矢島辰造は、細い眼を更に細めてお柳を見下ろしながら子分たちに声をかけた。

「おめえたち、このお柳をどう料理すりゃいいか、考えがあるなら言ってみな」

「親分。こいつの、あそこを眺めづらくしている、目障りな毛をそり落としちゃどうです？」

「いいや、剃り落すなんぞ生ぬるい。毛抜きで一本一本引っこ抜く方が面白いぜ」

「毛抜きじゃまどろっこしいやね。指の爪で二三本まとめて引っこ抜きゃ、こいつも、ひいとか、ぎゃぁとか、ちっとは女らしく泣き叫ぶじゃねぇかな」

卑猥極まる仕打ちをあげつらう話し合いに声もないお柳は、眉間に皺を寄せて端正な頬をゆがめ、両手両足を目いっぱいに引き開かれた裸身を強張らせるのだった。

子分たちの意見に耳を傾けていた辰造がまもなく得心したような顔つきになった。

「よし、決めた。恥ずかしげもなくさらけ出したお柳の土手の毛を皆で順番に一本ずつむしりとって行こう。お柳、強情なおめえのこった。痛かろうとも黙って我慢するかもしれんが、我慢は体に毒だぜ。一本抜かれるごとに威勢良く悲鳴を上げるもよし、腰を揺すって悶えるのもまたよし。いい景色を見せてくれよな。さあ皆、はじめろ！」

三十人もの矢島衆が一斉にお柳を張りつけた台の周りに群がって、我先にとばかり節くれだった手指をお柳の女の恥丘へ伸ばし、絹糸のような艶のある豊かな恥毛をつまんで遠慮なくグイッと引き抜いていく。
　お柳はそのいちいちの苦痛を、ぐっと全身を硬直させ口を真一文字に引き結んで耐えているが、その恐怖感は言葉に表しようがない。

「さすがはお柳だ。顔はしかめても呻き声一つ出さん。なら、これでどうでえ」

代貸しの大崎寛治が数本まとめて引き毟ってお柳に「ううっ！」と鋭い呻き声を出させると、続く皆がそれに習うことになった。

それでも可能な限り全身を緊張させ身じろぎも抑えて苦痛に耐えたお柳だったが、あくどい彼らはお柳の心も弄び始めた。繊毛がつかまれる気配を感じたお柳がぐっと息を詰めて全身に力をこめるが、毛を持ったまま意地悪くじっと指の動きを止めている。やがて胸が苦しくなったお柳が息を吐いて気を緩めた瞬間を狙って引き抜く。

「ああっ、ううっ！」

驚きと苦痛の小さな悲鳴がお柳の口から洩れ、台上に引き広げられた四肢がブルっと震えて白い腹が波打った。

「おうおう、さすがのお柳も我慢の限界が来たらしいな。それじゃ、これはどうだ」

二人同時にかかって、少し間合いを置いて唐突に毟りとっては次の者と交代する。

「ううっ、ひいっ、あうっ、うぐっ」

お柳の下肢は小刻みに痙攣し始め、膝が持ち上がり足裏を反り返らせて、両足首を台脚につなぐ縄がギシギシと軋ませた。

「わはは、やっぱり痛いそうだ。鋼の心を持つと言われたお柳も所詮は生身の女だったわけだ。さあ皆、続けろ。下の毛はまだ沢山残っているぞ」

肉体の痛みに加えて心も弄ばれる地獄のような時間が延々と続いては気力が保つはずもなく、お柳の心身の疲労は極限に近づきつつあった。苦痛への反応が生々しいものになるのを抑え切れない。お柳は無意識に乱れはじめた。

「ひいっ、ああっ、いやーっ。も、もう……ぐふっ、か、堪忍して……」

意思の張りを失ったあとのお柳は、ひと抜きごとに忘我の体であられもない悲鳴を漏らし、胸の乳房を揺らしては四肢をブルッと震わせ腰を浮かせて首を仰け反らせた。
　単なる拷問ではない、衆目の前で全裸磔のまま恥毛を抜かれ続けるという凄惨な羞恥責めなのだ。ここまで延々とされたら普通の女なら気絶するか気が狂って元には戻らないだろう。

「いひひ。お柳、これほど派手に悶えてわめき散らすたぁ、おめえもやっぱりただの女だったってことか。元女侠客の意地はどうした？　ちっとは恥を知って我慢しろや」

お柳のその痴態は勿論、常人の限度をはるかに超えた忍耐を続けた末のどうしようもない惑乱であり苦痛の発露だった。
　しかし、辰造たちのなじり声をまた耐えられない恥辱の鞭と取ったお柳はハッと我に返り、血走った目を虚空へグッと見開き、ギリッと音が出るほど歯を食いしばって我と我が身を更に忍耐の沈黙へ追い込もうとする。

「こりゃ、こたえられねえなあ」

類まれな美女の凄絶ともいえる苦悶の表情を嘲笑いながら、周囲の男どもはランランと目を光らせて妖艶な美女の痴態に見惚れた。
　しかし、酔眼に劣情をあからさまに浮かべ、ここぞとばかりにお柳の白く柔らかな乳房やさらけ出された股間の女陰やその内奥へと誰かれともない汚い手指を伸ばし、様々のけしからぬ悪戯をするのは成り行きだった。

拷問同然の責めに耐えるお柳の裸身は何本もの手にそここことなくいじり回され、酒臭い唾液を垂らす舌に舐められた。汚れた指先で嬲られた女の器官は異様に膨らみ、女肉の花びらは捲くれあがって赤らみ、女陰の中が潤いを見せるのも当然だった。摘まれて引っ張り出され揉まれて勃起した陰核もろともに、男どもの興奮はとどまることがなかった。

更には和枝が、一人で見ているのはもったいないと紅屋の遣り手や牛太郎だけでなく古株の女郎や女中まで座敷に呼び寄せ、その異妖で凄惨な宴を見物させた。はすっぱな女たちの嬌声が耳に響いて、同性に嘲られるお柳にはたまらない状況だった。

お柳は、凄まじい屈辱と拷問そのもののような肉体的苦痛の嵐を耐えに耐え、辛うじて正気を保ったままで長く辛い時間をやりすごした。
　しかし、黒々と女の恥丘を満遍なく覆っていた繊毛の茂みもところどころ疎らになって、これまで包み隠されていた慎ましい陰裂の形があらわになり、まとめて毛を抜かれた場所は爛れて血の色が滲んでいた。

今のお柳はいじられ揉みしだかれて紅潮した胸乳を上下させて激しく熱い息を継ぎ、半ば見開いて濃い疲労の色を浮かばせた赤く充血した目が美貌に凄みを加え、ともかくも一つの苦難を乗り超えたという安堵感があるのだろうか、甘い紅唇を半開きにして微笑しているような表情に妖気のようなまのを漂わせている。

そのお柳の妖艶な美しさに魅了されつつ、辰造は言葉嬲りを続ける。

「いひひっ、下の毛があちこち薄くなっちまって淫らな道具がもろに剥き出しているじゃねぇか。いい気味だ。やい、お柳。どんな気分だ？　ちいとは男の玩具にされる女郎の気持ちが分かってきたか？　こういう折檻をされる女郎がたまにはいるが、おめえみていな強情張りは見たことがねえ。これだけ浅ましい格好で赤恥をかかされりゃ、おいおい泣くか、ぎゃぁぎゃぁわめくか、気が裏返るかと思や、もう平気な顔で涙ひとつ見せねえ。とことん恥じ知らずなんだな、おめえって女は」

「それですよ、親分。このお柳って女はね……」

何かに思い当たった和枝が辰造に話した。「ここまでどぎつく嬲られて気が変にならないのだから、まず間違いないでしょうねえ。このお柳って女は、責められて苦しい思いをすればするほど肉の芯が燃えてくる、虐められるのが大好きな淫乱女だと思いますよ」

「そうかい、そんな女がたまにはいると聞いちゃいたが、お柳もそれかい？」

「間違いありませんって。だから、どんな下芸だって仕込めるはずですよ。そうすりゃ、評判の見世物女郎になるってもんです。そうだ、あんたたち、抜き散らかしたこの女の下の毛は捨てずに一つにまとめて残しておおき。あとで色々使えるだろうからね」

お柳の心身の疲労は極限に近く、彼らの蔑みの言葉にまともな反論ができるような状況にはなかったけれど、決して屈服したわけではなかった。ここで許しを請うような情けない恥の上塗りは避けたいという、持ち前の負けん気がなおも彼女には残っていた。

まもなく色を失っていたお柳の顔に血の気が戻り、切れ長の美しい目に凛とした光が宿り、相手をねめつける鋭い眼差しも復活して見えた。

「辰造親分、これだけあたしを無茶苦茶にすればさぞかし気が晴れたでしょうに。そろそろ許してくれちゃどうです。こう見えてもあたしも女のはしくれ。丸裸に剥かれて何もかもあばかれ、縛られておもちゃにされれば辛いし涙も出ますさ。分かるでしょう、親分、そろそろ許してくれって意味が。大勢の目の前でこれだけの恥をかかされちゃ、このお柳はおめおめと生きちゃいられない。さっさと殺してくださいな」

お柳の言葉を聞いて彼女の精神的逞しさに内心舌を巻いた辰造だったが、勿論それを顔に出すような辰造ではない。

「なにい？　あれだけの狂態を演じた後でもまだ減らず口が利けるのか。ほとほとしぶとい女だなあ、おめえって女は。だがな、お柳。その負けず嫌いがおめえ自身を苦しめることになるんだぜ。そうよ、いよいよおめえの仇討ち相手の耕平と三郎の出番だ。二人に和枝が持ってきた張形でとことんおめえを責め抜いてもらう。その格好じゃ、先刻のように耕平たちをやっつけることも叶うめえ。おとなしく返り討ちに遭ってよがり狂うことだ」

「あ、あんまりじゃありませんか、辰造親分。仇の二人にあたしを嬲らせるような、そんな人倫にもとることを……」

「けっ、人倫もへったくれもありゃしねぇや。ここにいる皆はおめえがとことん恥を晒して泣きわめくのを見てえんだよ。紅屋の新入り女郎たちに色の道を教えている耕平と三郎は言わばおめえの師匠だ。二人の色責めはおめえが見世物女郎として長く奉公するためには欠かせねえ修行の第一歩だ。四の五の言わず二人にお願いしろい、『あたくし、この度、紅屋の見世物女郎になったお柳でございます。素直で可愛い女になれますよう、お二人のお力でこの身もこの心もすっかり入れ替えてくださいまし』ってな。さあ、言え！」

「な、何を馬鹿な。この二人にそんなことをされてまで女郎になるのなら、いっそひと思いに殺しておくれ。さもなきゃ、舌を噛み切ってでも死んでみせてやる」

「おいおい、お柳。おめえが死んだり舌を噛んで男を取れねえ体になったりしたら、その時はお美津が身代わりの女郎になるんだぜ。それでもいいのかい？」

「そ、そんな……」お柳は返す言葉もなく焦点を失った目で天井を見つめた。

「それに、お柳。誰に仕込まれようと同じことだろう。どうせこれからは昼も夜も休まず男に抱き廻される身じゃねぇか。二人にたっぷりと可愛がってもらいな」

それを潮に先程手痛い目に遭った耕平と三郎が、晒しの腹巻と白い股引姿でにやけた顔を撫でながらお柳の張り付けられた台のそばに腰を降ろした。

今のお柳には、全身を強張らせる以外に男の玩弄に対抗する手段は何もない。そのお柳を眺めながら耕平は、生々しく暴き出されているお柳の股間の正面に座って、白く柔らかく敏感な太ももの内側からその交差する敏感な器官のあたりへ手指を這わせていった。三郎の方は横から身を乗り出すようにしてほのかに赤みを帯びた両の柔らかな乳房を揉みしだき屹立していく乳首をいじりまわす。

「くっ、くくっ、うっ、ううっ、あ……」

　懸命に耐えるお柳の口から呻きとも喘ぎともとれない小さな声が洩れる。耕平と三郎はこの紅屋で新入り女郎をてなずけ、最初から客をうまく受け入れるべくその体をほぐし、性の歓びに目覚めさせて様々な色事と技の数々を教え込む練達の調教師なのである。

しかし、この二人が最初から同時にかからなければならないような女はこれまで一人もいなかった。辰造はじめこの場にいる全員が、二人の手管とお柳のからだの隅々の反応を目を皿のようにして見詰めている。耕平は既にお柳の陰裂の中へ指を差し込もうとしているのだが、その硬さと閉じ絞められた襞の拒絶の強さで往生していた。

そうと知って辰造が口を出した。

「お柳。もっと気を楽にして自分から愉しむことを考えろ。紅屋の女いじり名人がおめえの女肉を柔らかくほぐしやすいように、その割れ目を惜しまずパックリと開けな」

辰造の地口に皆がどっと笑い、傍らの和枝が妙に媚びた物言いで辰造に助言した。

「お前さん、お柳にお酒を飲ませちゃどうです？　身も心も酔い痴れていい気持ちになれば、強情な体もほぐれて素直になると思いますがねえ」

先刻までの酒宴が今は女体の性宴に変わっているが、酒は座敷のあちこちにいくらでもある。すぐ近くにあった数本の徳利が来て誰が呑んだか知れない茶碗に移された。その茶碗を受け取った和枝が辰造にニヤッと笑って見せたのは、和枝が効用に自信を持っている漢方由来の強い催淫薬を酒に混ぜたからである。

顔だけ持ち上げられたお柳の喉へ半ば強制的に冷めた酒が大量に流し込まれる。むせながらも全部呑み込んだあと、青白かったお柳の顔がぽっと桃色に赤らんだ。

「ほう、酒もなかなかいけるくちだな。お柳、その調子でわしらの目を気にせずにどんどん乱れていきな。耕平に三郎、さあ、続きをやってやれ」

黒檀の座卓を裏返しにした大まな板に仰向けになっているお柳に、再び仇敵二人によるあくどい性のいたぶりが開始される。女体のあらゆる敏感な部分を熟知し、それらを愛撫する術にかけては一流だといわれる耕平と三郎の精妙な手指に加えて唇と舌がお柳のむきだしになった敏感な性感帯を探りまわり、間断ない愛撫を続ける。

抗うことすら出来ない大の字磔の苦況に加えて、やがて熱くなった双の乳房や腋の下に、爛れた恥丘にわずかに隙を見せた陰唇の間に、そして蟻の戸渡りから肛門の周りにも、特殊な芋を掏り潰して強い催淫薬を混ぜたかゆみ汁がたっぷり摺りこまれ、お柳のやるせなくたまらない不快感を誘う。

まもなくお柳はかすかな喘ぎ声を洩らしはじめ、はぁはぁと白い胸を喘がせた。顔を左右に揺するか伸びきった四肢の先を動かすことしか出来ない身で、苦しみを発する部分をわずかに避けつつ全身を巧妙に愛撫してくる男どもに翻弄されていく。にもかかわらず、その切なさと歯痒さを解決してくれるに違いないことを、女侠客の意地が邪魔をしてねだることが出来ないお柳だった。

「どうでい、お柳。あちこちが疼いてさぞ大変な思いだろう。思い切って耕平に頼みな、『その立派な張形でわたしのあそこをグサグサとやってください』ってな」

（何を馬鹿な……。そんな淫らな言葉は口が裂けたって言えるはずがないじゃないか。ああ、こうして二人に肌身を触られているだけでも死にたいほど辛いのに……）

お柳は何としてもこの恥辱に耐えようと思った。しかし、時間が長引くにつれてお柳の肉体は彼女の心を裏切り、二人の愛撫に応じて自ら性の快楽を味わいはじめていく。自制が利かなくなった肉体が全身で性の歓びを求めていると思われるような状況へ近づいていく。
　地獄のような時間に耐えれば耐えるほど、巧妙な羞恥責めは劇的に凄まじい効果を生むのだ。それは耕平と三郎が得意とする練達の技であり、矢島辰造が狙ったお柳の心を屈服させるための罠だった。

四肢をびんと張り広げられた裸身の内なる叫びと張り詰めたままの精神的な緊張の連続から、お柳の疲労はとっくに限界を超えている。はっはっと乱れる息の切なさは何よりも二人の色事師を悦ばせた。耕平が自身も興奮しながら相棒の三郎に指示を出す。

「いよいよ肉の芯から歓びが沸き上がってきたな。よし、一気に最初の歓喜成仏へ持っていってやろう。三郎、お前の舌技でお柳を蕩けさせてやれ」

「ほい、きた。まかしとけって、耕平兄ぃ」

固く目を閉ざしたお柳は、顔をそむけて精一杯の嫌悪感を表している。そのお柳の長い睫毛の間からポロポロと大粒の涙がこぼれ出る。その涙が切れ長の綺麗な目から溢れ出てしばらく途切れなかった。

けれども三郎が両乳首をなぶりながら次第に脇から全身で乗りかかってきて、べろべろと酒くさい息を素肌に吹きかけながらにじり寄る。お柳の顎と首を片手で捉えて涙に濡れた顔を起こし、溢れ出た涙を淫らな舌で舐め取っていく。そして、お柳の真一文字に結んだ紅唇へ寄り付いて強く吸い始めた。
　一方、綺麗な縦長の鼻腔から洩れる荒々しい息の乱れを計っていた耕平は、お柳の今はほぐれはじめ潤いを増した陰裂の内へここぞとばかりに、右手に持った猛々しいまでに大きい張形をググっと押し込んでいった。

「あうっ、うぐう、ああ、や、やめて……」

お柳の切ない抗いの声にも耕平は手を休めるどころか、次第に強く激しくグサグサと張形の前後動作を繰り返す。三郎は三郎で両乳房を強く握って揺らし、ねじり回す。

たまらないのはお柳だ。恐ろしい歓喜の波が女肉の内部に渦巻くのを知覚しながらも、歯を食い縛って股間の括約筋を必死に絞って女の秘所に侵入した相手の動きを抑え、必死に冷静さを取り戻そうとした。

「お柳、事ここに及んで我慢し通せると思うなよ。さあ思い切って気をやっちまいな」

耕平の動きの自在さは、お柳のからだの抵抗それ自体を巧妙に利用しつつ膨らみ始めた陰核をぐりぐり玩弄し舐めたり噛んだりする多彩さで、お柳の心身の崩壊はもうどうしようもなく、自分で抑えることが出来なくなっていた。

「あっ、あっ、あっ、あっ、やっ、やめてっ、ああ、ああっ、も、もう、お願い、お願い、ああ、気が変になりそう、ああ……ああっ、ダメ……。も、もう、ダメ……」

辰造はじめ一座の皆が瞠目して眺める中で、お柳は一度ならず四肢を揺すり大きく尻を持ち上げてのけぞった。そして虚空を睨むと「ああっ」と一言小さく叫び、ぶるぶると腰を震わせて極みを越えた様子を示した。

大広間が一瞬静まりかえったが、まもなく高笑いの声が沸いて拍手も混じる中、やはり辰造のお柳をなじるダミ声がよく通った。

「おい、お柳。大層な悦びようだったじゃないか。それにしてもザマぁねえなあ。あられもねえよがり姿をこれだけの人前で見せびらかして、仇の二人に身をまかせて気を遣ってしまうたぁ、大した淫乱女だ。これでもう女侠客ツバメ返しのお柳もおしめえだ。これからは恥晒しが商売の、最低の見世物女郎お柳として生きていきな」

辰造の残酷な引導をどう聞いたのか、ぐったりと裸身を横たえたまま荒い息をしているお柳の憔悴しきった顔にはもう何の感情も見えなかった。

　紅屋の大広間に淫らで残酷な風が吹き荒れた一夜が明けた――。

まだ昼過ぎだというのに『紅屋』の前にはすでに人だかりが出来ていた。上州の日光裏街道沿いでは大きな宿場でもあり、紅屋の評判を聞いて近隣の宿場からやってくる商人やら遊び人が多いこともあって、いつもながらの繁盛振りである。

その人だかりを掻き分けて、四十がらみの男女二人がさもこの店の者のように周りに頭を下げ、腰を低くしながら店内に入っていった。

「和枝姐さん、ご無沙汰しております」

亭主の方がたまたま店先にいたここの女将の角田和枝を目敏く見つけて声を掛けた。

「姐さん、この度はお呼びいただいてありがとう存じます。火急のご用だそうで」

久しぶりに顔を見せた沢渡健次とその女房の桃子に気がついた和枝は、いつもの権高な態度はそのままだが、彼女にしては珍しく、顔に笑みをうかべて応対した。

「健次さん達、急に呼び立てて済まなかったね。ちょいと頼みたいことが出来てねえ」

この健次と桃子の夫婦は、以前はいかさま博打専門の壷振りとして田舎の小さな賭場を渡り歩いていたが、今は賭け事の世界から足を洗って、賑やかな宿の宴会に出て客の前で夫婦の寝技を演じたり、桃子を裸にして卑しい下芸を見せたりして世を渡っている。紅屋でもしばらく世話になっていたことで和枝とは見知った仲である。

「ここじゃ話が出来ないから、店の裏へ回っておくれでないかい」

和枝は、そう言うと自分も履物をつっかけて外へ出て、二人を手招きしながら路地へ入って行った。そして、人目が届かない路地の物陰に入ると歩みを止め、真顔で振り向いた和枝が健次の耳元に顔を寄せた。

「健次さん。これから話すことは他所じゃ絶対に口外しないと約束してくれるかい」

「勿論でさあ、ご心配は無用に願います」

「そうだったね、余計なことを言っちまったね、勘弁しておくれ。ところで話というのはね、健次さん。あんたもよく知っているツバメ返しのお柳が今うちにいるんだよ」

「ええっ、あのお柳がこちらにいるとは、姐さん、一体どういうことなので……」

狐につままれたような顔になった健次に、和枝はいわくありげな言葉を口にした。

「いや、なに、以前は任侠の道でかなり名が通っていたようだけどさ。今はもう、そんな女侠客とは違うただの女になってここにいるのさ。うちの女郎と変わらない女になってね」

「へえー、まさかそんなことが……」

まだ話が呑みこめずにいる健次に、底意地の悪そうな笑みを浮かべた和枝が続ける。

「その、まさかなのさ。詳しい事の経緯は後でゆっくり話すとして、とにかく今のお柳は、矢島一家にその身をどうされても仕方がない状態にあると思っておくれな。それでね、健次さん。ただの女に戻ったお柳を、みっちり仕込んで一人前の女郎に仕立て上げて、この紅屋でこき使うのがうちの辰造親分の望みなのさ」

「なるほど、そういうことですかい。おい桃子、聞いたかい。あの憎いお柳がここ紅屋で男に抱かれる女郎にされるとよう。いい気味だなあ」

「もしもそれが本当なら積もり積もった恨みが晴らせるねえ、あんた」

　まだ半信半疑の桃子が中途半端な受け答えを健次にした。が、亭主の健次の方はもうすっかりその気になっている。

「それで女将さん、あっしらは何をやればいいんで？」

「それなんだがね」

にんまりと口の端を吊り上げた和枝は自分が考えていた計画を二人に話しはじめた。

　和枝と健次夫婦が紅屋の裏手へつながる路地で額を寄せている頃、その先にある土蔵の中では女の白い影が左右にゆらめいていた。
　全裸のお柳だった。
　昼間でも薄暗いこの土蔵は、主に粗相をして客を怒らせたり足抜けを試みたりした女郎を折檻するのに使われているのだが、今は矢島組に囚われたお柳の監禁場所になっている。

その土蔵の真ん中でお柳は、両腕を後ろ手に縛り上げられ、熟した白桃のように瑞々しい乳房の上下を縄に緊め上げられ、縄尻を天井の梁から垂れ下がる滑車につながれて爪先立っていた。しかも右足一本での爪先立ちである。左足は後ろに弧を描くように引き上げられ、足首と膝の上を巻き縛った縄がもう一つの滑車につながれている。
　その姿形は、遠目に眺めると裸で洋舞を踊っているような優雅さも窺えるが、お柳にとってはからだの重みを右足の爪先ひとつで支えなければならない極めて辛い姿勢であった。

このような不自然な形にお柳を吊り縛ったのは矢島組幹部の岩田源太郎である。手下の常次が昨夕お柳に片方の肩を壊されたことを口実にした仕打ちだった。矢島辰造とその子分たちはお柳を虐めようとすればどんなことでも理由に出来る。

昨夜お柳は、紅屋の持ち主でもある矢島組の親分辰造から紅屋の女郎に身を沈める引導を渡された。
　その紅屋には娑婆に未練を残す女たちが女郎として店に出る前に経験させられる通過儀礼がある。組の幹部連中や三下たちが抱き回し、それでも観念しない場合はかなり手ひどい折檻をするのだが、男どもの欲求発散のためでもあった。その結果、女たちの十人が十人、それですっかり諦めて春をひさぐこの女郎宿に居つくのだった。

しかし、ことお柳に関しては辰造の彼女への遺恨も重なって、凄まじい羞恥責めが辰造はじめ一家総出の性宴のかたちで行われた。けれども、それですっかり心が折れて紅屋の女郎になって客を取る覚悟をするだろうという辰造の思惑は外れた。

裏返しにした大きな座卓に全裸磔にされたお柳は、三十人もの男に恥毛を毟り取られた後の耕平と三郎による淫ら責めにたまらず一度は絶頂に達してしまった。が、その後の入れ替わり立ち代り女陰に男槍を刺す念仏講には一転して激しい抵抗を示した。最初の辰造以外は頑として受け入れようとしなかった。二番手に立った代貸しの大崎寛治はし遂げ損じて外で漏らしてしまったし、三番手の源太郎に至っては挿入そのものが出来なかった。

座卓の脚に四肢を大の字に縛られた状態での強姦にもひるまず、腰をくねらせ腹を上下させて逆らうお柳の強情さと心身の強さに皆がほとほと手を焼いてしまった。お美津を使っての恫喝も効果はなく、続く松吉と晋太郎もし損じ、辰造の名指しで耕平が挑むとお柳は荒れ狂った。結局、お柳を生贄にした性宴は白けたものになり、苦虫を噛み潰したような顔で宴の終了を告げた辰造はお柳を一旦土蔵に戻すよう命じて大広間を後にした。

磔台から解放されたお柳は、後ろ手に縛り直されて二階の大広間から母屋裏の土蔵へと曳かれて行った。日付が変わってすでに二時間が経った真夜中のことである。女郎たちが暗闇牢と呼んで恐れる石牢の前でお柳は大きなコブのような結び目をこしらえた縄で股間を縦に割られ、そのまま三畳ほどの広さの石牢に押し込められた。

心身の疲れが極限に達しているはずなのに、お柳はどうにも眠りに落ちることが出来なかった。いまだにからだが火照っている。無理やり呑まされた酒に混ぜられた媚薬のせいであろう。それにわずかな身動きで女陰を嬲る縄のコブの刺激が眠りの邪魔をしていた。

闇の中では時間が経つのが遅く感じられる。冷たい石の上に敷かれた筵に疲れ切った裸身を横たえたお柳は、昨日の昼下がりからの半日に我が身に起きたことが信じられなかった。悪夢であって欲しいと願っても動かしようのない現実を、後ろ手に縛られ股縄までかけられている今の自分の姿が示している。

（ああ、銀次郎さん。お願い、早くお柳を助けに来て！）

　浅草でお柳からの仇討ち成就の知らせを待っている沢村一家二代目の銀次郎の姿を思い浮かべたお柳は脂汗にまみれた頬を涙で濡らした。後悔と心の葛藤がお柳をまんじりともさせず、漆黒の闇の中を時はゆるゆると流れていった。母屋の裏口近くにある賄い所で女中たちの朝仕度の賑やかな声が飛び交う頃になってようやく、お柳は深い眠りに落ちた。

それからどれほど時間が経ったろうか、お柳は女陰の奥がズキンと疼くのを感じて目覚めた。寝返りを打った際にコブ縄が女陰に強く喰い込んだようである。
　耳を澄まして石牢の外の様子を窺ったが、土蔵の中に人がいる気配はない。極力からだを動かさないようにして女の花芯の疼きを抑えているうちにお柳は再び深い眠りに落ちた。
　その矢先のことである、源太郎が手下の平吉にもう一人、医者に担ぎこまれた常次に代わった広助を連れて土蔵に押しかけてきたのは。

石牢の出入り口には堅固な木枠が嵌めこまれており、その木枠の内側に二寸幅の分厚い戸板が降りてきて石牢の内部を漆黒の闇にする。
　その戸板がカラカラと滑車が回る音とともに引き上げられると、射し込んだ薄明かりに筵の上に横たわるお柳の姿が浮かび上がった。が、眠りの底にいるお柳は源太郎が石牢の中に入ってきたことに気づかない。

「あれからまた気をやったみてぇだな。股の縄がぐっしょり濡れているぜ」

　卑猥な笑みを浮かべてそう呟いた源太郎がお柳の量感のある白い尻に手をかけて二三度揺すったがお柳は目覚めない。

「おい、起きろ！」と、焦れた源太郎がお柳の尻を平手でピシャッと強くはたいた。

突然の痛みにハッと目を見開いたお柳だったが、意識はまだ目覚めていない。いつのまにか目の前にいる源太郎を虚ろな眼差しで呆然と見上げた。

「お柳。いつまで寝ているつもりだ？　お日様はとっくに高く昇っているぜ」

　自分たちは布団の中でゆっくり体を休めておいてずいぶん勝手な言い草である。

意識が朦朧とした状態で石牢から引きずり出されたお柳は、土間に正座をさせられてようやく昨日から自分の身に起きていることを思い出した。

「どうでい、お柳。少しは疲れがとれたかい」

「…………」お柳は何も答えない。

「どうした、お柳。聞いているのか？」

「…………」お柳はなおも無言のまま正面を向いて虚ろな視線を漂わせている。

「そうか、草臥れ切って口も利けねえてぇわけか。なら水でもかぶってすっきりしな。親分がおめえの体の汚れを綺麗に洗い流してやれと言ってなさる。親分のお情けをありがたく思いな。さあ、お柳、風呂場へ行くぜ。広助。おめえが縄尻を取りな」

「へいっ」とお柳の背後に回った広助が、「姐さん、行きやしょう」と言って縄尻をグイッと引き上げた。途端にお柳は「ううっ！」と呻いて前屈みに身を縮めた。股のコブ縄が女陰に深く喰い込んだのだ。

「源太さん、せめて下の縄だけでも……」

「んん？　ああそうかい、股の縄をほどいて欲しいのかい。だがお柳、まだそうはいかねえ。風呂場まではそのまま行ってもらうぜ。さあ、さっさと立ち上がって、とっとと歩きな」

　冷たく突き放されて唇を噛み締めたお柳は、股間の刺激に耐えながら立ち上がり、先導する源太郎の後ろを広助に曳かれて土蔵から母屋へ移って行った。

　紅屋の母屋には風呂場が二つある。ひとつは泊まり客のために用意された檜づくりの贅沢なもので、もう一つは女郎たちが使うタイル張りの風呂場で賄い所近くにあった。
　源太郎はお柳を賄い所の前まで曳いていくと、そこでわざとお柳を立ち止まらせた。立ち働いていた女たちが手を止めてひそひそ声を交わしながらお柳の哀れな緊縛裸身を凝視した。

女たちの好奇の視線が突き刺さり、お柳の雪肌が見る見る朱に染まっていく。源太郎は余りの羞恥に狼狽するお柳の姿を楽しんでから、ようやく女郎風呂に曳き入れた。

「ふふっ。お柳、おめえって女は、裸を男に見られるより女に見られる方が恥ずかしいようだな」

「…………」風呂椅子に座らされたお柳は黙ってうな垂れている。頬がまだ赤かった。

「いひっ、図星かい。てぇことは、女の手で羞恥責めにするのも一興だな。まあそれはそれとして、お柳、約束通り股の縄を外してやるから腰を上げな」

　ポンと肩を叩かれたお柳はゆっくり腰を上げて心持ち脚を開いた。その股間を刺激してきた縦縄が外されると大きな息を吐いたお柳は再び腰を降ろして太ももを閉ざした。

　風呂桶に残り湯を汲んだ平吉と広助がお柳の左右の肩に湯を浴びせかけ、源太郎がしゃぼんを含ませた手拭いでこすり、首筋と左右の肩の、そして二の腕の汚れを落としていく。そして縄に緊め上げられた乳房に移るといきなり片方の乳房を鷲づかみにした。

「あっ！」とお柳は顔をしかめたが、源太郎はつかんだ乳房を手のひらに包んで感触を確かめた。

「なるほど、柔らかいゴムマリを握っているようだ。いや、それよりうんといい手触りだぜ。お柳、おめえ、本当にいいおっぱいをしているなあ」

　目を細めた源太郎は、さっとお柳の背後に回って手拭いを置くと、両手を前に伸ばしてお柳の両乳房を揉み上げはじめた。それを平吉と広助がぽかんと見つめている。

「げ、源太さん、やめてっ。ああっ、こ、こんなこと、ああっ、やめとくれ」

　お柳は背中に縛られた両手の先で源太郎を押し返そうとしが、それもはかない抵抗に過ぎない。汚れを洗い流されたばかりの肩に熱い口吻を注がれ、急速に膨らみを増した乳首を弄ばれながら乳房を揉み続けられて、「あっ、イヤっ、ああっ」と喘ぎ声を高めていった。

「よしっ、これぐらいにしといてやるか」

　長々とお柳の肌を嬲って満悦顔になった源太郎は、手拭いを手にしてしゃぼんを含ませ、縄がからみつく両手とその下の背中をこすり上げた。それが終わるとお柳の前に位置を替え、改めて乳房をこすり鳩尾から腹部へと手拭いを下ろしていった。

「さてと、次は顔と髪だが。広助、おめえが洗ってやってくれ。お柳、この広助は髪結いの息子でなあ、親に負けねえくらいのいい腕をしているのにヤクザになっちまった変わり者だ。安心して任せときゃいい」

　源太郎はそう言って笑みを浮かべ、自分はお柳の太ももから先にかかった。

「姐さん、少しの間、目を瞑って息を止めといてくれませんか」

　お柳は小さくうなずいて広助の言葉に従った。広助の手際は確かによかった。乱れほつれている姐御髷をほどき、頭に湯を注ぐと、短時間のうちに顔の脂汗を拭い取って髪の汚れを洗い流しただけでなく、お柳の長い黒髪を再び姐御髷に結い上げた。

「どうでい、お柳。頭のてっぺんから足の先までさっぱりして、気分もシャキッとしただろう。残るはおめえの恥ずかしいところだけだが、実はなお柳、親分から中途半端に残っているおめえの草むらを綺麗に刈りとっておくよう言われているんだ」

「ええっ、そ、そんなことまで……」

「ああそうだ、何もかもさっぱりさせてやれというご注文なのさ。おめえは嫌でも俺はやらなきゃならねえ。さあ、お柳。諦めて腰を上げて股を広げな。そうだ、先に言っとくが、下手に動いたら俺の手元が狂って大事なところに傷がつくぜ」

　源太郎の合図で平吉と広助がお柳を中腰にさせて足を開かせ、前に屈み込んだ源太郎がお柳の恥丘と股間にしゃぼんをなすりつけた。
　が、直後にお柳は激しい狼狽を示した。

「あっ、やめてっ。そ、そんなこと、しないで！」

　お柳の女陰に源太郎の指が差し込まれていた。その指が女の花肉の襞をまさぐる。

「や、やめてっ。げ、源太さん。い、意地悪はやめて。ああ……」

　お柳は、蹴飛ばしてやりたい衝動を懸命に抑え、後ろ手に縛られた上半身を小刻みに震わせた。が、「ゆうべ俺にやらせなかった罰だ」と嘯いた源太郎の女陰いじりは数分間続いた。

「ほれ俺の指がこんなに濡れちまったぜ。お柳、おめえ、いい道具を持っているなあ」

大袈裟に感心して見せた源太郎が剃刀を進めていき、まもなくお柳の恥丘はすっかり蔭りを失った。そこには女の花肉の花びらがその隠微な姿をくっきりと見せていた。