第十二章 どうなってもいい……
棚橋良一は未練たらたらの表情も露わに地下室を出た。
わざわざ玄関先まで出た鬼頭仙八は、その棚橋を乗せたタクシーが遠ざかるのを見届け、呆れ顔で地下室に戻ってきた。
足を踏み入れた場所で立ち止まった鬼頭は、しばらくの間そこにジッとたたずんでいた。四肢を縛り広げられ口にも縄を咥えさせられた哀れな姿で胸を波打たせている蔦子の裸身を、鬼頭は離れた場所からしげしげと見つめた。そして、かたわらに控えて鬼頭の様子を窺っていた武村と室田を振り返るとポツッと言った。
「お前たち……どうだ。二人で蔦吉を感じさせてみないか?」
「ええっ、俺たちにやらせてもらえるんですかい?」
「ああ、やってみてくれ」
鬼頭の指示に色めきたった二人は、我先に蔦子の脇に歩み寄った。
大の字縛りの蔦子の背後に立った武村が、乱れた長い黒髪を掻き揚げ、白いうなじに口吻を注いだ。うなじに舌を這わせながら、両脇から前に回した大きな手で蔦子の乳白色の乳房を包みこむようにして揉み上げはじめた。
一方、蔦子の前に両膝を突いた室田は、両手でよく引き締まった両の尻たぶをつかみ抱かえるようにして引き寄せた。顔を蔦子の股間に埋めると、絹糸のように柔らかい繊毛の茂みを舌先でまさぐって肉の花びらを舐め回した。二人の巧妙で執拗な愛撫に、まもなく蔦子は喘ぎはじめた。
うっ、うう……。くくっ、く……。あっ、ああーぁ。
性の喜びを知っている女の肉体は哀しい。しばらくすると紅唇を上下に割って白く冴えた頬をくびる縄の猿轡の隙間から官能の昂ぶりを滲ませた声が漏れてきた。くびれた腰をくねらせ、白く柔らかい腹をうねらせ、尻を小さく揺すり、艶々として肉付きのいい真っ白な太ももをよじった。
蔦子は、いや、蔦子の肉体は狂おしく悶えた。膨らみを増した赤い乳首が屹立し、柔らかな繊毛に覆われた羞恥の源泉の奥底から女の蜜が滲み出てきた。
あっ、あっ、ああっ。うっ、くくーっ、くっ……。ああーっ。
絶え間なく喘ぎ声を洩らす蔦子を見て、鬼頭が自分の着物の裾をからげた。
「よしっ。すまんが私と代わってくれ」
武村と室田を一旦下がらせた鬼頭は蔦子の前に立って、からげた着物の下から勃起して反り返っている男根を引き出した。
「このままやらしてもらうよ、蔦吉……。逃げ出そうとした罰だ。私のこれでお前を串刺しの刑にしてあげよう」
上ずった声でそう嘯いた鬼頭の表情は真剣そのものだった。興奮に赤らんだ顔の真ん中で細い眼が血走っていた。
鬼頭は、繊毛の茂みを指でかきわけ、すでに濡れそぼっている蔦子の女肉の花びらに熱い肉茎の先端をあてがうと、ズズズッと勢いよく花肉の秘裂に侵入した。
ひっ、ううっ、くくうーっ!
蔦子は、紅唇を割る縄の隙間から濁った悲鳴のような呻き声を上げた。
両手を廻して後ろの白い双丘にあてがった鬼頭は、蔦子の腰を抱き寄せるようにして屹立した太く長い肉の棒を突き入れる。
あっ、あっ、あっ、ああっ、あ……。
花芯に届くほど深く突き入れられた蔦子の声音に変化が出た。
大の字に縛られたまま女陰を貫かれたことが意外にも蔦子の女肉に火をつけていた。理性はどこかに身をひそめ、性の快楽を求める女の官能が蔦子を支配しようとしている。無意識のうちに蔦子は妖しい被虐官能の炎に炙られていった。
ズブリと根元まで女陰に埋まった、鬼頭の熱い肉棒が間断なく花芯を突き上げる。巧みに優しく触れる手が白く柔らかい乳房を揉みはじめると、蔦子は鼻を鳴らした。
あんっ、んんっ、う……。
充血して膨らみを増した赤い乳首を口に含まれ、舌先で弄ばれて強く吸われると、蔦子は甘い吐息を洩らした。
はっ、はっ、はっ、はあっ。あっ、ああ……。
(もっと燃えたい……)
蔦子はそう思った。棚橋良一の非道な裏切りを知った衝撃が鬼頭仙八への憎しみを薄めたのか、蔦子の無意識はこの異常な形の性交を自ら受け容れようとしていた。白く柔らかな肉が妖しい腹部をくねらせ、手足を縛り広げる縄をギシッと鳴かせ、甘い声音を出して鬼頭の興奮を煽り、次第に喜悦の高みへと昇っていった。
「あっ、あっ、あ……。い、いく……。いくっ。い、いいーっ!」
口の縄をガシッと噛んで顔を大きく仰け反らせた蔦子は、桜色に変わったしなやかな首をガクッと前に折った。同時に鬼頭も蔦子の中で果てていた。
「ふうーっ、よかったよ蔦吉……。久し振りに快感を覚えさせてもらったよ」
懐から取り出した鼻紙で満足した分身を拭いながら、鬼頭は蔦子の股間からポトッポトッと床にこぼれ落ちる白濁液を見つめて感慨深げにそう言った。
大の字縛りにされた女の秘所を立位で貫く異様な交わりを見せつけられ、武村と室田は固唾を呑んだ。二人とも股間のイチモツが暴走しかかっている。
「だ、旦那ァ。あっしらにも……」
口を揃えた二人を、鬼頭は顔色を変えて睨んだ。
「何を言ってるんだ! 蔦吉と交わるのは私だけだとあれほど言ってあるじゃないか!」
「す、すいません旦那。俺ら、つい興奮しちまって……」
たちまち肩をすぼめて縮こまった二人と鬼頭の主従関係は体格に反比例している。いつも通り無表情に部屋の隅で控えていた鏑木が珍しくふっと小さく鼻先で笑った。
蔦子はすっかり脱力していた。腰が砕け、手首を折り曲げて縄にぶら下がっている。縄を噛み締めていた口をしどけなく半開きにし、虚ろな視線を床に這わせて、両腕の柔らかな二の腕と萎えた両脚の肉付きのいい白い太ももを微かに痙攣させていた。
「鏑木ぃ。手間をかけるが、蔦吉のあそこの後始末をしてやってくれんか」
鬼頭は武村たちにではなく鏑木に向かってそう言った。
指示を受けた鏑木が、素早く用意した濡れタオルで蔦子の女陰からこぼれ出る精液を丹念にぬぐい取り、別の濡れタオルで脂汗の滲み出ているからだを清めた。
見届けた鬼頭は、命じられた仕事を終えて隅に控えようとする鏑木に訊いた。
「お前、いまあれを持っているよな」
「へえ、ここに……」
鏑木はズボンのポケットを指差した。
「それをこっちへくれないか? こいつらにも少しは楽しませてやりたいから、その道具の着け方を二人に教えてやってくれないか」
「へい、わかりました」と鏑木が承諾の言葉を言い終わる前に、喜々として目を輝かせたに武村と室田は鏑木のそばに寄っていた。
その二人に鏑木は、ポケットから取り出したものを見せながら何やら細々と説明した。が、囁くように話すその声は蔦子には聞き取れない。というよりも疲労感と虚脱感に包まれている蔦子は半ば放心状態だった。
「さてと蔦吉……。逃げ出そうとしたことへの罰がもう一つ残っているんだ。今夜はゆうべよりもっと愉しめるものを用意してあるんだ、三味線の名手にお似合いなものをね。それを股に締めて、三味の音に負けないお前のいい音色を私に聴かせてくれないか」
ニヤッと笑った鬼頭に顎で合図された武村と室田が、つつっと蔦子に近寄った。前に立った武村は鏑木から受け取ったものを蔦子の目の前にかざした。それはくるくるっと輪に巻いた三味線糸だった。糸の中ほどに鈍く光る細い銀の環がついている。
(そ、そんなものを股に……)
鬼頭の意図を悟った蔦子は顔色を変えて激しい狼狽を示した。が、「お願いだからもう堪忍してっ」という言葉は非情な縄の猿轡に阻まれ、「ぐううっ」と濁った。
蔦子は、手足に力を込めて四肢の縄をほどこうと足掻きもがいた。しかし、プロの縄師がかけた巧妙な縄が簡単にほどけるはずもない。
両手両足を縛った縄には、柱と梁につなぎ止めた箇所にそれぞれ弛みが少しだけつくってある。その弛みがわずかに手足の動きの自由を許しているが、右手を引けば左手が吊り上がり、足を内側に引き寄せようとすれば膝が開き、太ももを閉じようと膝を動かすと足が開く。手足のどこかを動かすことで別の部分が自分の意に反して動き、足掻けば足掻くほど抵抗の空しさを教える。四肢を引き開いた縄は蔦子に抵抗を諦めて素直に従えと迫った。
「どんなに足掻いたってムダというもんだよ。さ、蔦吉。おとなしくそれを股に締めてもらうんだ」
蔦子はまた、今の自分の無力を痛いほど思い知らされた。
ようやく動きを止めた蔦子のうな垂れた頬にかかったほつれ毛が哀れみを誘った。が、二人の小悪党にそれを感じ取る器量はない。後ろに廻った室田が蔦子の臀部をガシッと押さえ、前にかがんだ武村が蔦子のくびれた腰に短い細引き縄を巻き緊めた。
蔦子は、涙をこらえるように顎を突き出した。薄く目を閉じて、男たちが為すがままに任せている。麻縄にくびられた柔媚で白い頬をひと筋の涙が伝った。
「早くつけてやれよ。昔私を唸らせたよりもうんといい音色を出させるんだ」
鬼頭に急かされた武村は、腰の縄のヘソのあたりに三味線糸をつなぐと糸を真下に引き降ろし、いきなり銀環を肉の花びらの内側で膨らんでいる花肉の芽に嵌め込もうとした。
ぐっ、ぐうっ、うぐぐっ(あっ、イヤっ、やめてっ)!
火がついたように叫んだ蔦子だったが言葉にならない。かといって蹴飛ばそうにも両脚は縄にからめとられている。蔦子は、唯一動かせる胴体を前後に揺すった。
うぐっ、ぐううううっ(だめっ、そんなことよしてっ)!
蔦子は、猿轡の中でわめきながら腰をひねっておぞましい銀の環から逃れようとした。両手首の縄をきしませながら上半身をよじり腰を激しく揺さぶった。
鬼頭は、なかなか埒が明かないことに焦れた。
苦虫を噛み潰してつかつかっとそばに寄ると、縄にくびられている蔦子の頬をいきなり平手でパシッと張った。
「観念したんじゃなかったのかッ!」
頬をぶたれたこと以上に鬼頭の野太くドスの利いた声に驚き、蔦子は瞬時に凍りついた。
「素直に環を嵌めてもらうんだッ!」
蔦子は、三白眼の目を三角にして怒鳴る鬼頭の変貌に呆気にとられた。
その蔦子のからだからすっと力が抜けた。
まもなく武村が、蔦子の女の急所の最も敏感な部分にプスッと銀の環を嵌めこんだ。その環がクイッと絞られると、蔦子の下腹部に焼け火箸をあてられたような痛みが走った。
ひいーっ! うぐっ、ぐうっ、ううーっ!
狂おしく身悶えする蔦子の顔は赤く膨れ上がっている。紅唇を割っている縄を噛み締め、顎を突き出して呻き、蔦子は長い睫毛の間から大粒の涙をポロポロとこぼした。
銀の環が花肉の芽の根元にしっかり嵌ったのを確かめた武村は、股間をくぐらせた三味線糸で尻の穴を縦に割って引き上げ、腰の縄につなぎとめた。
ううっ、うぐっ、あっ、ああっ、あーっ、ああーっ。
銀の環を嵌められた瞬間に走った鋭く熱い痛みは、三味線糸が尻の割れ目を駆けのぼって腰の縄につながれるわずかな間に鈍痛に変わった。しかし、根元を緊められ異様に大きく膨らんだ花肉の芽の疼きが意識をかき乱す。女の急所を緊めつけられる辛さと切なさ、そして異妖な痺れが蔦子の下腹部に満ちていき、苦痛の涙とは違う涙が蔦子の顔を濡らしていく。崩れかかる蔦子のからだを両手の縄がギシッと鳴いて支えた。
あっ、ああっ。うっ、うぐっ。ああっ、ああーっ。
蔦子は、猿轡の麻縄を噛み締めた顔を左右に振ってこぼれ出る涙を飛ばし、波打つ肩を激しく揺すった。
鬼頭は溝鼠顔に酷薄な笑みを浮かべて、苦悶する蔦子をさも愉快げに眺めた。しかし、そんな鬼頭の姿など蔦子の眼には映らない。狂おしい身悶えを繰り返し、頬を涙でぐしょぐしょに濡らして嗚咽した。
気が遠くなりそうな急所責めに呻吟しながら、蔦子は今まで一度も感じたことのない感覚に襲われていた。
女が息づく恥丘を縦一文字にえぐった非情な三味線糸は、最も敏感な花肉の芽を銀の環で緊めつけることで花芯の疼きを増幅し、微肉の丸い筒口の中心を糸で縦に割って異様に妖しい感覚を送り出している。蔦子の脳裏にはおぞましい情景が渦巻いていた。
女の蜜があふれ出はじめた女陰を覆う漆黒の茂みに、赤く大きく膨張した花肉の芽が頭を覗かせている。その屹立した肉芽に白銀色をした蛇が巻きつき、もう一匹の黄色い蛇が後ろの肉襞の筒にうろこの立った腹を這わせている。眉をきつくゆがめ、肺を絞って呻いて胸乳を喘がせるたびに、チロチロと官能の芯を舐める蛇の赤い舌を蔦子ははっきりと知覚した。
ゆがめた顔は紅蓮の炎を噴き上げ、花芯がヅキンヅキンと疼く。
蔦子は、せめて横になりたかった。が、鬼頭がそれを許してくれるはずもない。許してくれないばかりか、鬼頭は三味線糸が縦に深くめりこんだ肉の花びらを人差し指でなぞった。
ひいーっ!
千切れるような悲鳴を上げた蔦子は、朱に染まった細い首をガクガク揺らし、縛り広げられた四肢をピクピク痙攣させた。
ひっ! あっ、はあっ、ひいっ! ぐうっ、うぐっ。あ…あぁぁぁーっ。
腰が砕けて縄にぶらさがっている状態の蔦子の喘ぎは、ますます激しくなっていった。にもかかわらず鬼頭は、ピチッと股間に喰いこんだ三味線糸に指をこじ入れて揺すりたてた。
くちゅくちゅっと、蔦子の股の奥から可愛い響きが洩れて出た。花芯から噴出したおびただしい女の蜜液が花肉の襞の収縮に合わせて鳴いていた。
ひいっ、あーっ、うっ、ああっ、ひいーっ!
大きく顔を仰け反らせた蔦子は背中をしならせて弓反りになった。
「蔦吉ぃ。お前さん、さすがに深川一の三味線名手だっただけのことはあるねぇ。縄を咥えた上の口も、銀の環が嵌っている下の口も、どっちもいい音色を奏でるじゃないか。あはははははっ」
鬼頭仙八は驚くほど忍耐強い悪意の持ち主だった。
その酷薄さを今こそ身に沁みて思い知らされた蔦子は暗然とした。しかし、今はすべてがその冷酷な鬼頭の手の内にある。
「その銀の環はね、蔦吉。どんなに気が強い女でもひと晩嵌めていると素直な可愛い女になるそうだよ。毎晩続けて嵌めているといつもその気にさせてくれて、男無しじゃ暮らせないようなからだに仕上げてくれるものなんだそうだ。お前も私好みのそんないい女になれるといいね。ま、今夜はその環が夜通しお前を可愛がってくれるからお前も余計なことを考えずにすむ。ありがたいと思うんだね」
悦に入ってペラペラ喋りまくる鬼頭の言葉など聞こえていない。蔦子は漆黒の茂みをえぐって肉の花びらの隙間から花肉の芽を引き出している三味線糸の銀環と闘っていた。
「それじゃ蔦吉。今夜はあっちの小部屋でゆっくり過ごしてもらうよ。ちょっと狭いけど銀の環の好さを一人でたっぷり愉しむには丁度いい広さじゃないかな、自分のよがり声がよく響いて……」
皮肉を言ってホクソ笑んだ鬼頭が、鏑木を振り返った。
「蔦吉にもう一回菱縄をかけてやってくれないか。あの縄をまとった蔦吉は、女っぷりが一段と引き立つからな」
ふふふっ、と含み笑いをした鬼頭は武村と室田に、
「お前たち二人は鏑木が蔦吉を縛り直したら階段下の小部屋に放り込んでおいてくれ」と指示をして、「明日の朝が楽しみだなぁ」と呟きながら地下室を出て行った。
口を縛った縄を取り除かれ、大の字縛りの縄をほどかれた蔦子はその場に崩れ落ちた。恥丘の茂みの途中から三味線糸が姿を消している。密生した漆黒の繊毛に隠れた部分についている銀の環が急所の肉芽の根元を緊め上げていた。
蔦子は痺れ切った両手で股間にきつく喰いこんでいる三味線糸をゆるめようとした。が、その手は鏑木の無表情な手によってさっと後ろに手繰られた。
長時間縄を咥えさせられていた口が痺れている蔦子は、「待ってください」とも「少し休ませてくれ」とも言えない。
鏑木は、蔦子の萎えた白い腕を折り曲げて背中で交差させ、華奢な両手首を高く重ね合わせた。そして、責めやつれのせいで益々妖しい輝きを増している蔦子の素肌に黙々と縄をかけていった。
両手首を背中でキリキリと縛った縄が左右の首のつけ根から前に廻されて喉元で結ばれた。胸前で揃えられた縄に三つの結び目がこしらえられ、たるみを残して引き下げられるとヘソの下で二手に別かれて恥骨上部の白く柔らかい肉に強く喰いこんだ。
あっ、ああ……。
かすかに喘いだ蔦子の眉がゆがんだ。が、表情一つ変えない鏑木の縄がくびれた腰をグイッと緊め上げた。と同時に股間の三味線糸がきゅっと緊まった。
ううっ!
蔦子は唇を噛んで切れ長な眼を固く閉じた。
つながれた新しい縄が左右の二の腕と脇腹の間から前に廻る。胸上の結び目の間をくぐって背中へ戻って引き絞られると縄は二つの白い乳房の上部に溝を掘った。
はあぁぁ……。
甘い喘ぎ声を洩らした蔦子の乳房が縄の緊めつけに反応した。その縄が脇腹から前に廻って胸のすぐ下の縄を左右に開いて後ろで絞られ、乳房の下に潜りこむ。
ああーっ。
顎を突き出した蔦子の脇腹からもう一度前に廻った縄は、ヘソの上の縄を広げ、背中の両手首の縄につなぎ止められた。
縄の菱が出来上がっていくにつれてきつくなる縄の緊めつけが、今の蔦子には心地好く感じられた。が、素肌にかかる縄とは対照的に股間の三味線糸と銀環は蔦子を苛む。
荒い息遣いに白い腹部が柔らかくうねり、銀環がその存在を主張した。痛みに鋭さはないものの、疼痛が強まっている。蔦子の肉の花芯は夥しい花蜜を噴出していた。
「それじゃこれで……」
短く曖昧な言葉を残して鏑木が地下室から出て行くと、劣情に目を血走らせた武村と室田が蔦子を左右から抱え上げ、ずるずる引きずるようにして階段下の小部屋まで運んだ。
以前卓球用具置き場として使われていたそこは、四方を剥きだしのコンクリートに囲まれた大きな箱のような、畳三帖ほどの狭い空間だった。二人は、裸電球が一つぶら下がっているだけの小部屋に運び入れた蔦子を、床に敷いた筵の上に転がした。
「蔦吉ぃ。お前の調教はまだまだ続くんだぜ、お前が鬼頭の旦那の女になりますって誓うまでな。そのことをよく考えとくことだ」
薄笑いをしながら蔦子にそう言った武村は、ポンと室田の肩を叩いた。
「おい耕平。俺たちもゆっくり休んで英気を養っておこうぜッ」
扉がバタンと閉められるとすぐに裸電球が消え、蔦子は一寸先も見えない漆黒の闇の中に置き去りにされた。その頭上に階段を駆け上がっていく足音が響いた。
(調教? こ、こんな酷い仕打ちが調教なの?)
両手を背中で高手小手に縛められ、白く熟れ切った乳房を菱縄に絞り出され、股間をおぞましい銀の環がついた三味線糸で縦一文字にえぐられている。身をよじれば縄が喰いこみ、少しでも腰を動かせば銀環が花肉の芽を緊めつける。そのたびに肉芯の痺れが甘い疼きを伴って全身に広がっていく。蔦子はからだが蕩けていくのを感じた。
しばらくすると心の芯がゆるみはじめた。
鬼頭に対する憎しみも棚橋良一への怒りも、棚橋冨美子の行く末のことさえも、何もかもがもうどうでもいいことに思えてきた。
(浮き世の義理も辰巳芸者の意地も、そんなこと、もうどうだっていいさ。この切ない感覚に溺れるっきゃないんだ、今のあたしは。溺れ切って何もかも忘れよう……)
怒りや憎しみは、さらけ出された自分の無力を認めることが出来ずに一度突き崩された自尊心を回復しようとする衝動が形となって現れたものである。その感情の背後には自分の無力への恐怖があり、無力感と自尊心との葛藤がある。自分自身への恐怖や葛藤がある限り怒りはいつまでも続くが、それらがなくなれば怒りもなくなる。
今の蔦子は自分の無力さを認め、自尊心を投げ捨てようとしていた。手を替え、品を替えての鬼頭の執拗な淫ら責めに心身ともに疲れ果てていた。
蔦子は、柔肌を緊めつける縄に甘え、妖しい被虐官能の炎をメラメラと燃やした。
人々を包み込んで流れてゆく『時』は、誰も気づかない間にこっそりと自分の仕事をする。一分一秒を刻みながら、人の心に「人生は一方通行」であることを告げる。その『時』が過去を記憶の奥に仕舞い込んで現在を素直に受け容れることを蔦子に諭し、漆黒の闇が麻縄に緊縛された蔦子の美しい裸身を優しく包んだ。
まもなく蔦子は薄墨色の眠りの淵に立ち、柔肌に喰いこむ縄も、花肉の芽を苛む三味線糸も、自分を呻吟させるすべての存在を忘れて泥のようになり、色彩のない眠りの底へと堕ちていった。
次の朝――。
蔦子は狭い空間の真っ暗闇の中で目覚めた。
筵の上にぐったりと身を横たえている蔦子の全身には玉の汗が浮かんでいた。股間はぐしょぐしょに濡れている。
両手を後ろで高手小手に縛り上げられ、上半身に菱縄をまとわされた裸身が小刻みに痙攣している。
何度も繰り返し昇りつめてドロドロに溶けた蔦子の肉体が、今は蔦子の意思には関係なく、女陰の花肉の芽に嵌められた銀の環に反応していた。その姿は妖艶というより、むしろ男の精をぶちまけたくなるほど淫靡だった。
目覚めてまもなく、ドヤドヤと階段を降りてくる足音が蔦子の頭上で響いた。
地下室の扉がギイーッときしみ、板床を踏みしめる足音が止まると、ガチャガチャと鍵が外されて小部屋の扉が開いた。
「もう十分休んだだろう。そこから出てくるんだ、蔦吉」
着流しの小柄な姿を見せた鬼頭仙八の声に、かすかな迷いの響きが混じっている。鬼頭の心の裡で、勝気な女をひと晩で従順な女に変えるという銀環の効果に対する期待と疑いとが綯い交ぜになっていた。
鬼頭を見上げた蔦子は、視線を背後に移して鏑木がいることを確認すると、起き上がろうと膝を立てた。
ううっ!
蔦子は小さく呻いて屈みこんだ。股間に喰いこんだ三味線糸についた銀環が女陰の花肉の芽をぎゅっと引き出していた。
ああ……。
眉間にきつく浮かび上がった縦皺が蔦子の辛さと切なさを訴えた。
「銀の環を喰いこませたままじゃ立つのもひと苦労だぜ、あはははは……。俺が立たせてやろうか?」
鬼頭の肩越しに顔を覗かせた武村が大きな声で嘲笑し、
つられた室田が、うひひひひっと、気味の悪い含み笑いをした。
「馬鹿ッ。蔦吉を甘やかすようなことを言うんじゃない! 一人で立って自分の足で歩いて出てこさせるんだ」
武村をたしなめた鬼頭はすすっと後ろに下がり、牢格子の前に置かれた椅子に腰掛けると、改めて命令した。
「蔦吉ぃ。さあ、私の前まで歩いて来て、朝の挨拶をするんだッ」
蔦子は、眉間に縦皺を浮かべ口を真一文字に結んだ。
う……と顎を突き出して膝を立て、
ああ……と腰をよろめかして立ち上がり、
足の裏で床の上を滑るように少しずつ歩をすすめ、
蔦子は、額に脂汗を滲ませて鬼頭の前まで辿り着いた。
「よしよし。よく頑張ったじゃないか。次は挨拶だ。何て挨拶するんだ?」
ニタリ顔の鬼頭が、両膝を突いて、腰をモジモジさせている蔦子の顔を覗き込んだ。
「ほ、本日も……」
「ん? 本日も何だ?」
「ご調教を……。よ、よろしくお願いします……」
蔦子の口から思いがけない言葉が出てきたことに鬼頭は相好を崩した。
「いやはやまったく驚きだねぇ。まさかあの蔦吉がこんな風に挨拶しようとは思いもしなかったよ。たったひと晩であれだけ気の強かった蔦吉をこんなに素直な女にするとは……。あの銀の環は本当に凄いや」
大袈裟に感心した鬼頭は、顎に手をあてて上げさせた蔦子の顔を見つめた。
「それにしてもひと晩でずいぶん女っぽさが増したなぁ」
ニンマリした鬼頭が鏑木を振り返った。
「おい鏑木。お前が蔦吉を綺麗にしてやってくれ。こんなに汚れてちゃ、折角素直ないい女になったのに艶消しだ。風呂に入れてやってくれ」
ようやく肉芽の銀環を外され上半身の菱縄もほどかれた蔦子は、鏑木に肩を抱かれて階段を昇り、長い廊下をよろよろと風呂場に向かった。
庭池を跨ぐ渡り廊下に陽の光がまだ斜めに射し込んでいる。その西日が眩しかった。昨日逃げ出そうとして地面に降りたあたりの池面に錦鯉の影が見える。今の蔦子の境遇とはほど遠いのどかな光景だった。
もはや蔦子に逃げ出すつもりも気力もない。蔦子が思い悩んでいるのは、このまま鬼頭仙八の女にされてしまって良いものかどうかということである。調教をよろしくお願いしますと言ったものの、鬼頭の女になる決心はまだついていなかった。
汗と塵に塗れて薄汚れたからだは、温泉の湯と石鹸でさっぱりと清められた。蔦子は、長い黒髪を後ろにふっくらと巻き上げた後で鏑木四郎の目を見た。
「鏑木さん……」
すがるような眼差しを向けた蔦子を見て、鏑木は顔を小さく左右に振った。
澄んだ瞳が、「何も聞きたくない」と言っているのではなく、「何も言わなくてもあなたの気持ちは解っていますよ」と言っているように蔦子には感じられた。
「ごめんなさい、余計なことを言おうとして……」
頭をさげて謝った蔦子は胸乳と股間を両手で覆い、鏑木の先に立って風呂場を出た。
再び地下室へ戻った蔦子は、首を長くして待っていた鬼頭の前に膝を揃えた。 むっちり柔らかく白い太ももをぴっちり閉じ合わせて正座をし、細くしなやかな両腕を静かに後ろに廻すと、華奢な両手首を腰の上で重ね合わせて薄く目を閉じた。
「おい鏑木。何をポケッとしているんだ。こうやって蔦吉が自分で両手を後ろに組んで待ってるんだ。早く縄をかけてやれよ!」
珍しく何か考え事をしていた鏑木は、麻縄を手につかむと、さっと蔦子の背後に廻った。
蔦子が自ら重ねた腰の上の両手首を持ち上げ、背中の中ほどで重ね直してからキリキリと縄をかけた。その縄を二の腕から前に渡すと胸乳のなだらかな傾斜をふた巻きし、乳房の下にひと筋喰いこませて背中に戻し、左右の脇に抜け止めの閂縄をほどこして縄を結び止めた。
うっ、ううっ。
時折り小さく呻き、眉間に皺を寄せて、蔦子は厳しい縄がけに耐えた。
別の縄をつないだ鏑木は、肩越しに首のつけ根の右側をえぐって胸の谷間に降ろし、乳房の下の縄にくぐらせてググッと引き上げた。
蔦子は、縄が柔肌に喰い入るたびに甘えるように身をくねらせた。顔を赤らめ、首を朱に染め、肩や胸まで紅潮させていった。
鏑木は、胸乳の上にかけた縄に首の右からの縄をからませて結び、左の首のつけ根を噛むようにして背後の手首の縄に一旦止めると、縄尻をもう一度前に廻した。縄に絞り出された乳房の上に赤く膨らんで屹立する二つの乳首を縄で挟んで巻き緊め、豊満な乳房を上下二つに割って圧し潰した。
あっ、ああーっ。
甘い吐息を半開きの唇から洩らした蔦子は、薄く目を閉じた顔をうっとりと桜色に変えて、縄に縛められた裸身をくねらせた。その媚態はまさに妖艶だった。蔦子は、柔肌を縄に緊め上げられることをあたかも愉しんでいるような表情を見せていた。
その蔦子を眺めていた鬼頭が、鏑木の縄がけが終わるとおもむろに訊いた。
「蔦吉ぃ。お前、井川由美子を知っているよね」
端整な頬を桜色に染めてうっとりと縄に酔い痴れていた蔦子の顔は、一瞬にして蒼白に変わった。思いがけない名前が飛び出した鬼頭の口を見つめる切れ長な眼の大きな黒い瞳が明らかにうろたえていた。
が、蔦子はすぐに顔を伏せ、首を横に振った。
「ふ〜ん、知らないか……。そんなはずはないのになぁ」
鬼頭はさもわざとらしく首をかしげてニタニタ笑った。
その視線から遠ざかるように大きく顔を背けた蔦子は、血が滲むほど強く下唇を噛んだ。
「井川由美子はお前と血のつながった妹のはずだよ、畑違いの……」
「…………」
蔦子は黙りこくった。が、妹の由美子にまで手を出しかねない鬼頭に怒りが込み上げてきたのか、次第に顔を赤く膨らませていった。
「そうか。お前が知らないと言い張るのなら、井川由美子をここに連れてきてご対面ということにするか」
「馬鹿なことはしないでっ! あの子に何の関係があるって言うのさ」
「ほれみろ、妹だと認めたじゃないか」
そう言われてハッと口を押さえようとした蔦子だったが、口を押さえようにも両手は背中に縛り上げられている。
口惜しさにキリキリと奥歯を噛んだ蔦子は凄まじい目つきに変わった。鬼頭をキッと睨みつけ、以前の伝法口調に戻って叫ぶように言った。
「そうさ、由美子は紛れもなくあたしと血のつながった妹だよ。鬼頭さん、あんた、その由美子をどうしようってのさ!」
蔦子はらんらんと目を光らせ、鬼頭に挑むような態度を見せた。
「やっぱりだ。調教して下さいと口では殊勝なことを言っても、心のうちじゃまだこの私に服従するつもりはないって証拠がこれだ。ま、私はお前のその情の強さに惚れているんだがね。しかし蔦吉。いつまでもそんな態度でいるのなら私にも考えがあるよ。お前の妹は顔もスタイルもお前に瓜二つだそうじゃないか」
「……ん?」
鬼頭を睨みつけている蔦子の脳裏を不吉な予感が渦巻いた。
「その妹ならお前の代わりになれるんじゃないのかな?」
(な、なんてことを……)
余りの姦計に息を呑んだ顔からたちまち血の気が退いた。蔦子は、凄まじいまでに頬を硬化させ、紅い唇をわなわなと震わせた。
「お姉さんが事故に遭って重症だとかなんとか、もっともらしい話をしてやれば、井川由美子はすぐにここに駈けつけてくるんじゃないのか? そしたらお前と同じように捕まえて、この地下室に閉じ込めてみっちり調教してやればいい。案外簡単に私のものになるんじゃないかねぇ」
「やめてっ! お願いっ、由美子に手を出すのはやめてっ!」
蔦子は必死の形相で鬼頭にすがった。
井川由美子は、母親は違ってもこの世でたった一人だけ血のつながった妹である。その由美子をを巻き込むことだけは避けたい。
花街の水に染まっている自分と妹とは違う。平穏で幸せな人生を歩んで欲しいと願ってきた井川由美子は、蔦子にとって、恩義のある棚橋冨美子以上に大切な存在だった。
言葉を換えれば生き甲斐だと言ってもいい。かけがえのないその妹に毒牙がかかるとなれば、何としてもその悪企みは阻止しなければならない。
「鬼頭さんお願いです。い、妹を……。由美子を巻き込むのだけはやめてください」
「それほど言うのなら由美子をここに連れて来るのはやめてやるよ。だけど蔦吉。やめてやる代わりに、お前は私に何をしてくれるんだ? お前の大事な由美子に指一本触れないと私が約束したら、お前は私の女になってくれると言うのかね?」
鬼頭はじわじわと蔦子の心の外堀を埋めていった。
蔦子はようやく、鬼頭が棚橋良一を追い返した時に口にした「情報提供」という言葉の意味を悟った。
鬼頭は仕事を片付けるためではなく、蔦子をさらに雁字搦めにする情報を得るために東京へ戻っていたのだ。
蔦子は、ここまで周到に支度をして蔦子を自分の女にしようとしている鬼頭の執念に畏れを抱いた。と同時に、金のためなら由美子まで売り渡そうとする棚橋良一に強い憎しみを感じた。
あんな男に抱かれてきた過去を今すぐ記憶の彼方へ投げ棄てたい。こんな辛い仕打ちを蔦子にしても、まだ鬼頭仙八の方が遥かにマシだと思った。
「な、なります。あなたの女になります。ですから由美子には……」
「口だけじゃ信用は出来ないよ、蔦吉。身も心もすべて私のものになるという証拠を示してもらわなくちゃね。そのためには私が考えている通りの調教を受けてもらわなきゃならないけど、それでいいんだな?」
「受けます。どんな調教でも受けます。由美子に指一本触れないと約束してくださるのなら何でも鬼頭さんのおっしゃる通りにします。だから……、だからお願いします。由美子を巻き込むことだけはやめてください……」
「よし分かった。それじゃ誓うんだ、お前が素直に私に従うことを」
「はい。何でもあなたのおっしゃる通りにします」
蔦子は、この時ついに、自分を捨てる決心をした。
「蔦吉。お前がどう思っていようともな。お前のそのからだが、所詮は男を悦ばせる道具でしかないことを教えてやることになるが、覚悟は出来ているだろうな?」
「はい。どうとでもお好きなように料理してください」
「いい覚悟だ。それじゃまずは、男心をそそるその唇を吸わせてもらおう」
鬼頭は、「しばらく二人だけにしてくれないか」と言って、三人の男たちを地下室から下がらせた。
おもむろに蔦子を座敷牢に連れて入った鬼頭は、不自由な上半身をよじって柔肌にからみつく縄をキシッと鳴かせる蔦子に、畳の上に横たわって仰向けになるよう命じた。
蔦子は縛られた両腕を背中の下にして仰向いた。その蔦子のからだに覆いかぶさると、鬼頭は蔦子のやわらかな紅唇にヤニ臭い唇をぴったり重ねた。
押し入ってきた鬼頭の熱い舌が蔦子の舌にからみ、歯の裏側を舐めまわした。チロチロと動き廻る舌は、ねっとりした油のような唾液を口中にあふれさせていく。その舌触りがなんともおぞましかった。
蔦子は、思い切って鬼頭の舌に自分の舌をからめた。そして、
「さあ、強く吸って!」
と言わんばかりに舌を伸ばした。
その舌を強く吸われた蔦子は、「んっ、んんっ、ふうんっ」と、鼻を鳴らして熱っぽく喘いだ。
濃厚なディープキスに満足した鬼頭は、立ち上がってさっと着物を脱ぎ捨て裸になった。再び仰向けの蔦子に覆いかぶさり、自分の腰を蔦子の腰に重ねた。
すでに濡れそぼっている蔦子の女陰に熱く硬いものが侵入してくる。
ああっ、はあっ、あ……。
蔦子はくなくなと上気した顔を揺さぶった。
息遣いが荒くなっていく。蔦子は肩で呼吸をした。胸はその膨らみにどす黒い麻縄をかけられて上下二つに割られている。
縄に形をゆがめられた透きとおるように白い乳房を愛撫され、縄に挟まれて屹立している赤い乳首をチロチロ舐められると、鬼頭の肉棒を迎え入れた蔦子の花肉の襞が収縮をはじめ、花芯から女の蜜がとめどなく噴き出してきた。
はあっ、ああっ、んんっ。
甘い喘ぎ声を洩らして狂おしく身をうねらせる。
蔦子は、両手を縄で背中に縛められたまま男に貫かれることを悦んでいるようにさえ見えた。被虐の妖しい官能に目覚めたことは疑いようがなかった。
まもなく感極まった鬼頭は蔦子の中で果てた。
「やっぱりお前が一番だよ、蔦吉……。妹のことは心配するな、約束は必ず守るから」
鬼頭は、はあはあと肩で息をしながら後ろ手に縛った蔦子を抱き起こした。その鬼頭の顔を見上げて、蔦子は上気した顔をうっとりさせた。
「蔦吉。私のこいつをお前のその口で綺麗にしてくれないか?」
コクンとうなずいた蔦子は、腰をグイと突き出した鬼頭の股間にすり寄って顔を埋めた。
甘えるように首を傾けて赤い舌を伸ばし、硬さを失った肉棒をぺろぺろと丹念に舐め清める。
粘り気のあるヨーグルトのような液体が、まだ肉棒の先からジワジワと滲み出てくる。
口をすぼめた蔦子は、白濁した液体を吸い取ると、それをゴクンと嚥み下した。
「なかなか上手じゃないか」
顔をほころばせた鬼頭の肉棒が少し元気を取り戻している。すっと首を伸ばした蔦子がパクッとその先端を口に咥えた。するっと口中に滑り込ませた肉棒を喉元深く呑みこむように吸い、唇でこすった。
思いがけない蔦子の行動に鬼頭は戸惑いを見せた。が、たちまち肉棒は熱を帯び、膨らんできた。その肉棒から口を離した蔦子は、さもいとおしそうにそれに頬ずりした。
眼を薄く閉ざして勃起した肉の棒に頬をすり寄せる蔦子の表情を、鬼頭はえもいわれぬほど美しいと思った。
その妖しく美しい蔦子が、今度は尖らせた舌先で亀頭の先端をチロチロと舐め、玉の袋を口に含んで吸い上げた。
いよいよ屹立してきた肉棒を再びしっかりと口中に咥え込むと、蔦子は柔媚な頬を激しく収縮させて一心に吸い上げた。
おっ、おおっ! うっ、ううっ、おおーっ!
悲鳴にも似た喜悦の声を上げた鬼頭は、上半身を後ろに弓反らせ、蔦子の口中にこの日二度目の射精をした。
蔦子の口中に、甘くねっとりと、そして熱いものが広がった。
男精の雫を喉で受け止めた蔦子は、それをゴクンと嚥み下したが、紅い唇の端から一部がたらっとこぼれた。蔦子は赤い舌を出して、唇の周囲を舐めまわしながら鬼頭を見上げた。
蔦子が浮かべた笑みの妖艶さに、鬼頭は思わずゴクッと生唾を呑み込んだ。
気圧された気持ちにさせられた鬼頭は、蔦子の縄尻を牢格子につないで地下室から出て行った。
しばらく間、蔦子の周囲を静かな時が流れた――。
鬼頭仙八が武村と室田を従えて地下室に戻って来たが、その顔から先ほどの戸惑いが消え失せ、前と同じ冷酷な嗜虐趣味者の顔になっていた。
「蔦吉ぃ。お前が私に服従した証拠をもう一つ見せてもらおうじゃないか」
鬼頭はいきなり威丈高に言った。蔦子には、鬼頭が何を見せろと言っているのか、皆目見当がつかなかった。
「どうすればいいんですか?」
「下の毛を綺麗に剃りとってもらうんだよ」
「ええっ! そ、そんな殺生な……」
女が息づいている花肉の秘裂を包み隠してくれている茂みを失うなど、考えただけでも顔が火を噴く。
「殺生……か。近頃滅多に聞かない言葉だが、いい響きだなぁ」
そう嘯いた鬼頭が室田を振り返った。
「室田。昼間蹴り倒された仇討ちだ。お前が蔦吉のあそこをツルツルにしてやれよ」
「ま、待ってください鬼頭さん。そんなむごいことは……。お願いです。許してください」
「そうはいかないねぇ」
すげない素振りをした鬼頭の脇で、室田耕平が牢格子につないだ蔦子の後ろ手縛りの縄尻をほどいた。
「鬼頭さん。あたしは今だって素っ裸を縛り上げられてこんな恥ずかしい姿を晒しているんですよ。それなのに、まだこの上に恥をかかなきゃならないんですか?」
険しい口調で抗議する蔦子に、鬼頭の溝鼠顔が赤く膨らんだ。
「つべこべ言うんじゃない! 服従を誓ったんだから素直に従うんだ。どうしても従えないと言うのなら由美子を連れて来て代わりをさせてもいいんだぞ」
「そ、そんな……」
蔦子はうつむいて下唇を噛んだ。
両眼から口惜し涙があふれそうになっている。背中に縛り上げられている両手の指を固く握り締めてブルブル震わせた。
「それが嫌ならそこから出て来て柱の真ん中に立つんだ」
「…………」
由美子を引き合いに出されてはどうにも抗いようがない。蔦子は腰をふらつかせながら立ち上がった。
開けられた格子扉をくぐって二本の柱の中央へすすんだ蔦子の縄尻を武村が柱の上に渡された梁の鉄環につないだ。
「ご、後生です。鬼頭さん、お願いします。どうか、どうか考え直してください。こ、こんな恥ずかしいこと、後生ですからやめてください……」
すがるように重ねて訴える蔦子の顔も首筋もすでに紅潮している。
「諦めが悪いなぁ、お前も……。さあ、そこで股を広げて脚を縛ってもらうんだ。おとなしくしていないと……分かっているよなッ」
念を押されて哀しげにうな垂れて立ち尽くす蔦子の、左右の膝の上部に室田と武村が縄をかけていく。
蔦子は口を真一文字に結んで切れ長な眼を固く閉じ合わせた。その長い睫毛を濡らした涙が雫となって床にこぼれ落ちた。
蔦子の両脚の膝上を縛った武村と室田は、縄尻を左右の柱の中ほどに打ち込まれた鉄環に通して戻し、グイッと引いた。
ああっ!
紅潮した顔を左右に振る蔦子の両膝が次第に離れ、むちむちと白く悩ましい太ももが開いていく。
(イヤっ、こんなのイヤっ!)
頭の中で叫んでも、それを口に出せば由美子に累が及ぶ。
奥歯を噛み締めて羞恥に耐えている蔦子の二肢は、まるでカニの脚のようにいびつなM字形に割り開かれた。その股間で、これから剃り取られていく絹糸のように艶やかな繊毛がふるふる震えて怯えている。
「それでいい。室田、いいな。決して肌には傷をつけないように気をつけてやるんだぞ」
「へいっ、任しといてくださいよ、旦那。俺、これでも若い頃に散髪屋の修行をしたことがあるんですぜ。顎の髭でも下の毛でも剃るのはお手のもんです」
じゃ安心だな、と笑った鬼頭は蔦子に向って皮肉っぽく言葉をかけた。
「蔦吉。いくら室田が毛剃りの達人でも、お前が動くと手元を狂わせてしまうよ。大事なところを傷つけられたくなかったらじっとしていることだね」
桜色に染まった細くしなやかな首を縦に振った蔦子は、涙がこぼれ落ちるのをこらえるように顎を上げて顔を仰向けた。
蔦子の後ろに廻った武村がきゅっとくびれた腰に手をかけて前に押した。
グッと突き出さされた腰の前に片膝を突いた室田が、蔦子の女の秘所を覆う茂みにシェービングフォームを吹き付ける。悩ましい漆黒の茂みはたちまち白い泡に埋もれた。
ふっくらと盛り上がった恥丘をくまなく覆うように泡を塗り広げていく室田の指先が蔦子の女肉の花びらに触れた。
ああっ!
蔦子は左右に広げた白い太ももをブルルッと震わせた。
意地の悪いゆっくりとした指運びが蔦子の羞恥心を煽り、被虐の官能を昂ぶらせていく。
ああ……。
まもなく蔦子の口から切なく熱い吐息が洩れた。と同時に柔らかな繊毛の茂みに剃刀の刃があたった。
ひっ!
朱に染まった顔を狂おしく左右に振った蔦子の艶めかしい尻が白く揺れた。
「姐さん。動いちゃダメだよ。怪我するよ」
室田に窘められてハッと動きを止めた蔦子の恥毛が少しずつ剃りとられていく。
室田は、泡にまみれた繊毛が失せた場所を指の腹で確かめながら、黙々と剃刀をすすめた。
女の大切な茂みを剃り取られていく、それも立ち縛られた姿で……。
あまりの恥辱に涙が溢れ、頬をこぼれ落ちた。しかし、顔を左右に振れば腰が揺れて室田の手を狂わせかねない。
身じろぐことすら出来ない蔦子は、赤く染まった頬に涙の白い糸を引かせ、さながら蟹のように広げている両肢に力を込めて、この恥辱に耐えた。
まもなく蔦子は、女の翳りをすっかり失った。
「ほう、可愛いじゃないか蔦吉。ほら、ここが赤ん坊みたいになったぞ」
いつの間に用意したのか、丸い大ぶりな手鏡を持った鬼頭がそれを傾けて股間の様子を蔦子に映して見せた。
翳りを失った恥丘の中央に、婀娜っぽいピンクの縦筋が走っている。その切れ込みから、花肉の芽がわずかに頭を覗かせていた。蔦子の顔はたちまち火を噴いた。
あははははは……と、さも愉快そうに笑った鬼頭がその肉芽を二本の指先でつまんだ。
ひいーっ!
絹布を引き裂くような悲鳴が地下室の空気をビリビリ震わせた。が、鬼頭は肉芽いじりをやめない。
「や、やめてっ! そ、それはだめっ! そこは許してっ!」
顔を真っ赤に染めて必死に頼む蔦子の花肉の秘裂に、意地悪い鬼頭の指先がすすっと深くくぐりこんで濡れそぼった熱い粘膜をくにゅくにゅとまさぐった。
あうっ、あっ、あっ、ああーっ!
真っ赤に膨れ上がった顔を大きく天井に向け、蔦子は緊縛裸身を揉み絞るようにして仰け反った。耳たぶまで真っ赤に染めた顔を右に左に激しく振って号泣した。
「おい皆、これを見てみろよ。蔦吉のサネがこんなに大きく膨らんできたぞ」
ようやく女陰から手を放した鬼頭の指が差したそこに硬く充血して屹立した女肉の芽がはっきりと頭を覗かせていた。
「なるほど。綺麗なピンク色をしてるじゃねーですか。まるで処女みてーだ」
身を乗り出した武村がニヤついた。その武村に鬼頭が新たな命令を下した。
「今度はお前の番だな。蔦吉のここに例の環を嵌めてやれ」
「そいつはありがてぇ。合点承知ノスケでさぁ」
わざとらしく歌舞伎風に見栄を切って見せた武村は、さも嬉しそうに身を翻し、部屋の隅に置いてあった銀環付きの三味線糸と細引き縄を手にして蔦子の前に片膝を突いた。
武村は、ゆうべと同じように細引きで打った腰縄に三味線糸をつないだ。
その糸を手繰って真下に降ろした武村は手を止め、鬼頭を振り返ってニッと笑った。
「へへへっ。邪魔なオケケはなくなっちまったし、サネがにょきっと自分から頭を出してやがる。旦那ァ。こいつぁゆんべよりうんと楽ですぜ、嵌めんのが……。へへへっ」
卑猥な笑い声が蔦子の羞恥心をことさらに煽り、またもおぞましい銀の環を嵌められる蔦子の心は千々に乱れた。
蔦子は、厳しく後ろ手に縛り上げられて梁につながれている裸身を激しくよじった。
しかし、武村と入れ替わった室田にがっしり押さえられている腰は、あたかも銀の環が嵌められるのを待っているかのように悩ましく前後に揺れただけだった。
「後生ですから、それを嵌めるのだけは堪忍してください。お願いします」
必死に許しを乞う蔦子の気持ちなど意に介せず、武村は女の最も敏感な部分に銀の環がプスッと嵌めた。
ひいーっ!
蔦子はけたたましい悲鳴をあげた。
「イヤっ! ああ……イヤです。は、外してっ。お願い、その環を外してください……」
花肉の芽の根元に銀の環をしっかり固定され三味線糸を手繰られると、どうしようもない切なさが蔦子の胸を緊めつけた。
糸が微肉の筒口を縦に割って引き上げられると女陰の浅いところに痺れが生じ、その奥の花芯が疼きはじめた。
「ゆ、許して……。ああ……許してください……」
口に出したところで詮方ない言葉を蔦子はうわ言のように繰り返した。その声音に官能の昂ぶりが混じっている。次第にか細く、そして甘く、蔦子の声は響きを変えていった。
「ふふっ。今日は感じるのがずいぶん早いじゃないか」
「馴染んできたんじゃねーですか、銀の環にここが……」
「そう思うかい?」
「へえ。もうぐちゅぐちゅになってやすから、中が……」
鬼頭と武村のそんな会話はもはや蔦子の耳には聞こえない。昨夜とは違った色の涙に頬を濡らして下腹部の痺れと疼きに陶酔しつつあった。
半ば朦朧として薄く目を閉じている瞼の裏にまた二匹の蛇が現れた。
花肉の芽にからみついた白銀の蛇が真っ赤な舌をチロチロと伸ばして奥の花芯を舐め、黄色い蛇が微肉の筒に頭を出し入れしている。
一糸まとわぬ裸身を縄に縛められ、抵抗する術をすべて奪われて急所を淫らに責められる。その辛さは切なさに変わり、切なさは花芯を甘く疼かせ、甘い疼きは妖しい被虐官能の陶酔へと、蔦子を導いていた。
「おい、蔦吉ぃーっ!」
急に甲高い声で名前を呼ばれて、蔦子は我に返った。
「ずいぶんこれが気に入ったようじゃないか」
鬼頭は、蔦子の股間を縦真一文字に割っている三味線糸をつまむと、グイッと持ち上げた。
ひいっ。
銀の環に緊め上げられている花肉の芽が小さな悲鳴を上げた。が、すでに痺れが広がっている下腹部に昨夜のような痛みは走らない。むしろ性の昂ぶりが助長されたように蔦子は感じた。
「もう気づいているだろう? お前のからだは嬲られたり辱められたりすると悦びを感じることを……」
「えっ?」
「こうやって縄で縛られることをお前のからだが望んでるってことだよ」
「そ、そんなこと……」
ありません、と蔦子はなぜか言えなかった。
「前から私は睨んでいたんだよ、こんな風にされることを望んでいる淫らな血がお前のからだの奥底に潜んでいるんじゃないかとね」
(そ、そんな馬鹿なこと……あるはずないわっ)
喉元まで上がってきた言葉を、素肌を緊め上げている縄と股間の銀環が抑えこんでいた。すでにドロドロに溶けかかっている肉体が、鬼頭の指摘を蔦子に否定させてくれなかった。
全身に広がった心地好い痺れと花芯から送り出される甘い疼きが、蔦子に被虐の悦びを感じていることを素直に認めろと迫った。
戸惑いを隠しきれない蔦子は、朱に染めた顔をさっと斜めに伏せた。
つづく
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