鬼庭秀珍   呪縛の俘囚




      第三章 歪んだ愛








 正木蘭子が一週間の予定で中井の元に身を寄せた土曜日の夕刻――。
 蘭子は、ブラジャーとショーツだけの姿を恥らいながら愛用のエプロンを着け、蘭子が書き残したメモに従って中井が用意した食材を使って夕食の支度をしていた。この日のメインディッシュはビーフシチューである。こまめにアクを取り除きながらの煮込み作業も半ばまで来ていた。


 ソファに深く腰を沈めた中井は、甲斐甲斐しく立ち働く蘭子をさもいとおしげに眺めていたが、突然何かに弾かれたように立ち上がって蘭子の背後に身を寄せた。そして、左右の脇腹からすっと差し入れた腕をエプロンの内側に滑り込ませ、ブラジャーに覆われた蘭子の両乳房をその手に包んだ。

悪戯(いたずら)っ子さん。今はダメですよ。もう少し我慢してねっ」
 蘭子は、子供を諭すように優しく中井の目を見つめながら、からだの向きを変えた。

「我慢できないよ」と甘え声を出した中井は、蘭子の顔を引き寄せて唇を奪った。
「む、むうっ」とたじろいだ蘭子の口を吸いながら、中井はエプロンの紐をほどき、邪魔なものを剥ぎ取るようにしてエプロンを床に放り投げた。中井の手がブラジャーのカップをたくし上げる。露わになった乳房をまさぐって揉みしだき、乳首を強くつまんだ。

「うっ! んんっ! ふっ、ふうんっ!」
 背中を反り返らせた蘭子は、感情の昂ぶりを抑え切れずに両腕で中井の首を強く抱いた。中井の唇が離れると、それを追いかけるように自分の唇を重ねていった。

 濃密なキスと抱擁が繰り返され、二人の感情は否が応でも高まった。が、しばらくすると乳房の愛撫を続けていた中井の手がふと止まった。

「ブラジャーが邪魔だな。取っちゃおうよ」

 蘭子の顔を挟むように左右の頬に軽く手を添えた中井が目顔で訴えた。小さくうなずいた蘭子は、深く息を吸って瑞々しい胸の隆起を揺らし、しなやかな両手を後ろに廻してバックベルトのホックを外した。続いて肩から二の腕にずらしたストラップを左右の腕から抜いて胸前に(たわ)んでいたブラジャーを一つにからげ、その手をそっと開いた。アンティックベージュの艶っぽい布がはらはらとフローリングの床に落ちて行った。

 中井は蘭子の乳房の愛撫を再開した。が、今度は手指だけではなく舌も使った。融けるように柔らかい二つの乳房を大きな手のひらに包みこんで揉み上げ、片方の乳房には舌を這わせ、乳房の頂きで硬さを増してきた赤い乳首を口に含んで舌先で弄び軽く歯を立てた。


「あっ、ああっ。はっ、はっ、はあーっ」
 次第に喘ぎ声を高めていく蘭子の背中に片手を添え、中井はその場に蘭子を仰向けに押し倒した。そして、蘭子の腰のショーツに片手をかけた。が、蘭子はその手を咄嗟に下へ伸ばした両手でつかみ、本能的に女の息づく源泉を守ろうとした。

 虚を突かれた中井は焦れた。蘭子のからだをくるっと裏返しにすると、蘭子の両腕を後ろに手繰って華奢な手首を背中で交差させ、いつの間にか手にしていた縄で重ね合わせた両手首をキリキリ縛った。

「イヤっ。今はやめてっ。中井さん、わたし、まだ夕食の支度が……」
「そんな心配はしなくたっていいよ、蘭子。シチユーは煮込む時間が長いほど美味しいっていうからさ。それまでに一ラウンドしようよ」

 蘭子の両手を後ろ縛り上げて動きを封じた中井は、改めてうつ伏せの蘭子の下腹部を覆うアンティックベージュのショーツに手をかけ、(ぬめ)り豊かな白い太ももを滑らせるようにして足元まで引き下げた。
 両足首から抜き取った小さな薄い布をポンと放り出すと、蘭子の一糸まとわぬ裸身を仰向けに戻し、その上に覆い被さった。中井を迎え入れた蘭子が、まもなく昇りつめて陶酔の表情を示したことは言うまでもない。

 その夜二人の食卓に並んだビーフシチューは少し焦げ臭かったが、中井は「これは旨い」と舌鼓を打ちながらすっかり平らげ、ワインを浴びるように飲んだ。その喜々とした表情は悪戯(いたずら)坊主そのものだった。しかも、亡父信行が上機嫌の時に見せた表情に酷似していた。

 時折り蘭子は不思議に思う。急にタガが外れたように突拍子もないことを言い出したこの四十男に、蘭子自身は嫌悪の情を催さなかったばかりか、むしろ親近感を高めていたからである。ただ、縄で縛ることは止めて欲しいと思っていた。しかし、それとても、すでに許容してしまっている自分が分からなくなっていた。



 翌日曜日の朝。蘭子は目覚めるとすぐに朝食の支度にかかった。中井はまだ白川夜船である。昨夜の中井は風呂にも入らず、食事が終わってまもなくベッドに潜り込んだ。夕食前のセックスに満足したのか、再び蘭子のからだを求めることはしなかった。

 蘭子の心づくしの朝食がダイニングテーブルに並んだ頃に、中井がふらふらと寝室から出てきた。寝ぼけまなこをこすりながら「おはよう」と声をかけた中井が目を見張った。
 この朝、蘭子は淡いワインレッド・カラーのブラジャーとショーツをつけていた。

「蘭子はどんな色でも似合うんだね。それにしても今日のは随分色っぽいなあ」

 舌なめずりでも始めそうな表情に変わった中井の瞳の中で、一瞬、蒼い炎がポッと燃え上がった。早速欲情を催しているように蘭子には見えた。その中井が真顔になった。

「蘭子。出来れば僕の我が儘を一つ聞いて欲しいんだけど……」
「あらっ、中井さんの我が儘ってどんなことですか?」
「う〜ん」と小さく唸った中井は、「叱られそうだなあ、これを言うと」と逡巡した。

「中井さん、隠し事は一切しないって約束でしょ。遠慮なさらないで何でもどうぞっ」
「そう言ってもらえるとありがたい。それじゃ思い切って言うけど、今日は一日、蘭子には上半身を縄で飾って過ごしてもらいたいんだ」

「ええっ! そ、そんな……」
 考えもしなかった中井の要求に蘭子は愕然とした。素肌を縄で縛られまま浴室で悶えたあの日の自分の姿が脳裏に蘇っていた。

「やっぱりイヤか。下着はつけたままで、手を縛ったりしないんだけど……」
 やはりダメだよな、とすっかり気落ちして肩を落とした中井が、「この趣味をすすんで受け容れてくれる女性はいないよな」と、蚊が鳴くように小さな声で独り言を呟いた。

 蘭子は困った。どうすればよいのか分からなかった。が、中井の萎れた姿を見ているうちに、「わたし、その程度のことなら……」と、つい口に出していた。

 俄然、元気を取り戻した中井は、時間を惜しむように朝食を胃袋に流し込むと早足で寝室に引き返し、チェストから取り出した麻縄の束を手にしてリビングに戻って来た。

「早速だけど、蘭子、縛らせてもらうよ」
 先ほどまでの「青菜に塩」とは打って替わった中井がそこにいた。

 蘭子は、中井に指示された通りに、ソファ近くのカーペットに膝頭を揃えて突いて背筋を伸ばした。長いストレートヘアの下でうなじが桜色に染まっている。中井は先ずそのうなじに縄をかけた。

 首の左右から前に垂れされた縄は鎖骨の中央で結ばれ、ブラジャーに覆われた胸前で揃えられて三つの結び目がこしらえられた。たるみを残して引き降ろされた縄が縦長に形よく窪んだヘソの下で二手に別れ、くびれた腰に喰いこむ。縄は恥骨の上の白く柔らかい肉を強く噛んで後ろへグイッと引かれた。
「うっ!」一瞬息が止まった。

「ふぅーっ」と息を吐き出すと、艶々と光る肩が波打ち、白く柔らかい腹が苦しそうに喘いだ。その間に腰の後ろで一旦結び止められた縄が左右の脇腹から前に廻った。下の二つの結び目の間をくぐって背中に戻る。再び前に廻ると胸の下に垂れる縄を左右に開き、ブラカップに覆われた乳房の下に潜り込むように喰いこんだ。カップの中に隠れている乳首が赤く尖って膨らみを増していった。

 中井が操る縄は、蘭子の肋骨の上を通って背中に戻ると交差し、左右の腋の下から前に廻って胸上の縄を開き、後ろにギュッと引き絞られて滑らかな胸の傾斜に溝を掘った。

「う……。うう……」
 縄目が増えるたびに蘭子の紅い唇がわずかに開いて呻き声が洩れた。巧妙に(さば)かれてからだの前後を往復した縄は、菱形の枷となって、蘭子の弾力あふれる二つ乳房をブラカップとともに絞り出し、隠れたところで大きく膨らんだ赤い乳首に真上を向かせた。

 妖しく浮き立つ鎖骨の下にひとつ、深い胸の谷間の下に一つ、そして形良く窪んだヘソを囲む菱形が一つ描かれて、蘭子の上半身への縄化粧は完成した。縄の枷がかかった胸乳が息づかいに合わせて妖しく揺れ、くびれを増した白い腰が目にも鮮やかだった。

 結局この日の蘭子は、夕食が終わるまでのほぼ一日を、下着の上から縄をまとって過ごした。「素敵だ。綺麗だ」と上半身を菱縄に飾られた蘭子を褒めながら、中井は事ある毎に縄に絞り出された乳房を(もてあそ)んだ。ストラップを肩から二の腕にずらしてブラカップを引き下げ、こぼれ出た生身の乳房を愛撫するので、蘭子にとってはブラジャーを着けていようといまいと受ける刺激に変わりはなかった。



 夕食が済んでようやく、蘭子の上半身は菱縄の縛めから解放された。

 ホッとため息を吐いた蘭子に、中井は、「今日は一緒にお風呂に入ろうよ」と微笑みかけた。笑みを返した蘭子がコクンとうなずくと、小走りに寝室へ行き、黒い色をした縄の束を持って戻ってきた。

「お風呂から出たらこれで……。いいだろ?」
(ああ、また……)「わたしを……縛るんですか?」
「ダメなのかい? 僕はその方がうんと興奮するんだけど、蘭子だってそうだろ?」

 確かにそうだった。縄で縛られた素肌を愛撫された時は今までとは違う異妖な興奮を覚えた。両手が使えず身動きもままならない状態で性感帯を刺激されて、たちまち女陰の内部は女の蜜液で満たされた。しかも、それ以前に、素肌に縄がかかった段階でもう女陰の奥が疼き始めた自分を蘭子は訝しく思っていた。

 蘭子自身はまだはっきり認識している訳ではないが、あの夜から縛られることへの慣れが肌身に染みつき始めていた。心は拘束されることに(あらが)っても、からだが縄による縛めを求めるようになりつつあった。

「蘭子。キミは今、僕のことを悪趣味の持ち主だと思ってるんじゃないのか? 確かに、裸の女性を縄で縛ってセックスするのは褒められたものじゃないけどね」

「で、でも……。それって、中井さんとってはゲームみたいなものなんでしょう?」
 中井の気持ちを斟酌した蘭子は、中井が傷つかないように、精一杯な言葉を選んだ。

「そう、セックスを愉しむための一種のゲームみたいなものなんだ。よく解ってくれたね。じゃ、何はともあれ、お湯に浸かって身体をほぐそうよ」
 蘭子の心配りには気づかずに、急に上機嫌になった中井が蘭子の背中を押して風呂場へと向かった。

 蘭子は、長時間にわたって縄をまとっていた上半身をお湯の中で揉みほぐした。そして、充分に温まったからだに冷たいシャワーを注いで身を引き締め、脱衣所に戻るとすぐにバスタオルで胸から下を覆い隠した。

 ふと中井の方を見ると、洗面台に向かって何かをしている。幾本もの細い革紐を()ってこしらえた黒縄を洗面シンクに充たしたお湯にひたしながら揉みほぐしていた。その中井が蘭子を振り返り、「ちょっとでも柔らかくしておこうと思ってね」とウインクした。

(やはり、この人は優しい人だわ)
 蘭子は自分を気遣う中井を好ましく思った。その中井はこれから蘭子を縄で縛って苦しめようとしているのに、である。

「さてと……。こっちの支度は出来たけど、蘭子の方はどう?」
 脱衣所の片隅に置かれた洗濯機で黒縄の脱水を済ませた中井は、ドライヤーで乾かした長い髪を鏡に向かって()かしている蘭子の後ろに立って背中を指先でチョンと突ついた。

 成り行きで同意してしまった蘭子だったが、すでに縛られる覚悟をしていた。おもむろに立ち上がって胸から下を覆うバスタオルを取り払い、中井に背を向けると、しなやかな両腕を静かに後ろへ廻していった。

「じゃ、縛るよっ。蘭子、いいねっ」

 念を押す言葉に首を縦に振って応えた蘭子の左右の手首は、改めて背中の中ほどに高く重ね合わされた。その両手首にまだ湿り気の残る黒縄がキリキリと巻きつき、前に廻った縄尻が瑞々しく実った形のいい乳房の上下を二重三重に緊め上げる。まもなく蘭子は厳しい後ろ手の高手小手に縛り上げられていた。

「よし、出来上がりだ。さ、寝室に戻ろう」
 余った縄尻をしっかり握り締めた中井は、いつかのように芝居(がか)って、縄尻の端で張りのいいお尻を軽くしばきながら蘭子を寝室へと追い立てた。
 蘭子の方は、まるで牢屋へ引き立てられていく江戸時代の女囚になったようにうな垂れて足をすすめた。




 後ろ手縛りの蘭子を寝室のベッドの上に座らせた中井は、チェストの抽斗(ひきだし)から短い帯状の黒い革布を取り出し、それを手にして蘭子の脇に腰を降ろした。

「口を開けてごらん、蘭子」


「えっ、口を?」と小首をかしげて見た革帯には、中央部の幅広部分の内側にゴルフボールサイズの黒いゴム球が付いていた。
 蘭子は、中井がその革帯で蘭子の口を塞ごうとしていることを瞬時に悟った。が、ここまできて中井の機嫌を損ねたくはない。小さくうなずき、薄く目を閉じて紅唇を開いた。


 蘭子の口の中に侵入してきた丸いゴム球は意外に大きかった。口腔を埋め尽くして舌の動きを封じたのみならず、蘭子の顎を大きく開き広げた。その革帯は左右の耳の直ぐ下から後ろへ廻って引き絞られ、サラサラした茶褐色のストレートヘアの下の白いうなじで留め金がかけられた。

 黒革の猿轡は蘭子の口と頬の辺りをすっぽりと覆い、すらりと通った鼻梁をより高く見せ、細くしなやかな首の白さを妖しいまでに強調した。が、同時に、乳房の上下を縄で緊め上げられている蘭子の胸の奥に不安を沸き立たせた。
 仰向けに寝かせられた蘭子は、傍らに腰を降ろしている中井の顔を上目遣いに見た。しかし、
(すが)るようなその視線の先にはいつもの中井の柔和な笑顔があった。

(ごめんなさい、あなたを疑ったりして……)
 猿轡の中でそう呟いた蘭子は、熱く逞しい肉の棒が早く欲しいと思いながら、黒縄に絞り出された白い乳房を揉みあげる中井の手に甘く喘いだ。
 すでに女陰の内部は潤いを増している。花肉の
(ひだ)蠕動(ぜんどう)をはじめたのを感じた。柔肌に厳しく打たれた縄目の切なさと優しい手に愛撫される心地好さが相俟(あいま)って女の花芯を疼かせていた。

「ふうん、んっ、んんっ」
 蘭子は甘く鼻を鳴らした。女肉の花唇も花肉の(ひだ)もすっかり充血し、花唇の内側に小さく突き出た肉芽が次第に膨らみを増し、蘭子の女の源泉はしとどに濡れてきていた。
 そして、肉芽が堅く屹立するのを知覚した時、蘭子の肉体は異常を察知した。水を吸った革の縄が再び燃え上がってきたからだの熱で乾き、背中の両手首のみならず二の腕や乳房の上下にきつく喰いこんできたのである。


「ああっ、うっ!」と蘭子は身をよじった。黒縄が二の腕を咬み、胸の上下をえぐる。

「うぐぐっ!」と叫んだ蘭子の脳裏に、素肌にからみつく数匹の黒い蛇が現れた。

「んっ、んんっ、ううっ!」
 おぞましさに身震いすると蛇の緊めつけが強まる。蘭子は黒い蛇がうようよ巣くう洞穴に裸で放り込まれた悪夢の中にいた。

(お、お願い! この縄をほどいてっ!)

 大きく身をよじって必死に叫んだ哀訴の言葉を黒革の猿轡が吸収し、白さがますます冴える柔肌に喰いこむ黒縄が胸を焼き焦がした。
 が、中井は何かにとり憑かれたような表情で悶えている蘭子を眺めている。その双眸で青い炎が淫らに揺れていた。しかし、縄の緊めつけに苦吟している今の蘭子にそれを観察するゆとりはなかった。


 さっとトランクスを脱ぎ捨てた中井は、猿轡の隙間から(よだれ)を垂らし、緊縛裸身をよじって嗚咽を漏らす蘭子の股間に押し入った。熱く怒張したイチモツを女の蜜液が滲み出てきた花唇にあてがい、ズズズッとひと息に、蘭子の秘園を挿し貫いた。

「うっ、うぐぐっ。んっ、んんっ。くっ、くくっ。うぐっ」
 緩急をつけて抽送される熱い肉棒の動きに呼応して、革帯の猿轡の隙間から、言葉にならない切なくも狂おしい声音が洩れ続けた。まもなく蘭子は昇りつめて気をやった。

 半ば失神状態の蘭子を抱き起こした中井は、蘭子の口から黒革の猿轡を外し、真っ白い裸身を緊め上げている黒縄を手際よくほどいていった。しかし、縄の縛めから解放されても、蘭子の肌身は被縛感覚から抜け出せないでいた。

 その蘭子を横目に中井は、ベッドの背もたれの前に枕とクッションを積み上げて背中を預け、両脚を投げ出して「さ、こっちへおいで」と蘭子を手招きした。
 中井の声で我に返った蘭子は、「はい」と素直に答えて、ベッドの上を膝頭で歩いて中井のそばに寄った。


「蘭子。僕の胸をクッション代わりにするといいよ」

 コクンとうなずいた蘭子は、中井の両脚の間に後ろ向きに腰を降ろし、背中を中井の厚い胸にもたれかからせた。
 背後から両手を廻して蘭子を抱きしめた中井が、胸乳の上下と二の腕にくっきりと刻み込まれた縄の痕をいとおしいものをなぞるように指の腹で撫で、丹念に揉みほぐした。
 それが思いのほか心地好い。中井の懐に抱かれた蘭子は、遠い昔に父信行の膝で甘えた日々を思い出して感傷に浸った。


 しかし、それも束の間のことだった。手のひらに包むようにして乳房を揉みほぐしていた中井の指が硬さを増してきた乳首をつまむのと同時に現実に引き戻された。蘭子は思わず細首を仰け反らせ、半開きになった紅唇を中井に吸われて甘い吐息を洩らした。

                                 続く