこうとした。が、それも叶わない。背中に高く重ね合わされた華奢な両手首に、たちまち非情な縄がキリキリと巻きついてきた。 「お願いっ、もう縛るのはやめてっ!」 必死に訴える毬子の両手首を素早く縛り終えた武田は、その縄尻をググッと持ち上げた。 「い、痛いっ!」 毬子は悲鳴を上げて前にのめった。が、両手首を縛った縄が引かれ、その上半身は武田のふところに抱きとめられた。 武田は黙々と、しかも素早く縄を繰った。柔らかい左右の二の腕に巻き緊めた縄を引き絞って両手首の縄に通して結びとめる。その縄尻を腋の下から通して前に廻し、刺繍柄が艶やかなベージュ色のブラジャーを突き上げている乳房の上下を緊め上げた。 うっ、ううっ、あっ、ああーっ! 裸同然の肌身に縄がヒシヒシとかけられていく。そのおぞましい感触に毬子は呻き、そして泣いた。 武田は、背中に戻して結び止めた縄に別の縄をつないだ。その縄を肩越しに前に渡し、右の首のつけ根をえぐって深い胸の谷間に下ろした。 乳房を下から緊め上げている縄にくぐらせてぎゅっと引き上げ、胸の上部のなだらかな傾斜に溝を掘っている縄にからめて結び目を作ると、左首のつけ根をえぐって背中に戻して手首に結び止めた。 肌色に近いベージュ色の布に覆われた瑞々しい乳房はどす黒い縄の枷で絞り出され、背中に高く縛り上げられた両手が喘いでいる。 厳しく念入りな武田の縄がけは、毬子に強い屈辱を味あわせると同時に、毬子を羞恥の極みへと導いた。 「毬子さん、しばらくそこでおとなしくしてるんだよ」 意味ありげな言葉を投げかけた武田は、毬子の両眼を濃紺のアイマスクで覆い、根太のゆるんだ床板をギギッと軋ませて廃屋から姿を消した。 つづく |