鬼庭秀珍 『贋作・お柳情炎』 


    第5章 花芯の敗北




 田舎ヤクザの卑劣な罠に嵌って生け捕りにされたお柳は、大胡宿に連行されてすぐに着衣をすべて奪われ、透きとおるように白い裸の肌身をどす黒い縄で縛り上げられて嬲られた。その上、矢島一家全員が揃った酒宴の席で大の字磔にされ、下の毛を毟り取るという残酷な仕打ちを受けた。が、まだ屈服してはいなかった。

 しかし、彼らのお柳へのいたぶりは留まるところを知らない。今朝も一時間余り風呂場で源太郎に裸の肌身を弄ばれ、土蔵に連れ戻されるとすぐに片足での爪先立ちに吊り縛られて乳房を嬲られ唇まで奪われていた。

それから小一時間が経った――。

着流し姿はすらりと上背があって足が長い男なら颯爽として様になるが、矢島辰造のように矮躯で短足な男ではそうは見えない。店の番頭に見えればいい方である。が、辰造の場合は見栄えの悪さを横柄な態度と醜悪な顔で補っていた。その辰造が着流し姿の口に爪楊枝を咥えて、子分も連れずに、一人で土蔵に入ってきた。

「おう、まるで赤ん坊だ。注文通りちゃんと出来ているじゃねえかい。ふっふっふっ」

お柳の股間を覗き込んで卑猥な笑みを浮かべた辰造にとって、一つ困った問題があった。お柳は昨夜からあれだけ休みなしにきつい責めを受けてきた。が、今なお弱音を吐かないために、いびり甲斐はあっても次の計画へ進めないのだ。

「おい、お柳。おめえって女は本当に強情な女だなあ。そろそろ降参したらどうでえ。その格好じゃ辛いだろう。いつまで我慢を続けるつもりだ?」

辰造の言葉を聞いて、うな垂れて目を閉ざしていたお柳がすっと顔を上げ、切れ長の美しい目に凛とした光をたたえて鋭い視線を向けた。

「我慢しろと言われればいつまでだって我慢しますさ。でも、あんた方の言い分には際限がありゃしない。あたしをここまで無茶苦茶に汚したのだから、もう約束を果たしてくれてもいいじゃありませんか、辰造親分。あんたが先にお美津さんを家へ帰してくれさえすりゃ、あたしも素直になって、女郎にだって何にだってなりますよ」

「生意気を言うな、お柳。おめえがわしらに降参するのが先だろうが。ゆうべの宴席でのあの有様は何だ。わしはともかく、子分の一人にも抱かせねえ女郎がどこにいる?」

「だから言っているじゃありませんか、先にお美津さんを家へ帰してくれたら、誰にだっておとなしく抱かれる女郎になりますって。あたしが裸になりさえすりゃお美津さんを家へ帰す約束だったのにいつまでもお美津さんを楯に取ってこうも理不尽な無理強いをされ続けちゃ、強情だって意地だって張りたくなるのは当たり前じゃありませんか」

「…………」辰造は考え込んだ。

(お美津を川村に戻せばお柳は本当に紅屋の女郎になるだろうか。いやいや、なにせこの気性だ。今お美津を解き放したら、おそらくは自決しようとするに違いない。今のお柳はまだ素直に女郎になれる状態じゃあない。そこまで仕込むのにはもっと時間がかかりそうだ……。となると、お美津を近くに置いておく方がお柳を自暴自棄にさせないだけマシか……)

このすこぶるつきの美人を何とか自分の意のままになる女にしたい辰造は、当のお柳を目近に眺めながら、さてどうしたものかと腕を組んでしきりに首を捻った。

 丁度そこに和枝が、沢渡健次と桃子の夫婦を連れて土蔵に入ってきた。辰造もこの夫婦者の色事の手数と女の体を知り尽くした技の巧みさは良く知っている。

「おお、健次と桃子か。いいところへ来たな。ものは相談だが、このじゃじゃ馬をおめえたち夫婦の技でしっとりした従順な女にすることは出来ねえかい。出来るようなら力を貸してくれ。おめえたちもこのお柳にはこってり恨みがあるはずだろう?」

「ええ、こいつにはすっかりひどい目に遭いましたから恨み骨髄でさあ。あっしらに任せていただけるということなら、何としてもやり遂げてみせます」

きっぱり答えた健次は色事師独特の舐めるような視線を顔から胸から足の先まで這わせて、無残に吊り縛られたお柳の裸身を見回した。そして得心した顔になると一変して怒りを露わにし、ここで積年の恨みを晴らしてやるとお柳を怒鳴り散らし始めた。

「やい、お柳! 俺のこの目を見てみろ! 高崎の大賭場でおめえが投げた簪がこの目に刺さって潰れるは、どこの賭場からも締め出されるはで、俺の人生はすっかり狂っちまった。それもこれも皆、おめえが余計なちょっかいを出したせいだぞ。裸でぶら下がっているのもその報いってもんだ。いい気味だぜ、まったく」

常に正道を歩んできたお柳からすればことさら昔のことを非難される筋合いはない。ましてや、健次自身がご法度のいかさまで任侠の世界から追放されたのだ。その恥を恥ともせずにいかさまを暴いたお柳の前にのこのこ出てくること自体が笑止千万だった。しかも、お柳が抵抗できないことを知った上で逆恨みの言葉を嵩にかかって言い募る。

(あたしの睨んだ通りだ。この男はやっぱり根っからの卑怯者なのさ)

「ふん、健次っていったね。いかさま博打の、小汚い壷振りが、今頃どの面下げてあたしの前に出て来るのさ。笑わせるよ。片目が潰れたのは気の毒だけど、身から出た錆だろう」

「何だと、お柳! 羽をもがれて毛を毟られたツバメのなれの果てがまだ偉そうな口を利くのかい。女将さんの話によりゃ、おめえはもう侠客でも何でもねえ、ただの女郎に成り下がっているそうじゃねえかい。ちっとは自分の身分をわきまえな」

「そうだよ、自分を何様だと思っているんだい!」

健次も怒りをぶつけたが、桃子はほとんど逆上して突っかかり、お柳の白く柔らかい乳房の片方をつかんでムギュッと思い切りねじり上げた。

「うっ!」と眉根を寄せたお柳は桃子を蹴り飛ばしたかったが、片足での爪先立ちに吊り縛られていてはそれも出来ない。

「辰造親分。このお柳は、喋らせるとどんどん元気付く憎たらしい女ですぜ。これ以上減らず口を叩けないように、親分の褌で猿轡を咬ませちゃどうです?」

「おっ、そりゃ面白ぇな」

腰を降ろして見ていた辰造は膝を打って小躍りした。さっと立ち上がると着流しの裾をからげ、股間の赤い褌をするするとほどいて「ほれっ」と健次に渡した

「さあ、お柳。口を開けな。あ〜ん、と大きく開けるんだよ」

 当然お柳が健次の指示に素直に従うはずもない。口をきゅっと結んで健次を睨みつけ、顔をそむけた。健次は焦れた。

「お柳、うちの人の言うことが聞けるようにしてやるよ」

桃子がお柳の鼻を指で強く摘んで鼻腔を塞いで口でしか息が出来ないようにした。上半身を吊るす縄に胸の上下を緊め上げられているお柳がいつまでも息を止めておけるはずがない。お柳はまもなく息苦しくなって固く結んでいた口をわずかに開いた。

その瞬間を待っていた健次は、お柳の左右の頬に指を突き立ててあごを開かせ、もう片方の手の指先に丸めて用意していた赤褌の端をギュッと押し込んだ。そして、長い褌の残り部分も無理やりお柳の口中に詰め込んでいった。

男の性臭が沁み込んだ汚い布をお柳の口の中いっぱいに詰め込んだ健次は、その上から短い縄で口を縛り、話すことも布を吐き出すことも出来ないようにした。さすがのお柳も赤褌の異臭に眉根を寄せながら口惜しげな眼差しを向けることしか出来なくなっていた。

「いひひっ。いい格好だぜ。ザマはねえや。ところで健次、この生意気な女を出来るだけ早く一人前の女郎にするいい手は何かないか?」

「へえ、幾つかあります。先ずは素直にさせる手ですが……」

健次が辰造の耳元に口を寄せて何やら話すと、ニヤリとした辰造の顔がほころんだ。

「そいつはいいや。健次、今日から早速そうしてやれ」

ふふふっ、と含み笑いをした辰造がお柳を振り返ると、急にとぼけた表情になって思いがけないことを言った。

「ところでお柳。おめえ、ここに来てからまだ一回も厠へ行っていなかったなあ。まさかおめえ一人が小便をする必要がない特別な体をしているはずもないし、我慢しているのなら今ここで出してさっぱりしちゃあどうだ」

虚を突かれたお柳は思わず顔を赤らめた。
 土蔵へ連れ込まれてから一番辛いことがそれだった。昨夜の拷問のような恥毛むしりにも何とか失禁せずに耐えた。しかし、その時に無理やり呑まされた媚薬入りの酒のせいか、お腹が渋っていた。辰造がわざわざ言い出したからには、皆が見ている前でお柳に放尿させようと企んでいるに違いない。最悪の予感で顔を青白くしたお柳は、激しく首を振って尿意を否定した。

「そうか、それならいいが……。しかし、いつまでもその格好のままじゃ、体のあちこちにガタがきちまうかも知れねえ。おい、源太。吊り上げている足を降ろしてやりな」

 辰造のその言葉を訝しく思うお柳の左脚の足首と膝を巻き縛って吊っている縄が手際よくほどかれていく。しかし、ようやく足の裏を床に着けることが出来たお柳の両肢は平吉と広助によって左右に広げられ、足首を太い青竹に縛りつけられていった。これでは膝を交差させて股間を隠すことさえままならない。

源太郎はそのお柳を更に、上半身を吊り上げている縄を引き締めて再び爪先立ちにした。それでも今までよりも遥かに楽な姿勢になれたお柳は内心ホッとしていた。

「ところでお柳。ゆうべも言った通り、今後おめえは昼も夜も裸のままだ。布切れ一枚身に着けさせねえ。おめえは紅屋の見世物女郎として素っ裸で店に出ることになる。だがなあ、裸を見せるだけじゃ客は満足してくれねえ。ちっとは芸ができなくちゃいけねえ」

「…………」赤褌と縄の猿轡を咬まされているお柳は聞いているほかはない。

「そのために色々と面白い芸を教えてくれるのがこの健次夫婦というわけだ。おめえにはこの二人から教わった芸を酒の席や大勢の客の前で披露してもらうぜ」

(な、何だって! 冗談もほどほどにしな! 黙って従うと思ったら大間違いだよ!)

思わずお柳は叫んだ。が、その叫び声は厳重な猿轡によって口中に封印された。

「女郎になったおめえが客を取るのは当たり前だが、客によっちゃあ、女が小便をするのを目の前で見たがる者も結構いるそうだぜ。そんな客を悦ばすためにも、人前で何をしても平気になる覚悟がいらぁな。だからお柳、我慢してねえで、さっさと小便を出しちまいな。皆が見ているところでするのに慣れることだ」

裸を晒しているだけでも身が縮むのに、排尿まで見せろとは……)

 想像するだけで血が凍りつく悪辣な企みにお柳は慄然とした。
 そこまで破廉恥なことを一度でもすれば心が壊れる。二度三度と繰り返すうちに恥を忘れてしまい、その下はない最低の女になってしまう。怖気を感じたお柳は、縛られた裸身を無意識に震わせた。

 しかし、天は無情だった。この時突然にお柳は尿意を催したのである。

(ああ、こんな時になぜ……)

うろたえている間に下腹が張ってくる。お柳の富士額に脂汗が滲みはじめた。お柳は歯を食い縛って我慢をした。しかし、その我慢も限界に近づいてくる。お柳の緊縛裸身はブルブルと小刻みに震えはじめた。

「ほほう、いよいよ小便をしたくなってきたようだな。ふふふっ、お柳、種明かしをしてやろうか? 源太がおめえに飲ませたお茶の中に利尿の薬を混ぜておいたのさ」

(ええっ、そんなことまでして……)

 お柳を徹底的に辱めようとする辰造たちの悪巧みは留まるところを知らない。

「おい、平吉。健次が持ってきたバケツをお柳の股座に当てて小便を受けてやりな。それから源太。おめえは早く出るようにお柳の腹をしっかり揉んでやれ」

「へいっ、承知しやした」と平吉が動き、源太郎がニヤニヤ顔でお柳の腹を揉みはじめた。

(ああ、やめてっ。イヤっ。お願い、お腹をいじめないで!)

 激しく首を振るお柳の我慢にいよいよ限界がきた。
 猿轡を咬まされている顔を真っ赤に膨らませたお柳は後ろ手に縛られた裸身を悶えさせ、「ぐっ、うぐっ!」と濁った声を洩らしたと思うや否や首を大きく仰け反らせた。その瞬間に平吉が持つバケツがピューッと迸り出た小水を受け、ジョボジョボと音を立てて満ちていった。

 がっくりとうな垂れたお柳の目から涙が溢れ出ている。激しい羞恥と苦悶の色がその濡れた瞳に浮かんでいた。

「うひひっ。ずいぶん派手にやらかしたなあ。なぁに、恥ずかしがるこたぁねえや。お柳、おめえはもう、男を悦ばすことだけが仕事の女郎なんだ。大胡宿一の見世物女郎になりな」

 あっははは、と哄笑した辰造は「おお、もうこんな時間か。いいものを見せてもらったが、腹が減っちまった。晩飯がずいぶん遅くなったが、酒でも呑んで寝るとしよう。それじゃ健次、後は頼んだぜ」と言い残すと、和枝とともに土蔵を後にした。

「どうでい、お柳、皆の前で小便した気分は?」

 がっくりとうな垂れている顔を健次が下から覗き込むがお柳は答えない。

「さすがのお柳姐さんも参ったようだな、ふふふっ」と笑った健次が後ろ振り向いて指示を出した。「桃子、おめえ、お柳の股座を拭いてやりな」

「あいよっ」と威勢良く答えた桃子が、乾いた手拭いで股間や太ももに残る水滴を拭い取っていく。それを見ながら健次は懐から銀色に光る環がついている朱色の紐を取り出した。

「健次、何だい、紐についているその環は」

「兄さん、今に分かりますよ」

ニヤッと笑った健次が、お柳に「さぞすっきりしただろうが、お柳、恥知らずにも親分や皆さんの前で小便を垂れ流す粗相をしたおめえにはその罰を受けてもらうぜ」と理不尽な言いがかりをつけて、お柳のくびれた腰に細引き縄を巻いていった。

かたわらで源太郎が目を皿にして見つめている。平吉も広助も興味津々の様子で首を伸ばしている目の前でお柳に腰縄を打ち終えた健次が源太郎を振り返った。

「よく見といてくだせえよ、源太兄さん。この紐を腰縄につなぎやしてね」

「ほう、それからどうする?」

「紐を股に通してこの環をこいつのおサネに嵌め込むんでさあ」

(ああ、な、何てことを。イヤっ、やめてっ、そんな酷いことはしないで!)

 お柳が猿轡の下で叫んでいる間に朱色の紐が腰縄に結びつけられ、股間へと引き下げられていく。
 朱色の紐につけられた銀環は紐を引くと環が締まるように出来ている。銀環を陰核の根元に嵌めて女の最も敏感な花肉の芽を絶えず刺激する淫靡な責め具だった。

「こりゃ、えげつねぇ仕置きだなあ」

「ですがね、兄さん。このお柳のような強情な女を従順な女にするには、何よりもこの環の効き目が一番でしてねえ。そうだ、兄さん。おっぱいを揉んでやっちゃあもらえませんかい。少し感じておサネが立った方が嵌め易いので、頼みます」

「よし、分かった」と顔をほころばせた源太郎が、後ろ手に縛られているお柳の背後に立ち、後ろから両手で抱き締めるようにして乳房を手のひらに包み、揉み上げ始めた。

(ああ、あたし、どうしたらいいの。どうなってしまうの)

 縄に搾り出された乳房を揉み上げられ赤い乳首を弄ばれて性の官能を昂ぶらせていく自分の肉体をお柳は制御できない。涙に濡れた顔をイヤイヤと左右に振りながらくぐもった喘ぎ声を洩らした。

「おい、健次。その銀の環をおサネに嵌められたお柳がどんな声で悦ぶか聞いてみようじゃねぇか、猿轡を外して」

 お柳の乳房を揉み上げながら源太郎がそう言うと、「それも一興ですかね」と答えた健次は桃子に猿轡を外すよう指示をした。

口を縛って頬をくびる縄が外され口中の赤褌が引き出されると、お柳は「ぷうーっ」と大きく息を吐き出し、深く息を吸い込んだ。が、その直後に悲鳴に近い声を上げた。

「い、イヤっ。やめてっ! そ、そんなこと……しないで……」

 健次がお柳の女陰に指を差し込んでいた。指先で刺激され、たちまち屹立して皮を脱いだ陰核に健次が銀環を嵌めようとする。

「こ、こんなこと……しなくたって、お柳はもう……、お前さんたちに、楯突く気力なんかありゃしない……。ねっ、堪忍して、健次さん……。お、お願い、お願いだから堪忍して……」

「そうはいかねえんだ。おサネに嵌めるこの環は、お柳。四六時中おめえをその気にさせて、もう男無しじゃ一日も暮らせねえ体に仕上げてくれる、ありがたいお道具だ。これを嵌めて過ごすのも女郎修行のひとつだと思って我慢しな」

 お柳の必死の願いも健次は意に介さない。馴れた手つきで陰核に銀環を嵌め込むと、紐をクイッと引いて環を引き締めた。

「あっあっあっあ、ううっ、い、イヤーっ!」

 お柳はけたたましい悲鳴を上げて上半身を悶えさせた。その間に健次は朱の紐を蟻の門渡りに喰い込ませながら尻の狭間を駆け上らせ、腰の細引きにつなぎ止めた。

「お、お願い、健次さん。後生だから……、は、外して……。外してください……」

「ほほう、これだけでめっきり色っぽくなってきたぜ」と源太郎が感心した。

「イヤっ。こ、こんなこと……嫌です。後生です……。後生ですから、こ、これを早く……、は、外して……あっ、ああ……」

 お柳の声が次第にかすれてか細くなり、切ない喘ぎ声に変わっていく。

「どうでい、お柳。もう体中がポーッと熱くなってきただろう。毎晩これをつけて寝りゃ日に日に女らしい艶が出てきて、目にも男心をそそるなまめかしい潤みが出てくる。おめえもきっといい女郎になれるぜ、ふふふっ」

そう笑った健次が振り返って桃子から受け取ったのは歯噛み竹だった。一寸幅に切った細めの古竹三つの空洞に丈夫な麻紐を通してつくった口枷で、これを噛まされると、声は出せるが舌を噛み切ることは出来ない。

「兄さん。人質のお美津がいる限り、お柳は舌を噛み切るような大それた真似はしねえと思いますがね、念には念をいれろとの親分からのお達しでして」

 源太郎にそう説明した健次は、喘ぎ声を洩らし続けているお柳の口に歯噛み竹を咥えさせた。そして懐から細い麻糸を取り出すと、指先を器用に動かして、すでに充血して膨らんでいるお柳の乳首を縛りはじめた。

「ううっ、そ、そんなこと……や、やめてっ。ああ、ううっ」

 嫌がるお柳をよそ目に左右の乳首の根元をきっちり巻き縛った健次は、その麻糸を歯噛み竹の真ん中に付けてある小さな輪ネジに通して糸をピンと張り、白い乳房の頂に屹立している赤い乳首を更に上向かせた。

 女の体で最も敏感な陰核と乳首に淫靡な細工を施されたお柳は狂おしい身悶えを見せた。すると銀環が緊まって痛みとも痺れともつかない刺激が股間を走る。
「ううっ!」と呻いて美しい曲線を描く顎を突き出すと乳首が麻糸に引っ張られて疼痛が上半身を駆け巡る。

「ゆ、許して……。お願い、あたしをもう、い、虐めないで……」

ついにお柳は嗚咽をはじめた。そのお柳を源太郎が床に降ろし、平吉と広助が縄をほどいてお柳の両脚から青竹を外した。

お柳は自由になった脚の膝を重ねて股間を隠し、歯噛み竹の隙間からつい洩れて出そうな淫らな喘ぎ声を懸命に抑えていた。美しい柳眉はゆがみ額に脂汗を滲ませている。が、男たちに容赦はない。

「立ちな、お柳。さあ、おめえのねぐらへ入るんだ」

背中の縄をつかんだ健次に引き起こされ、お柳は「ううっ!」と呻いて伸びかけた腰を砕けさせた。銀環のついた紐が女陰から陰核を引き出したのだ。

「うっ、ああっ。ま、待って……。じ、自分で……立ちますから……」

「じれってぇなあ。さっさと立って歩きな!」

健次と源太郎は、手荒にしないでくれと頼むお柳を邪険に追い立てて石牢へ放り込んだ。

「さて、今夜の仕上げといくか」

ニタッと笑った健次が筵に横たわるお柳の左右の足首を一つに揃えて縄をかけていく。そして両足首を縛り固めた縄を後ろに引いてお柳の体を弓反らせ、その縄をくるりと喉首にかけて後ろに戻し、足首の縄に通して縄止めした。いわゆる逆海老縛りである。

「ああ……」とやる瀬ない吐息を洩らしたお柳は、とことん虐め抜こうとする彼らの仕打ちに美しい双眸に涙を滲ませるのだった。

「お柳。朝までそこでゆっくり眠りな。まあ、眠れれば、の話だが悪く思うなよ」

あっははは、という男たちの笑い声が石牢の壁に反射してお柳の耳に大きく響いたのとほぼ同時に分厚い板戸が下りて内部に漆黒の闇が立ちこめ、石牢は暗闇牢と化した。

逆海老縛りにされたお柳の腰は前に突き出している。そのためにほんの少し足を動かしただけで女の急所が緊め上げられた。

「うっ、ううっ」と、呻き声を洩らして顔を仰け反らせると歯噛み竹につながれた麻糸が乳首を虐める。「ああ、イヤっ」と、顔を前に倒すと首にかけられた縄がつながる足首を引いて腰を動かし、また女の急所が刺激される。

四六時中その存在を主張して陰核を刺激する銀環とその効果を更に高める巧妙な縄がけに翻弄されるお柳は、異妖な官能の昂ぶりの中で嗚咽せずにはいられなかった。

(あたし……もう、ツバメ返しのお柳と呼ばれた侠客に……戻れる日は来ないかも知れない……)

身も心も蕩けて溶けてしまいそうな切なく甘美な感覚に溺れていく自分が制し切れない。お柳はこの日初めて心に大きな不安を芽生えさせていた。

 石牢の闇に逆海老縛りにされた裸身を沈めているお柳は、女の花肉の芽に嵌め込まれた銀環と乳首を縛って歯噛み竹につながれた麻糸に翻弄された。

「うっ、ううっ、はあぁ……」

うとうととして顔を前に倒すと首にかかった縄が折り曲げた足を動かして女の急所がギュッと緊めつけられ、思わず腰を縮めると銀環が更に緊まって鋭い痛みが走った。
 しかし、その痛みはまもなく痺れに変わり、女陰の奥の肉の花芯がズキズキと疼きはじめる。全身が熱を帯びてきて、痺れが甘い感覚を伴う不思議な快感が湧き上がってくる。

「ああ、なんてことなの、あたしの、あたしのからだが……」

お柳の女陰の奥は疼き続け、冷たい石の上に敷かれた筵に横たえている裸の全身が微熱を帯びていた。
 女陰を指で慰めたい思いが次第に強まっていく。その淫らな感情を抑えられない自分がもどかしく切ない。
 両手は後ろ手の高手小手に厳しく縛り上げられ、両足も縛られてその縄尻が後ろから喉首に回されて引き絞られている。その上に股間に淫ら極まる責め具を仕込まれているお柳の肉体は、いよいよ性の愉悦を求めはじめていた。

(銀次郎さん、お願い、早くお柳を助けに来て。でないとあたし、壊れてしまう。淫らな最低の女になってしまいそう……)

女の肉体を際限なく責め立てる銀環の威力を思い知らされたお柳は、切れ長の美しい目の瞳を潤ませて、歯噛み竹を咥えさせられた口から嗚咽を洩らし続けるのだった。

 


 美貌の女侠客「ツバメ返しのお柳」こと藤巻柳子が闇討ちされた先代沢村親分への義理を果たすために浅草を発って七日目、矢島一家の卑劣な罠に落ちて生け捕りにされてから三日目の朝が訪れていた。

お柳にとってこの一夜はコブ付きの股縄をかけられた前夜にもまして長い夜だった。自分の意に反して女陰全体が疼き、甘い痺れが全身に広がっていく。それを自分ではどうにも出来ないもどかしさと辛さが、切なく甘い陶酔感に押し流されていくのだった。
 女の陰核に嵌め込まれた銀環はまさに淫らな悪魔だった。その銀環に責められて繰り返し異妖な快感の絶頂へと追い詰められたお柳は、心身ともに疲れ切り、戸外がすっかり明るくなった頃にようやくまどろみはじめていた。

その矢先だった、辰造たちが土蔵に押しかけてきたのは――。

石牢を闇に閉ざしていた厚板がカラカラと引き上げられ、中に入ってきた健次がお柳の口の歯噛み竹を外し、逆海老縛りをほどいていった。が、股間を縦に割る朱色の紐はそのままにして、抱きかかえるようにしてお柳をその場に座らせると石牢の外へ出た。

「おい、お柳。そこから出てきな」

 辰造のダミ声が石牢の内部に響き、お柳は片膝を立てて腰を上げようとした。が、立ち上がれない。股間の刺激に腰が砕けるのだ。

「お、お願いです。ひ、紐を、下の紐を、外して、ください……」

「我が儘を言うんじゃねえ。さっさと立ち上がって出てきな」

「で、でも、あそこが……」

「ん? おサネがキュッと緊まって気持ちいいのか? 『気持ち良過ぎて腰が立ちません』とでも言いたいのだろうが、お柳、そんな言い訳は通用しねえ。そのまませんずりかきながら、自分の足で出て来るんだ」

「そ、そんな……」

「つべこべ言ってねえで、ここまで来てちゃんと挨拶しねえかい。甘えるんじゃねえ!」

 辰造に叱咤されてお柳は唇を噛み締めた。が、膝を立てようとすると股間に通された朱色の紐につけられた銀環が急所を嬲り、腰が砕ける。このままで歩くことは勿論、立ち上がるだけでも拷問に等しい。

ようようの思いで石牢の外に歩み出たお柳の額にはじっとりと脂汗が滲んでいた。

「よしっ、さあ、何て挨拶するんだ?」

「ほ、本日も……ご調教、よろしく……お願いします」

「そうだ、それでいいんだ。ちゃんと言えたじゃねぇか。それにしてもお柳、ひと晩でずいぶん女っぽくなったなあ。ふっふっふっ。おい、健次、今日はお柳にどんなことをさせるつもりだ?」

「朝の間はおしゃぶりの稽古をさせて、昼からは鶏芸を仕込むつもりですが……」

「鶏芸というと、股から卵を産み落とすあれか? そうかい、そりゃあいい。わしも見物させてもらおう。それから健次、お柳が素直になった褒美に股の紐は外してやりな」

「へいっ、承知しました」と、健次がお柳の股間の朱色の紐をほどいていった。

 女の急所を嬲り続けたおぞましい銀環を取り外されてお柳はホッとしたが、不思議なことに何か物足りなさを股間に感じていた。

「よしっ、お柳。ひと風呂浴びて体を綺麗にしてきな。名うての健次師匠も汚れた女が相手じゃ調教に身がはいらねぇやな、なあ、健次。おい、源太たち、昨日と同じようにおめえらがお柳を風呂場へ連れて行ってやれ。健次はその間に仕度をしろや」

辰造の指示でお柳は後ろ手縛りのまま土蔵から出され、朝餉の片付けでまだ賑やかな紅屋の母屋へと曳かれていった。

今朝もまた目の前に現れた裸のお柳に大勢の目が注がれたが、驚いて目を見張る者は少なかった。紅屋の女郎や店で働く者の大半はすでにお柳の今の身の上を知っていたから、誰もが無言でじっとその裸身をみつめた。好奇と蔑みの視線が降り注ぐ中をお柳は、素っ裸の肌身を後ろ手の高手小手に縛り上げられた惨めな姿を晒し、屈辱の口惜し涙で羞恥に赤く染まった頬を濡らしながら長い廊下を曳かれていくのだった。


                                (続く)