北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ 都筑大介 「一言居士のつぶやき」 第2回 真夏の果実 (2009年8月19日号掲載) 暑いっ! 朝から頭がボーっとする。こんな真夏日はサザンオールスターズがいい気付け薬になる。中でもボクは『真夏の果実』が好きだ。切ない海辺の恋を歌ったこのバラードは遠い過去の記憶を甦らせ、還暦を過ぎた今でも結構浸れる。が、ほろ苦い恋の想い出を懐かしんでいる場合ではない。日本の今後を占う衆院総選挙の日が近い。 七月下旬。弓状に長く伸びた梅雨前線が列島に居座り、北側を低気圧が次々と駆け抜けた。関東各地では蒸し暑い日が続いたが、西日本は豪雨による洪水や土砂崩れに見舞われ、東北と北海道は長雨と日照不足で農作物の成長が遅れた。十六年ぶりの冷夏だそうだ。 十六年前の一九九三年はというと、共産党を除く野党八会派を糾合した細川政権が誕生し、自民党が結党後初めて下野した冷夏の年だった。今年は皆既日食も重なり、どうやらまた政変がありそうな雲行きである。 自然現象と一大政局の「時を同じくする」符合に、人知を超えた大きな力が働いているように感じるのはボクだけだろうか。 振り返れば当時の自民党にはまだ活力があり、首相の座を譲る奇手「何でもあり作戦」で政敵社会党と手を組み、十一か月後に政権復帰を果たした。が、柳の下に二匹目のドジョウはいない。 だから今度は潔く下野して、「腐っても鯛」と見直されるよう正攻法で、小泉改革が生んだ社会のひずみを自ら徹底的に検証するといい。そうすれば新政権がつまずいた時に「やはり頼れる自民党」として必ず返り咲ける。 と、ボクは思うのだが……。 漢字も空気も読めない麻生首相と今の自民党にその覚悟はなく、戦後復興を担ってきた責任政党の矜持も自己変革の意思もボクには感じられない。 「日本を守る責任力があるのは自民党だけ」と自画自賛。 マニフェストは民主党のものを見てから出す姑息ぶり。 「安心、活力、責任力」を強調する新公約も数値と期限が曖昧な従来型。 四年前の公約百二十項目はすべてが達成か取組み中だと強弁。 小泉さんは本当に自民党をぶっ壊したようだ。 ここ数年、日本中を暗い雲が厚く覆っている。今や働く人たちの三分の一が非正規社員で、その半分は年収二百万円以下のワーキングプア。二十歳代の平均年収が二百二十万円程度では結婚や子作りなど夢のまた夢。少子高齢化が進む訳だ。セーフティネットの充実は勿論のこと、政治が若者に将来の夢と希望を与えられないようではこの国は危うい。 そんな中で子供の出生率が全国平均の二倍近い村が長野県にあった。 その下條村は二十年前から若者定住促進のために低家賃村営住宅を建設し、中学生まで医療費を無料にするなど子育て支援も充実させてきた。しかもこの間、役場職員を半減させ、村道の舗装改修など公共事業費は「資材費は村が出し、工事は村民自ら行う」独特の方式で削減して、健全財政を保っている。 そうやって「知恵を絞り、汗を流して」作り出した財源が村営住宅建設や教育や福祉の維持に回り、この村には笑顔と活気にあふれる生活風景がある。 日本の今後を考える時、下條村の成功は示唆に富む。 永田町の代議士センセイや霞が関の幹部官僚には是非とも、志の高かった昔を思い出して、素直な目を向けてもらいたい。 そう願うボクは、オーディオコンポから流れ出るサザンの曲を聴きながら、真夏の熱が日本列島に確かな安心と明るい未来という果実を実らせてくれることを祈った。 [2009年8月] |
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