鬼庭秀珍 『贋作・お柳情炎』 


    第8章 一縷の望み




 沢村組二代目銀次郎の懐刀と言われる三田村平治は、四日前、上州大胡宿を目指して浅草を発った。ツバメ返しのお柳の消息を探るための密行である。

上州に入った平治は手始めに大胡周辺の村を巡り歩いて情報を集めた。が、近頃評判になっている大胡宿『紅屋』の奴女郎の噂ばかりでお柳らしき女侠客の話は何一つ耳に出来なかった。薬の行商人村田三平として投宿した大胡宿の商人旅籠でも同様だった。

お藤というその奴女郎が稀に見る美貌だという噂話が心に引っかかった平治は、翌日、紅屋の前に立ったが見世の奥にいるためにその容貌を確かめることは出来ず、しかもひっきりなしに客がついているために買うことも出来なかった。ところが、代わりに買った年増女郎の話から噂の女郎が実はお柳その人であることを知って、平治は愕然とした。

すぐにも助け出したい思いだったが、多勢に無勢。一人で救出するには無理がある。そう判断した平治は浅草に引き返すために急遽大胡宿を出ようとした。が、そこを紅屋の男衆を装った矢島組の手先に呼び止められ、一瞬の隙に棍棒で殴打されて昏倒した。

紅屋の裏手にある土蔵に押し込まれた平治は、生気が戻る前に下帯一枚の姿で梁に吊り縛られ、沢村組の密偵であることを白状するよう責め立てられた。が、平治は富山から来た薬の行商人だと白を切り通し、竹刀で手ひどく叩かれても頑として屈しなかった。そこで一計を案じた親分の矢島辰造が、お柳を呼び寄せて平治と対面させた。面通しである。

見世物女郎のお藤としてのお柳は一糸まとわぬ裸身を縄で縛られた状態で店先に晒されている。そのことは承知していたものの、柔肌に喰い込む厳しい亀甲縛りに股縄までかけられているのを間近に見せつけられ、さすがの平治も動揺した。が、何とか冷静を保って見知らぬ仲だと言い張り、お柳の方も以心伝心で話の辻褄を合わせた。

業を煮やした辰造は、目の前でお柳を嬲って二人の心を締め付ける策に出たが、お柳も平治も口を割らない。そこで辰造は新手を繰り出し、お柳に平治の男根をしゃぶるよう命令したのだった。

 

「お兄さん、見世物女郎のお柳がおしゃぶりさせていただきます」

 平治の顔を見上げてそう言ったお柳がすっと首を伸ばして男根を咥えようとした。その瞬間、平治は腰を引いて避けた。

「よしましょう、姉さん。姉さんにも好きなお方があるでしょう。お女郎さんの口はその好きなお方のために大事にとっておくものじゃありませんか」

ハッとしたお柳が上目づかいに見た平治の目には悲痛の色が浮かんでいた。

「元は女侠客だったという姉さんがどんな事情でこんな境涯にいるのかは知りませんが、どうか自分を大切になさって……」

「ほう、沢村の犬がまだそんなとぼけたことを抜かしやがるか。おい、おめえら」

辰造のめくばせで平治の剥き出しの腰を平吉と広助が左右からしっかり押さえた。

「悪いことはいわねえ、正直におめえの素性と大胡に来た目的を吐いちまいな。さもなきゃあ、このお柳をもっともっとむごい目に遭わせるぜ」

その脅し言葉を聞いたお柳がきっぱりした口調で言った。

「辰造親分。さっきも言った通りに、このお兄さんは今ここで初めて見た人ですし、あたしの知らない人ですよ。親分が疑っているような人じゃないと思いますけど」

「何だと、お柳。おめえまでこいつの嘘に口裏を合わせるのか!」

「違います、口裏合わせなんかじゃありません。あたしは、あらぬ疑いで痛めつけられているこのお兄さんが気の毒なだけですよ。判りました、親分。とにかくあたしがこの三平さんとおっしゃるお兄さんを天国へ送ってあげればいいのでしょう」

「そうだ、お柳。ともかくこの辛気臭ぇ男をおめえの口で落としてしまえ。できなきゃ、紅屋の見世物女郎の沽券にかかわるぜ」

辰造の皮肉に束の間逡巡を見せたお柳だったが、源太郎に背中を押されるともう躊躇しなかった。思い切りの良さと肝の太いところはお柳の本分だが、久しく埋もれていたその気概が甦り、お柳は我が身を捨てて平治を守ろうとしていた。

「それじゃ、お兄さん、はじめさせてもらいます」

そう断ったお柳は、もう躊躇なく平治の男根をぱくりと口に含んだ。

女郎として店に出されてからのお柳は、捨鉢気分もあったが、口技をはじめると相手の男が誰であってもいい気分を味わってほしいと心をこめた。ましてや今は恋しい銀次郎の片腕が相手であり、辰造たちに平治を無事に解放させることが出来れば自分が助け出される希望も持てる。お柳は仕込まれ覚えた極上の技術と体力をつぎ込んで周囲で見守る人間達が目を丸くするほど積極的に気を入れた。

上目づかいに相手の気を惹きながら音を立てて男根をすすり、首を前後に動かしながら男根をしごき上げる。同時に背中に縛られた両手の指をこぶしに握って上半身をくねらせ、亀甲縄に絞り出された乳房を揺らし、ズイキの縄褌が狭間を走る量感あふれる尻を動かし続けた。女陰の掻痒感を軽減するためでもあったが、お柳の後ろで縄褌をつかんでいる源太郎も思わず自分の股間に手をやりたくなったほど気をそそる濃厚な光景だった。

「うっ!」と小さく呻いた平治の一旦萎えかけていた男根がお柳の口に余るほどに再び見事な高ぶりを取り戻したのは当然のことだった。もちろん平治の心の痛みは尋常ではない。が、必死の面持ちで口を真一文字に結んで耐え続けていた。

大抵の客はお柳の尺八だけで最後までいってしまうのだが、平治はその一歩手前で懸命にこらえている。その様子にイラついてきた辰造は、お柳の背後で縄褌を絞ったり緩めたりして煽っている源太郎に縄褌を外せと命じた。

「お柳。おめえが大層気の入った尺八を見せつけるから、わしもまた催してきたぞ。しかしまあ、一日中男に抱き回されていながら疲れもせずによう働く女郎だなあ、おめえは。いとおしくなってきたぜ。どれ、もういっぺんわしにやらせろ」

源太郎がお柳の股間の縄褌を外し終わるとすぐに入れ代わった辰造は、まだ平治の男根を咥えているお柳の腰を引き上げ、凄まじく勃起したものを一気に貫入した。

「うぐっ! ぐぐ……

平治の男根を咥えたお柳の口から痛苦を訴える濁った声が洩れた。しかし、眉根を寄せて耐えるお柳の気持ちとは裏腹に、ズイキ縄の刺激で膨らみ潤った彼女の性器は敏感に反応した。真珠玉を仕込んだ厳つい肉棹が容赦なく膣壁を押し拡げる痛いほどの刺激に、声をあげることすら出来ないお柳の亀甲縄をまとった裸の上半身がぶるぶる震えて性の昂ぶりを示した。そのお柳を、辰造は夢中になって突き続ける。

屈辱極まるやりくちで弄ばれても、今のお柳は拒むことはもとより嫌悪感すら表わすわけにはいかない。その辛い状況下にあって、口に咥えた平治の男根は離すまい、平治のためにも自分の口で男の快楽の極みに導きたいという思いを途切れさせることがなかった。けれども、そんなお柳の懸命な思いがひしひしと伝わるだけに平治の辛さも増した。

矢島辰造のむごいまでの激しい扱いになされるまま、お柳はとうとう辰造の激昂で男の種汁を体内に放たれ、辰造の身勝手な動きのはずみで平治の男根を口から離してしまった。事を終えた辰造に邪険に突き放されたお柳は、尻を突き出したままその場に顔からうつぶせに崩れ折れ、女の柔肉に喰いこむ高手小手縛りと亀甲縛りの縄に呻いた。

一方、和枝はなおも角度を保っている平治の男根を面白そうに眺めてなじった。

「おやおや、お兄さんの強情ぶりもたいしたものだねえ。あれだけお柳が尽くしてやったのに、まだひとしづくも漏らさないなんて」

「いや、姐さん。こいつはお柳の口だけじゃ不満なのさ。贅沢な野郎だぜ、チッ!」

さも気に食わない様子の源太郎が大きな舌打ちをしたその時、辰造がニヤリと笑った。

「どうでえ、おめえら。この三平にお柳の蜜壷をたっぷり味わわせてみちゃあ」

「ええっ!」と驚いたような顔で振り向いた源太郎に、辰造がダミ声で命じた。

「源太、お柳をそいつの前に立たせな」

「へいっ」と答えたものの、いささか不満顔の源太郎がお柳の背中の縄をつかむ。どうせなら俺にお柳を抱かせてほしい、とでも言いたげな表情である。

「さあ、立て!」と乱暴にお柳を持ち上げた源太郎は、平吉が手渡した縄を背中の縄に絡めると、その縄を梁にかけてお柳を平治同様の吊り縛りにしていった。

平治と向かい合わせに顔と顔を接するばかりの位置に立たされたお柳は、吊り縄による胸の息苦しさを和らげるため全身をピンと伸ばして爪先を立てた。
 その時平治は、チラと目に入ったお柳の局部の彫り物に、三角の不気味に光る目をした黒蛇が暗い炎の中でのたくりながら長く赤い舌を女陰に差し入れている淫らな刺青に激しい憤りを感じて大声で怒鳴り出しそうになった。が、咄嗟に目を瞑って顔をそむけ、懸命に憤りを抑えた。

その平治の厚い胸板にお柳の柔らかな乳房が押し付けられ、二人の胸はぴったりと重ね合わされた。上背のあるお柳が爪先立つと胸も腰も平治とほぼ同じ高さになる。その結果、二人はお互いに顔を左と右へそむけて相対する肩へ顎を寄せる格好になった。

「ひひっ。こうして見りゃ、結構お似合いじゃないか。沢村の二代目がこれを見たら悋気を起こして、あの優男の顔が夜叉の形相になるかも知れねえな。うふっ、うふふっ」

小気味良げに地口を入れた辰造の合図で、源太郎たちが逞しく反り返っている平治の男根をしごきつつ、お柳の股間をさばいて無理やり女陰へ誘い込もうとする。

「やめろ! やめてくれ、そんなことは!」

 平治は制止しようとした。が、源太郎たちが耳を貸すはずもない。女陰の口に宛がわれた平治の男根はくぐっとお柳の中に押し込まれていった。

直前まで辰造の真珠魔羅に蹂躙されていたお柳の女陰は熱く火照り、自身の蜜液や辰造が放った精液で潤っている。しかし、姿勢が姿勢である。結合は出来たもののいかにも浅く、お柳の絞窄力をもってしてもなお不安定だった。

「う〜ん、今ひとつピタッと来ねえなあ。源太、ちょいと耳を貸しな」

 辰造に何か耳打ちされた源太郎が、新たに手にした縄でお柳の右の足首を縛った。

「な、何をするの。ま、まさか……

「そうさ。その、まさかだよ」と薄く笑った源太郎が、嫌がるお柳の右脚を無理やり高く上げさせてまっすぐ梁へ吊り上げた。

「イヤっ、こ、こんなの、イヤ!」

 激しく首を振るお柳の、すらりとして伸びやかな片足が平治の体の側線にピタリと沿った。が、上半身が左に傾いて平治の胸から離れた。

それを見た源太郎はもう一本の麻縄をお柳の首に巻き、それも梁にかけてからだが傾かないようにした。片足と首を吊るという情け容赦のない仕打ちだったが、お柳の女陰はようやく平治の男根を根元近くまで呑み込んだのだった。

「すげえ格好になったな。それにしても、こんな恥しらずな体位も難なく出来ちまうほど柔らけぇしなるような体をしてやがるとは、今更ながら恐れ入ったぜ。おい、お柳、もっとぴったりくっついて腰を振りな」

片足で爪先立つお柳のからだのきつさは、極限まで広げられた姿形に加えて首を吊られている苦しさもあって格別だった。首が絞まるのを避けるために爪先立ちを保って平治の体にもたれかからざるを得ない。まさに平治と二人の体は一体化していた。

 そこへ様子を覗きにやってきた耕平と三郎が絡み合う二人を見て目を剥いた。

「親分、これは一体……

「おう、耕平に三郎か。丁度いい、呼びにやらせようと思っていたところだ。おめえら、あの男の顔をよく見てくれ。沢村の者かどうか確かめてえんだ」

「へい、すぐに」と足を踏み出したものの、二人とも顔を強張らせている。男とお柳がすでに交合状態なのが気に食わない表情がありありとしていた。

耕平と三郎は左と右から男の顔を舐めるように見て確かめると、二人して首を横に振りながら辰造のそばに戻ってきた。

「親分、見覚えがねえ男ですぜ。あいつが沢村の密偵だとしたら俺らが浅草をずらかった後で組に加わったヤツってことですかね」

「そうか、見覚えがねぇか。しかし、沢村銀次郎が大事なお柳の探索を新参者に任せるとは思えねぇしなあ。こいつはもしかすると源太の……。まあ、いい。それならそれで考えりゃいい。ところでおめえら、暇ならそこで見物していてもいいんだぜ

「いや、やめにしときます。まだ幾つか用が残っているので……

「そうかい、ふふふっ、お柳が他の男の槍で突かれているのは見たくねえかい」

「べ、別に、そんなわけじゃ……

「隠すほどのことじゃねぇだろう。まあ、いい。いいってことよ。それじゃ、おめえらは紅屋に戻って仕事に励みな」

 耕平たちが辰造と話している間、お柳は平治の男根を根元まで呑み込んだ女陰の口を締めてゆっくりと腰を動かしていた。肩に顎を乗せて身を寄せていると互いの息の音も動悸も身近に聞こえる。ひしと抱き合ったのと変らない一体感が高まっていた。

お柳のいきみに再び感じはじめた平治は、苦しげな息の中でお柳の耳に口を寄せ、周囲の者には聞こえない低く小さな声で囁いた。

「あっしを思ってのことでしょうが、お柳さんがこんなことをしちゃいけねえ。あっしは自分で何とか切り抜けますから、もう気を抜いてやめにしましょう」

 その囁きを聞いてお柳は動きを止めた。が、土蔵を出て行く耕平と三郎を可笑しそうに見ていた辰造が振り返ると再び腰を動かしはじめ、苦しげな息遣いの合間にことさら声を高めてこう言った。

「お兄さん、あたしゃ、紅屋の見世物女郎だよ。どんなことをしてでも……お兄さんに喜んでもらうのが……仕事なのさ。さあ、早くいっておくれ、お願いだから……」

平治は天を仰いだ、お柳の自己犠牲の強い意志に負けそうになっていた。

「うっ、こ、こんなことはもう……」

(やめてくれ、お柳さん。あんたを汚したら二代目に顔向けできなくなっちまう)と喉まで上がってきた悲痛な叫びを、平治はかろうじて呑み下すことが出来た。と、ほぼ同時に辰造のイラついた声が土蔵に響いた。

「やい、お柳、何をトロトロやってやがるんだ! 腰を動かせ、もっとだ! もっと絞めろ、締めるんだよ! いいか、お柳。おめえがこの男をいかせてしまえばよし。もしもいかせられなかったらこの男は生きてここから出られなくなるぞ。精魂込めていかせろ!」

 と、その時、平治が辰造に向かって口を開いた。

「親分さん、もうこんな酷いことはやめにしてください。一寸の虫にも五分の魂と言うじゃありませんか。しがない薬売りの私にも守り抜きたい男の矜持があります。あらぬ疑いをかけられた上にこんな為されようで辱められちゃあ、一生悔いが残ります。私を殺すなら殺しても構いませんから、今すぐこの姉さんをとめてください」

辰造の心に迷いが生じていた。耕平も三郎も沢村の身内にこんな男はいなかったと言う。しかも、こうまで責められても口を割らないからには源太郎の見込み違いだったのかも知れない……と。しかし、辰造はその迷いを振り払って強気に出た。

「辛気臭ぇことばかり言う野郎だぜ。本当の素性を正直に白状しなきゃ、いやでもおめえの種汁をお柳に仕込ませてやる。おい、源太、おめえもビンビンおっ立って仕方ねぇだろう。お柳の尻の穴にその元気なものをぶちこんでやれ!」

「えっ、いいんですかい、親分」

「ああ、かまやぁしねえ!」

源太郎は先ほどから勃起し続けている自分のものの処理をどうしようかと悩んでいたところだった。だから嬉々としてお柳の後ろに回って抱きついた。

「ああっ、やめて!」と叫んだお柳だったが、源太郎を拒む術はない。

そのお柳と密着している平治は、自分の男根が没入している女陰のすぐそばの穴に源太郎の男槍が遠慮もなくずぶりと入ってきた瞬間のお柳の身震いを、己の肛門に突き入れられたように感じて「ううっ!」と鋭く呻いた。

しかし、お柳の方はこれでいよいよ迷いも何もかも完全に吹っ切れていた。源太郎の動きに合わせてお柳のいきみ声が高まった。強い絞窄力がお柳の股間の前後の穴にかかりはじめたことは当の平治と源太郎だけでなく、周りで眺めている者にも分かった。

「よしよし。源太、おめえがバンバン攻めてやればお柳はもっと興奮していつものように狂い出すぜ。なあ、お柳、おめえも嬉しいだろう? 和枝。おめえも手伝え」

女郎経験のある和枝は男の生理を知り尽くしている。ニヤリと笑って平治の後ろへ回ると、平治の尻の穴に指を差し込んだ。

「あうっ! やめろ! や、やめてくれ!」

己の分身の崩壊に耐え続けてきた平治も、和枝の手馴れた技にいよいよ我慢の限界に近づいてきた。
 源太郎の動きが密着するお柳の乳房と腹と土手の触感を高め、尻の穴を嬲る和枝の指がたまらなく異妖な感覚を生み出している。しかもお柳の締め付けは強い。

そのことはお柳の二つ目の器官を占領している源太郎の思いも同様だった。
 勿論お柳には目の前の平治しかなかったが、前を窄めれば当然後ろもそれにつれて収縮するのだ。

お柳は、常人なら悶絶しかねない極限の姿形を強いられているにもかかわらず、股の前後の穴で二人の男の肉棒を強く締め付けながら腰を中心に熱く激しく動いた。

「な、なんだ、こいつ。な、なんてやつだ」

「わはは、源太、いまごろ気づいたか。こいつは、このお柳は天性の女郎だ。勿論、耕平やら三郎、それに健次たちの調教と仕込みの成果だがなあ」

そう聞いて負けじ魂に火の着いた源太郎は急に腰の動きを速めた。そしてだらしなくも、平治がいまだに我慢を続けているのに早々と放出してしまった。

尻の穴に男の精液が流れ込んでくる異妖な刺激に、感情を高ぶらせたお柳も極みの声を上げてひとつの則を越えた。

「し、尻を突かれて気をやっちまうとは……」と嘆息した源太郎だったが、なおもお柳から離れず、萎みかけているものに気合を入れてお柳を後ろから突き続けた。が、お柳の意識は今や前の平治に集中して膣口を収縮させていた。

「ううっ……」と平治が低く呻いた。いよいよたまらなくなったのだ。今や前後の男二人と一体となったお柳がここを先途と平治を攻め抜こうと息を詰めたその時だった。

「やめろ、もうやめろ!」

ダミ声が土蔵に大きく響いて源太郎の体がすっと離れた。

「お柳、もういい、そこまでだ」

辰造がそう宣言して、お柳を使って平治を心理的に拷問する陵辱は中止された。

唐突にお柳から引き剥がされた源太郎は勿論のこと、平治の肛門をいじって楽しんでいた和枝も、周囲で眺めていた平吉や広助はじめ他の子分たちも、皆が呆気に取られていた。突然中止を命じた辰造の意図が分からなかったからである。

その彼ら以上にお柳と平治も呆気に取られていたが、二人はまだつながっている。しかも自分たちではどうすることも出来ない。お柳は脱力して平治に寄りかかった。

「おい、平吉と広助。二人を離せ。お柳を三平から離すんだ。おめえらも手伝え」

肛門嬲りを楽しんでいた和枝がさも不満そうに平治から離れると、平吉たちが数人がかりでお柳の足と首を吊り上げている縄をほどき、平治とお柳の腰を後方にゆっくりと引いて二人を引き離した。熱い息を抑えきれないお柳はへたへたと土間に座り込み、平治は吊るされたまま勃起も収まってうなだれていた。

その平治の真ん前に辰造が立ち、上背の高い平治を見上げるようにして話しかけた。

「三平さんとやら、もう一回訊くぜ。おめえ、一体何者だい? 沢村の密偵か?」

「親分さん。端から言っているように、私は富山から来た薬の行商人ですよ。そのなんとか組の密偵とやらと、どこでどうして間違えられたのか……。私が顔も体もこんな厳つい風体の男だからかも知れませんが、とにかくもう勘弁してくださいよ」

「よし、分かった。それにしても肝が据わってなかなか見所がある男だ。男の道具も並みじゃねえ。耕平や三郎の上を行くぜ。ところで三平さん。おめえ、薬売りをやめてこの紅屋で仕事をする気はねえかい。薬売りの倍の稼ぎは保障してやるがどうでえ」

「勘弁してくださいよ、親分さん。こんな目に遭わされた上に今度は急に親分さんの手先になれと言われても……。それにこうして吊られたままじゃ、仮に断りたいとしても断りようがないじゃありませんか」

「おめえ、わしの好意を断る気か?」

「そうじゃありませんが、うちは四代続く薬売りでしてね。私の一存で商売替えするわけにもいきません、故郷で私の帰りを待っているオフクロや親戚にも相談しませんと。ですから半年待ってもらえませんか。半年後にまたこの近辺まで行商に来る予定になっていますから、その時に改めて返事をさせてもらうということでどうでしょうか?」

「あははは、口の達者な野郎だ。沢村にもこんなヤツがいたとはなあ」

「違いますって、親分さん。私は……」

「うるせえ、ガタガタ抜かすな! 半年待てだと? もっともらしい話をこしらえて油断させようとしてもそうはいかねえや。半年もありゃあ、沢村の連中が五回も六回も殴り込んでくらぁな。そんな悠長なこたぁしちゃおれねえ」

「そんな……。どう言えば私を信じてもらえるのか……」

「よしっ、三平。それじゃあ待ってやろう、何日でも何か月でも。ただし、ここでだ。おめえが素直に吐きたくなるまでずっとここにいてもらうぜ」

 辰造のそばで成り行きを眺めていた和枝がニヤリと悪女の笑みを浮かべた。

「親分。そういうことなら、この三平をあたしにもらえませんか?」

「何だって? おめえ、こいつを引き取ってどうするつもりだ?」

「あたしのそばに置いて飼い馴らしますのさ。親分にお柳というおもちゃがあるように、あたしにもおもちゃを一つくださいな」

「ふ〜ん。そうか、おめえならこいつを飼い馴らせそうだな。それにしても和枝、悪い女だなあ、おめえって女は。わっはっは」

 土間にへたり込んでいるお柳は、後ろ手に縛られている裸身を前に折ってじっと耳をそばだてていたが、平治をここから無事に脱出させるための懸命な努力が無に帰したことに落胆していた。しかし、その落胆ぶりを悟られると、今はまだ半信半疑の辰造の平治への疑いが確信に変わりかねない。お柳はことさらに無関心を装った。

「それじゃ、和枝、この男のことはおめえに任せた。おい、晋太たち。三平を縛り直して納屋へでも放り込んでおけ。ふふふっ、こいつはまた面白くなってきたぞ」

お柳の視界から三田村平治の後ろ手に縛られた姿が消えた時、お柳の切れ長な美しい瞳の涙の堰が切れそうになった。

(いけない、あたしが涙を流したら平治さんの命が危なくなる)

溢れ出しそうな悲嘆の水を必死に堰き止めたお柳は、命さえを奪われなければきっとこの場を切り抜けるはずだという平治の力量への信頼を強く抱いて自らを慰めたのだった。

 

 それから一時間余りが経った深更――。

紅屋一階の風呂場近くの部屋から女の喘ぎ声が洩れていた。女は勿論お柳である。いつも通りにお柳は緊縛裸身を上下から挟まれて耕平と三郎の二人に責められていた。

「耕平さん、ああ、もう堪忍しておくれよ。本当だから、本当に何もなかったのだから、銀次郎さんとは……。ああ、ああ、もう責めないで……。ダメっ、ダメなの、そこは弱いの。ああ、意地悪、耕平さんったら……」

 昂ぶりが激しいのか、お柳はうっすらと目を閉ざした顔を仰け反らしている。

「ちがわい、三郎さんだ。この指の使い方は耕平兄ぃとは違うだろうが……。俺たちが夫婦契りをしてからもう何回やりまくったと思っているんだ。両手じゃ数え切れねぇぜ。触られただけですぐにこれは誰の指だって、おめえには分かるはずだろうが……」

 お柳を腹の上に乗せてつながっている三郎は、縄に絞り出された乳房を揉み上げたり熟知している性感帯を指で刺激したりしながら腰を動かしている。

「ああ、三郎さん、間違えてごめんなさい。もうあたし、何が何やら分からなくなっているの。ああ、いい、いいわ……。ひいっ、やめてっ、そ、そこはイヤ。そう、そこが気持ちいいの。あ、ああ……。じゃあ、耕平さんはどこ? あら、お尻の穴に入っているのが耕平さんなの? さっきからちっとも動かないから分からなかったわ」

「冷てぇことを言うなよ、お柳。一休みしているだけだい」

お柳の量感があって張りのいい白い尻に凭れかかっている耕平は、その狭間の菊門からお柳の中に侵入していた。

「ごめんなさい、耕平さん。でもあたし嬉しい、亭主二人が銀次郎さんのことでこんなにひどく妬き餅を焼いてくれて……」

 お柳と三平の異様な接合を目にして激しく興奮した耕平と三郎は、「今夜は眠る前に汗と垢を流してやれ」という辰造の指示をこれ幸いと利用した。風呂場での清め作業を終えると近くの空き部屋にお柳を連れ込み、恋仲だと言われていたお柳と沢村銀次郎の関係を執拗に問い詰めるやり方で、お柳を責め苛んで愉しんだ。

愛しい銀次郎が差し向けてくれた平治までが囚われて、救出への一縷の望みを打ち砕かれたお柳は捨て鉢になっていた。

(あたしもう、紅屋の見世物女郎として生きる他に道はないみたい……)

そう思いつめたその反動からか、お柳はいつになく気分を高揚させて積極的に二人の男との異常な情事に臨んでいた。

 

 そして長い夜が明けた――。

 朝になっても興奮冷めやらぬ矢島辰造は、しきりに何かを思案していたが膝をポンと打つと、子分の一人に宿場外れに住むある男を呼びに行かせた。

その男、北川伊佐治は折り紙つきの飾り職人だったが、稼いだ端から丁半賭博に注ぎ込んだ挙句に女房に逃げられたという無類の博打好きで、辰造の賭場でもかなりの借金をしていた。目端の利く辰造は、いつか役に立つはずだと考えて伊佐治への性急な取立てはさせないようにしていた。それだけに、頑固一徹な職人の伊佐治も辰造の頼みは断れない。

「おいらが丹精込めて拵えるものをそんなことのために……」

自分の仕事に誇りを持っているだけに気に染まない面持ちでむずかって見せた伊佐治だったが、結局辰造の依頼を引き受けた。

妾の和枝は勿論のこと子分たちにも悟られないようにしているが、このところ辰造のお柳をいとおしく思う気持ちは日を追って強くなってきている。男顔負けの根性をしたすこぶる付きの美人を何としても自分のそばに置いておきたいと思い、今のまま素直に辰造の意に従って時が経ったら和枝に代えて紅屋の女将にしてやってもいいとさえ思いはじめていた。その密かな思いを叶えるためには、お柳が今も抱いているに違いない沢村銀次郎の元に戻りたいという気持ちを完全に捨て去らせなければならない。

辰造は考えた。

お柳は平然と縄に縛められた裸身を晒して客を取っているが、元々が誇り高く羞恥心の強い女である。その心の襞に楔を打ち込めれば、我が身を恥じるお柳は自ら銀次郎を遠ざけるはずだと辰造は結論した。局部に彫り込んだ刺青に匹敵する細工をお柳の体に施すことを思いついたのだった。

「さすがだなあ、伊佐治。見事な出来栄えだぜ」

 感心して見せた辰造の目の前には、直径半寸余り(約二センチ)の飾り環が五つあった。気に染まない仕事はさっさと終わらせたい伊佐治が根を詰めて一日で仕上げたものである。辰造はその五つの飾り環を、早速お柳のからだに取り付けようとした。

「やめてっ、お願いだからそんなこと、しないでください! あたし、何でも親分の言いつけ通りにしているじゃありませんか。なのに、どうしてです? そんなにこのお柳が憎いのならいっそひと思いに殺してください!」

悲痛な声で叫んだお柳は土蔵の外へ逃げようとした。が、後ろ手に縛られている身では蔵の戸を開けることも出来なければ、どこにも逃げ場はない。たちまち源太郎たちに取り押さえられたお柳は、柱に立ち縛られて猿轡を咬まされ、銀次郎への思いを封印する細工を無残にも生身のからだに施されたのだった。

「おう、なかなかいい見栄えじゃねえかい。お柳、よく似合っているぜ」

 辰造が満足げに眺めるお柳の雪のように白い裸身には、縄に絞り出された乳房の頂きで屹立している赤い乳首にそれぞれ一つ、可憐なヘソに一つ、そして茂みを失って剥き出しになっている大陰唇にも左右に一つずつ、金色に輝く環が嵌め込まれていた。その五つの金環が息をするたびに揺れてきらめき、鮮烈な印象を与えるとともに誇り高いお柳の心をズタズタに引き裂いていた。

このところお柳に対する憎しみよりも愛おしさが増してきている矢島辰造は、縄でからだの自由を奪っているだけでは安心できず、女が女であるための大切な場所に淫靡な細工を施すことによってお柳が抱く沢村銀次郎への思慕の気持ちを摘み取ろうとしたのだった。
 ここまでからだを汚されれば、お柳でなくとも惚れた男の元へはもう戻れない。

安堵感を得たらしい辰造は、この夜からお柳の寝所を格子牢へ移すことを決めた。牢へ入れる前に縄をほどくことも併せて決め、せんべい布団一組も差し入れさせた。辰造なりの好意を示したわけだが、それしきのことで傷ついたお柳の心が癒されるはずもない。底冷えのする石牢に比べ板敷きの格子牢には温もりがあったが、すきま風も入ってくる。お柳はせんべい布団にくるんだ裸身を震わせながらさめざめと泣いた。

しかし、お柳も矢島辰造も知らないことが一つあった。

沢村組二代目銀次郎の懐刀と言われるだけあって、三田村平治は何事も慎重にしかも周到に事を運ぶ男である。その平治は万一の場合の備えを忘れなかった。
 年増女郎のおタケを抱いて紅屋を出た後、ぶらぶら歩きを装って宿場の中心にある郵便局に立ち寄り、銀次郎宛に短い手紙を送っていた。大胡から浅草までは遠い。自分が早いか手紙が早いか、どちらであってもいいから万全を期そうと考えたのだった。

手紙を送り終えた平治は旅籠に戻って預けておいた荷物を受け取り、大胡宿を出ようとしていたところを源太郎たちに襲われ囚われたのだった。ちなみに、平治が銀次郎に送った手紙にはこう書いていた。

《ご依頼の漢方柳は大胡の紅花の蔵に収めてありましたが、思いのほか傷みが進んでおりますので、できるだけ早くお求めになられるべきと思います。薬行商 村田三平》



                                (続く)