北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ
      
都筑大介 「一言居士のつぶやき」

   第4回 去年と違う秋 (2009年10月21日掲載)



「政治がとても身近になった気がするわ」

 我が女房殿がふと洩らした感想である。ボクも同感だ。
「コンクリートより人を大事にする政治」「中央集権から地方主権国家への転換」を政策基盤とする新政権の滑り出しはほぼボクの期待通りである。内閣のメンバー構成も政策通が随所に配置されており、副大臣や政務官が毎日あちこちのテレビに登場しておのおのが担当する政策の内容と現状を丁寧に説明することで政治の透明度が格段に上がった。ボクにはそのことが何よりも好ましい。


 政治主導・脱官僚依存を目指す鳩山民主党政権は、今まで実質的な政策決定機関だった事務次官会議を廃止して閣僚委員会を設け、各省庁の政務三役(大臣、副大臣、政務官)がひとつのチームとなって公約実現へのエンジン役を務めている。
 彼らは、自公政権時代にたまりに溜まったうみを搾り出すように、ダムや高速道路建設など進行中の大規模公共事業の全面的見直しに入り、2009年度補正予算からムダな部分の洗い出しに着手した。行動にスピード感がある。


 さあ、そこで当然のごとく、抵抗勢力が暗躍し始めた。その代表例が、治水と利水という当初の目的がすでに失われている北関東の巨大ダムの本体工事中止である。
 1952年に計画されたこのダムは、地元の反対運動が32年間も続き、1984年にようやく建設合意がなされた。
 しかし、それから25年経った今もまだ完成していない。のみならず事業費は当初の2倍以上に膨らみ、つい最近も工期が延長されたことからも、事業費が今後さらに膨らむことは明らかだ。ボクは、元々このダムは土建業者と建設族議員のフトコロを潤すために計画されたものだと思っている。そんなダムはムダだ。


 そのダム建設中止が改めて宣言されると、たちまち地元の建設推進派住民から中止反対の大合唱が始まった。「泣く泣く合意して今日まで来たのに、自分たちに何の相談もなく勝手に中止を決めるな」という訳である。
 この意見に自民党が「地元の理解を得るのが先決だ」と同調し、マスコミが地元の声に同情的な姿勢をとったために所管の国土交通大臣は非難の嵐に晒されている。彼らを裏で手引きしている官僚たちが北叟笑んでいるはずだ。


 ボクは思う、新政権にとっての抵抗勢力は野党と官僚組織のみならずマスコミもそうだと。特に、記者クラブ制度のぬるま湯に浸かってきた大新聞はいまだに政権交代という事実を認識し切れていないようだ。
 それにしても国に振り回されてきた住民の方々は実に気の毒である。新政権には地元住民の方々の生活再建に尽力してもらいたい。


 話は変わるが、『行政刷新会議』がいよいよ動き始めた。15兆円弱の2009年度補正予算を「事業仕分け」という手法で精査し、不要不急なものを3兆円ほど洗い出した。多くが執行済みであることを考慮すれば大変な成果である。
 前政権の緊急経済対策は名ばかりで、執行済みの中に7000億円の基金を交付された独立行政法人が6900億円を使って国債を購入している例まであった。呆れて開いた口が塞がらない。


 ともあれ、与党議員なら誰でも参加して意見を述べられる省庁毎の『政策会議』も始まった。あとは、法整備が必要なために遅れている『国家戦略局』の始動が待たれる。

 それにしても野党になった自民党の先行きは覚束ない。保守リベラルの谷垣新総裁はともかく、旧態然とした執行部体制ではますます存在感が薄くなりそうだ。
 ボクは、日本の政治と行政が大転換しようとしていることを実感しながら、去年とは違う秋を迎えている。



                           [2009年10月]