鬼庭秀珍   柔肌情炎


             第四章 熾き火





               


 花冷えがする静かな夜に、小石川の『けやき屋敷』の蔵座敷では一糸まとわぬ丸裸に剥かれた美貌の若女将・
花村(はなむら)(まゆ)()が柔肌に喰いこむ厳しい縄がけに呻吟していた。
 彼女は、しなやかな両腕を後ろ手の高手小手に縛り上げられ、手のひらに包めば溶けてしまいそうなくらい柔らかく真っ白い乳房に黒ずんだ菱縄の枷をかけられ、すらりと伸びて白磁のような光沢をもつ下肢を座禅の結跏趺坐(けっかふざ)の形に組まされて、肉のよく締まった足首とうなじの白さが艶っぽい細首を縄でつながれていた。

「うっ、ううっ。はっ、はあっ。くっ、くくっ。うっ……」

 座禅縛りという不自然な姿勢を強いられている繭美は苦痛に呻き続けている。女の秘所を露わに晒している羞恥も相俟(あいま)って、縄に縛められた裸身は朱に染まっていた。

 繭美にこのような情け容赦のない縛がけをしたのは、この屋敷の主の八名(やな)()(いわお)である。裸に剥いた女の肉体を縄で縛って(もてあそ)ことを好む異常な性癖の持ち主だった。

 その八名瀬は先ほどからジッと苦痛に悶える繭美の姿に見入っていた。が、ようやく得心したように軽く二、三度うなずくと、繭美を後ろから抱き起こして(ふところ)に引き寄せた。

「ああっ、あっ、イヤっ」

 狼狽した繭美の緊縛裸身は、八名瀬の懐の中で尻の()(つい)(こつ)を支点にしたV字を描いた。八名瀬の胸に密着した肩甲骨のすぐ下で、背中に吊り縛られた両手が悶えている。座禅を組まされた両肢が肩の高さまで上がり、一つに束ねられた両足首の左右で爪先が何かをつかむように内側に曲がっている。左右に開いた肉付きのいい白く柔らかい太ももの内側が軽い痙攣を起こしたようにブルブル震え、その根元では女の恥丘が波打ち、恥丘を覆う漆黒の繊毛がふるふる揺れていた。

 その不自然な姿勢に喘いでいる繭美の両乳房を、V字裸身の谷間に左右から太い腕を入れた八名瀬がいきなり鷲づかみにした。

「イヤっ、やめてっ! やめてください!」
 繭美は声を荒立てて八名瀬を制止しようとした。
 が、八名瀬は繭美のうなじに口吻を注ぎながら、菱形の縄枷に絞り出されて前に突き出た白い乳房を揉みしだいた。

「ああっ。や、やめてっ。く、くるしい……」
 柳眉をゆがめて嫌がる繭美の乳首が大きく膨らんでいく。その赤い乳首を八名瀬は指でクリクリ(もてあそ)び、赤みを増した耳に酒の臭いが残る息を吹きかけ、耳たぶを口に含んだ。

「あっ、イヤっ。や、やめてっ」

 八名瀬の口から逃れるように傾けた細首はすでに苦しさと恥ずかしさで桜色に染まっている。八名瀬は、その首筋から汗が滲み始めた肩にかけてぬめぬめと舌を這わせ、皮膚が張りつめて肋骨が浮き出ている脇腹を指先でなぞって刺激した。

「あっ、ああっ。や、やめてっ。あっ、ああ……、あ……」

 顔を左右に振って幼子のようにイヤイヤをする繭美の声は次第に弱々しくなっていった。八名瀬の巧妙な愛撫が繭美の性感を昂ぶらせていた。繭美は首をのけ反らせ、甘えるかのように頭を八名瀬の肩に載せた。その耳元で八名瀬が囁いた。

「感じてきたようだな、若女将」

 薄く目を閉ざしたまま半開きの口から甘い吐息を洩らしている繭美は、ほんのり桜色に染まった細首を弱々しく左右に振った。執拗な肌嬲りに気もそぞろだった。





               


「ほう、まだ感じ足りないのか。それじゃ、もっと激しく感じるようにしてあげよう」
 繭美が首を左右に振るのを見るや否や、八名瀬は懐に抱きかかえていた座禅縛りの繭美を前方へ転がした。

「ひっ、ひぃーっ!」と薄絹を引き裂くような悲鳴が襖をカタッと揺らした。

 咄嗟に額をつけて夜具の上に立てた繭美の細首はブルブルと震えた。()しかかるからだの重みに耐えかねて今にも折れてしまいそうである。半円を描いた白い裸身の頂上でどす黒い麻縄に縛められた両手の指が助けを求めて羽ばたいた。

「うっ、ううっ。んっ、ううんっ、う……」

 呻きながら必死に立てていた繭美の細首はまもなく力尽きた。額が斜めにずれて片頬が夜具に着くと同時に両肩が落ち、後ろ手に縛られた両手を載せた背中が沈んだ。

 座禅を組まされた両肢の膝に支えられて尻だけが高く突き出している。白い双丘の割れ目の奥に悩ましい漆黒の草むらが息づいていた。その、眼前に迫ってくるような漆黒の草むらの中心を八名瀬は指で撫で上げた。

「ひぃーっ!」
 薄絹が千切れるような悲鳴が再び襖をカタカタと揺らした。
 弓反りになった繭美の背中はうねり、白い双丘がブルブル震えている。背中で束ねられた両手が虚空をつかみ、額と肩先に脂汗が滲み出ていた。その肩に手をかけて抱き起こした八名瀬は、今度は繭美を仰向けにした。

「あっ、ああーっ!」

 繭美は、紅潮した細首を大きくのけ反らせながら、背中に縛められた両腕の肘で上半身を支えた。その細腕と上半身がブルブル震えている。座禅に組まされた両脚の足先も反り返り、縄の喰いこむ手首と二の腕が悲鳴を上げている。
 縄の枷に絞り出された白い乳房がふわふわと揺れ、繊毛に覆われた女陰がヒクッヒクッと脈動を始めていた。恥丘を覆う細く柔らかい繊毛の下で女肉の花びらが震え、後ろの肉筒の口が収縮を繰り返す。

「辛いかね、若女将。それとも恥ずかしいのかな?」

「はっ、はっ、はっ、はーっ、うっ、うっ、ううーっ」

 いかにも苦しそうな表情の繭美は、半開きになった愛らしい紅唇から喘ぎ声とともによだれを洩らした。白く柔らかい腹の肉がうねり、露わにさらけ出された黒い繊毛の茂みもまた荒い呼吸をしている。その股間に見入っていた八名瀬は、すっと腕を伸ばして二本の指を女陰に差し込んだ。

「ああっ、イヤっ!」

 繭美は激しい狼狽を示した。
 しかし、繭美の女陰に分け入った八名瀬の指は花肉の襞をまさぐり、女の蜜が滲み出ている内部を掻き混ぜる。

「やめてっ、こ、こんなこと……。ああ、か、堪忍して……」

 涙声で訴える繭美の肉の花芯はズキズキと疼き、(おびただ)しい女蜜を噴き上げ始めた。それを知覚した繭美は別の意味で狼狽した。

「なるほど、私が期待した以上だ。若女将。あんたは容姿も素晴らしいが、ここにも素晴らしい道具を持っていたんだなあ。ますますあんたに惚れたよ」

 八名瀬は、脂ぎった顔の真ん中で淫蕩さを露わに浮かべた細い目をキラキラ輝かせ、女陰に差し入れた人指し指と中指に加えて親指を差し入れると、三本の指で肉の花びらの陰に膨らんでいる花肉の芽をつまんでグリッとひねった。

「ひっ! ひいーっ!」
 鋭い痛みが脳天を突き抜け、繭美は大粒の涙をボロボロこぼして夜具を濡らした。
 が、八名瀬の指は肉芽を捕らえて放さない。今度は優しく擦り、指先で転がした。まもなく痛みは和らいで痺れに変わった。

「あっ、ああっ、あ……」

 繭美の意に反して声音が甘みを帯びてきていた。その一方で、余りの恥辱に苦痛の涙は口惜し涙に変わっていた。しかし、わずかな身動きすら難しい恰好をさせられている今は歯を喰いしばって耐える他に術はない。複雑な感情の起伏に戸惑いながら、繭美は指と舌を巧みに使う八名瀬の異常な愛撫に嗚咽を洩らし続けた。





               


 辛い座禅縛りから解放された繭美は夜具の上に身を横たえ、白い胸を波打たせている。痺れ切った両脚をしどけなく投げ出した繭美の、菱縄化粧をほどこされている上半身は脂汗で光り、紅潮した頬は流れ出た涙でしとどに濡れていた。

 しばらくして膝を折った繭美は、縄をまとわされた裸身を横向きに丸めてすすり泣きを始めた。口の端からこぼれ出たよだれが頬に細い糸を引いている。

(どうしてわたし、こんな酷い目に遭わされなければならないの?)
 確かに八名瀬から借りた金の返済は滞っている。しかし、それは商いの上の問題であって、繭美個人の身がこのように理不尽な仕打ちをされるいわれはない。

(わたしがどんな罪を犯したというの?)

 借りた金を返済しようと懸命に努力してきた繭美に罪があろうはずもない。しかし、裸に剥いた女を麻縄で縛り上げて(もてあそ)ぶことに(よろこ)びを見い出す八名瀬から見れば、罪は繭美自身の容貌と肉体にあった。いかにも女らしい情感を(かも)し出す美貌と見事に均整の取れたしなやかな肢体は初老の男の心を痺れさせ、男の愛用する縄を疼かせる。その美しさこそがお前の罪なのだ、と八名瀬巌は(うそぶ)くに違いない。

 夜具に横たわってすすり泣いている繭美の緊縛裸体を見つめる八名瀬は、双眸を嗜虐(しぎゃく)の喜びで輝かせていた。そして、繭美の切ない泣き声にかすかに喘ぎ声が混じるのを耳にすると、薄い唇の端をニッと吊り上げ、何か新しい責めを思いついたような表情になった。

「若女将。少し休憩するかね?」

 八名瀬は、急に猫なで声を出して話しかけた。が、八名瀬の親切ごかしの言葉は自分の殻の中に閉じ籠ろうとしている繭美の耳には届かない。繭美は、もうこれ以上の恥辱は味わいたくないという悲痛な思いの中に縄に飾られた裸身を丸く縮ませて泣いていた。

「どうやら、休憩はいらないようだな」

 打って変った冷たい声でつぶやいた八名瀬は、さっと繭美のそばに寄ると、後ろに縛った手首の縄を両手でつかんでグイッと持ち上げた。

「ああっ、痛いっ!」

 両腕と胸の痛みに長く綺麗な睫毛の間から大粒の涙をポロポロこぼす繭美を、引きずるようにして床の前まで運んだ八名瀬は、鼻をすすりながら泣き続ける繭美を立ち上がらせて床柱を背負わせた。
 新しい縄を胸の隆起の下にかけて柱の上部につなぎ、立ち縛りにした繭美のからだが崩れ落ちることのないように縄を張った八名瀬は、床の間に置いてあった黒漆塗りの大ぶりな文箱の中から赤い縄を取り出した。

「これはどうかな、若女将?」

 緋色の絹布を紐状にして編み上げた縄には大小二つの鈴が縫いつけられている。その鈴を鼻先につきつけられた繭美は泣き濡れている顔を背けた。

「あんたのような雪白な肌の持ち主には、この赤がきっとよく映えるだろうな」
 ふふふっと含み笑った八名瀬は、乳白色の柔肌を菱の枷で飾っている麻縄の、腰をくびっている部分に緋色の絹縄をつないだ。それを垂直に降ろして股間にくぐらせようとした。

 八名瀬の手を太ももに感じた繭美は、ハッと顔色を変えた。
「やめてっ! そんなことしないでっ!」

 咄嗟にそう叫んだ繭美は、まだ痺れが残っている両脚をさっと絡ませ、太ももをぴったりと閉じ合わせた。
「や、八名瀬さん、お願いです。も、もうやめてください。もう、これ以上わたしを(はずかし)めるのは……どうか、どうか許してください。お願いします……」

 繭美は睫毛の長い美しい目に涙をいっぱい溜めて八名瀬に頼んだ。が、片時も情にほだされるような八名瀬ではない。

「そうはいかないねえ、若女将。今夜は私にすべてを預ける約束だったじゃないか。忘れてしまったのかね? 忘れていないのなら辛抱しなさい。ここでやめてしまえば、折角あんたの肉の奥で燃えてきた被虐官能の炎が消えてしまうじゃないか」

(燃えてなんかいるもんですか!)と胸内で反撥した繭美の女陰の奥では、またもや女肉の花芯がヅキンヅキンと疼いていた。

「若女将。自分じゃ意識していなかっただろうが、あんたの心の奥底にはこうやって縄で縛られると燃えてくる被虐の性がひそんでいるんだよ」

(違う、違うわ。わたし、そんな淫らな女じゃないわっ)

 心でそう叫んでもそれを口に出来なかった。繭美は、なぜか八名瀬の言葉をきっぱりと否定出来ない自分に狼狽して激しく首を左右に振った。それは八名瀬の言うように、被虐官能の炎が繭美の肉の奥で燃えていることを消極的に認める仕草に他ならなかった。





               


「私はね、ずいぶん前からそのことに気づいていたんだ。『はなむら』で立ち働くあんたの姿に、確かにそうだと思える表情や素振りを何度も見たものだ」

 すべてはお見通しだと言わんばかりに、八名瀬は悦に入った表情になった。

「礼儀知らずのバカな客に難癖(なんくせ)をつけられた時など、綺麗な眉をゆがめたあんたの目は実に色っぽかったぞ。ただ困惑しているだけじゃなくて、胸を緊めつける辛さを心地好く感じている光があった」
 八名瀬は、一瞬遠い眼差しになってその時の情景を思い浮かべたようだったが、すぐに元の表情に戻って話を続けた。

「手持ち無沙汰な折のあんたは、よく両手を後ろに廻して帯の上に重ねていた。無意識の動作なんだろうが、その時の目が妙に潤んでいてねえ。今にもくねくねと身をよじり始めるんじゃないかと、この私がドキドキさせられたものだ」

(そんなこと、あなたの妄想に過ぎないわっ)と頭の中で否定した繭美だったが、八名瀬がそこまで細心に自分を観察していたことを知って空恐ろしさを感じた。

「辛いことが続いていた時期のようだったから、多分、その辛さに耐えてきたことが知らず知らずに被虐を悦ぶ心を育ててきたのだろう。だから若女将。今夜はそれを思う存分、何もかも忘れて素直に、表に出すことだ」

 八名瀬は鋭い視線で念を押すように繭美の瞳を見据えると、ひと呼吸おいて、出し抜けに太ももをピシッと平手で叩いた。

「ああっ!」と痛みに驚いた膝がゆるんだ。その隙に八名瀬は素早く緋色の縄に真っ白い太ももの間をくぐらせ、股のつけ根に引き上げながら、縄についた大小二つの鈴を繭美の最も敏感な場所にピタッとあてがった。

「イヤっ! やめてっ。こんなことやめてっ! やめてください!」

 繭美は顔を左右に激しく振って頼んだが、八名瀬の手はとまらない。後ろに引き上げた絹縄を右手で操りながら左手で鈴を的に嵌めこもうとした。

「うっ、ああっ!」

 大きな異物がズズッと女陰に侵入してきた。冷たい鈴ではなく、熱い何かが入ってきたように繭美は感じた。そして後ろの微肉の筒口にも……。

「そ、そんなところにも……。イ、イヤっ!」

 尻の穴にグリッと、もうひとつの異物が嵌めこまれると繭美は狼狽を高めると同時に腰を揺すった。
 が、「あっ、ああっ!」と叫んで、すぐに動きを止めた。
 腰を動かすと股間の前後にもぐりこんだ二つの鈴が女陰の花肉の襞を嬲り微肉の筒の内部を痛ぶるのだ。


 緋色の絹縄は、動きの止まった臀部のムチムチと悩ましい白い尻の割れ目を一気に駆け上って引き絞られ、腰の麻縄に固く結び止められた。
 花肉の秘裂に大鈴を咥えさせ、菊の花に似た微妙な肉筒の口に小鈴を埋没させた非情な絹縄は、女が息づく恥丘を縦一文字にえぐって繭美を狂おしく乱れさせた。

「若女将、しばらくそうしているといい。そのうち、いい気持ちになってくるから」

 ニタッと笑った八名瀬は、「おお、そうだ」と、部屋の隅にある箪笥の抽斗から豆絞りの日本手拭いを持ち出してきた。その手拭いをくるくるっと絡めて中ほどに大きな結び玉をつくった八名瀬は、その結び玉を繭美の口に咥えさせようとした。

「イヤっ! イヤですっ!」

 繭美は反射的に顔を背けた。が、その顎をつかんだ八名瀬は、両頬に指を喰い込ませて強引に開かせた口の中に手拭いの結び玉を押し込んだ。

「うっ、ぐうっ、うぐぐっ」と呻く繭美の端整な頬を引き絞り、頭の後ろに廻した手拭いをうなじの上で固く結んだ八名瀬は、もう一枚の手拭いを手にした。それを器用に横長に折り畳み、繭美の鼻から下をすっぽり覆った。

「んっ、んんっ。くっ、うぐっ」
 豆絞りの手拭いに口をきつく覆われて言葉を奪われた繭美の屈辱感は更に高まった。

「うん。やはり、猿轡は豆絞りの手拭いに限るな。他のものとは風情が違う」

 独り言を呟いて二、三歩後ろに下がった八名瀬は、しばらく猿轡の下でしきりに何かを訴える繭美の顔を見つめていたが、淫蕩な視線をすっと股間に落とした。
 そこには緋色の縄が絹糸のように柔らかい繊毛で覆われた女の恥丘を縦にくびり、途中でその姿を消している。大小二つの鈴が女陰と肛門にしっかり食い込んで繭美の官能を掻き立てていた。

「うっ、んんっ、ぐうっ、くくっ」
 せめて女の羞恥の源をえぐる淫らな縄だけは外して欲しい。
 それが今の繭美の願いだったが、その願いを言葉にして伝えられないことがもどかしい。繭美は、強い屈辱と羞恥に泣き、切れ長の美しい眼からこぼれ落ちた涙で口をきつく覆っている豆絞りの手拭いを濡らした。

 後ろ手高手小手の菱縄をかけられた上に股縄までほどこされて床柱を背負い立つ繭美の裸身を、八名瀬はじっくりと眺めた。
 足先からゆっくり舐め上げるように視線を這わせていく。
 股間に喰いこんだ緋色の縄と漆黒の茂みのコントラストに目を細め、縄の枷に絞り出されて弾けそうな白い乳房を見つめて舌なめずりをし、鼻から下をすっぽり覆う猿轡の豆絞りの手拭いが呼吸に合わせて小さく膨らむのを見てさも満足げにうなずいた。

 八名瀬は、繭美の泣き濡れた眼が辛く切ない思いを訴えていることは意に介さず、ニンマリと口の端をゆがめるとでっぷり太った身体を揺すりながら軽やかな足取りで寝間から出て行った。

 その場に一人取り残された繭美は、何とかして縄をほどこうとからだを揺すった。すると下腹部で、チリン、チリリンと、鈴の音が響く。腰を動かすたびにその鈴の音が大きくなるような気がした。実際は鈴の中の玉がコロンと内部を転がった鈍い音に過ぎないのだが、股間に呑み込まされる前に目にした鈴の印象が幻聴を生んでいた。

 緋色の絹縄で股間を縦に縛られている繭美は、前後に呑み込んだ二つの鈴をはっきりと知覚し、全身の血が逆流するのを覚えた。
 そして、鈴の音に耳を奪われているうちに、今まで一度も感じたことのない異様な感覚に襲われた。
決して開けてはならない心の扉が開いたように思った。
 うっすらと霞がかかってきた目の前に現われた螺旋階段が上空の秘密の部屋へと駆け昇っている。その螺旋階段に足をかけている自分を繭美は見た。

 繭美は、思わず身をよじって柔肌を緊めつける麻縄をきしませた。
(あっ、ああ、どうして? どうしたの、わたし?)

 股の前後に呑み込まされた鈴の中から何かが溶け出していた。
 腰を揺するたびに音を発する主が媚薬(びやく)の粉末を練り固めた(かたまり)であることを繭美は知らない。
 女陰の奥で肉の花芯が妖しく甘く疼き続け、微肉の筒の内部が熱を帯びてきていた。

 蠕動(ぜんどう)を始めた花肉の襞に囲まれた内層で女の蜜液と媚薬の汁が反応しあっている。そこで作り出された無数の官能熱球は、尾骶骨から脊髄を駆け上って一気に脳髄に達した。それが妖しい快美感として瞬く間に送り戻されて全身に広がって行く。

 繭美は花肉の芯が(とろ)けてゆくのを感じた。

(ああっ、ダメっ。わ、わたし……も、もう、ダメっ。あ、あ……)

 炎が花芯を焦がし、被虐の妖しく甘い疼きが全身を包んでいく。肉体がドロドロに溶けていき、心もすでに(とろ)けていた。


                                つづく