鬼庭秀珍   柔肌情炎



            第六章 鬼たちの宴




             


 三十歳前後というのは、心身ともに熟してくる、まさに女盛りの年齢である。その一人である
花村(はなむら)(まゆ)()には着物がとても良く似合った。見るからに淑やかで、まるで大和撫子という言葉のイメージを絵にしたような容貌をしていた。
 
今風に言う小顔で端整な瓜実顔(うりざねがお)の中心を品よく盛り上がった鼻筋がすっと通り、小鼻はきゅっと締まっている。二重(ふたえ)(まぶた)が愛らしい切れ長の目は汚れのない清涼な光をたたえており、口許はあくまで慎ましやかである。すらりとした体型だが胸部と臀部は実り豊かで、見事に均整が取れている。忙しく立ち働く彼女の一つひとつの動作に肢体のしなやかさが(あらわ)れる彼女の着物姿からは、いつも艶やかではんなりした女の色香が立ち昇っていた。

 その繭美が今、小石川の『けやき屋敷』にある古い土蔵の中で、四人の男たちの前に素肌を晒すことを強要されていた。

 (とき)色の長襦袢と純白の肌襦袢を脱ぎ落とした繭美は、白い折鶴が散る薄紅色の艶めかしい湯文字一枚になった。その優美にして艶っぽい姿を目の当たりにして、目を血走らせた恵俊和尚の顔は赤く膨らんでいた。

「よ、吉村君! な、縄だッ! あの縄をくれ!」
 すでに強い欲情に駆られている和尚が声を上ずらせた。

 恩ある八名瀬に言い含められていた吉村は、致し方なく屏風の陰に入って麻縄の束が幾つも載っている角盆を持ち出すと、気に染まない様子で和尚のそばに角盆を置くとすぐに控え位置に下がった。その間吉村は、終始、繭美と目を合わせなかった。

 両手で胸乳を覆い隠して前屈みに身を縮めている繭美の背後に回った恵俊和尚が角盆からつかみ上げた縄の束をほぐし始めると、にじり寄った八名瀬が繭美の顔を覗き込んで含みがありそうな言葉を投げかけた。

「若女将。最初に言うべきことはわかっているな」

「ええっ?」と怪訝な表情になった繭美の耳元で八名瀬がなにやら囁いた。途端に白く冴えていた頬としなやかで細い首が見る見る紅潮していき、繭美は激しく首を左右に振った。

「んん? 嫌かね、前口上を述べるのは……」

「…………」繭美は無言のまま顔を伏せ、噛み締めた唇を震わせている。新たな屈辱に耐えかねている様子がありありとしていた。

「簡単なことじゃないか、私がいま教えた通りに言えばそれでいいんだから」

「で、でも……」とすがるような眼差しで見上げた繭美を八名瀬はギロッとねめつけた。

「どうしても嫌なんだな」

 念を押すように言った八名瀬は、和尚の顔を見て「恵俊さん、ご覧の通りだ。残念だが今夜はこれでお開きにしよう」と投げやりな態度を示した。
 すると、まるで打ち合わせが出来ていたように恵俊和尚が、「残念ですなあ、あの『はなむら』が潰れてしまうのも……」と深いため息を吐いて見せた。

「ま、待ってください! 言いますっ! 教わった通りに言いますから」

 あわててそう答えた繭美の薄紅色の艶っぽい布がゆらっと動いた。湯文字の下で膝を立てた繭美は、唇を噛み締めて正座になっていた。
 両手で乳房を抱きしめたまま顔を上げると、繭美は口中に溜まった苦い唾をゴクンと飲み下した。そして、焦点の定まらない眼で正面を見つめて紅唇を開いた。

「わたくし、花村繭美は、本日、皆さまに愉しんでいただくためにここに参りました」

 初めの言葉を述べた繭美は、視線を正面の薄闇の中にある土蔵の壁に移した。

「な、なんなりと……、皆さまのおっしゃる通りにいたします。ど、どのような辱めを受けましても……決して、決して恨みに思うようなことはございません」

 続く言葉を述べて再び唾を飲み下した繭美は、視線を落とすと、目の前の畳をジッと見つめながら震える喉からかすれた声を絞り出した。

「ど、どうぞご遠慮なく、わたくしを……。な、縄で……、縄できつく縛って……、思う存分、慰みものにしてくださいませ」

 屈辱に震える声で最後まで言い終えるのと同時に繭美は、溢れ出る涙をこらえるように顔を反らせた。が、薄く目を閉ざした瞼の間から大粒の涙がポロポロこぼれ落ちた。

「これは驚いた。八名瀬さんから聴いた通りの本物だ、この若女将は……」

 仏の慈悲を説く僧侶の身でありながら女の汚辱に悦びを求める恵俊和尚は、自分の情欲さえ充たされれば相手の女が誰であろうと構わない。止むを得ない事情で身を投げ出している女の辛く哀しい胸の(うち)など我関せずの態度で、しきりに感心して見せた。

(本物だなんて……。誰が選り好んでこんなことを……)

 強いられたとはいえ、浅ましい言葉を口にしてしまったことが恥ずかしく、また口惜しかった。下唇を噛みしめた繭美は、赤らんだ顔を斜めに伏せた。長い睫毛の間から涙の粒がポロリとこぼれ出て端整な頬を伝わった。





               


「なかなか立派な前口上だったよ、若女将。その気になればちゃんと言えるじゃないか」

 皮肉混じりの褒め言葉をかけた八名瀬は、「それじゃ、その胸の両手を後に廻して、和尚さんにきっちり縛っていただくんだ」と命じた。

 口惜しく悲しい涙を細く優美な指で拭った繭美は、瑞々しく熟れた真っ白い乳房を覆い隠していた両手を横におろし、しなやかな腕を静かに後ろに廻していった。そして、薄く眼を閉ざすと、白く輝く肘を深く折って華奢な両手首を背中の中ほどに重ね合わせた。

 その繭美の背後で、恵俊和尚が自らの手でさばいたのは麻の細引き縄だった。普通の麻縄より少し細いが、丈夫な縄である。細いだけに間隔を詰めて幾重にも巻き緊めることが出来るし、丈夫な分だけ強く喰いこむ。和尚がわざわざ持参した好みの縄だった。

 背中に交差させた両手首に細引き縄がキリッとかかると、繭美の胸の奥がざわめいた。華奢な両手首をキリキリと三巻きししてキュッと結び止められた縄が二の腕の柔らかい肉にクイッと喰いこんで前に渡されると胸の鼓動が早くなった。

 黒ずんだ細引き縄がすべすべした白い胸の上部にひと筋かかった時、繭美は胸の奥が痺れるような感覚を覚えた。と同時に下腹部で妖しい何かが蠢き始めたのを感じた。

「あ、ああ……」と切ないため息を洩らしている間に、細引き縄が胸の傾斜にふた筋三筋と黒い溝を掘っていく。そして後ろにググッと引き絞られた。

「うっ、ううっ!」

 胸の上部にかけられた縄は、鋭く呻いた繭美のすべすべとした背中で結び止められ、そこに別の縄がつながれた。前に廻った新しい縄が白く揺れる二つの乳房の下にもぐりこむ。くるりと一周して再び乳房を下から緊め上げて背中に戻り、手首の縄にからむと左右の腋の下で胸の上下にかかった縄を一つにからげ、グイッと引き絞られて縄止めされた。

 細い縄が容赦なく柔肌に喰いこみ、縄が引き絞られるたびに緊縛感が増していく。繭美は唇を真一文字に結び奥歯を噛み締めて恵俊和尚の厳しい縄がけに耐えた。が、女の秘所の内奥では妖しい疼きが次第に高まってきていた。

 胸縄に腋の下で抜け止めの(かんぬき)縄をほどこした和尚は、三本目の細引き縄を背中の縄につなぎ、それを肩越しに前へ渡した。
 左右の首のつけ根にめり込むように喰いこませて胸の谷間に引き下げ、乳房の下に喰いこんでいる縄にからませる。更に胸の上部に溝を掘っている縄に通して引き絞るとそこで一旦結び止め、鎖骨が浮き立つほど柔肌を噛ませながら肩に埋め込み、背中高く吊り縛った両手首の縄につないで固く結び止めた。

「はっ、はぁ、ああぁ……」

 繭美は、美しい双眸に屈辱の涙を滲ませ、半開きの口から辛く切ない吐息を洩らした。
 情け容赦のない恵俊和尚の縄がけに血が滲むほど唇を噛んで耐えていた繭美だったが、和尚の手が肌から離れると深いため息を吐いて縄に緊め上げられた胸を喘がせた。
 乳白色をしていた二つの乳房は上下左右に喰いこむ縄に絞り出されて赤みを帯び、膨らみを増した乳首が赤く屹立している。身じろぎすると左右の二の腕に喰いこむ縄がキシキシッと鳴く。
 美しい瞳に涙を滲ませた繭美は、左右のつけ根を縄に痛々しくえぐられた白い細首をゆらりと哀しげに揺らした。

 その時、背後から伸びてきた和尚の両手が縄の緊めつけに喘ぐ両乳房をいきなりムギュッと鷲掴みにした。

「ああっ、イヤっ! や、やめてっ! やめてください!」

 不意を突かれた繭美は咄嗟に和尚の手から逃れようとした。が、後ろ手に縛られた身を抱きすくめられていては逃れようがない。

「ああ、こ、こんなこと、お願いです、やめてください」

 繭美は声を震わせて頼んだ。が、和尚はまったく意に介さず、三白眼を輝かせて両手に包んだ乳房を揉み上げていった。

「手のひらに包めば溶けてしまいそうだという言い回しがあるが、八名瀬さん、この若女将のおっぱいはまさにその言葉通りじゃな。これだけきつく縄に絞り出されていながら少しも柔らか味を失っておらん、うふっ、うふっ、うふふっ」

 乳房を揉みしだきながら八名瀬を振り返った恵俊和尚の右手がすっと降りて、喘ぎとともに白くうねる柔らかな腹部を撫で回す。嗜虐の快楽に酔い痴れ始めた獣の欲情が瞳の奥で青黒い炎となって不気味に燃え上がっていた。
 その和尚の右手が湯文字の中へすべり込もうとするのを見て、八名瀬が歯止めを掛けた。

「恵俊さん。あんた、今夜の采配(さいはい)はこの私がしていることを忘れては困るなあ」

「おお、そうじゃった」

 右手を引っ込めた和尚は、乳房をつかんでいた左手も名残惜しそうに離して立ち上がり、ニヤニヤしながら畳舞台から八名瀬の横に移った。

「しかし、八名瀬さん。よ〜く分かったよ、あんたがこの若女将にご執心な理由がな」

「和尚。これほど肌理(きめ)が細かい真っ白い肌にお目にかかったのは私も初めてなんだ」

「その上に縄栄えする見事な体をしているときたら、八名瀬さん、あんたでなくとも放っておけなくなるわなあ。うふ、うふっ、うはははは」

 繭美は、厳しい後ろ手高手小手に縛り上げられた上に肌を嬲られて息を乱していた。柔らかなカーヴがすきっと美しい顎を幾分か前に突き出し、熟した白桃のような胸乳の上下に喰い込む縄目の辛さにすすり泣いている。涙に濡れた長い睫毛(まつげ)が灯りを反射して光り、白く冴えた頬には哀しみの(かげ)りが射していた。





               


 八名瀬巌と恵俊和尚の初老二人は、羞恥と屈辱に打ちひしがれている繭美の緊縛姿態を眺めながら、悦に入った顔をつき合わせて女の品定めに花を咲かせている。
 その会話を控え位置でうつむいたまま聞いていた吉村達也は、恵俊和尚だけでなく、板前の道を閉ざされた
落魄(らくはく)の身を拾い上げてくれた恩人である八名瀬にも初めて嫌悪感を抱いていた。二人の様子には彼らの緊縛嗜虐の生贄(いけにえ)にされている女の気持ちを(おもんばか)るところがまったく見受けられなかったからである。同時に、無力な自分が情けなくてたまらなかった。

 心持ち顔を上げた吉村の目が身を縮めている花村繭美の姿態をとらえた。緊縛された裸の上半身が小刻みに震え、豊かに実った臀部を覆う薄紅色の湯文字が荒い呼吸に合わせて揺れて、淫蕩な獣の手に落ちた女の悲哀を訴えていた。
 しかし、吉村の目には映らないものの、湯文字の内側では恥丘の秘裂の奥深くに息づく女肉の花芯が蜜の涙をこぼし始めていた。その痛々しくも悩ましい媚態から被虐官能に突き動かされ始めた女の妖しく甘い香りが匂い立ち、吉村の欲情をそそった。
 己の股間の異常に動揺した吉村は、顔が赤らんだことを周囲に気づかれないように、再びうつむいた。


 その時、初老二人の会話が途切れた。
 ついっと立ち上がった和尚が繭美のそばに寄って片膝をつき、卑猥な笑みを顔いっぱいに浮かべて湯文字の腰紐に手をかけた。

 ハッと顔を上げた繭美はあわてて腰をひいた。

「ま、待ってください! こ、これだけは……。お願いです、許してください」
 うろたえた繭美が肩を揺すって後に逃げようとすると、柔肌を後ろ手に緊縛している縄がギシッと鳴いて肌を噛んだ。

「うっ、ううっ!」

 厳しく素肌をからめとった細引き縄が後じさりすら思うようにはさせてくれない。繭美は縄による拘束の冷酷さを改めて認識させられた。

「許してっ。お願いします、これだけは……」

「今更何を言っておるのだね、若女将。生まれたまんまの姿になってワシらを楽しませてくれるんじゃなかったのかね。そうだろう、八名瀬さん」
 恵俊和尚は八名瀬を振り返って、いかにもわざとらしく確認した。

「ああ、もうじきそうしてもらう予定だ」

「もうじき……か。何とまあ、じれったいことだ」

 独り言を呟いて繭美の方に向き直った和尚は、「八名瀬さん。この別嬪(べっぴん)さんは遅かれ早かれ丸裸にされる訳だ。それなら今すぐワシがそうしてやっても構わんのじゃないかね」と言うや否や、繭美の腰から艶めかしい薄紅色の湯文字を引き千切るように奪い取った。

「ああっ、イヤーっ!」

 薄絹を引き裂くような悲鳴を上げた繭美は、咄嗟に片膝を立てて太ももを閉じ合わせて女の羞恥の源を隠した。
 今日はまだ、そこには和装用の薄いショーツに覆われている。半透明の小さな布を繭美の股間に見た恵俊和尚は、ニヤッと笑うと、後ろ手縛りの肩を押して繭美を敷布団の上に倒そうとした。

「な、なにをなさるの!」

 うろたえた繭美は両膝を開いてからだを支えようとした。が、その繭美の緊縛裸身をくるっと裏返しにした和尚はすっと手をショーツに伸ばした。

「やめてっ! か、堪忍してくださいっ」

 繭美は背中に縛られた両手の指を羽ばたかせて必死に憐れみを乞うた。が、和尚は繭美の腰に片足を載せて卑猥な笑みを浮かべると、女の秘所を守る薄く小さな布切れを妖しく光る肉付きのよい太ももから伸びやかな下肢へと滑らせていった。

「ああ、イヤっ! ああーっ!」繭美は悲痛な叫び声を上げた。

 その声を耳にしてハッと顔を上げた吉村の目に、がっくりと首を垂れた繭美の緊縛裸身を見つめて舌なめずりをしている恵俊和尚の厭らしい顔が飛び込んできた。
 
和尚は、すすり泣く繭美の横顔をチラチラ覗き込みながら薄い布をゆっくりと足首から抜き取ると、最後に残った両足の白足袋まで奪いとった。
 まさに一糸まとわぬ素っ裸に剥かれ、繭美はうつ伏したまま顔も首筋も真っ赤に染めて羞恥に震えている。その余りにも妖艶な姿に吉村は思わず生唾を呑み込んだ。





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 恵俊和尚の手で湯文字もその下のショーツも、足の白足袋まで奪い取られて羞恥の極限にいる繭美に八名瀬がさらに追い打ちをかけた。

「ところで若女将。今夜のあんたの最初のパートナーは大久保が務めることになっているから、そのつもりでな」

(えっ! もしかして、わたしにこの男と交わって見せろというの?)
 愕然(がくぜん)とした繭美は、八名瀬の脂ぎった顔をまじまじと見た。

「や、八名瀬さん。まさか……」

「若女将。身を任せるということがそういうのも含むのは、あんたも子供じゃないのだから分かっていたはずだがな」

「で、でも……」と返事に詰まった繭美は、愛らしい紅唇を引き結んでうつむいた。その繭美の頭上に野太い声が響いた。

「若女将さん、よろしくお願いします!」

 巨漢の大久保剛が繭美に向かって太い猪首に載った四角い頭をペコンと前に倒していた。上背が百九十センチはある大久保は、肩がアメリカンフットボール選手さながらに隆々と盛り上がり、相撲取りのような分厚い胴体をしている。下駄に目鼻を粗雑に描いたような顔にとぼけた表情を浮かべているが、目尻が上がったその目はギラついており、己の情欲を充たすことが出来る好機を得て喜々としていた。

 大久保から性本能に生きる獣の匂いを嗅ぎ取った繭美は、言い知れぬ恐怖を覚えるとともに鳥肌を立たせた。

(こんな飢えた獣のような男に、わたし……)からだを(むさぼ)られなければならないのか、吉村までが見ている前で娼婦の真似までさせられるのか……。
 そう思った途端に繭美の切れ長な美しい眼から屈辱の涙がどっと溢れ出た。

「何度も言わせないでくれないかな、若女将。私はね、あんたの隠れた被虐官能の花がよりスムースに開くようにと色々考えてきたんだよ。これも私の好意だと受け取ってもらいたいものだねえ」

 八名瀬は、今の繭美が大久保という淫狼の手管にかかって我が身を燃やし尽くすしかないことを冷酷に宣言した。

(な、なんということを……)と憤慨したのは吉村だった。

 その吉村の視界を男の大きな影が遮断した。並んで控えていた大久保剛が立ち上がって繭美のそばへと向かっていた。
 緊縛裸身を縮めている繭美の脇からすっと離れた和尚に代わって畳舞台にすくっと立った大久保は、手早く着衣を脱ぎ捨てて素っ裸になった。

「社長と和尚さんのご命令なんで、よろしく頼んます!」

 無神経な野太い声に顔を上げた繭美は、ああっと目を大きく見張り、股間露わに迫ってくる大久保に怯えた。

「な、何をするのっ! イヤっ! やめてっ!」

 顔を引き攣らせた繭美は、あわててからだを起こし、素肌を縛める縄をギシギシ(きし)ませながら後じさりした。が、いよいよ獣の本性を丸出しにした大久保は、股間のイチモツを猛らせ、捕らえた獲物を(さげす)むような眼差しを繭美に向けて迫ってくる。

「諦めたらどうです、若女将さん? ムダな抵抗は止めましょうよ」

「イヤっ、来ないでっ! 寄らないでっ!」

 繭美は、じりじりと近寄る大久保に拒絶の声を投げつけながら後じさりした。
 しかし、必死に逃げようとする繭美の花肉の芯は急速に熱を帯びてきていた。どうしようもないやる瀬なさと切なさが被虐の情念を揺り動かし、繭美の肉体は繭美の悲痛な思いとは別の行動をとろうとしていた。

 繭美は、今まさに蹂躪(じゅうりん)されようとしている自分の花肉が燃えてくる不思議さに戸惑いつつ、縄に縛められた不自由な身を左右にくねらせて後じさりを続けた。耐え忍ばざるを得ない立場だと分かっていても、スポットライトに照らされた衆人環視の舞台のような場所で、しかも野獣のような男に陵辱されるのは余りに辛かった。

「来ないでっ! やめてっ、来ないでっ! お願いだから堪忍してっ!」

 繭美は細引き縄が喰いこむ上半身をよじって必死に大久保から逃れた。





               


「若女将さん、そろそろ観念しましょうよ。どうせここから逃げられっこないんだから。それに、その恰好で外に出られますか?」

 確かにこの土蔵は外部から遮断されている。閉ざされた空間のどこにも逃げ場はない。運良く脱出できたとしても、一糸まとわぬ裸身を後ろ手に縛り上げられいる身では行き場もない。大久保の陵辱から逃れられるはずはなかった。

「そんなに俺を嫌わなくたっていいじゃないですか。ちゃんと可愛がってあげますよ」

 そう(うそぶ)いた大久保は、易々と繭美を捕えた。有無を言わせずに夜具の上へ引き立てると繭美を仰向けに押し倒し、いきなり覆い被さってきた。

 その大久保を繭美は、まだ自由のある両脚で狂ったように蹴り上げた。しかし、必死に足掻く左右の脚の足首をがっしりつかんで立ち上がった大久保は、伸びやかで白い陶器のような光沢を放つ繭美の二肢を左右に大きく割り裂いた。

「あっ、イヤっ! イヤっ、やめてーっ!」
 繭美は宙に浮いた尻を揺らして激しく抵抗したが、大久保に困惑した様子はない。

 頑健な身体をした大久保は、繭美のむちむちと白い太ももの間にさっと自分の腰を割り込ませ、叫び続ける繭美のきゅっとくびれこんだ腰に両手を添えた。
 そして、恥骨をかきこむようにして繭美の腰を引き寄せると、いきり立った逞しい男根を女陰にあてがい、勢いよくズボッと大きな音がさせて突き入れた。

「あっ、ああーっ!」グラッと揺れた繭美の細首が大きくのけ反った。

 大久保の引き締まった分厚い胴を挟まされた二肢の先の足指を反り返えらせた繭美は、花肉の秘裂の奥深くに熱い棒になった男根を受け容れていた。

「おい、吉村! 何をぼーっとしてるんだ! 写真だ、写真を撮れ!」
 八名瀬が、控え場所で固唾を呑んでいた吉村を叱咤した。

 粗野な大久保とは違い、吉村は繊細な神経の持ち主である。しかも、東京大学に合格した秀才でもあった。それなのに東大を中退して一流の板前になろうとしたことのある吉村にとって『はなむら』は、料理の味付けも伝え聞く経営方針も理想的な店だった。だからこそ現在の雇い主である八名瀬に紹介した。
 しかし、それがこんな
酸鼻(さんび)を極める事態を招く結果につながったのだと、内心忸怩(じくじ)たる思いでいた。その吉村が渋々手にしたデジカメのファインダーに、一糸まとわぬ裸身を後ろ手に縛られた花村繭美が強姦される凄惨な情景が映し出された。吉村は思わずファインダーから目を逸らした。

「あっ、あっ、あっ、あっ、ああーっ」

 下唇を噛んで喘ぎ声を抑えようとしても今の繭美にはそれが出来ない。間断のない、しかもゆったりしたピストン運動は次第に繭美の官能を高めていった。花肉の襞がリズミカルに出入りする男根を包み込もうとするかのように収縮を返し、女の花園はしとどに濡れてきていた。

「ああっ! うっ、ううっ!」

 女陰の奥深くまで突き入った太く熱い男根が、その亀頭の先で繰り返し花芯を突つき、亀頭の傘で花肉の襞を刺激してはズルッと出ていく、そして数瞬の後に再びズボッと突き入ってきて女陰内部を蹂躙する。
 熱い肉の
擂粉木(すりこぎ)が抜き取られているわずかな合間が次第に長く感じられるようになり、被虐官能の妖しい炎に(あぶ)られている女の肉が焦れ始める。

 大久保の巧みなテクニックに翻弄(ほんろう)された繭美は、眉間を狭めて縦に皺を浮き立たせ、口を半開きにして狂おしく喘ぎ続けた。緊縛された裸の上半身を右に左によじって抵抗を試みながらも次第に官能の渦に巻き込まれていく。

 その繭美の表情の移り変わりを八名瀬と恵俊和尚が淫らな視線露わに息を呑んで見つめている。初老の二人は、無神経で粗暴な男に無理やり犯される若く美しい女の悩ましい身悶えと刻々と陶酔感を増していく妖美な表情を愉しんでいた。が、繭美に好意を寄せている吉村は、今すぐ手にしたデジカメを投げ捨ててこの場から立ち去りたい思いだった。

「んっ、んんっ、はっ、はあっ、んんっ、むうっ、ん……」

 繭美は、今にも淫らな言葉を(ほとばし)らせそうな口を何かでふさいで欲しかった。いつかのように猿轡を咬ませて欲しいとまで思った。が、それは口に出来ない。
 必死にこらえる繭美の、縄に絞り出された乳房を大久保の節くれ立った大きな手が揉みしごき、赤く尖った乳首を大久保の獣臭がする口が吸い上げる。

「あっ、ああっ、いっ、い、いっ、あうっ」

 充血した肉の花びらの内側の肉芽が大きく膨らんで屹立してその存在を主張し、花肉の(ひだ)は激しくそしてゆるやかにとリズムを変えて出入りする長く逞しい肉塊を捕らえようと収縮を繰り返していた。

「はっ、はあっ、ああーっ、ああ……」

 繭美の腰骨は痺れ始めている。間断なく突き上げる熱い肉の棒が花芯を疼かせ、そこから女の蜜が噴き出しはじめると、大久保は逞しい男根をズルッと抜いた。

「ああっ、ダメっ。抜かないでっ」

 絶頂を極めかけた官能の昂ぶりを削がれた繭美はあられもない言葉を口走っていた。
 高まった性の興奮に水をかけられ、消えかけた被虐の妖しい炎をまた燃え上がらされ、追い上げられた昂ぶりを中途半端に冷まされてから、また攻め立てられる。

(ああ、わたし……。気が、気が狂ってしまう……)

 じれったさと切なさに、繭美は緊縛裸身をよじって口惜し泣きを繰り返した。そして、ついにその時を迎えた。

「ああっ、いっ、いいっ、いいー、いくーっ!」

 朱に染まった細首を大きくのけ反らせた繭美は、大久保の(はがね)のような胴を挟んだ両脚を硬直させた。逞しく屹立した男根がズルッと引き抜かれると、「ああっ、イヤっ!」と、女陰の花肉が名残惜しそうに叫んだ。

 昇りつめた繭美は、細引き縄が喰いこむ裸身をよじって横向きになった。両脚の膝を深く折り曲げて丸まり、気をやった余韻の残る汗ばんだからだを小刻みに震わせている。背中に高く縛り上げられている両手首の先で空をつかみながら、繭美は甘い声を漏らした。その声音が、女の秘所を貫かれた(よろこ)びの表しているのか、熱く強張ったものを更に求めているのか、男には推測はできても本当の意味は判らない。

 我を忘れてうつつを超え、異妖な夢幻世界に我が身を置いている繭美は、端整な頬もしなやかな白い首も朱に染め上げ、細引き縄で厳しく緊め上げられた胸乳のあたりまで紅潮させている。額と肩に脂汗がじっとり滲んでいた。


                                                    つづく