鬼庭秀珍  裏切りの代償




             第七章 観音縄化粧






 高階礼子は、耐えがたい羞恥と強い屈辱感に震える唇をやっとの思いで開いて「その縄でわたしを縛ってください」と言った。そして、辛く切なげに伏せた顔の長い睫毛の間から涙をこぼして真新しい畳を濡らした。

「おい、お願いしますが抜けてるぜ」
 古谷が意地悪く言い直しを促がした。

「すみません……。お、お願いします。縄でわたしを、し、縛って……ください」

「よく言えたな、礼子。それじゃお望み通りに縛ってやるから胸をしっかり張りな」

 礼子はしなやかな背中を反らすようにして胸を張った。豊満な乳房を突き出すとこぼれ落ちる涙を()きとめるように顔を仰向けて瞼を固く閉じた。
 その時、礼子の胸の奥で何かがモゾッと蠢いた。その何かがポッと蒼い炎を発し、チロチロと燃え広がっていく。炎は赤紫色に変わり、礼子の胸を焦がして妖しい情感を全身に広げていった。

「あ、あぁ……」

 吐息を小さく洩らした礼子は、かすかに身をよじった。両手を後ろに廻して背中に重ね合わせた両手首が自ら縄を求めているように思って当惑していた。礼子の女陰の内奥はすでにしとどに濡れていた。

(どうしたの? 変よ、わたし……)

 動揺する背中の両手首にキリキリと縄が巻きつくと胸がキュンとした。二の腕から前に廻った縄がなだらかな白い傾斜に渡され、キュキュキューッと鳴きながら後ろに引き絞られた絹の縄が溝を掘ると胸がズキンと疼いた。ツンと上を向いた赤い乳首をかすめるように黒い縄が走ってたわわな乳房の下に喰いこむと、下腹部がざわめいた。

「あっ、ううっ!」と、礼子は顎を突き出していた。礼子の乳首が充血して膨らみ、硬さを増している。

 胸の隆起の上下にかけられた黒い縄は、礼子の透けるように白い乳房を容赦なく絞り出して背中で止められ、つながれた新しい黒縄が首の右のつけ根に食い込んで肩越しに前に廻った。

 黒い縄が艶々と白い胸前を下へ走る。胸乳を上下から絞り出している縄を乳房の谷間でかいくぐると上へ這い登り、左右の鎖骨を浮き立たせた黒縄は礼子を「う……」と小さく呻かせて右肩から後ろに戻った。縛られた両手首の下をくぐって、グググッと、上に引き絞られる。
「ああっ!」と礼子は前屈みになった。

 礼子の両手首を痛々しいほど高く背中に吊り上げた縄は、二の腕にかかった縄に左右の脇腹でからんで、抜け止めの
(かんぬき)となってぎゅっと後ろに引き絞られる。乳房を絞り出している縄をさらにきつく肌に喰いこませて背中の中ほどで縄止めされた。

 蕩けるような柔らか味を感じさせていた礼子の白く熟した乳房は非情な黒縄に絞り出され、今にも弾けそうになっていた。

「綺麗だぜ、礼子。見事に縄が栄える、惚れ惚れするようないいからだをしてるじゃねぇか。まるで観音像のようだぜ。そういやぁ、観音様は衆生(しゅじょう)を救うつうけどよ、礼子。自分の身を投げ出して倉田の若造の命を救うなんざ、お前はまさに観音様だ。縄化粧した観音だけどな」

 ニンマリする古谷の言葉に、礼子はなぜか顔を赤らめた。

 古谷は、パンチパーマのヤスに命じて床の間近くに敷布団を一枚敷かせると、「お前ら、もう充分に堪能したろ?」と目配せをした。

 古谷の意を敏感に察したヒデとヤスはさっと立ち上がって、開け放たれていた障子をすべて閉めて部屋の外へ出ていった。

「さて、こっからは俺と二人きりだ。誰に遠慮することもねぇぜ」
 上機嫌な笑みを浮かべた古谷は、今敷かれたばかりの布団を指差した。

「それじゃ、そこに仰向けになってみな」

 ここに至ればもはや、古谷の手にかかって女の肉を燃えつくすより他に(すべ)はない。礼子は自虐的な気分に陥っていた。古谷に指示された通り仰向けに、黒縄に縛められた裸身を布団の上に横たえた。

「いい女つうのは寝姿まで男の下半身をそそるもんだな」

 艶めかしい姿態をしげしげ眺めた古谷はポツンとそう呟いた。そしておもむろに、背中に括り上げられている両手の指を握り締めて羞恥に耐えている礼子に添い寝をする姿勢をとった。

 古谷は、縄に緊め上げられている熟れ切った乳房を手のひらで包むようにして揉み上げ、尖っている赤い乳首を手のひらで撫でこすった。

「あっ、あっ、ああっ、あ……」

 充血が増してますます硬くなっている乳首がヤニ臭い口に繰り返し吸い上げられ、軽く歯をたてられる。

「ううっ!」と顔を仰け反らせて、顎を突き出した礼子の紅い唇から熱い吐息が洩れた。唇を噛み締めた礼子は、黒い絹の縄にかっちり縛められた両手の指で布団の敷布をつかんで、あられもない声が出そうになるのを必死にこらえた。
 その礼子のパンティの中に滑り込んだ古谷の手がすでに潤いを滲ませている漆黒の茂みを掻き分けた。

「あっ、イヤっ。う……。そ、そこは……」

 礼子は白く柔らかい腹をへこませてむずかった。次の瞬間、礼子の秘所を覆っている淡いピンク色をした小さな布を古谷の手が引き下ろし始めた。

「あっ、やめてっ。やめてください」

「ふふふっ、そうはいかねぇなぁ」と皮肉っぽく含み笑った古谷の手は、礼子のパンティをすでに膝まで引き下ろしていた。

「ああ……」

 女の恥ずかしい繊毛の丘を露わにされた礼子は、真っ赤に染まった頬の片方を布団につけた。が、まもなく白い陶器のような光沢を放つ下肢の足首から細い紐のようになったパンティが抜き取られ、礼子は一糸まとわぬ裸身を、いや、黒光りする絹の縄だけを上半身にまとった妖美な裸身を晒していた。

「ほう、ここもずいぶん具合がよさそうじゃねぇか」

 ホクソ笑んだ古谷の指は再び恥丘の茂みを掻き分け、すでに濡れそぼった肉の花びらの奥深くに侵入した。

「お、お願いです。そ、そこは許してっ。許してください……」

 礼子はすがるように許しを乞うた。が、聞き流した古谷は、意地の悪い指で花びらの内側で膨らんでいる花肉の芽をつまんだ。

「ああっ、ダメっ。イヤっ、イ……」
 あとは言葉にならなかった。

「あっ、ああっ、んっ、んんっ」と、喘ぎ声が洩れるに連れて礼子の花肉の芯を妖しい炎が焦がしていく。

「んっ、んんっ、うっ、ああっ、あっ、あ……」と、礼子の口から洩れる声は次第に高まって甘えるような響きに変わっていった。

 しかし、古谷は攻める手をゆるめない。礼子の上気した首筋やうなじに粘っこい口吻をそそぎ、縄の緊めつけに喘ぐ乳房をゆっくりしたリズムで満遍なく揉みしごく。膨らみを増して乳輪の真ん中にすっくと屹立した赤い乳首を舌で(もてあそ)ぶと、再び指で花芯をかき回した。

 執拗な愛撫に悶え続ける礼子の緊縛裸身は、腰骨や背骨までもがじーんと痺れてきていた。花びらも花襞も花芯も、秘肉のすべてがドロドロに溶けていく。礼子は恍惚状態へと突きすすんでいった。

「ああーっ。い、いいーっ。イ、イ、イクーっ!」
 礼子は思わず喜悦の声を上げた。

 
古谷の巧妙な愛撫に操られ、息の根が止まるほどの昂ぶりを感じていた。朱に染まったうなじを大きくのけ反らせ、両足の爪先を反り返らせ、白く肉付きのいい太ももをブルブルと
痙攣(けいれん)させ、全身を真っ赤に染めて(おびただ)しい量の女蜜を噴き上げていた。


「おう、もう気をやったか……。指と舌だけでイクなんざ、なかなかいい感度をしてるじゃねぇか。しかし、それでいいんだぜ、これからはいつもこうして縄に縛られた状態で男を受け容れるんだからな」

(そうだったんだわ。わたしの実入りのいい仕事って、こういうことだったんだわ)

「どうしたい、その顔は? 縛られたまま男に抱かれるのはイヤかい?」

「いいえ、そういうことでは……」
 ありません、と礼子が答える前に古谷が言った。

「それじゃ、礼子。今度はその可愛い口で俺をイカせてくれよ」

 ミディアムロングの頭髪を鷲づかみにした古谷は、礼子の顔を自分の股間に引き寄せると、荒い息に胸を波打たせている礼子の唇に熱く勃起した肉の棒を押しつけた。

 逞しく反り返った男根を目の当たりにした礼子の脳裏に、ふっと昔の情景がよぎった。男にすがって生きることを決心した時の記憶が蘇っていた。

(あの時もそうだったわ、慎司さんからプロポーズされた時も……。わたし、自分の人生を委ねてみようと思った……)

 すでに身も心も(とろ)けさせている礼子は、思いがけずも陥ってしまったこの忌まわしい事態を積極的に受け容れようと改めて思った。そうするよりほかに道はないのだが、受け容れるのではなく、自らすすんで地獄に堕ちようと礼子は心に決めた。

 やっと過去を捨て去る覚悟ができた礼子は、古谷が押しつけてきたものを口で慰めることがさも当然であるように紅い唇を開いた。

 甘えるように首を伸ばして赤い舌を伸ばし、舌先で亀頭の周辺を舐めさする。肉茎に口吻を注ぎ、縄に絞り出された二つの乳房の谷間に肉茎を挟んで揺する。鼻で肉茎を押し上げ、根元の玉の袋をひとつひとつ口に含んで吸い上げる。そして、男の生肉の先端を舌先でチロチロと舐め、怒張した肉の棒をしっかりと口に咥えた。


 熱を帯びて白くなってきた男の雁首(かりくび)をパクッと咥えた唇を思い切りすぼめ、グッと顎を引く。強くこすられた熱い肉棒からスパッと音が出た。礼子は何度もそれを繰り返して大きく口を開き、喉奥に達するほど深く逞しい肉の棒を呑み込んだ。

(お願い! あなたの力をちょうだい、わたしをもっと淫らにする力を!)

 柔媚な頬を激しく収縮させて一心に吸い上げ、唇を大きく開いて喉の奥へと咥え込み、頭を前後に揺さぶってしゃぶり続ける。
 古谷の肉棒は小さく脈動をはじめ、ぐうーっとひと回り大きく膨らんだ。次の瞬間に亀頭の先が弾けた。


 古谷の噴射を喉で受けた礼子は、ヨーグルトのような舌触りのそれをゴクンと()み下した。唇から白濁した粘っこい液が一筋糸を引くようにしたたり落ちる。
 その唇の周りを紅い舌でなめ回し、礼子はゾクッとするほど妖しい笑みを浮かべた。

 縄で後ろ手に厳しく縛められた裸身をくねらせる礼子の瞳に淫らな赤紫色の炎と蒼白く妖しい光が宿っている。そこにはもう、悲哀の色は混じっていなかった。


「お願い、ここに……。ここに入ってきてっ」

 緊縛裸身を甘くよじった礼子は、ねっとりからみつくような妖しい眼差しを古谷に向け、自ら二肢を広げて柔らかな繊毛がしとどに濡れそぼった女の恥丘を浮かせた。



                                           裏切りの代償−完−